【へんしん】
「えっ?」
虹色に発行した光が俺たちの体を包むこむが、すぐにその光は体に溶け込むように消えていった。
セシリアは、自分の体をキョロキョロと見渡している。
「ルイ、これって――あら?」
俺に何が変わったのかを聞こうとしたのだろう、セシリアは俺の顔を見て首を傾げると、自分の額を触り始めた。
セシリアが何を思ったのかは言わなくても分かる。
その理由は――
セシリアの額の中央付近に2本の白く短い角が生えていたから。
■【へんしん】使用魔力:1
思い浮かべた対象に変身ができるスキル。有効期間は最大一か月。魔力を1消費する。
「あ、私にも生えている! これって……つの?」
「うん。【へんしん】のスキルを使って、鬼人族と同じ見た目に変身したんだ。今回は種族だけ指定したから、見た目はセシリアのままだけれどね」
「ふーん」
俺は、【しゅうのう】から鏡を取り出してセシリアに渡した。
「はい。確認するならこれを使って」
「あ、ありがとう」
セシリアは角度を変えながら自分に生えた角を見ている。
その表情を見る限り、どうやら満足してくれているようだ。
「あ! 私は白ね!」
ちなみに、俺に生えた角は漆黒。別に、セシリアとは対の方がバランスがいいのでは、とかそういう理由ではない。
「似合っているよ」
一応、褒めておく。
「ッ!!!」
途端に顔が真っ赤になるセシリア。うん、いいね!
「も、もう……」
でも、満更ではなさそうだ。
「る、ルイも……かっこいいわ」
少し上目遣でセシリアが、俺を褒めてくれた。真っ赤な顔で言われると照れる。
「有効時間は最大にしてスキルを発動させたけれど、一か月だから一応、覚えておいて」
「有効時間が終わると、元に戻るってことね」
「うん。もちろん、スキルを途中で解除すればいつでも元には戻れるから」
「鬼人族と人族の違いって、この角だけなの?」
「そう。基本的に角は額の両脇に2本生えて、強い鬼人族は、その2本の角が中央によって来るし、色が薄くなるんだ」
「じゃあ、この真っ白な中央に生えている角は……」
「かなり上位の鬼人族になるかな。ちなみに最上位の強さを持つ鬼人族は角が透明になる。でもこの角なら、万一、ピクシーたちに会うようなことがあっても、もめずに済むと思うから」
「そうなのね」
鏡を見ながら自分の角を触るセシリア。
「あ、ルイの色は黒だけれど、それは大丈夫なの? 黒って弱いって意味なんでしょ?大丈夫?」
「う、うん」
俺の角が黒なのは理由があるが、今はセシリアにいいたくない。というか……言えない。
「まあいいわ。ルイがしていることなら問題ないでしょうし」
セシリアの俺への妙な信頼の高さに、嬉しく思うのと少し気恥しい思いも重なり、俺はちょっとだけ照れた。
「と、とにかくこれで準備はできたから、出発しよう!」
不思議そうなセシリアの手を引っ張って、俺は、懐かしい石標の地を後にした。
■□■□
幽玄の森。
ピクシー族の神が住まうこの地は、精霊族の加護を受けているせいか、人に害を成す獣はいない。もちろん、生き物が皆無、ということではないが大人しい獣ばかりだ。
そのため、森の中は緑が繁る木が並んでいるが、風に葉が揺れてキラキラと光が零れるぐらいで、鳥や獣の鳴き声はしない穏やかな森だった。
その森を貫く二人が並んで歩けるだけの幅がある獣道を進んでいると、セシリアが尋ねてきた。
「ところで、どこへ向かっているの?」
「明るい内に森を出て、鬼人族の国、ボンヌに向かおうと思っている。できれば暗くなる前に、鬼人族との国境付近まで行けるといいんだけど」
「ああ、だから鬼人族に変身したのね」
「うん」
「鬼人族とピクシー族って争っていないの?」
「たぶん、大丈夫だと思うけれど……」
少し歯切れが悪い俺の答えに「どうしたの?」とセシリア。
「この大陸の名前はユヌフェ大陸といって、ピクシー族の国はフェという名前なんだ」
「ええ……?」
それがどうしたの、とセシリアの表情が言っている。
「大陸の名前は、ピクシー族の国、フェからつけられているということは……」
「ピクシー族が、この大陸を支配しているってこと?」
「支配とはまではいかないけれど、いわゆる古参だし、大陸の中央に国を持っているし、といった感じかな。鬼人族は、一番あとにこの大陸に入植したから、ときどきぶつかっていたんだ」
「ああ、なるほど……」
「もちろん、本格的な紛争が起きたことはないはずなんだけれど、俺が、この大陸から離れて500年以上経っているし」
「500年! すごい年月ね。じゃあ、その間に仲が悪くなっているかもしれない、ってことね」
「うん」
本当は【かんぱ】に尋ねたから知っているのだけれど、ここ200年ほどの間に鬼人族は、5大国家間の平和協定から抜けかけているらしい。そして、今、もっとも対立している相手がこの大陸の盟主であるピクシー族。
もちろん、俺たちが鬼人族の恰好をしているからと言って、ピクシー族に出会うと即戦闘になる、というほど険悪ではないはずだ。
でも、できれば会わないこしたことはないと思う。
「だったら、ピクシー族に変身した方がよかったんじゃない?」
セシリアが立ち止まった。
「ああ。【へんしん】のスキルは便利だけれど、大きさはあまり変化できないんだ。人族の大きさのピクシー族が出現したら、それこそ大騒ぎになっちゃうから」
「そう。だったら仕方がないわ」
セシリアは納得してくれたようだ。
「そういえば……ルイは【転移】のスキルが使えるんじゃなかったかしら?」
「使えるよ」
「鬼人族の国にも行ったことがあるんでしょう?」
「うん」
「だったら、【転移】のスキルで飛んでしまえばピクシー族の人に会う心配はしなくてもいいんじゃない?」
「絶対不可能ってわけじゃないんだけれど……鬼人族の国は【転移】のスキルを阻害する結界を貼っているんだ」
「結界?」
「うん。【転移】を受け付けない結界。国全体をぐるりと球で覆うような感じの結界が貼られている。どうしても、っていうなら、鬼人族の国の上空、結界の外に転移して、自由落下で入る方法があるけれど……それでもいい?」
「……のんびり、歩いていきましょうか?」
高いところが苦手なセシリアは、少し遠い目をして、そして歩き出した。
俺は少しだけ笑った。
■□■□
森の出口までやって来た時。
「止まりなさい!」
俺たちは、幾人ものピクシーたちから槍を向けられていた。




