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限界OL、山を継ぐ~前世の従魔とスローライフ  作者: 灰銀猫


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3人でのBBQ

 翌土曜日、どこまでも続きそうな空は高く晴れ上がり、色付き始めた木々を風が穏やかに揺らす。どこからどう見ても絶好のBBQ日和だった。


 いつもの庭のいつもの木陰には焚火台が真ん中に鎮座し、その周りを私と里桜ちゃん、そして匠海さんが囲う。今日のきなこは猫として、こちらは日向に置いた椅子の上で絶賛日向ぼっこ中だ。


 さっきからチラチラ匠海さんの視線が向いているのはモフりたいからだろうか。前回はあの人を引き留めるために愛想を大盤振る舞いしていたけど、今日はそんな懸念がないだけに匠海さんの希望は叶わない可能性が高いけど。


 そして、網の上には開いて一夜干ししたアオリイカが炙られていた。網の端には串野菜やウインナーが彩りを添えている。写真に撮ったらいい絵になるだろう。


 昨日の「いい魚」とは、このアオリイカとハタハタだった。アオリイカは刺身にして食べる物だと思っていたけど、開いて干してから炙るのもなかなかに美味なのだとか。ハタハタも干すと旨味が増すらしい。東京では見たことなかった気がする。


「あ~いい香りしてきた」


 イカの端っこがじりじり焼けてきていい感じだ。香ばしい匂いが食欲をそそる……


「でしょ~刺身もいいけど、私は炙りが一番やと思う。これは音羽ちゃんに食べさせな!と思って直ぐに干しといたんや」

「うわ、そう言われると楽しみ」


 秋空の下、既にアルコールも入っていい気分だ。里桜ちゃんと親しくなってからは食べる魚の種類がすっかり増えてしまった。時にはスーパーでは買えない魚もあったりする。正直いって、「これ食べられるの?」と思う魚もあったりするのだけど、そういうレアな体験が出来るのも楽しい。


「お~焼けてきた。そろそろいいかな~」


 里桜ちゃんが持ってきた魚は焼き加減がわからないから里桜ちゃんにお任せだ。キッチン鋏で切り分けてくれたけど、このまま食べていいのかな?


「あ、そのまま食べてもいいざ。でも、お勧めはこれや」


 バーン!という効果音が付きそうな勢いで出されたのは小さなタッパーだった。中に入っているのは……


「やっぱマヨネーズに一味やな」

「ざんね~ん! イカには七味やろ!」

「はぁ? イカには一味やろ!」


 一味と主張した匠海さんに里桜ちゃんが七味と断言して言い合いになってしまった。どうやら梅沢家と吉川家はこだわりがあるらしい。


「今日のイカは私が出したんだから、今日は七味!」

「あ~わかった」


 非常に残念そうに匠海さんが折れた。ムキになったのは幼馴染の気安さなのか、はたまた食へのこだわりなのか。料理上手だから後者かもしれない。


「まぁ、食べてみて。絶対気に入るから!」


 そう言われて期待が増す。今まで里桜ちゃんにそう言われて外したことがないから。


「うわ! 何これ、本当にイカ?」


 柔らかくてもちもちしていて、でもちゃんと歯応えもあって。刺身とはまた違う食感が新鮮だ。そして……


「うそ、マヨに七味、本当に合う!」

「音羽ちゃん、一味の方が上手いざ」

「い~や、七味や」


 うん、匠海さんがそこまで言うのなら次回は一味にしてみよう。それにしても美味しいなぁ……うわ、また好物が一つ増えた。この先、どこまで増えるんだろ……


「ビールもいいけどちょっと涼しいし、こういう時は日本酒やろ」


 そう言って匠海さんが鞄から取り出したのは日本酒の四合瓶だった。ラベルを見たけど、知らない銘柄だ。


「うわ、匠海にしては気が利いてる」

「なんや、それ。やらんざ」

「うそうそ! 匠海様様や」

「イカに免じて許してやるわ」


 なんかいいなぁ、この二人。掛け合いが漫才見ているみたいで楽しい。小さいコップに注がれた日本酒は少し黄色味がかっていてフルーティーな香りがした。うわ、めっちゃ飲みやすい。


「あ~染み入る~」

「おっさん臭いぞ」


 悦に入っていた里桜ちゃんに匠海さんが間髪入れず突っ込んだ。確かに今の言い方はそうだった。


「うるさいなぁ、本当にそう思ったんだからいいでしょ。ね、音羽ちゃん」

「う、うん。凄く美味しいです」


 急に話振られて敬語になってしまったけど、本当に美味しい。そういえば北陸って酒処だったっけ。


「音羽ちゃん、結構いける口なんやな」

「そうやざ~ね~!」

「おい里桜、もう酔ってるんか?」

「そんなことないって。ね~音羽ちゃん?」

「そうですね。いつもの里桜ちゃんです」


 今のところは、だけど。でも、幸いにも里桜ちゃんはただ陽気になるだけで絡んだりはしないから安心だ。


「あ、次はハタハタ焼くざ~あ、音羽ちゃん、ミニトマト串ほしい」

「はい」

「あ、俺も。もしかしてこれ、うちの?」

「ここにある野菜、全部そうですよ。こうすると食べやすいし、美味しくなるので」

「そうやざ。匠海も食べてみな」


 里桜ちゃんが野菜串を匠海さんの皿に盛った。ちょっと置きすぎじゃない?いや、匠海さんはよく食べるから問題なさそうだけど。


「焼きトマトか。なかなかやな」

「ほやろ。トマトのチーズ焼き、あれはお勧めやざ」

「チーズ焼き?」

「音羽ちゃん、ある?」

「もちろん。ちゃんと準備してあるよ」


 里桜ちゃんが好きだから毎回準備してある定番メニューだ。あれなら料理上手な匠海さんに出しても、大丈夫、かな。そう願いたい。


「ほら、ハタハタも焼けて来たし。どんどん食べて」


 そう言って更にハタハタが載った。空いたスペースに里桜ちゃんがハタハタをまた並べていく。う~ん、3人というか、男性が入るとこの焚火台では小さいかも。これから匠海さんも来ることが増えるなら、もう一回り大きいのを買ってもいい、かな。


 皿の上のハタハタを凝視した。うろこがなくてつるんとした感じだけど、どう食べるんだろう。二人は頭を取って骨を外して食べていた。大きさの割に骨、大きくない? おかげで食べやすいけど。身は思った以上に柔らかくてあっさり目だけど、干したせいかしっかり味があった。意外に美味しいかも。


「これ、小さいのは素揚げにしてもいいんや」

「そうやな。でも甘辛く煮込んでも美味いざ」


 そうやって食べるんだ。美味しそう……


「食べてみたいです」

「そうか? じゃ、今度作るわ」

「いいんですか?」

「何時も作ってるで。いいざ」


 うわ、また楽しみが増えた。絶対に美味しそうだ。うう、体重大丈夫かな……


「え? ひゃぁあああ!」


 突然里桜ちゃんが大きな声を上げた。急になに? 目の前に私を見て目を見張る里桜ちゃんがいた。いや、見ているの、私じゃなくて、その向こう? 振り返って、息を呑んだ。


(ちょ……なんでこいつがここにいるのよ!?)


 そこにいたのは……真っ黒な塊ならぬ、ドーベルマンだった。


「二人とも下がって。これ、ドーベルマンやろ? なんでこんなのがこんなとこに……」


 匠海さんが立ち上がってあんことの間に立った。ええ? その動きが自然でかっこいいんですけど……じゃなくて……


「あ、あんこ、なんで……」

「え? 音羽ちゃん、知り合い?」

「知り合いというか……」


 えええっと、これ、どう答えたらいいの? さすがに神社の狛犬の珠ですとは言えないし……ちょっとあんこ、そんな恰好で出てこないでよ。目立ち過ぎて誤魔化せないじゃないの!


「だ、大丈夫です。この子、悪さはしませんから」

「え?」

「ええっ?」


 二人が声を上げてこっちを見た。しまった、あんこに「その恰好で人前に出るな」と言い聞かせておけばよかった。悪目立ち過ぎるんだよ、ドーベルマン……保健所来たらどうしてくれるのよ……


「音羽ちゃん、けど……」

「前にご飯あげたら、懐かれちゃって。きなこも怖がってないでしょ? 大丈夫ですよ」


 笑顔が引きつっているかもしれないけれど、この場をやり過ごすためには仕方がない。


(ちょっときなこ何とかしてよ!)


 きなこを抱き寄せて耳元で囁くと、きなこは面倒くさそうにあんこの元に向かった。二人が不安そうにその様子を見守っている中、きなこが何か言っているように見えた。あんこがこっちを見てお座りをした。ちゃんと伝わっていると信じたい。信じよう……


「この子、食い意地張っているけど、大人しいから心配ないですよ」


 重ねてそう言うと二人は渋々ながらも席に戻ったけど、匠海さんは警戒を解いてくれない。う~ん、困ったなぁ、あんこ、今日は帰ってくれないかな。


「あんこ、ウインナー食べる?」


 そう声をかけると小さい尻尾を激しく振った。仕方ない、あんこ用の鶏肉出すか……買い置きしてあった冷凍の鶏むね肉も焼いてやった。これで気が済むだろう。ボロを出す前に帰ってほしい……


「はい、今日はこれだけだよ」


 そう言って肉を前に置くと「ワン」と鳴いてからウインナーと肉を食べ始めた。意外にもちゃんと犬らしく食べていて驚いた。いつもはすっと消えていくのに……食べ終わるとまた「ワン」と鳴いてそのまま山に消えると、一気に空気が軽くなった。


「びっくりした~あんな大きな犬、大丈夫なの?」

「ああ見てて人懐っこいし、きなこと日向ぼっこしてるくらいだから大丈夫だよ。それに防犯になるかと思って」


 もうこうなったら自棄だ。何とか二人を丸め込まねば……


「そっか。でも気を付けてや。急に襲い掛かってくることもあるで」

「そうや。予防注射とかしといた方がいいざ」


 予防注射……その心配はないと思うけど……


「そうだね。今度行ってくるよ」


 そう言うしかあるまい。まったく、あいつのせいでせっかくの酔いが冷めちゃったじゃないか。




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