追憶(10)「ぷらすわん」の本当の力
「――ありがとうございます」
泣き止んだ俺は、言葉遣いを改めることにした。
ラヴィンは、俺にとって天使だ。いや、女神かも。とにかく失礼に思われてはならない。
しゃきんと、姿勢も正す。
「そんな畏まらなくても、さっきと同じでいいのよ」
俺は首を横に振る。
「いえ。礼儀です。これが俺の」
「まあ、無理にとは言わないけれど……じゃあ、まず『ひらがなスキル』と『ギブスキル』について教えるわね」
「お願いします」
「まずその前に、スキルとは、いわば個人に宿る技能のようなもの、っていうのは分かるわよね?」
「はい」
「スキルが生えていなくても、同じ技能を扱うことができることも分かるかしら?」
「分かります。スキルが生えれば、確実にその技能を揮うことができる、ってことでいいですか?」
「ええ、その通りよ。そして、その技能を揮える範囲が、スキルのレベル――★の数に直結している、ということね。スキルレベルの最大は星が五つよ」
例えば、料理のスキルが生えなくても、誰もが料理を行うことができる。だが、料理のスキルが生えれば、スキルレベルに合わせて失敗をしなくなる、あるいは最善の行動がとれるということだ。
「ちなみに、スキルレベルの★5は、一生をかけてそこに到達できる人がごく僅かしかいないレベルになるわ。普通は★4が終着地点ね。分かりやすく言うと、★1で見習い、★2が職人、★3が達人、★4が名人、そしてマックスとなる★5は、神、極といったところかしら?」
うん、言っている意味はよくわかる。
「もう一つ言っておくと、スキルは発動させるために、魔力が必要になるものが多いの。そして、★の数が増えると、全力で使うには必要な魔力量も多くなるわ」
それもイメージできる。★5に育ったスキルは、使用するための魔力の量で威力が変わる、といった感じなのだろう。全力で使うには、膨大な魔力量が要求されるということか。
「ここからが本題になるのだけれど、まず『ひらがなスキル』を得られるのは、地球から召喚された異世人のみなの。しかも、ほぼ日本人限定ね。正しく言えば、日本語を理解している必要があるわ」
「はい」
ひらがなスキル、という名称から考えると、日本語が必須ということは理解できる。師匠が、俺のステータスを確認して、日本からやってきたということが分かったのも、俺が「ひらがなスキル」を持っていたからだ。
「そして、他のスキルと違うのは――まず、スキルレベルがないこと」
「レベルがない?」
「ええ。簡単に言うと、『ひらがなスキル』は最初からレベルマックスの状態なの」
おお、すごい。一生かかってもマックスに達しないのがデフォなら、それは強力なんじゃないだろうか?
「しかも、使う魔力は、いつでもどこでも1だけ。中には、魔力を消費しないひらがなスキルもあるわね。たぶん、あなたに生えた『ぷらすわん』も魔力を消費しないはずよ」
「そうなんですね……?」
「例えば火の魔法の中に『ボム』というスキルがあるわ」
「ボム? 爆発させる魔法、でいいんですか?」
「ええ。★1なら消費魔力の最大は10で、弱い魔物は一撃で倒せるわね。★2になると最大消費魔力は100、★3の最大消費魔力は500と、どんどん増えていくの。威力ももちろん上がるのだけれどね。そしてボムのスキルレベルマックス、★5は、最大消費魔力が5,000で都市を一つ消滅させることができる威力になるわ。ルイが知る知識で例えると、TNT換算で数メガトンといったところかしら」
「数メガトン、って、広島型原爆の数百発分ですよね?」
俺の知識が、水素爆弾(熱核兵器)の威力を脳裏に浮かばせていた。
「ええ。レベルマックスにはそれくらいの威力があるということ。そして、発動させるための消費魔力も尋常じゃない。この世界でも、★5のボムを使える人は、数えるほどしかいないはずよ」
やっぱり、さっき俺が考えた通り、スキルは魔力の消費量により威力を調節できる、ということだ。
「ということは、魔力を最大で1しか消費せずに、★5の最高レベルの威力で使える『ひらがなスキル』は強力、ってことですね!」
少し興奮してきた。獲得した時点ですでにスキルレベルがマックスで、消費魔力も1しか使わないとなると、やっぱりチートの範疇に入るはずだ。
「ええ、そういうこと。ただ……」
「ただ?」
ラヴィンが少し言い淀んだ。
「ひらがなスキルって、戦闘専用のスキルは皆無なの。生活に役立つスキルか、補助に役立つスキルしか生えないわ。もちろん、間接的に戦闘に使えるスキルは、いろいろとあるのだけれど……」
「え?」
「あなたに生えた『ぷらすわん』も、どちらかと言うと補助スキルに当たるかしら?」
そうか。
確かに、レベルが1増えると、ステータスが全て1増えるというのは、すごいように思えるけれど、この世界の人々は、1レベルアップで、各ステータスが平均で10~20増えると言っていたはず。
そもそも、魔物退治をしない普通の人は、生涯のレベルが20~30までしか上がらないらしいが、その場合の各ステータスの値は200~600の間ということになる。
各ステータスが1しか上がらない俺は、レベル30になったとしてステータスの値は30。
超人と言われる人のレベルは500を超えるらしいが、もしも俺がそのレベル500に到達できたとしても、各ステータスも500しかない。
普通の人でレベルアップ時のステータスアップが高めだった人ならレベル20や30で、600まで到達するだろうから、それよりも低いことになる。
どう考えても俺は、強者にはなれない。
「レベルアップで常に1しかステータスが上がらないから、いくら頑張っても『俺TUEEEEEE』は、できないってことか……レベル10からは、レベルアップも大変になるようなことを言っていたから無理じゃん……」
何気なく俺が呟くと、ラヴィンが首を横に振った。
「ルイ、それは違うわよ」
「え? 違う?」
「あなたは勘違いしているようだけれど、『ぷらすわん』の役目は「一つ足す」ということにあるわ」
俺は首を傾げた。今、俺が考えたことと何も矛盾していないはず。
「私が持つ『ひらがなスキル』の中に、『かんてい』があるわ」
「かんてい?それって調べる鑑定のことですか?」
「そう。それを使って、ルイのステータスも確認したの。普通のスキルでも『鑑定』はあるけれど、★1や★2ぐらいでは、例えば人に対してスキルをかけても全ての項目は見られないわ」
「そういえば……パワーレベリングをさせられていたとき、リーダーのような人が手に板のようなものを持って見ていました。少年がレベル10になったことが分かったり、攻撃力とかの数値を言っていましたが、職業は分かっていませんでした」
「そう。それは、『鑑定板』という魔道具を使ったのね。相手のレベルとステータスの数値のみが確認できる魔道具よ。職業やスキルは分からないわ」
「なるほど……」
「『鑑定』のスキルもレベルマックス、★5になれば、ほぼすべてが見れるようになるのだけれど、ひらがなスキルの『かんてい』は、レベルマックスになった『鑑定』スキルのさらに上位バージョンに当たると考えてよいの」
「上位バージョン?」
「ええ。例えば、『偽装』という自分のステータスを違う内容で見せることができるスキルがあるのだけれど、もしもステータスのレベルが100同士の人がいるとすると、同じ★の数であるスキルでは『鑑定』は『偽装』を見破れないの」
「同じスキルレベル、って言うと――――」
「そう、想像した通りで合っているわね。『鑑定』スキルの★5が見破れる『偽装』スキルは★4まで、ということね。厳密に言えば、そこにステータスのレベルが関係してくるのだけれど、10や20しかステータスレベルが違わないと、スキルの★の差の方が影響は大きくなるわ。さすがにステータスレベルが100も違えば、同じ★の数を持つスキルでも、一部を見破ることができるようになるけれど……」
なるほど。レベルが100同士の人なら、★5の「鑑定」スキルで見破れるのは★4の「偽装」スキルまでだけれど、レベル200の人の★5の「鑑定」スキルは、レベル100の★5の「偽装」スキルの一部なら見破れる、ということか。
「でもひらがなスキルは違う。相手のレベルが高くても、スキルの★の数がいくつであっても、必ず見破ることができるの。それも『かんてい』のひらがなスキルを獲得したすぐの状態で。ひらがなスキルは熟練させる必要がないの」
ということは、ひらがなスキルの方が、通常のスキルよりも優秀、ってことでいいのかな?
「――ルイはレベルが1つ上がると、全てのステータスが1つ上がる、と思っているでしょう?」
「はい」
その通りだ。
「そこが間違っているわ。わたしの『かんてい』は、相手のスキルがどういった働きを持っているのかも分かる。そして、『ぷらすわん』で一つ足されるのは、レベルが1上がったときじゃないわ」
「?????」
今、俺の頭の上には、クエスチョンマークがいくつも並んでいるはずだ。
「『ぷらすわん』で一つ足されるのは――魔物を倒した時なの。一匹の魔物を倒したら、得られる経験値に関係なく、レベルを含めて、全てのステータスが一つ上がるのよ」




