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限界OL、山を継ぐ~前世の従魔とスローライフ  作者: 灰銀猫


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友人とのBBQ

 我が家に帰ると、まずは釣ってきた魚の捌き方を習った。とはいっても、刺身に出来るのはあのアジ一匹だけで、あとはいわゆる三枚に下ろす方法を教えてもらった。言うは易く行うは難しを改めて実感する。車の運転や匠海さん家での農作業もそうだったけれど、ここに来て初めてのことに苦戦しているなぁと何だかおかしかった。それでも、新しいことをするのは楽しい。ただ……


「全然綺麗に取れない……!」


 捌くのも難しいけれどうろこ取りも大変だった。飛び散るし、思うように取れない。取れたと思っていても取れていない。


「あ~慣れないとね~あ、ペットボトルのキャップ使うといいよ。飛び散らないから」

「キャップ? ならあったはず」


 毎日飲んでいるお茶はペットボトルだ。いや、最近はお湯を沸かして自分で作るようになったけれども。早速それを使ってみたら……


「飛び散らない……」


 綺麗に取れるとは言い難いけれど、飛び散るのは大幅に減った。うん、これからはこれで行こう。それにしても内臓を取り出すのは、ちょっとグロい……手袋越しでも感触がちょっと苦手だ。血の匂いも。小さいからいいけど、大きな魚だったらちょっとダメかも……


 それでも、里桜ちゃんのお陰で不格好ながらも刺身が出来た。ついでになめろうも。それ以外は三枚に下ろして塩を振り、炭火で焼く予定だ。


「炭火、する?」

「いいの?」

「最初からそのつもりだったから」

「だったらやる!」


 里桜ちゃんがノリノリだった。嬉しい、BBQ仲間が増えた。こっちは初心者だけど沼に落としたい。そうしたら一緒にソロキャンプも出来るし。いや、二人ならソロキャンプにならないか。でも、一人はちょっと怖いんだよねぇ。きなこがいるから滅多なことはないと思うけど、猪や鹿辺りならまだしも、熊に勝てるかわからないし。それに人間も。田舎の軒家がトクリュウに狙われたってニュースを見るとさすがに身構える。いや、女二人も危ないんだけど。キャンプは中々にハードルが高いんだよねぇ……


 それから里桜ちゃんにアジたちを三枚に下ろすのをお願いして、私は火を起こしに外に出た。うわぁ、初めての友達とのBBQだ。きなこと一緒も楽しいけれど、同性の友達はまた別だ。そのきなこはソファに座っていたけれど、目はTVに向かっていた。今日は狛犬の姿はなかった。よかった。あいつが出てくると面倒なことになりそうだから。


 最初は銀色が眩しいくらいだったBBQ台もすっかり使い込み感が出て来た。火起こしも早くなったし道具もそこそこ揃った。物置から椅子を取り出してきて里桜ちゃんの席を作る。里桜ちゃんがこれから来るならもっとしっかりした椅子がいいかな? でも高さ的にはこれがちょうどいいんだよねぇ。あ、ミニテーブルもいるよね。準備が楽しくて心が弾む。


 火が付いたのでキッチンに戻り、事前に準備しておいた串付きの野菜を冷蔵庫から取り出す。定番だからある程度まとめて串に刺し、ジップロックに入れてある。メインは魚だけどウインナーもあるといいかな? 食材を取り出して保冷剤と共に小さいクーラーボックスに放り込んだ。これはこの前買ったばかりのもの。時々食べきれないことがあったし、ケチャップなどの調味料もずっと常温に置いておくと傷みそうだから、BBQ中も傍に置く用だ。これ一つでキッチンとの往復が減るのもありがたいんだよね。


「うわ~炭火だぁ……」


 里桜ちゃんが焚火を見て声を上げた。聞けばBBQはお盆などに親戚が集まった時にやるくらいで、彼女の中では大人数でするものとの認識だったらしい。一人用コンロに感動されてしまった。


 酷暑の時期も過ぎ去り、ちょっと暑いくらいだけど浜風が気持ちいい。ミニテーブルにはアジの刺身となめろう、小皿には醤油とワサビ、さらに焼いたものを置く紙皿をいくつか。塩を振った魚を中心に、その周りに串野菜を並べる。


「うわ、めっちゃ映える!」


 里桜ちゃんが嬉々としてスマホで撮影を始めた。うん、気持ちはわかる。私も最初はそうだったから。何なら動画もだ。炭が燃える音と具材が焼ける音、肉汁が落ちて炭と反応する音、どれも撮影に値する素晴らしい財産だ。


「わ~いい匂いしてきた~~」

「いいでしょ? 焼ける匂い」

「うん。でも、その前に……」

「お刺身だね!」


 里桜ちゃん指導の下、生まれて初めて捌いたアジのお刺身。見た目が不格好なのは努力の結晶だと思ってほしい。だけど難しいんだからしょうがない。そのうち上手くなる日が来るはずだ。里桜ちゃんだって最初は出来なかったと言っていたし。


「うわ、身がぷりっぷり!」

「でしょ? 釣りたてはやっぱりお刺身だよ」


 はぁ~美味しすぎる。こんな美味しくて歯応えのいいお刺身、生まれて初めてかも。


「ちょっと食べたらメッチャお腹空いた。あ、おにぎり食べる?」

「食べたい!」


 お弁当サイズのバックから出てきたのは三角のおにぎりだった。海苔に包まれたそれは黒々とした輝きを放っていた。しまった、私も準備しておけばよかった。


「は~釣りの後のご飯美味しい~~」

「うん! この瞬間のために生きていますって気分~~」


 うわ、このおにぎりも美味しい。中に入っている昆布の佃煮が絶妙だ。塩や梅、高菜が多い梅沢家のそれとはまた違う美味しさがあった。


「はぁ~~これでビールがあったら最高なんだけどな~~」


 お茶を飲み干した里桜ちゃんが残念そうに呟いたけど……


「あるよ」

「え?」

「ビールあるよ。冷えたやつ」

「ほしい!」


 ノリと勢いでBBQは酒宴に進化した。いや、BBQならビールでしょう。でも、そうなると里桜ちゃんの帰りの足がない。それを指摘したら、だったら後で家族に迎えに来てもらうと言った。今日は会社の休みだからご両親も家にいるという。だったら大丈夫かな? まぁ、明日は休みだからこのまま泊っていってもいいんだけど、着替えがないか。


「じゃ、改めて、かんぱ~い!」


 缶ビールそのままに二人で缶を軽く当てて仕切り直しだ。そうしている間に魚はいい感じにやけて来ていた。野菜もだ。


「あ、トマト串、もういいよ」

「おお、ミニトマトを串に刺すとは」

「おいしいよ~でも熱いから危険だからね」

「了解」


 お刺身となめろうはあっという間になくなり、メインは炭火に移った。魚は肉とはまた匂いが違うんだよね。ウインナーも皮がちょっと硬くなるくらいが好みだけど、里桜ちゃんはどうかな? 焼き過ぎたかと思ったけど……


「なにこれ? ウインナーってしっかり焼くとこんなに変わるんだ」


 どうやらこれでよかったらしい。これはきなこが教えてくれたんだよね。きなこに言われるまま「もうちょっと」を繰り返していたらこうなっていた。やっぱり誰かと食べると発見があって楽しい。今日はきなこはリビングだ。さすがに猫がBBQで同席するのは変だろうと言って。それがちょっと寂しい。でも、さすがにきなこの正体をばらすわけにはいかないよね。まだ知り合って浅いのもあるけど。


「うわ~BBQの概念変わる。野菜って玉ねぎとかピーマン、キャベツくらいだと思っていた」

「ネットで調べているんだよ。あ、とっておきがあるけど、食べる?」

「え?何々? 食べる!」


 何をと言わなくても飛びつかれてしまった。でも、絶対気に入ってくれるはずだと思い、冷蔵庫で寝かしておいたあれを持ってきた。


「これって……」

「焼いてからのお楽しみ」

「おお~~」


 酔ってテンション上がっているのもあるけど、二人してノリノリだった。でも楽しい。こんな風に誰かとこんなノリで飲んだのは久しぶりだ。そういえば会社を辞めた時送別会もなかったっけ。それに私のマニュアルの件はどうなったのかな? まだそれほど日が経っていないから調査中? あれから連絡なし。


「ねぇ、音羽ちゃん、こっちでの生活はどう? やっぱり東京に比べて不便じゃない?」


 久しぶりにあっちのことを思い出していたらそんなことを聞かれた。里桜ちゃんは興味津々だ。やっぱり東京に憧れとかあるのかな。現実はそんなに華やかなものじゃないんだけど。


「便が悪いのは確かにあるねぇ。スーパーもコンビニも近くにないし、バスもないし」

「だよねぇ。昔は近所にちょっとしたお店もあったんだけど、年取って閉めちゃったからねぇ」


 ビール缶を軽く掲げて里桜ちゃんが遠い目をした。その先に見えているのはもうなくなったお店だろうか。


「里桜ちゃんは、ずっと地元?」

「いや、大学は大阪だったよ。でも、あっちじゃ釣りが出来なくて、結局帰ってきちゃった」


 本物の釣りガールだったのか。でも、大阪もそうだろうけど、東京で釣りなんて難しいだろうなぁ。周りで釣りが趣味な人なんかいなかったし。


「まぁ、遊ぶのは楽しいんだけど、憧れていたほど楽しくなかったかなぁ。うちなんか家族仲がいいせいかホームシックになっちゃったし」

「あ~わかるかも。周りに人がいっぱいいるのに、何故かぽつんと一人ぼっちだって感じちゃうんだよね」

「そう、それ! ずっと言語化出来なかったけど、まさにその通りだったよ」


 意外なところで共通点があった。明るくて人懐っこそうに見えたから意外だけど、それが凄く嬉しかった。


「あ、そろそろかな?」

「なになに?」

「じゃーん! 丸ごとトマトのチーズ焼き!」

「おおお! 何これ、凄い!!」


 先日のトマトの丸焼きのレシピを進化させた今一番の私のお気に入り。中身をくり抜いて玉ねぎとベーコン、チーズを詰めて焼いた自信作だ。


「うっわ、美味しい! トマトの概念変わる!」

「実は私も同じこと思った」


 そう言うと里桜ちゃんが一瞬の間の後に爆笑して、私も釣られてしまった。やだ、こんな風に笑ったの、何時以来だろう。心にじんわりと優しくて温かいものが満ちていった。




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