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ぷらすわん ~1しか上がらないけれど、最強が目指せます~  作者: 雷風船
第一章 運命の扉

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墓標


 晴れ渡る空は青く澄んでおり、頬を撫でるひんやりしたとした空気は、その青さを限りなく透明に近づけているかのように思えた。


 トネリコの木は、もう秋が過ぎたころだろうけれど、千年前のあの時と変わらぬ緑が繫った姿で静かに佇んでいる。


 祠の隣に並んで立てられた小さな墓標の前で、セシリアが静かに祈っていた。


 見下ろす平原には、一面に魔草が広がっている。



 ■□■□



 アンラビフォン迷宮前の広場で、一夜を語り尽くしながら過ごした俺たちは、翌日から最後のスタンピード討伐の準備を始めた。


 俺が異世人で、遠い昔にこの世界に連れてこられたこと、記憶を失っていたこと、俺に最初から生えていた【ぷらすわん】のスキルのこと、ある島で数年、魔草を抜きながらレベルアップに努めていたこと、その後、この世界中の大陸を巡りながら冒険を続けていたことことなど、俺の手から零れてしまった何か(師匠)のこと以外は、一通りかいつまんで隠すことなく話した。


 セシリアは、俺の話を真剣に聞いてくれた。そして、セシリアの境遇も話してくれた。

 一晩で語り尽くすには、あまりに多くのことがお互いにあったのだけれど、それでも大事なことは伝えたし、聞けたんじゃないかと思う。


 俺のステータスを聞いたセシリアは、目をまん丸に大きく広げて、「そう」とだけ言った。


 ただ驚いただけの表情は、俺に安心感を与えてくれた。


 俺の力を知った多くの人は、すぐに、その力を自分のためにどう使うのかを考えていたからね。

 驚いて、そしてそのまま受け入れてくれたセシリアには感謝しかない。


 翌日には、スタシーに【転移】のスキルを使って向かい、簡単な状況把握を隠れながら行った。


 スタシーは大混乱の最中《さなか》だった。それも仕方がないだろう。アンラビフォン迷宮からSSSランクの魔獣が現れ、そして迷宮街アンラビを襲ったのだから。

 出現した魔獣はファイヤーシープ。SSSランクの魔獣だった。


 勇者であるセシリアを失い(と思っている)、異世界からの勇者召喚も間に合わない中で、スタシーの街ができることは避難と、残された人々は祈ることだけだったらしい。


 だが、ファイヤーシープはなぜか、アンラビフォン迷宮を離れることなく、そして終焉の時を迎えた。

 ファイヤーシープに蹂躙されていた迷宮街アンラビで、地下に潜るなどして生き残っていた人々も、瘴気の海に呑み込まれて消えていった。


 俺たちが、アンラビフォン迷宮から外に出たのは、その終焉の時を迎えたほぼ直後だったようだ。


 セシリアの爺であるアルバートと勇者小隊の面々が、アンラビフォン迷宮に向かったのは、それぞれ目的が違ったようだが――アルバートはセシリアを探すために、勇者小隊はファイヤーシープと対峙するために――終焉の時を迎えようとしていたファイシャーシープとの遭遇は、最悪のタイミングだったということなのだろう。


 俺たちは、スタシーでできることが何もないことを確認してから、そのままアンラビフォン迷宮へと戻って来た。


 俺たちが迷宮に潜ってから起きた出来事を知ったことで、セシリアが落ち込むかと思っていたが、彼女は気丈に振舞っていた。

 彼女に本当に必要なのは、「時間」という薬なのかもしれない。


 そして――


 残された俺たちの、いや俺の「義務」は、アンラビフォン迷宮のスタンピードを止めることだった。




 ■□■□



 アンラビフォン迷宮のスタンピードが始まったのは、それから8日目だった。


 迷宮前の瘴気が溢れる中で、ただ待ち続けることは苦行のようにも思えるが、実際のところ、セシリアと過ごす時間は苦行ではなかった。


 俺たちにもっとも必要なのは、お互いのことを深く知るための時間だったのだから。いや、それを必要としてたのは、セシリアよりも俺だったのかもしれない。


 それでも彼女は、俺の千年に渡る冒険譚を、飽きることなく聞き続けてくれた。

 たぶん、あの8日間で俺たちの絆が深まったことは確かだと思う。


 そして――


 アンラビフォン迷宮のスタンピードが本来の予定よりも80日も早まったのは、やはり俺たちが迷宮内で、SSSランクのブラックディアをはじめとする100万頭もの魔獣たちを討伐したせいであることは確かだった。


 もっとも、もしも俺たちが手を出していなかったとしても、ブラックディアはいずれ迷宮の外に溢れていたはずだから、ファイヤーシープによるスタンピードと重なるか、あるいは瘴気の海に紛れて変異するかのいずれかだったことに違いはない。


 そして、その場合に何が起きるはずだったのかは、もう知る由もないが、これから起きるであろうアンラビフォン迷宮のスタンピードで、その事実をわざわざ確認する必要がないことは分かっていたから、俺たちは迷宮前で溢れてくる魔獣たちと対峙することにした。


 スタンピードが開始された日。


 俺たちは、迷宮前の広場で陣取っていた。


 もちろん、セシリアにも討伐には参加してもらった。それだけの実力はすでにつけていたし、何よりイレギュラーなスタンピードで登場する魔獣たちは、「経験値」という点で見てもとてもお(・)い(・)し(・)い(・)と思っていたから。


 スタンピードの討伐については、特に特筆すべき点はない。


 迷宮から溢れてきた魔獣たちは、アルファクラスらしくSSSランクが数多くいたが、それでも強い魔獣でもステータスは6桁に届いていなかった。俺が遠慮なく【さげる】を使って、ステータスを落としまくったので、セシリアの新しいスキル【魔力剣】も瞬く間に★3まで育ったし、剣戟を飛ばす技も使って彼女は無双していた。


 結局、【けいけん】で1,000倍に取得できる経験値を増やしたセシリアは、スタンピードボスだったホワイトドラゴンもあっさりと切り倒した。ホワイトドラゴンは、30万近いステータスを持っていたので、もしもこのまま瘴気の海を渡り切って蹂躙を始めていたら、スタシーはもちろん、王都もただでは済まなかっただろう。


 瘴気の海の影響がどうだったのかは、結局、分からなかった。スタンピードボスのホワイトドラゴンのステータスが30万近かったことを感がると、何らかの影響があったとは思うのだけれど……


 こうして、俺たちはアンラビフォン迷宮でのスタンピードを無事に、初日に討伐という形で終えることに成功していた。



 ■□■□



 祈り終わったセシリアが立ち上がった。


 小さな墓標には、アルバートの遺品――彼が愛用していたモノクルの眼鏡がかけられている。


「ここが……ルイが育った場所なのね」


 魔草原を見下ろしながらポツリとセシリアが呟いた。



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