餅つき①
クリスマスが過ぎると世間は一気にお正月一色になった。クリスマスの装飾はお正月のそれに変わり、忙しなさも増していった。仕事も年末年始に向けて慌ただしさが増し、収穫作業も倍近くに増えていた。
そんな中、今年最後の日曜日、梅沢家で恒例の餅つきが行われた。初めてのことだからちょっと楽しみだったりする。毎年梅沢家の皆さんとパートさん、更には隣市に住む岳治さんの弟一家も手伝いに来ると聞いている。梅沢家の親戚の人はパートのきく枝さんくらいしか知らないから、どんな人か楽しみ半分不安半分だ。
「おはようございま~す!」
いつもの時間でいいと言われたけど、ちょっと楽しみだったので15分ほど早く梅沢家に到着すると、駐車場では既に餅つきが始まっていた。ええっ? 時間間違えた? いやでも、今日もいつも通りでいいって言っていたはず……近付くといつものメンバーと見知らぬ人たちがいた。あれが岳治さんの弟さん一家かな? まずは挨拶を……と思って皆の元に向かったのだけど……
「遅いぞ!」
いきなり壮年の男性から怒鳴られてしまった。大きな声に勝手に身体が怯む。
「ちょっと、義和、いきなりなんやの」
近くにいた春子さんが眉を顰めながら静止してくれたけど……
「なに言うてるんや、母さん。若いもんが最後に来るなんて弛んでる証拠や」
そう言われてしまうと何も言えなかった。う~ん、普通に仕事の延長だと思っていたけど、もしかして違った?
「えっと、申し訳ありません」
空気が悪くなるのも嫌だからとりあえず謝っておいた。嫌だなぁ、どんな家族かと思っていたけど、あんまり親しくなりたくないタイプかも。他の人もなんかじろじろ見てくるし。
「音羽ちゃんは悪くないざ。いつもの出勤時間でいいて言ったのはこっちや。なんも遅くなんかないで」
「母さん。けど……」
「なんや、私がそう決めたの、気に入らんのか?」
春子さんにしては珍しく強めの口調だったのもあってか、それ以上は何も言わなかった。う~ん……直ぐに春子さんが「気にせんといてな」と言ってくれたけど、もう少し早く来た方がいいのかもしれない。
そんな感じで始まったのもあって気が重かったけれど、実は朝の6時からつき始めていたのだという。それならそう言ってほしかった……
「ごめんなぁ。寒いし長丁場やし、初めてやでいつもの時間でいいと思ったんやけど」
涼音さんにまで謝られてしまった。
「いえ、お気遣いありがとうございます」
「義和さんも悪い人やないんやけど、ちょっと亭主関白なところがあるから。何か言われても気にせんといてな」
そうは言われたけど、気になるなぁ……いや、こんな時しか顔を合わせないだろうからいいけど。
もち米は前日の晩から水に浸けて水を吸わせ、朝、ざるで水を切ってから1升ずつ蒸し器にかけていくのだとか。せいろは三段まで積み上げOKで、蒸しが終わると湯気が上がって来る。そうしたら一番下のせいろを臼に投入し、そこから杵でついて行く。蒸し器もせいろも大きくて初めて見た。
「今日は15升つくから6時からやってたんや」
涼音さんがそう教えてくれたけど……
「15升?」
「ほや、親戚やらパートさんの分もあるでな。昔は一日がかりで20以上ついたこともあったんやけど、最近はそこまで食べんで」
これでも減った方なんだ。今は匠海さんが杵を振って、昭夫さんがその側で餅を返している。凄い、実際にやっているの初めて見る。餅からは湯気が上がっているから、蒸したばかりなんだろう。
「あんまり近づくと危ないで。餅飛んで来るで」
「飛んでくるんですか?」
「ほやざ。服やら髪に付くと厄介やで」
なるほど、今日は三角巾を持ってきた方がいいと言われたのはそういうことか。見れば男性も帽子か三角巾を被っている。
「音羽ちゃんはこっちな」
涼音さんに案内されて駐車場に置かれた折り畳みテーブルに向かった。側には木の板に枠を付けたような板があった。のし板というものらしく、机の横に幾つも重ねて積まれている。机の上ののし板には白い粉が振られていて、その真ん中には真っ白い突き立ての餅があって、昭夫さんが千切っては板の上に転がしている。それを周りにいる女性たちが丸めているけど……
「音羽ちゃんは初めてやろ。まずはお手本見せるわ」
そう言って涼音さんが昭夫さんが千切った餅を手に取り、丸めていったけど……
「いっぺんやってみ。熱いで気を付けてな」
そう言って餅を手渡された。うわ、温か……熱! しかも柔らかい。つきたてってこんなに柔らかかったんだ。涼音さんのやっている通りに餅を丸めてみたけど……
(えええ? ちっとも上手くいかない……)
春子さんもパートさんも、多分あの弟夫婦の家族らしい人も綺麗な丸い餅になるのに、私のは丸くなるけど表面ががたがたで綺麗にならない。何が違うの?
「涼音さん、綺麗になりません……」
「音羽ちゃん、こうや」
そう言って私の餅を手に取った。千切った部分を下にして、そこから全体を下に押し込むようにしていくと、表面が綺麗になった。なるほど……
それならとリベンジしたのだけど、中々思うようにいかなかった……
「どうやったらそんな綺麗になります?」
「どうって……う~ん、慣れやからなぁ」
慣れと言われてしまうと何も言えなかった。うう、私の不格好な餅が申し訳ない……皆慣れているんだなぁ、綺麗な丸い餅が次々と積みあがっていく。
「なんや、あんた不器用やな」
またさっきのおじさんに声を掛けられた。義和さんだっけ。岳治さんと似ているけど、性格が全然違いそう。家族に対しても偉そうな物言いで好きになれそうもない。
「すみません」
「謝るくらいなら手動かせや」
ぼそっと小声でそう言われた。さっきからそうやって小声で落とすようなこと言ってくるけど、嫌味な人だなぁ。言いたいことがあるなら普通に言えばいいのに。側にいた奥さんらしい人と娘さんらしい人も何も言わない。感じ悪いなぁ、あんまり関わりたくないかも。
「音羽ちゃん、どうや」
嫌味を言われないよう、必死で餅を丸めていたら匠海さんがやってきた。額に汗が浮かぶ。さっきからずっとついていたから暑いと笑った。汗もイケメンだと爽やかに見える。今日も眼福だ。
「ぜんぜん、上手くいかないんです」
「初めてやでそんなもんやって」
「そうでしょうか」
「コツがつかめれば大丈夫や。ほら、貸してみ」
そうして匠海さんがお手本を見せてくれた。涼音さんより丁寧でわかりやすい。
「ほら、やってみ」
そう促され、要所要所でアドバイスを貰ったら……
「出来た……」
まだ不格好でまん丸じゃないけど、少なくとも表面は綺麗になった。なるほど、何となくコツ、掴めた、かな?
「なんや、匠海。その子には親切なんやな」
また義和さんが話しかけてきた。なんでだろう、一々棘のある言い方する人だ。
「そうか? でも初めてなんやから当然やろ?」
「それだけなんか?」
「他に何があるんや?」
匠海さんが真面目な顔でそう問うと、黙り込んでしまった。ここの家族、さっきから、いや、最初から感じ悪いなぁ。
「終わったらみんなで餅食うで。楽しみにしててや」
「はい」
匠海さんの笑顔に癒される。この前水族館に行ってからは少し距離が縮まった気がする。里桜ちゃんみたいにもっと気楽に付き合えたらいいのになぁ。ほんと、ここの人たちって面倒臭い。いくつか一緒に丸めていたけど、匠海さんは昭夫さんに呼ばれてまた餅つきの方に行ってしまった。どうやら交代らしい。
「あんた、匠海のこと、好きなんか?」
匠海さんがいなくなると、娘さんらしい人にそう尋ねられた。いきなりの直球の質問に面食らう。こっちの人って本当にストレートだ。
「友達として好きですよ」
BBQも水族館も一緒に楽しんでくれる、里桜ちゃんに並んで貴重な友達だ。
「友達って……」
「私たちが付き合っているって噂もありますけど、そんな事実はありませんから」
ここははっきり言っておくべきだろう。勘違いを続けられても困るし。そう思って言ったのだけど怪訝そうな表情をされてしまい、そこで会話は途切れた。何で誰も彼も付き合っているって話にもって行きたがるんだろう。そりゃあ、農家の嫁が見つからなくて大変なのはわかるけど、だからって毎回そう受け取られると頭の中を疑いたくなる……
「お~い、終わったでそろそろ片付けるざ」
どうやら餅つきは終わったらしい。涼音さんたちに言われるまま餅をのせたのし板を家の中に運び込み、餅とり粉や余ったのし板を片付けた。人数がいるから撤収も早かった。
片付けが終わったら昼食だ。いつもの和室に入るといつもの2つの座卓以外に、もう一つ座卓が増えていて、その上には三種類の餅の山が並んでいた。その間に煮物や漬物も混じる。あっちは弟家族の分らしく、既に四人が座っていた。既にパートさんと春子さんが座っていたので、いつもの場所に腰を下ろしたんだけど……
「おい、なんで座ってるんや!」
いきなり大きな声が飛んできた。なにかと思って声の主を見たら、ばっちり目が合ってしまった。ええっと、また私? 今度は何なの? いつもの場所でいつも通りなんだけど……座ったらダメって、自分たちも座わっているのに?
「男衆がまだ来てえんのに、嫁になるもんが先に座るとはどういう了見や!」
今度は指をさして怒鳴られた。




