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限界OL、山を継ぐ~前世の従魔とスローライフ  作者: 灰銀猫


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お昼ご飯の訪問者

 狛犬が再び現れてから更に十日ほどが過ぎた。


 再び現れたあの日から狛犬が我が家に時々顔を出すようになった。実態がないから突然湧いてくるのが心臓に悪い。いや、前世のブランシュもそうだったけど、あれは魔力で存在が感じられたから驚くことはなかったんだけど……それでも、以前のようにお供えを求められることはなくなった。そこはよかったんだけど、現れた日は自宅なのに落ち着かなくて、そんな時は自室で過ごすようになっていった。


 一方で、仕事は順調に慣れていっているように感じられるくらいには手が早くなった、と思う。まだまだ周りの人には置いて行かれるけれど。それでも、匠海さんも涼音さんも早くなったと褒めてくれるから、話半分くらいは受け入れてもいいように感じられた。その日もいつものように仕事を終えてご飯をいたいていたんだけど……


「こんにちは――!! 匠海いる~?」


 玄関の扉が開く音がしたと思ったら大きな声が匠海さんを呼んだ。


「あらぁ、里桜ちゃんや」

「なんやろ」

「さぁ?」


 匠海さんと涼音さんが顔を見合わせた。それでも誰も席を立たず玄関に向かおうとしない。


「まぁ、ええわ。おーい、入ってこいや」

「お邪魔しま~す」


 匠海さんが呼び掛けると誰かが入ってきた。若い女性の声だけど……誰? 知り合い? 顔パスならぬ声パスだった。


「こんにちわー」

「里桜ちゃん、いらっしゃい」


 現れたのは、背が高くて目鼻立ちがはっきりした美人だった。ショートカットが凄く似合う。年は……私と同じか、少し上かな?


「あ、ご飯時やった?」

「うん、里桜ちゃんも食べていく?」

「え? いいの? だったら是非」


 あっという間に席が詰められて里桜さんの場所が出来た。ノリが軽いというか何というか……ご近所様は家族状態? 距離感が異次元だ。そして誰も何も言わずに自然と席を詰めていたからこれが普通らしい……


「ああ、音羽ちゃん、この子は吉川さんとこの里桜ちゃん」

「初めまして、佐野音羽です」


 紹介されたからには挨拶をしないわけにもいかない。ふ~ん、吉川さんとこの里桜さんか……吉川さん……って、え? もしかして……


「ああ、この子、みっちゃんのお孫さんや」


 涼音さん、今さらっと凄いこと言わなかった? それじゃ……あのゴミ出しで文句言ってきた、あの人の、孫? うわぁ、孫がいたんだ……頭が一瞬で警戒モードに入った。


「心配せんでいいざ。里桜ちゃん、みっちゃんとは仲悪いで」


 あっさりと涼音さんがそう言ったけれど、近所に認知されているくらい仲が悪い? まぁ、わからなくもないけど。あんな人が家族だったら……大変だろうなあ。病みそうだ。


「ええ? もしかして涼音さん、あのくそ婆、この子になんかした?」


 いきなり話がそっちに向かって驚いた。くそ婆って……いや、確かに厭味ったらしくて人の話も聞かなかったから納得ではあるのだけど、あの人の……孫?


「大したことやないざ。ただ、ゴミ出ししたら文句言われたんや」

「はぁ?」

「町内会、入ってすぐやったでわからんかったんやろ。あの人、回覧板派やから」


 そういえば回覧板はアプリ使っているから回ってこないけど、まだ使っている人いたんだ。まぁ、年配の人はスマホ苦手な人も多いから仕方ないけど。


「そっか。ごめんね、うちのお婆が嫌な思いさせちゃって」

「い、いえ、誤解だったんですし、わかっていただけたならそれで……」


 あれから鉢合わせはしていない。ゴミ出しで遠目に姿を見かけたことが何度かあったけど。まぁ、だからと言って近づきたくはない。会ったら挨拶はするけど。


「いやいや、これから嫌な思いさせるかもしれんから。なんかあったら私に言って。かわりに文句言ってくるから」


 なんかいきなりそう宣言されてしまったけれど……吉川家にも色々ありそうだ。いや、あんな祖母がいたら家の中殺伐としていそうではあるけれど……


「そういや里桜ちゃん、今日はどうしたんや?」

「あ、忘れてた。秋祭りの件で来たんや。神社に奉納する魚、去年と同じでいいか確かめたくて」

「あ~そうやな。特に何も聞いてないから、それでええわ」

「了解」


 なんか、皆まで言わなくてもわかっている感がここにもあった。祭りって、この前涼音さんが言っていた秋祭りのことかな?


「ああ、音羽ちゃん、今度祭りあるんや。よかったら参加してや。祭りってもお神輿出てちょっと夜店出るくらいやけど」

「いいんですか?」


 里桜さんと段取りのことを話していた匠海さんがこっちを向いた。なんか、この二人お似合いだなぁ。美男美女って感じ? 眼福だ。それにしても祭りかぁ、狛犬のこともあるしちょっと気になっていたけど、町内の行事なんだ。だったら参加したら知り合いも増えるかな。


「音羽ちゃんもここの住民やからもちろんや」

「だったら是非」

「それなら、私と一緒に行く?」

「え?」


 声をかけてきたのは里桜さんだった。思いがけない申し出に嬉しいよりも驚きが先に立つ。今会ったばかりなのに?


「そうやなぁ、俺は祭りの手伝いで案内出来んし。年近い奴もえんからなぁ」

「そやろ? も~七海も結婚しちゃったし、柚も帰ってこないから」


 七海とか柚というのはここの人のようだけど、どうやら同年代の女子はこの人しかいないっぽい。あのみっちゃんの孫というのが不安要素だけど、仲が悪いのなら大丈夫、かな? 


「どうやろ、音羽ちゃんは? 俺としては里桜なら安心して任せられるけど」

「任して。私も年の近い子いなくなって寂しかったし」

「そういうことなら、よろしくお願いします」


 匠海さんが信用している人でそこまで言われたら断る理由もない。涼音さんとも仲がよさそうだし。それに、話の流れからすると他に同年代の女子はいなさそうだし。


「ああ、そうや、音羽ちゃんはBBQが趣味なんや。里桜とも話し合うんじゃね?」

「ええ、BBQ? おお、アウトドア女子?」


 匠海さんの言葉に里桜さんが前のめりに食いついた。目がキラキラしていて美人度が上がった。うわぁ、こんな気さくな感じがする美人は初めてだ。


「里桜ちゃんは釣りが趣味なんやざ。今風に言うと釣りガールやな」

「釣り?」


 涼音さんの補足に思わず声が出てしまった。こんな美人さんが、釣りガール? それって……ちょっと待って、願ってもない人材じゃない? 釣りが出来るなら魚も捌けるんだよね。いや、その前に釣りをするなら魚が手に入る?


「うっわ~こんな近くに仲間が引っ越してきたとは。そうそう、伊東のおんちゃんには釣りを教えてもらったこともあったよ」

「祖父と?」

「そうや。石塚のおんちゃんと三人で釣ったこともあるし」


 なんと、祖父だけでなく石塚さんとも繋がっていたとは……そういえば家の物置に釣道具があったっけ。もしかして、教えてもらったりとか、出来る?


「嬉しいわ~連絡先交換しよう」


 早速SNSのアプリの連絡先を交換した。一気に距離詰めてくるなぁ。でも、ここに来て初めての女友達が出来て嬉しい。こんなところで出会えるとは……僥倖だ。


「音羽ちゃんて呼んでいい? 私のことは里桜でいいよ」

「じゃ、里桜ちゃん?」

「ちゃんはいらんのやけど……さすがに初対面じゃ無理か」

「無理ですね」


 ポンポン言葉が出てくるからつい本音が出てしまったけど、いきなり呼び捨ては心理的なハードルが高い。そのうち慣れてからでいいかな。


 その日の話題はそのまま秋祭りになった。どうも町内の青年会が祭りの中心になっているようで、匠海さんもその青年会に入っているらしい。因みに涼音さんは婦人会で、お父さんは壮年会、お祖父さんとお祖母さんは敬老会に入っているとか。青年会は未婚の男性の集まりで、結婚すると壮年会に変わるという。未婚の女性は特に何もないらしい。結婚して出ていってしまうからだと言われてなるほど、納得だ。入る会がなくてちょっとホッとした。さすがに引っ越し直後ではハードルが高い。


「まぁ、祭りは男らに任せて、うちらは楽しませてもらおう」

「お前も手伝え」

「え~ちゃんと手伝ってるじゃない。こうしてお使いに来ているんやから」


 私と違ってぞんざいな言葉遣いに付き合いの長さを感じた。いつかは私もこんな風に話せる日が来るのかなぁ。いや、いきなりあんな風に話しかけられてもちょっとビビるけど。


「あ、音羽ちゃん、今度の週末空いてる? 釣り行くんだけど、一緒に行かない?」


 次の週末の予定が初めて埋まった。




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