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限界OL、山を継ぐ~前世の従魔とスローライフ  作者: 灰銀猫


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正月三日目

 翌三日は正月休み最終日。昨夜は結局きなことあんこ相手に晩酌したけれど、昼間から飲んだせいかあまり飲む気になれず、早々にお開きになった。


 相変わらずあんこは食べ物を欲しがったので、匠海さん家で搗いた餅をレンジでチンして出したら喜ばれた。たくさん貰って冷凍庫を占領していたから、そこはまぁよしとしよう。決して残飯係ではない。多分……


 昨夜はいつも通りの時間に寝たのもあって、朝はいつも通り目が覚めてしまった。二度寝しようと思ったけれど、目が冴えてそれも叶わず。諦めて起きることにした。何をしようかと思っていたら、里桜ちゃんからメッセージが来ていた。


 そこには、昨夜のお礼と寝落ちしたことへのお詫び、更には今夜、釣り仲間と新年会をするから来ないかというお誘い。町内のスナックで里桜ちゃんのお祖父さんや石橋さんも来るという。


「どうした?」

「里桜ちゃんから、飲みのお誘い」

「また飲むのか?」

「まぁ、それが生き甲斐だし」


 いいじゃないか、好きなんだから。それに今日まではお正月だから許容範囲だろう。


「石橋さんも来るって」

「あの弁護士か」


 きなこもちゃんと覚えていた。スキンヘッドはインパクト抜群で、弁護士に見えないから一度会ったら忘れられないよねぇ。最近は特に用事もなくてご無沙汰だった。そういえば、貸し倉庫のことも気になっていたんだよね。


「行くのか?」

「うん。倉庫の賃料、確定申告いるのか聞いておきたいし」


 楽しい人だったし、里桜ちゃんのお祖父さんも人懐っこかったからいいかな。祖父とも仲がよかったみたいだし。というわけで、出席の返事をすると、5時に迎えに来てくれると言ってくれた。ありがたい。最悪ノンアルでいいかと思っていたから。


 さて、夜の予定は決まったから、それまで何しようかな。明日は仕事始めだ。そういえば作業服、もう少し温かいのが欲しかった。あと靴下も。それに冬服もこっちで着るようなものがあまりないんだよねぇ。東京では仕事着=外出着だったけど、こっちは寒いしBBQとかするのに適さない。


「きなこ、買い物に行こう」

「行くのか?」

「今日は雪降らないって言うし。仕事服欲しい」

「寒いのに難儀なことじゃない。仕方ないのう」


 文句を言いながらも断らないきなこを抱きしめた。はぁ、きなこでしか得られない栄養の重さが段々増していく気がする……今日はお日様の匂いに戻っていた。




(うわ、新春セール?)


 やってきたのは某職人のお店。ラッキーなことに初売りセール中だった。メッチャありがたい。ほしいのは作業ズボンと厚手の靴下。あと温かい下着があったらいいんだけど……


(裏フリースパンツって……?)


 見つけたのはカーゴタイプの裏フリースのパンツだった。暖かそう……防水だし、しかも安い。仕事だけじゃなくBBQにも使えそう……悩んだけど色違いで2着をカゴに入れた。あとはつま先が温かい靴下セットも。後は……


「え? これ、暖かそう」


 思わず口に出てしまった。見つけたのはウールの下着、いわゆる婆シャツだけど、これが結構侮れないんだよね。手触りもいいし、試してみる価値ありそう。クルーネックとハイネックの2種類もカゴ行きだ。暖かそうなひざ掛けはきなこの車用にちょうどよさそう。このもこもこしたひざ掛けに埋もれているきなこは絶対可愛いだろう。私の視覚的に暖かくなるし。


「ありがとうございましたー!」


 元気のいい店員さんの挨拶を背に受けながら店を出た。それなりに金額はしたけれど必要経費だ。寒さ相手では背に腹は代えられない。


 空を仰ぎ見る。視線の先にあるのはどんよりとした鉛色の空。ところどころ雲の隙間から青空が見えるけれど、あれじゃ晴れ間は5分も続かないと知った。こっちは殆ど日差しがないから余計に寒く感じる。まだ始まったばかりで、3月のお彼岸頃まで続くというのだから恐ろしい……


「きなこ~プレゼント!」

「なんじゃ?」

「ひざ掛け! 暖かそうでしょ?」

「うむ」


 袋から出して早速広げるときなこが匂いを嗅ぎながら前足で感触を確かめた。暖かそうなオレンジ色の柄がきなこの茶の毛色と好相性だ。うん、可愛い。やっぱり可愛いは大事だ。


 そのまま帰るのももったいないので、近くのホームセンターにも行った。BBQ用の炭が減ってきたし、何よりも初売りセールの文字は重要だ。お目当てはキャンプ用品だけど……


「ええっ? タープが半額?」


 日よけのタープが半額コーナーのワゴンにあった。これ、しかも防水だ。これなら雨の日でも、いや冬でも外で炭火が出来るかも……新しい可能性にテンションが上がった。買うしかない。


 他にも鍋とフライパン、ケトルのセットが割引されて売っていたので買ってしまった。今までは網ばかりだったけれど、スープやおでんを作ってみたかったんだよね。



 さらについでだからとスーパーにも寄った。おせちも殆どなくなったし、明日からは平日、通常ご飯に戻らないと。ちょっと運動もしないとなぁ……暫くは揚げ物などは避けよう。そして身体も動かさないと。体重計、そろそろ乗ってみるかな……怖いけど。


 家に帰ってきたのはお昼前だった。夜は飲み会だから簡単でいいよね。具だくさん味噌汁を作って大量にあるお餅を焼いてから放り込んだ。餅は小さいので腹八分目を保つ。ご飯を食べたら家中に掃除機をかけよう。それだけでも運動になるはずだ。多分……





「音羽ちゃーん!」


 5時少し前に里桜ちゃんがやってきた。今日はお父さんが送迎してくれるという。ありがたい。お父さんは無口だけど優しい人で、里桜ちゃんに対してはメッチャ過保護だ。


 ちなみにあの「みっちゃん」の次男で、先日は「母が申し訳ない」と謝ってくれた。この人のせいじゃないから気にしないでほしいと言ったら、「里桜と仲良くしてくれてありがとう」とお礼を言われてしまった。仲のよかった子は結婚したり仕事で出ていったから、同年代の友達がいないと落ち込んでいたらしい。はっきりした性格だけどさみしがり屋だとも。


 連れて来られたのは海岸沿いの大通り沿いのスナックだった。この手のお店は初めてだからちょっと緊張する。お店は「舟唄」という名で、海に近い場所らしいなぁと思った。


「おお、里桜、来たか!」

「お邪魔しま~す」

「音羽ちゃんも久しぶりやなぁ」

「お久しぶりです。おめでとうございます」


 声をかけてきたのは石橋さんだった。薄暗い店内は人で溢れ、歌声が店内を満たしていた。笑い声が響き、既に十分すぎるほど盛り上がっていた。


 案内された席はボックス席の一つで、里桜ちゃんと隣り合わせでありがたかった。お客さんは10人ほどで、知っているのは……里桜ちゃんのお祖父さんの航平さんと石橋さんくらいだ。顔を知っているのが二人かな。この人たちはいつぞや、里桜ちゃんと船釣りした時に一緒にいた人たちだ。


「里桜ちゃん、おめでとう」

「祥子さん、おめでと! この子、私の大事な親友の音羽ちゃんや。里桜ちゃん、この店のママの祥子さんや。祥子さんは陽子さんと仲良かったんやざ」

「ああ、この子が淳一郎さんとこの子か」


 母と祖父を知っている人がここにも……


「音羽です。初めまして」

「祥子や。あの陽子ちゃんの子か。よう似てるなぁ。その髪型やとそっくりや」

「ほやな。陽子ちゃんかと思ったわ」


 祥子さんだけでなく石橋さんにもそう言われた。美容室のお婆ちゃんもそう言ってたっけ。なんだか不思議な気分だ。そんなに似ているとは思わなかったけど、年を取ったらあんな感じになるのか……


「ゆっくりしていってや。陽子ちゃんの子なら大歓迎や」


 祥子さんが声を上げて笑った。この人たちは母や祖父と親しかった人たちなんだ。いや、祖父は釣りが趣味で航平さんらと仲がよかったらしいけど。


 そこからはカウンターでカラオケに興じる人と、ボックス席で飲みと会話を楽しむ人に分かれた。祥子さんは一人で店を切り盛りしているけど、手が回らない時はお客さんがカウンターの中に入って自分で飲み物を追加していた。殆どはボトルを入れているからそれでいいらしい。


「音羽ちゃん、こっちの生活はどうや?」


 石橋さんはすっかり酔っているようで、スキンヘッドも赤くなっていた。元々陽気で元気な人だったけど、それは今は3割増しになっていそうだ。


「楽しくやっていますよ。里桜ちゃんが色々教えてくれますし」

「ほんならよかったわ。里桜も友達えんって泣いてたでな」

「泣いてないわ!」

「ほやったか? でもお前、子どもん時友達に置いて行かれた~って泣いてたやろ」

「そんな昔のこと出さんといて!」


 石橋さんと里桜ちゃんの掛け合いは漫才だった。孫とお爺ちゃんって感じだ。気心が知れている感じがちょっと羨ましい。


「しっかし、音羽ちゃんが梅沢で働いてるとはなぁ。昭夫のやつ、どう考えてるんやろな」


 航平さんがグラスを傾けながら笑った。昭夫さんて、匠海さんのお爺さんだよね。


「昭夫さん、何かあったんですか?」

「あ~あったっていうより、なんもせんかった、やな。あいつ、淳ちゃんの嫁の美佐江ちゃんのこと、好きやったんやざ」

「ええっ?」


 昭夫さんが、祖母を好きだった? 初めて知ったんですけど。




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