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限界OL、山を継ぐ~前世の従魔とスローライフ  作者: 灰銀猫


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仕事納め

 年末は何故か日が経つのが異様に早くなる気がしていたけれど、今年はこれまでの比ではなかった。あっという間に仕事納めの30日を迎えた。今日は明日の出荷分も収穫するだけでなく、春子さんや涼音さんは明日から帰省してくる匠海さんのお兄さん夫婦を迎える準備でいなかったのもあって、朝から大忙しだった。


 年末年始も休めないのかと思ったけれど、スーパーが一日二日は休みなのもあり、大晦日の午後から三日までは基本休みだという。ただ、直売所は一日以外は営業しているので、そこの分だけは出荷するのだとか。ただ、量は少ないので合間を見てやればいいから楽だと言っていた。


 ちなみに以前は一日以外は普通に仕事をしていたのだという。匠海さんが継ぐ話になった時、岳治さんや涼音さんも年を取って昔ほど無理が利かなくなったこと、また匠海さんの二人のお兄さんが家族を連れて帰省してくるのだけど、それも中々に負担が大きいため、思い切って休むことにしたのだとか。今も完全に休めるわけではないけれど、随分負担は減ったのだという。


 というわけで、私は明日から三日までお正月休みを貰った。働き始めたのはお盆の後だったので、初めての長期休暇ともいえる。なにをしようかなぁと思っていたのだけど……


「音羽ちゃん、今夜から降るかもしれんって」


 降るって、雪? 確かに今日は朝から冷え込んだし、風も強い。ここに来るまでの道も波が高かったし、道路には白いふわふわしたものが飛んでいた。あれは波の華というものらしい。


「冷蔵庫の中、大丈夫か? 雪降ったら車で出かけられんやろ? スーパーも休みに入るし、買い物行くなら今日の内がいいざ」


 そういえばそうだった。明日行くつもりだったけど、雪が積もったら運転したくないなぁ。だったら今日行った方がいいよね。


「そうですね。じゃ、今日行ってきます」

「そうした方がいいざ。野菜は好きなだけ持って行けばいいで」

「ありがとうございます」


 そうは言っても野菜は十分すぎるほどもらっているからそこは心配ない。肉や魚は冷凍してあるし、この前の餅も早々に冷凍してある。里桜ちゃんも匠海さんも年末年始は親戚の人が来たりで忙しそうだから家に来ることもないだろうなぁ。おせちも一人だったら要らないし、今までも準備したことないし。あ、でも伊達巻は食べたい。それだけでも買いに行こうかな。お酒も減っていたっけ。やっぱり行かないわけにはいかないか。




「あ、音羽ちゃん、これ持って帰ってや」


 お昼ご飯を食べ終わって帰ろうとしたら、大きな包みを持った匠海さんに呼び止められた。


「これって……」


 風呂敷に包まれたそれはずっしりした重さがあった。


「おせちや。家で作ったやつやけど、よかったら食べてや」

「ええっ? おせち?」


 用意するつもりはなかったのに、まさかおせちをもらえるとは……


「もしかして、これ、匠海さんが?」

「婆ちゃんと父さんと三人で手分けして作ったんや。あ、栗赤飯は固くなるで、早めに食べてな」


 栗赤飯って……そう言えば前に涼音さんがカゴいっぱいの栗を持っていたことあったっけ。


「明日から降るみたいざ。風邪ひかんようにな」

「あ、はい。匠海さんも、お気をつけて」

「ああ。なんかあったらすぐに言ってや。どうせ家にいるで」


 その言葉が嬉しかった。ちょっと心配だったんだよね。雪なんて初めてだから。


「今年はお世話になりました。また来年もよろしくお願いします」

「こっちこそ、本当にありがとう。また来年もよろしくな」


 手の中の重みと気遣いに胸の中が温かくなった。明日から会えないのがちょっと寂しいのは毎日のように顔を合わせていたからだろう。




 仕事を終えて自宅に帰ってから、渡された包みを開くと、現れたのは三段のお重だった。黒豆煮や昆布巻、栗きんとんや数の子、伊達巻、煮しめや焼き魚、海老なんかが少しずつ色々詰められている。別の容器には大粒の栗が入った赤飯が詰められていた。凄い……こんな本格的なおせち、初めて見た……


「あの家らしいな」

「うん」


 テーブルに飛び上がったきなこが覗き込んできた。こんなにたくさん、食べきれ……ちゃうなぁ。多分二日もあれば。晩酌の肴にぴったりだと思ってしまった。う~ん、思考が段々おじさん化しているかも……人前では言わないように気を付けなきゃ。


「きなこも行く?」

「うむ。今の時期なら寒くとも死ぬことはなかろう」


 確かにそうだ。夏は洒落にならないけど、さすがに凍死はない。それでもひざ掛けは積んでいくけど。


 向かった先は車で15分のスーパーとドラッグストアで、まずはドラッグストアでトイレットペーパーなどの日用品とお酒、冷凍の焼きおにぎりなどやカップ麺なんかを買った。冷食やカップ麺は〆にほしいんだよね。きなこのカリカリとおやつも欠かせない。新しい商品が出ていたのでそれも買ってみた。カリカリもいつも一緒じゃ飽きるだろうから。


 スーパーはすっかりお正月一色だった。野菜はあるから、目指すは肉と焼いて食べる用の魚だ。里桜ちゃんに貰った干物は食べ切っちゃったから少し補充しておかないと。炭火は出来なさそうだから、焼き鳥器で焼けそうなものだなぁ。焼き鳥は自分で串に刺せばいいか。どうせ時間はあるし、そういうのもお楽しみの時間だ。あ、カツオのたたきがある。冷凍だけどこの前きなこに出したら好評だった。ちょっといいお値段だけどお正月だからいいかな。


 パンのコーナーで大きなアップルパイを見つけた。クリスマス会の記憶が蘇る。冷めた後もオーブントースターで温めると美味しかったんだよね。甘いものもあってもいいよね。余ったら冷凍してもいいらしいから思い切って買ってしまった。


 お正月だからと気が大きくなってしまったらしく、気が付けば買い物かごいっぱいになっていた。ちょっと買いすぎたかな? でも足りないのも困るよねぇ。どこにも行かないから飲んで食べての寝正月になるのは間違いないし。雪が降ったら外に出るのもままならない。今夜は雪見酒になるかな。


 帰る頃には4時を過ぎていたけれど、山道はすっかり暗くなっていた。


「わ、きなこ! 固形物降ってきた!」


 フロントガラスに真っ白くて丸っこいものが降ってきた。当たったら痛そうな勢いだ。今は車の外に出たくないなぁ。出ないけど。買い物中でなくてよかった。あっという間に路面が白一色に染まって、前の車の轍がくっきりと浮かび上がる。その時、空が光った。


「えええ? 雷?」

「雪が降る合図じゃな」


 合図なんだ……先日の嫌な記憶が蘇る。あの時は直ぐに復旧したからよかったけど、今度からはきなこと待つしかないんだよね。停電の情報がわかるアプリや電力会社への問い合わせ先は匠海さんに教えてもらったから自分で何とかしないと。嫌だなぁ、停電のなにが嫌って寒いのが嫌だ。さすがに炭火では暖はとれないし。


 そんなことを考えている間も白い粒が空から無数に落ちてくる。冬タイヤだけど大丈夫なのかなぁ、これ。幸い前の車も速度落としているから付いていけるけどスリップしたりしないよね? でも何かあったら怖いから単独走行は避けたいと、前の車を追った。




「疲れた~~~」


 人生初の雪道走行は神経使いまくりでストレスMAXだった。事故らなくてよかったぁ……そして運転に慣れていたことも。これが移住した直後だったら絶対に運転出来なかった。


 幸いだったのは、雪が峠を越えて海側に出るまでだったこと。トンネルを越えたら雪道じゃなくなっていたのには驚いた。あんなにはっきり別れるものだったとは。こっちはあまり積もらないって匠海さんも言っていたっけ。このまま積もらないでほしい。


 買ってきた日用品や食材を片付ける。今夜はどうしようかなぁ……おせちはやっぱりお正月だよね。あ、でも栗赤飯は早いうちにと言っていたから、あれは今日明日で食べてしまおう。後は……やっぱり焼き鳥器かな。仕事納めで明日は休みだし、ぱーっと飲んじゃってもいいよね。


 そんなことを考えながらコタツに潜り込んだ。このコタツは物置から出て来たものだ。多分祖父が使っていたんだろう。灯油のファンヒーターもあったけれど、灯油を買いに行く手間が面倒で諦めた。ガソリンスタンドが近くないのもある。エアコンを22度くらいにして、もこもこのルームウェアを羽織ってコタツに入っていたら十分に暖かい。このルームウェアはホームセンターで見つけたもので、丈は膝上くらいの長さで、袖は肘までしかないから水仕事する時も脱がなくていいからお気に入りだ。


「あ~コタツ最高~~」


 祖父様様だ。東京では家が狭くて場所を取るから買えなかったけど、こんなに温かいとは思わなかった。もうずっとここにいたい。きなこなんかず~っと入りっ放しで住人と化している。羨ましい……たまに「暑い!」って飛び出して来るけど。


 明日からの四連休、何しようかなぁ。東京にいた時は大学の友達と飲み歩いたり、お泊り会をして新年を迎えたりもしたっけ。皆どうしているんだろう。今年も集まっているのかなぁ。時々メッセージのやり取りはしているけれど、さすがに新幹線で三時間の距離では集まろうとも言えない。そういう会話が途切れたのも新しいのを作ったからだろう。そこは仕方ないよねぇ。悪気があってじゃない、逆に気を遣ってくれたんだろうから。


 こたつが温くて気持ちいい。いつの間にかうとうとしていたらスマホが鳴った。億劫だなぁと思いながらも淡い期待に手を伸ばしたけれど、すぐに頭が冷めた。受け取ったのはメールで、そこにはこちらに来る日時が記されていた。



誤字脱字報告、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
小さな頃、田舎の家のメインの居間で豆炭を使ったこたつに入っていた事を思い出しました(^^) 石油ストーブもおじいちゃんおばあちゃんの背中にありましたね。 むしろエアコンがなかった……。
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