ユヌフェ大陸の状況
「――大きく分けると5つになるかな」
「5つ?」
「うん。この大陸には5つの大国家があるんだ」
「大国家、というと小国家もあるのかしら?」
「ある。大国家は、北がドワーフ族、東がエルフ族、南がダークエルフ族、西が鬼人族、そして中央に当たるここはピクシー族が治めている」
「それが大国家ね。小国家は?」
「小国家は、その大国家の各種族に従う妖精族たちが治める国になるんだ。例えば、セイレーン族の国は鬼人族国家に所属してるし、精霊族の国はピクシー族国家に所属という感じ」
「たくさんの種族がいるのね、この大陸には。平和なの?」
「大きな国家間の戦争は、しばらくなかったと思う。大国家の間では平和協定も結ばれていたと思うし。それでも大国家間の国境付近での紛争とか、小国家間の争いは年がら年中、どこかで起きていたと思うけれど……」
「そのあたりは、私たちの大陸とあまり変わりがないってことね」
「うん。残念だけれどね。それでも、種族が違うこの大陸の各国が、国家間で大きく争っていないことは奇跡的だと思う」
「そうかもしれないわね……」
この大陸に住む妖精族は人族の何倍も寿命が長いから、人口がなかなか増えない。最も長命なエルフ族だと、一組の夫婦で子どもを授かるのは数十年単位になるからね。
争いの多くは領土や資源の問題から起きるけど、それがこの大陸では足りていることで起きにくくなっているのかもしれない。
平和が一番なのは確かだ。
「迷宮は、この大陸にもあるのかしら?」
「あるよ。それぞれの大国家が20ほどの迷宮を抱えていたんじゃないかな。それでも大陸全土では100はなかったと思うけれど…………」
「スタンピードも起きるの?」
「ああ、起きる。100年に一度、大陸のどこかの迷宮でスタンピードが起きるのは、ボクゥゲンス大陸の迷宮と同じかな?」
「そう……ところで、人族はこの大陸にいないのかしら?」
「寿命が長くないからね、人族は。召喚された異世人の血統が少し残されているぐらいかな」
「ふーん」
この大陸でも、迷宮のスタンピード対策として、異世人の召喚は行われているが、人族と妖精族の寿命は数倍から数十倍の差があるため、人族だけが暮らす都市は築かれていない。
ただし、人族と妖精族との間で生まれた混血の子孫が集まる小さな集落は各国にあった。
『【かんぱ】、何か間違っているところある?』
一応、話した内容が誤っていないかを【かんぱ】に尋ねると『是、問題ありません』との答えが返ってきた。
この大陸を離れてから500年ほどが経過したが、妖精族の人たちにとっては人族の感覚で言えば50年ぐらいの感覚のはずだ。
まだ俺が見知った者も、多く生きているんじゃないかな。
会えるのは嬉しくもあり、そして僅かな不安も感じている。50年ぶりに会った友人に、「お前、誰?」と言われるかもしれない、という不安?
まあいい。
俺は次に、転移してきたこの場所のことを説明することにした。
「この場所なんだけれど、ピクシー族の国にある幽玄の森というところに当たるんだ」
「幽玄の森?」
「そう。簡単に言うと、ピクシーたちにとって神殿のような場所になるかな」
「神聖な場所ってこと?」
「うん」
「だったら、ピクシーの人たちに見つかると困るんじゃないかしら?」
「それは大丈夫だと思う。ピクシーたちが活動するのは夕方になってからだし。今は寝ている時間帯だからね」
「ピクシーって夜に活動するの?」
「会ったことなかった?」
「ええ。私が妖精族の人で知っているのは、エルフの人とドワーフの人かしら?」
エルフ族やドワーフ族は寿命が人族の10倍ほどあるから、魔力も育つので他の大陸に渡れる人が人族よりは多い。また寿命が長いということは、少人数であっても人族と関わっている時間は結果的に長くなる。
それに対してピクシー族はあまり外に出ることが多くない。
そういえば……
考えてみれば俺も、このユヌフェ大陸と、全ての種族が混じって暮らしているエスペス大陸以外で、ピクシー族とは出会ったことがなかったかな。
そして俺は、千年前にこの森に転移して出会ったピクシー族たちを思い出していた。女王に会うとややこしくなりそうだから、なるべく避けておかないと。
「会ったことがないと分からないと思うけれど、イメージで言うと、羽の生えた小人が多いから、まさしく妖精って感じでいいかも」
「小さい、ってこと?」
吟遊詩人の唄でピクシーは、手のひらサイズの小人とよく言われている。
たぶん、セシリアはそのイメージを抱いているようだし、間違ってはいない。
「いろいろだけれど、小さい人が多いかな」
「小さい人、ね」
「でも、吟遊詩人が唄う、いたずら好きの小人ではないよ」
そう、ピクシーは人族に混じると、夜な夜ないたずらをするという唄を吟遊詩人たちが唄っているけれど、ピクシー族がいたずら好きな種族というわけではない。
「困ったことはしない、ってこと?」
「そうじゃなくて、人族でも子どもたちはいたずらをして遊んだりするよね?」
「ええ」
「いたずら好きのピクシーは、そういった子どもたちのことを指しているんだ」
そう。俺がピクシー族を一言で現すとしたら「落ち着きがない」と表現すると思う。
とにかく彼ら彼女らはじっとしていない。
しかも飛べるからたちが悪い。
少し目を離すと、どこにでも行ってしまうし、どこにでもいる。
「ああ、そうなのね」
「うん、ちょっと変わった落ち着きのない小さな人族と思えばいいと思う」
すると、セシリアがふふふと笑った。
「落ち着きのない小さな人族ね。覚えておくわ」
あれ? 何か間違ったことを言ったような気になってきた。
……まあいいか。実際、会えば分かるだろうし。
「それより、ピクシー族は夜型の生活習慣で暮らしている、ってことね」
「う、うん。少なくともあと数時間は、ピクシーがこの森に入ってくることはないと思うよ」
「分かったわ」
なんとか、セシリアは分かってくれたようだ。
「この大陸の簡単な説明だけど、だいたいこんなところかな。何か他に聞きたいことがあれば答えるけれど?」
「そういえば、この大陸で私たちは敵と思われることはないのかしら?」
「敵? ああ、なるほど」
俺たちは、この大陸に住む妖精族にとって異邦人だった。
「敬遠されるけれど、見つかっても迫害されるってほどではないかな。異世人も召喚されているし」
俺の言葉にセシリアが少しだけ悲しそうな顔を見せた。ボクゥゲンス大陸でも、人族以外に対しては差別意識が示されることは多くあった。同様に、ユヌフェ大陸において人族は差別対象になりやすいが、まあこれは異邦人の宿命だろう。なんせ話す言葉も違うからね。
そうそう、これは言っておかなきゃいけない。
「言葉が違うけれど、それは俺の【つうやく】のスキルでカバーできるから安心していいよ」
「つうやく? 通訳でいいのかしら?」
「そう」
■【つうやく】使用魔力:1
意思の疎通が可能な相手であれば、相手の言葉を理解したいと念じることで会話ができる。有効期間は一年。魔力を1消費する。
「相手の言葉を理解したい、と念じれば通訳してくれるスキルだから。注意して欲しいのは、人以外にはなるべく使わない方がいいってことかな」
「魔物とか、ってこと?」
「うん。動物や虫も注意した方がいいよ。例えば、腕にとまった蚊にこのスキルを使うと――」
「使うと?」
「吸いたい、吸いたい、吸いたい、って言葉しか言ってこないから」
俺が何を言いたいのか理解したセシリアがブルブルと震えた。虫はまだいいが、人を捕食する魔物に使うと、かなりホラーな展開になる。
「そ、それは怖いわね」
「まあ、でも便利なスキルだから」
「分かったわ。ありがとう、ルイ」
「それと……一応、対策はしておこうか?」
「対策?」
「うん。この大陸で妖精族の人たちと平和にふれあえる対策」
「どうやって?」
「ほら、こうすれば……」
そして俺は、自分とセシリアにスキルを発動させた。
「【へんしん】!」




