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限界OL、山を継ぐ~前世の従魔とスローライフ  作者: 灰銀猫


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寒さ増す中での楽しみ

 それからも日に日に寒さが増していった。


 匠海さんたち男性陣は露地栽培の冬野菜の収穫を始めとして、来年に向けて畑を耕して肥料を入れたり、ハウスの修繕や農機具などのメンテナンスをしたりと相変わらず忙しそうだった。農閑期は暇だと言っていたけれど、とてもそんな風には見えない。匠海さんは特に忙しそうで、獣害を防ぐための電気柵の修理や来年の生産計画の作成などもあって、顔を合わせる機会も減っていた。


 私は出勤時間も8時半と遅くなり、農作業もハウスでの収穫を手伝うくらいになった。梅沢家のいつもの和室でレシートや納品書と格闘するようになっていた。匠海さんが言っていた通り、レシートや納品書なんかは収穫用のカゴに放り込んだままで仕分けも何もされていなかった。うん、遣り甲斐はあるかな。こういう地味な作業は嫌いじゃないし。


「あらぁ、明日は積もるかもしれんて。音羽ちゃんも気をつけてな。冷え込むで温かくしとかな」


 一緒に書類整理をしていた涼音さんがTVの天気予報を見てそう言った。確かに雪マークみたいなのが並んでいた。


「積もるって、どれくらいですか?」

「ああ、まだみぞれマークやで積もっても薄っすら白くなるだけやろ。そやけど坂道は気をつけてや。日陰とかやと凍ってる時もあるで」


 そうなんだ。日陰かぁ、今は葉が落ちてはげ山状態だけど、それでも日陰はあるから気を付けないと。嫌だなぁ、積もったら雪かきもしなきゃいけないんだよね。やったことないけど、TVですごく大変だって言っているのは見たことがある。


「この辺は海やであんま積もらんけど、稀にドンと降る時もあるでな」

「最大でどれくらい積もったことあるんですか?」

「そやなぁ……多くても1mいくことはないで大丈夫や」

「1m……」


 まったく想像出来ないし大丈夫なレベルじゃないんだけど……そうなったら家から出られないかもしれない。


「音羽ちゃんとこも、家の近くまでは除雪入ってくれるやろけど、あんまり酷いと手が回らんくなるで。そん時は家に避難しに来ね」

「は、はい……」


 そっか、そんな事態もあり得るのか……北陸って豪雪地帯だったよねぇ。大丈夫かなぁ……食料とか買い込んでおいた方がいい? 家にいて遭難とか勘弁してほしいし。


「それにしても、減らんなぁ……」

「そうですね。農業も色んな取引があるんですね」


 取引先の殆どはJAかと思っていたけれど、そういうわけでもなかった。


「そうやなぁ。昔と比べて小口の取引が増えたでなぁ。昔はJAが殆どやったけど」

「JAだけじゃダメなんですか?」

「ダメってわけじゃないんや。全数買い取ってくれるし。でも、サイズやら大きさが厳しいし、価格もこっちで決めれんから。それに手数料も取られるしな」


 なるほど、結構面倒なんだ。納めてそれで終わりかと思っていた。


「直販の方が金額も決めれるし利もあるんや。ただ、売れ残ることもあるでそこは博打やな」

「天候以外でも大変なんですね」


 思った以上に大変なんだなぁ。でも、やっていると楽しいし、立派に育った野菜を出荷する時は感動すらしてしまう。きついし大変だけど、悪くないと思うんだけど。


「匠海が継いでくれたでよかったけど、近所じゃ廃業したり貸しに出すとこも増えたでな。けど、やっていけんくなったら匠海にはサラリーに戻ればいいって言ってるんや」

「ええ?」

「あの子は一度引き受けたで簡単には辞めんやろけど。でも、しがみ付いていてもダメな時はダメやでな。そん時は誰かに貸し出すなりすればいいんやって」


 意外にも涼音さんはそこまでこだわっていなかった。いや、外から来たからそう思うのかもしれない。私もそう考えると思うから。


「兄二人は農業なんて嫌や言うてさっさと出て行ってもたで。あの子はうちらのこと心配して大学も就職も県内やったから。本当は都会に行きたかったで、可哀相なことしてしもたわ」


 寂しそうに涼音さんがそう言った。そっか、お兄さんたちは先に県外に……明るくて温かいと思っていた梅沢家だけど、そんな一面もあったんだ。そういえば、お兄さんたちの話って殆どしなかったよね。それは、こういう事情があったから? きっとお日様みたいな笑顔でお兄さんたち見送ったんだろうけど、どんな風に思っていたんだろう。やっぱり自分も外に出てみたかったのかな。


「ほやで、音羽ちゃんみたいな若い子が来てくれて助かったわ。あの子も同年代の子がいたほうが楽しいで」


 そうかな、そうだといいけど。いつもよくしてもらってばかりだけど。


「まぁ、噂のこともあるで難しいやろけど、仲良くしてやってな」

「もちろんです」


 それはこちらの台詞で、匠海さんや梅沢家の皆さんの手助けがなかったらここでの暮らしはとっくに破綻していたかもしれない。こちらこそこれからもよろしくお願いしてほしい。




 いつも通りご飯を食べて家に帰ると、リビングではきなことあんこがTVを見て寛いでいた。


「無事帰ったか」

「ただいま~」


 家に帰って声をかけてくれる存在がいるのが嬉しいけど……


「あんこ、また来てたの?」

「なんと冷たい仰りようじゃ、主殿は」


 そう言いながらもミニピンのサイズで尻尾を振ってくる。う~ん、きなこみたいにもふもふしているなら興味もあるけど、毛が短くて細くて骨ばっているともふりたい気持ちも湧かなから興味も持てないんだよねぇ。やっぱりもふもふってそれだけで凄いよね。


「それであんこ、今日はどうだったの?」

「ん? 今日は誰も来なかったぞ」

「そっか」


 あんこは防犯カメラよりは役に立っていた。実際通知が鳴ってアプリを見ても映っているのは野生動物ばかりで人が映ったことは皆無だ。まぁ、熊とかが出てこられるのは困るんだけど。そういえば今年は熊の出没が多いって言っていたけれど……


「ねぇ、熊とかは出ないよね?」

「この辺には近づくなと言うてある」

「それ、効果あるの?」

「当たり前じゃ。獣は土地神様への畏怖を持っておるからのう」


 それだと人間は畏怖がないようにも聞こえるけど、信心が昔より薄れているのは間違いないかな。熊が近付いてこないのなら有難い。


「じゃ、匠海さんの畑にも出ないようにしてよ」


 電気柵をしてあっても獣害が途絶えることはないんだよね。今日も小雨が降る中、匠海さんは電気柵の修理をしていたみたいだし。


「主殿のお望みとあらば」

「出来るの?」

「まぁ、それなりには。だが、土地神様のお力を信じぬ獣もおるからな。すべてを防ぐことは難しいのじゃ」


 獣でも信心がないのがいるんだ。よくわからないけど、獣の世界も色々あるらしい。


「音羽、今日は外でやるのか?」


 きなこが尻尾を揺らしながら尋ねてきた。もふもふの尻尾、尊い……


「う~ん、寒いから今日はやめておくよ。それよりも……あれを使う!」

「あれとは、この前かったあれか?」

「そう、それ!」


 先日、ホームセンターで見つけてきたそれとは、電気で動く卓上の焼き鳥器だった。何も焼き鳥だけ焼けるわけじゃない。肉でも魚でも野菜でも焼ける代物だ。寒くてもBBQ気分を味わいたくて何かないかなぁと探していたところ、たまたまホームセンターで見つけたのだ。幅は30㎝くらい、奥行きも15㎝くらいだけど一人ならこれで十分だ。なによりも電気だから手間がかからない。


 好きな芸人さんは真冬でもキャンプしていたけど、さすがにそれだけの元気はなかった。寒いの苦手だし、テントもまだ買っていない。それにきなこも寒いのを嫌がるのもある。猫までも寒さは苦手らしい。ついでにあんこも。あんここそ生物じゃないんだから関係ないと思うんだけど、物悲しい景色が好きじゃないのだとか。


 温かいリビング、テーブルの上に焼き鳥器を置き、その周辺に具材を並べる。焼き鳥だと6本くらいしか乗らないけど、一人なら十分だ。焼き鳥は買ってきた鶏肉を自分で串に刺したもの。豚と牛もカレー用の肉をもう少し小さくして串にした。もちろん野菜串も健在だ。これにお酒があれば立派な宴会だ。


「音羽、鶏がほしい」

「はい、熱いから気をつけてね」

「我も。我も欲しい」


 すかさずあんこが強請るけど……


「あんたは食べなくてもいいんでしょうが」

「そんな殺生な。せめて一串なりと恵んでたもれ」


 耳を伏せて上目遣いで見られると無下にも出来ない。まぁ、防犯面で働いてくれているみたいだしなぁ。仕方がないのできなこと同じ量で妥協した。匠海さん家の畑の分も働いてもらいたいし。


「やだ、これも結構楽しい」


 あんまり期待していなかったけど、思ったより時間もかかるけど、自分で焼きながら食べるのはBBQと変わりなかった。うん、この冬はこれで楽しめそう。でも、一度は外でBBQやってみたいなぁ。冬のソロキャンプの動画を見ているとやっぱりそそられるものがあった。


「やっぱり焼きたてが一番美味しい」


 炭火の香りがないのは残念だけど。室内で七輪を使ってやる方法もあるんだけど、さすがに室内でやるには一酸化炭素中毒が怖い。一人だと何かあっても気付かないから。今だって電気ではあるけど念のため換気扇は回している。寒いとあんこには不評だけど、安全は譲れないよねぇ。


「きなこ~~~」


 酔いが回ったせいか、なんだか寂しくなって傍で寛いているきなこを抱きしめた。いつの間にかあんこの姿はなかった。いつも8時を過ぎるといなくなるんだよね。神社には門限があるんだろうか。


「なんじゃ、酔ったのか?」

「酔ってないけど大好き~~」

「酔ったんじゃな」


 酔ってないけど、気持ちいいから酔っているのかもしれない。温かく柔らかい身体を抱きしめた。誰か一緒にいてくれたらいいのに……


その時だった。ひときわ大きな地響きを伴う轟音が世界を覆い、次の瞬間、すべての光が失われた。





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