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限界OL、山を継ぐ~前世の従魔とスローライフ  作者: 灰銀猫


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祭りの後の打ち上げ

 あの後暫くして一旦解散になった。友達の子がぐずり始めたのと、花火まで時間が空いたためだった。ちょっと疲れたし、花火の後の打ち上げを思うと着替えたかったのもある。家に戻ってシャワーを浴びてからソファに転がった。うん、少し休もう。


 軽く仮眠を取り、6時前に家を出た。里桜ちゃんに教えてもらった駐車場に車を停め、海岸へ向かった。きなこは花火の音がうるさいと言って家で留守番だ。気楽で羨ましい。


「音羽ちゃん! こっちや」


 薄暗い中でも里桜ちゃんの声はよく通って、すぐに見つけることが出来た。独身組の友達も一緒だ。結婚している子は子どもがいるからと欠席だった。


「花火大会っていっても、ささやかなものやけどね」


 里桜ちゃんはそう言ったけれど、なかなかに立派だった。そりゃあ、市が主催するような大玉は上がらなかったけれど、一町内会が主催するにしては十分に楽しめるものだった。いいなぁ、長閑で。派手ならいいってものじゃないと思う。お祭りだって青年会や壮年会の人が夜店をやっていたけれど、その手作り感は他にはない味わいがあったし。


「これでイケメンが一緒ならもっといいんだけどね~」

「ははっ、そうだね」


 恋愛に憧れはあるけれど、誰でもいいから彼氏がほしいとは思えない。やっぱり人柄は大事だよね。パワハラモラハラセクハラはお断りだ。いいなぁと思う人がいないわけじゃないけれど、今すぐどうにかなりたいとは思えない。ここじゃ一緒に歩いているだけで付き合っていると思われるのも面倒だ。変な噂立てられたばかりだし。


 花火が終わったらそのまま集会場に向かった。花火の会場の道路を挟んで向かい側、学校の隣だった。集会場は築年数が経っているのか古めかしく見えたけれど、掃除は行き届いていて、あちこちに可愛らしい飾り付けがされていた。懐かしいなぁ。小学生の時は集会場でクリスマス会とかやったっけ。


 中に入ると里桜ちゃが向かった先は正面の大きな部屋ではなくその左手の扉だった。引き戸を開けるとそこは十畳あまりの和室で、大きな座卓が2つ並んでいて、その上には既にオードブルの大皿やビール、コップが並んでいた。


「あ、里桜ちゃんたちも来たんか」


 声をかけてきたのは、箸を並べる同年代のちょっとぽっちゃりした男性だった。


「へへっ、お邪魔しま~す」

「どうぞどうぞ、女の子なら大歓迎や」


 にこりと笑う様子は素朴で穏やかそうな人だ。こういう人ばかりならいいんだけどなぁ。そんなことを考えていたら玄関が騒がしくなった。匠海さんの声もする。皆集まって来たみたいだ。


 入ってきたのは5人の男性で、同年代だけでなく少し上に見える人もいた。40代くらいかな? 威張っているから一番年上なのかもしれない。威張りたがる人って苦手なんだよね。なるべく近づかないでおこう。


 最終的に15人が集まった。男性が8人で女性が7人だけど、私たち以外の女子は話しぶりからして里桜ちゃんたちよりも年上っぽかった。そういえば里桜ちゃんは私の一つ上だっけ。すっかりため口だけど里桜ちゃん曰く「前後3歳はため口がデフォだから止めて」と言われてしまった。ここではそういうものらしい。だからと言ってそれに倣えと言われてもなかなかに敷居が高いけれど。


「じゃ、今年も無事秋祭りを完遂出来たってことで、かんぱ~い!!!」


 あの威張っていた人の音頭で打ち上げが始まった。一応年長者らしい。


 テーブルの端に里桜ちゃんと並んで座った。目立つのは好きじゃないんだよねぇ。でも知り合いを増やす必要性も理解している。いつまでも匠海さんや里桜ちゃんに頼ってばかりも申し訳ないし、二人だっていつかは彼氏彼女が出来るだろう。そうなったら気安く相談するのも憚られる。まぁ、そんな時は石橋さんや涼音さんを頼った方がいいかもしれない。


 打ち上げは涼音さんが「他に楽しみがない」と言っていた通り、お酒を飲み始めるとあっという間に盛り上がった。会社の飲み会の終盤のノリが最初から来ている感じだ。まぁ、他のお客さんがいるお店と違って人目を気にする必要がないのもあるかもしれないけど。


 今日は車だからとノンアルコールビールを貰った。飲むのは家に帰ってからきなこ相手に飲めば十分だ。なんだかんだ言って一番気安くて素を出せるから。


「音羽ちゃん、飲んでる?」

「はい、ノンアルを」


 暫くしたら匠海さんが話しかけてきたので笑顔で返した。いつの間にやら黒のTシャツとジーンズに変わっていた。紋付き袴や法被姿もかっこよかったけど、シンプルな普段着もよく似合っている。背が高いのと姿勢がいいせいかな。この中では一番背が高くてイケメンだ。


「へぇ~あんたが東京から来たって子?」


 祭りの感想なんかを答えていたら声を掛けられた。顔を上げると最年長のあの男性だった。うわぁ、絡んでこないで欲しかったのに。無視するわけにもいかないので「佐野です」と名乗って軽く会釈した。里桜ちゃんから笑みが消えたし、場のトーンが一段落ちた気がする。なんだろう、嫌な予感がする……


「へぇ、東京から来たっていうからどんなケバい女が来たのかと思っていたけど、結構普通じゃん」


 はぁ? 思わずそう口から出そうになったのを辛うじて喉元で止めた。なんなんだ、初対面の相手にその失礼な物言いは? 悪い予感は確信に変わっていく。顔が真っ赤だから相当酔っているのかもしれないけど、だらしない表情と飛んでくる唾が気持ち悪い。


「そんであんた、匠海を誑かしているんだって? それに若い男があんたの家に向かって行ったって聞いたけど?」


 呆れて何も言わずにいたら何を思ったのかふざけたことを言ってきた。もしかしてこの人、あの噂を真に受けている?


「ちょっと小川さん!あれはうちのお婆が流した根も葉もない噂だから!」


 見かねたのか里桜ちゃんが険しい表情で訂正したのだけど……こいつ、小川っていうのか。ブラックリストに追加決定だ。


「でも、火のないところに煙は立たねぇって言うだろ」

「悠太さん、本当ですよ。俺、誑かされてなんかいませんから」


 里桜ちゃんと違って匠海さんは冷静だった。いや、どちらかというといつもの匠海さんらしくなく冷たい、が近かったかもしれない。


「ははっ、庇っちゃうくらい熱上げてるってか。うけるー! お前、ちょろすぎねぇ?」

「いや、ですからそんな事実はないですって」


 匠海さんもやんわりと否定してくれたけれど、聞く耳がないらしい。誰だよ、こんな酒癖悪そうな人に飲ませたの。面倒臭いなぁ、来るんじゃなかったかも。


「いや~だったら俺も仲間に入れてもらおうか。なぁ?」


 そう言って距離を詰めてきた。いやいやいや、近づいてこないでほしいんですけど。


「ちょっと、いい加減にしてくださいよ! セクハラですよ!」

「うっせぇなぁ。相手にされないからって僻むなよ」

「僻んでませんから」


 里桜ちゃんの諫めも斜め上の方向に解釈して会話が成立していない。なんなのこの人、どれだけ自意識過剰なの? 誰も相手にしたくないって思っていそうだけど。


「強がっちゃって。けど、相手にしてほしかったらその生意気で可愛げのない性格なんとかしろって。やっぱ女は控えめで慎ましくなきゃな」


 ニヤニヤしながら唾を飛ばしてくるのが気持ち悪い。やだ、どうしよう、これ。誰も逆らえないってこと? それとも呆れられて突っ込む気すら起きないって感じ? どっちにしても痛い人には変わりない。それに、ここにいるってことは独身なんだよね。40超えていそうだし、彼女いない歴=年齢とか?


「なぁ、音羽ちゃんだっけ? これから俺と二人で抜け出さない?」


 そう言って隣に座り込んで手を伸ばしてきた。それが視界に入った瞬間、ぞぞぞぞと副音声が聞こえた気がして、一気に鳥肌が立った。いやぁ、なんなのこの人? こ、こうなったらちょっとくらい痛い目に合わせてもいいよね? 


「悠太さん」

「は? イテテテテ……」


 私の肩に触れようとした瞬間、匠海さんの固い声がして、唾飛ばし男が痛みを訴えた。私、まだ何もしていないけど……見上げたら匠海さんがあの男の手首を握っている。えっと、止めてくれた?


「悠太さん、飲み過ぎですよ」


 匠海さんがにっこり笑いかけていた。その綺麗でいて迫力のある笑顔に心臓が跳ねた。美形の笑顔って、間近で見ると破壊力が倍増するんだ……唾飛ばし男も息を呑んでいた。凄い、男まで魅了しちゃうなんて。腐の好きなお姉様が喜び……はしないか。相手がこのおっさんじゃ絵面がよろしくないよねぇ。


「音羽ちゃんは家の大事な従業員です。ただでさえ人手不足なんですから、変なこと言わないでください。それとも、辞めちゃったら代わりに手伝いに来てくれます?」


 周りも息を呑んで見守っているけど、普段穏やかな人が怒ると怖いってこういうことかもしれない、と思わせるには十分な迫力だった。あの唾飛ばし男だけじゃなく、この場にいる皆が何も言えずに固まっていた。


「……わ、わかった。悪かった!」


 そう言うと匠海さんの手が離れた。しきりに手首をさすっているところを見ると相当な力で握られたみたいだ。そういえば匠海さん、結構太い枝なんかも素手で折ってたっけ。誰も開けられなかった用水のバルブも回していたし。手も大きいし、握力かなりありそうだよね。


「チッ、冗談の通じねぇ奴」


 小川唾飛ばし男は悪態をつきながらも自分の席に戻っていったけど、情けないとしか言いようがなかった。あれじゃモテないのも納得だし、結婚も無理だろうなぁ。好きになれそうな要素が欠片もないもの。隣で里桜ちゃんがホッとした表情を浮かべていた。


「ごめんね、音羽ちゃん」

「いえ、助けてくださって、ありがとうございます」


 あの男に気を遣ってか、匠海さんが小声で謝ってきたけれど、それって謝るのは匠海さんじゃないよねぇ。まぁ、もし触られたら静電気を装って弱い電撃をぶつけてやろうと思って準備していたけれど、使わずに済んだのはよかったのかな。さすがに静電気と言い張れる季節じゃないし。


 それからは皆が気を遣ってくれたのか、仕切り直しみたいになって和やかさが戻ってきた。あの男は酒に弱かったらしく、さっきお箸を配っていた穏やかそうな男性に日本酒を勧められてあっという間に酔い潰れていた。あれはわざとそうしたんだろうなぁ、優しそうに見えてなかなかに策士だ。


「ふふ、匠海ったらあんたのこと気に入っているみたいね」

「そうでしょうか?」

「そうよぉ。あの子があんなに怒ったの、初めて見たわ」


 里桜ちゃんの友達が小声でそう言ってきたけど、そうなのかな? 


「単に働き手を逃したくないだけだと思いますけど」

「あらあら、報われないわねぇ」


 そう言って笑われてしまったけれど、報われないって誰が? どうして? その真意を尋ねてみたけれど、はっきりした答えは返ってこなかった。





読んでくださってありがとうございます。

今朝、異世界恋愛物を上げました。

『暴漢に襲われた公爵令嬢を庇ったら、その兄令息に溺愛されました』です。

こちらが完結していませんが、異世界恋愛が書きたい欲が高まってしまい……

無謀かもしれませんが、毎日更新出来るところまで頑張りますので、そちらもよろしくお願いします。


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