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限界OL、山を継ぐ~前世の従魔とスローライフ  作者: 灰銀猫


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防犯への対策

 それからの匠海さんの動きは早かった。翌日、お昼ご飯を食べた後、タブレットを手に呼ばれたので何かと思ったら、防犯カメラの件だった。既にいくつかの商品をピックアップしてくれているなんて、なんてシゴデキな人なんだ。


「とりあえず玄関に一つ置いて様子見ればいいかと思うんや」


 そう言って勧められたのは、乾電池タイプのものだった。ソーラーもあるけど冬は雨か雪ばかりだから充電が出来ないからで、Wi-Fiで繋がって、検知したらスマホに通知が来てそのまま見られるらしい。録画するタイプだとちょっとお高いけど、う~ん、万が一を考えたらそっちの方がいいかな? 


「また考えておいて」


 さすがに予算もあるしなぁと悩んでいたらそう言われた。候補の商品ページをメッセージで送ってもらった。帰ったらゆっくり考えよう。


「あと、家の周りに砂利布くといいざ」

「砂利?」

「誰か来ても足音がするでわかるんや」


 なるほど、それは思いもしなかったけど、音がすれば相手も入りにくいかな?


「防草シート張った上で撒けば雑草対策にもなるし。やるなら手伝うざ」


 い、いいのかな? そこまでしてもらっても。


「さすがにそこまでしてもらうのは……」

「構わんよ、これから冬の間は暇やで。今なら雑草も枯れてやりやすいで。それに使う予定無くなった砂利あるで、それでいいなら」

「それは有難いんですけど、だったら仕事としてお願いします。さすがに無償というわけにもいかないので」

「律儀やなぁ。けど、そうやな。ちょうど暇やし、仕事としてさせてもらうわ」


 そう言ってくれて気が楽になった。ずっとしてもらうばかりで心苦しかったから。タイヤ交換の手間代だって準備したのに受け取ってくれなかったし。匠海さんも涼音さんも、最低賃金で働いてもらってるからって言うけど、それにしたって一日一食付きで野菜のおまけ付き、それ以外でもお世話になりっ放しだ。これで安心、そう思っていたのだけど……


 一週間後の午後、梅沢家の男性陣が我が家にやって来て、あっという間に砂利を敷いてくれた。草刈りをして整地した後防草シートを張るのなんていつもやっているせいかあっという間だったし、砂利もトラックで運ばれて綺麗に家の周りを囲ってしまった。それが終わると匠海さんは防犯カメラまでつけてくれたし。しかも……


「ちょっと、金額がおかしくありませんか?」


 示された額はネットで書かれていたものの三分の二だった。さすがに安すぎない? これじゃ材料費にもならないんじゃ……


「そんなもんやざ。防草シートは大量に買うで店で買うよりずっと安いし。砂利も処分するにも金かかるで畑の端に積んであったもんや。処分費浮いた上に使えたでうちも御の字やざ」


 本当に? なんか、こちらに都合よすぎない? そうは思ったのだけど二人共十分だと言って譲らなかった。うう、借りが溜まっていっていない? さすがに心苦しいんだけど。


「うん、まぁ、ちょっとお詫びも入ってるし」

「お詫び?」

「この前の怪我と、あとこれから春までは仕事暇になるで、休んでもらうことも増えるやろうから」


 怪我って、あの保育園での? でも大したことなかったし、そもそも匠海さんのせいじゃなかったのに。それに休むのも最初に言われていたからお詫びされるものでもないし、そもそもこれとそれとは話が別なんだけど……


「う~ん、そやったら一つお願いしていいか?」

「お願い?」

「音羽ちゃん、事務員していたんやろ?」

「ええ、まぁ」


 というか、事務員しかしたことがない。バイトで厨房の手伝いや皿洗いなんかはしたけど。


「だったら確定申告手伝って」


 両手を顔の前で合わせて拝まれ、頼まれててしまった。そう言えばもう12月でそんな時期だっけ。自営業の人は確定申告が必要だったし。でも……


「私、経理出来ませんよ?」


 営業事務だったから畑が違い過ぎる。事務で括られるけど経理なんて私からしたらまったく別の職種だ。


「細かいことは税理士さんに頼んであるんや。頼みたいのはその前のレシートやら納品書やらの整理や。今まで母さんがしてたんやけど、その、母さんは大雑把やし遅いんで、毎年税理士さんに叱られてるんや」


 さすがにこれじゃだめだと匠海さんも手伝っているけれど、彼もそっち方面は苦手らしくつい後回しになってしまうのだとか。なるほど、事情は分かった。確かに涼音さんはそういうの苦手そう。それに、領収書とかの整理なら何とか出来るかな? 会社で部署の経費精算の取りまとめはしていたし。


「わかりました。でも、そっちはお手伝いということで無給でお願いしますね」

「いやいや、さすがにそれは無理や。給料には時間拘束料も入っているんやで」


 だったら意味ないんじゃ……そうは思うけど、どうやらかなりため込んで大変なことになっているというので引き受けたけど。う~ん、困ったなぁ、善意しかないのがわかるだけに申し訳なさが募る。そうは思うのだけど、頼られて、必要とされて嬉しかった。




 匠海さんたちが帰った夜、スマホが鳴った。聞きなれない通知音は、防犯カメラのものだった。


「え? 誰か来た?」


 慌ててスマホを覗き込んだ。こんな夜に一体誰が? 嫌な予感が膨れ上がっていく。アプリを開くと我が家の玄関とその先にある道路が映っていた。夜でもちゃんと見えていることに感動する。そこに移っていたのは……


「……これ、なに?」

「狸じゃな」


 スマホをきなこに向けるとそんな答えが返ってきた。 今まで姿は見たことがなかったけど、近くにいるんだ。



「狸……本当にいるんだ……」

「よく家の周りをうろついておるぞ。居付きそうじゃったから威嚇して追い払っておいた」


 そんなことしてたの? いや、居付かれても困るけど。これくらいの獣でよかった。鹿とか熊だと大きいから怖いなぁ……家の中に入ってこないよね? 立て札を家に繋がる道路の入り口に立てたし、防犯カメラも付けて砂利も敷いたけど、それだけじゃ安全とは言えないし……


「侵入者が入ってきてもきなこは大丈夫だよね?」

「無論じゃ」

「危ないと思ったらすぐに逃げてよ?」


 家はどうなってもいいけど、きなこを害されるのだけは嫌だ。


「わしが危険を感じる相手などそうそうおらんぞ」

「けど、さすがに人前で猫又にはなれないでしょう?」


 魔術だってこっちじゃ威力なんかあってないようなものだし。


「だったらあんこを呼ぶから大丈夫じゃ」

「あんこ? 役に立つの?」


 ミーハーなのかドーベルマンになっちゃってるけど。あれで人前に出てくるのもやめてほしい。里桜ちゃんと匠海さんに誤魔化すの、大変だったんだから。


「使いようによってはわしよりは役に立つぞ」

「あんこが?」


 あれがきなこより役に立つなんて思えないんだけど……それにそこまでの力があるのかな? 戻ったと言っていたけれど怪しいんだけど。


「だったら聞いてみるのじゃな」

「じゃ、明日神社に行ってくるよ」

「呼べばよかろう?」

「へ?」

「主はお主じゃ。呼べば来るはずじゃが」


 そ、そういうものなの? 


「じゃ……あんこ、来て」

「なんじゃ」

「ひやぁああああ!!」


 急に目の前にドーベルマンが現れて、ソファから落ちそうになった。


「ちょっと、その形で急に出てこないでよ! びっくりするじゃない!」

「なんと。この凛々しい姿を否定されるとは。主殿は美意識が低いようじゃな」

「美意識の問題じゃない。大きさの問題だから!」


 人間と同じくらいの犬が、それも黒くていかにも軍用犬ですって形のドーベルマンがいたら驚くわ!


「せめて小さくなってくれない?」

「小さく……ミニピンとはのう……」

「なんか知らないけど、小さいのでお願い」


 そう言うときなこサイズのドーベルマンになった。うん、可愛くはないけどさっきよりはマシだ。


「これからそれでお願い」

「なんと! せっかく理想の姿を手に入れたというのに」

「私のいないところでは好きにすればいいから」


 そう言うとため息をつかれた。犬でもため息するんだ。どうでもいいけど。


「それで、主殿は何用じゃ」

「この家の防犯のことだよ。今日、ここに誰かが来たみたいで」

「おお、来ておったぞ。山の中腹で車から何かを投げ捨て始めたのじゃ」


 あっさりとあんこが答えたけれど……


「はぁ? それってまさか……不法投棄?」

「そうじゃろうな。悪意を感じた故、猪になって追い払ってやったわ」

「はぁあああ?」


 追い払った? 猪になってって……


「猪になれるの?」

「当たり前じゃ。我は土地神様の眷属、力が戻ればどのような姿も自由自在じゃ」


 どんなって……まさか人間も? 


「昔から白蛇や白鹿など神のお使いと言われる者がおったじゃろう? あれらもまた我らの仮の姿じゃ」

「仮の姿……」


 じゃ、本当に神様のお使いだったんだ。知らなかった……


「今までもごみを捨てたり、家まで来ようとした者がおった。悪意を感じた者どもは追い返しておいたぞ」

「そ、そう……」


 知らないところで守られていたなんて……なんでだろう、ちょっと悔しい……


「言うたじゃろ、音羽。この地ではわしよりあんこの方が役に立つと」

「何を仰います、きなこ殿。我は貴殿には遠く及びませぬ」


 どうやらきなこの方が上らしい。


「二人の力って、何が違うの?」

「我が力は信仰が源故、この地に縛られて自由に動けぬ。その点きなこ殿の力はご自身の妖力が源故、何処で行こうとも変わらぬのじゃ」

「そ、そう」


 得意げにあんこがそう言ったけれど、なるほど、土地神様付きの眷属だからその土地限定なのか。でもきなこはそういう制約はないと。


「ご心配召されるな、主殿。悪意を持って近づくものは我が追い払う故」


 そう言われたけれど、安心出来そうもなかった。あのあんこだし、どこまで信用していいのか疑問が残る……とりあえず話半分に聞いておこう。






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― 新着の感想 ―
あんこ、結構頑張ってくれてるのに、あるじ様からいまいち信じてもらえない(笑)
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