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限界OL、山を継ぐ~前世の従魔とスローライフ  作者: 灰銀猫


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20/52

自力で遠征

 翌日はどんよりした雲の重たい日だった。熱帯夜だったし朝からじめっと暑い。それでも、曇っているから買い物に行くのにうってつけだった。


 ここに移住してきて、晴れた日の車内温度が殺人的だと思い知った。ワンボックスの車なんて窓が多いから余計に暑い。そして車内が広いからエアコンをつけても利いている気がしない。ハンドルなんか火傷しそうなくらいに熱くなるし、ダッシュボードも熱されて遠赤外線とか出ていそう。何とかしたいとネットで調べたら車用のサンシェードがあるという。ホームセンターにあるそうなので、今日、スーパーに行く前に見てくる予定だ。匠海さんと行ったあの大きなホームセンターは遠いので、スーパーの近くにある小さなホームセンターなら何とかなるだろう。何とかなってほしい。


「きなこ、一緒に行って大丈夫?」


 出来れば来てほしいけれど、スーパーには入れないんだよね。その間車で待っているにしても暑いから熱中症にならないか心配だ。


「行くに決まっておる。お主一人で行かせるわけにはいかん」

「でも、車で待つとなると凄く暑くなるよ?」

「問題ない。そもそもわしは猫ではないし、魔術で身体を冷やすことも可能じゃ」


 猫じゃ……なかったよねぇ。それに魔術が使えるのなら問題ないか。でも、車の中に猫を放置しているって通報されない? 今は子どもだけじゃなくわんこやにゃんこも通報されると聞いたけれど。


「案ずるな。待っている間は身体を小さくしておる。そうすれば見つからん」


 ええっ? 今凄いことを聞いたんだけど!


「そんなこと出来るの?」

「造作もない」


 造作もないって……胸を張って言われちゃったけど、そういえば……この前大きくなったっけ。じゃあサイズも自由自在? 何それ、凄く便利そうなんだけれど。


「心配無用じゃ。ほら、行くぞ」

「う、うん」


 きなこが来てくれるなら心強い。何が出来るというわけじゃないけれど、そこにいてくれるのが大事なのだ。家にあったクーラーボックスに保冷剤を詰めて出発した。


「〇◇北って交差点を左に曲がれば、後は道なりに進んで、コンビニの交差点を曲がるってMAPにはあったけれど……」

「うむ、あの信号か?」

「あれだ!」


 ちょっとの買い物も冒険気分だ。土地勘が全くないからスマホのMAPを頼りに車を走らせる。午前中だし曇っているからそこまで暑くない。MAPが選んだ道は登りがきつく、アクセルを思いっきり踏んでも制限速度にやっと辿り着くかどうかのスピードだ。後ろに車がいなくてよかった……煽られるとかさすがに遠慮したいし。




 車を走らせること約15分、延々と続くかに思われた山道の先に民家が見えてきた。だったらもう少しかな? 先に進むと人家がちらほらと増え始め、緩いカーブを曲がると山が開けて町が見えた。


「きなこ見て! 町だ!」


 自力でここまで辿り着けた、その達成感が胸に広がった。ここに来てからは充実感を覚えることが増えたように思う。


「うむ、天晴じゃ。じゃが気を抜くのは早いぞ」

「そ、そうだよね」


 この先には「白線内に駐車」という大きな試練がある。移動式スーパーのあの駐車場で何回か練習したけれど、あそこは車は殆どいなかった。車がいるのといないのでは大きな差があるだけに緊張感が増す。


 最初の目的地のホームセンターは入口が狭かったけれど無事駐車出来た。実を言えば車のいない離れたところに停めたんだけど。でも、他所様の車にぶつけるリスクに比べたら、ちょっと遠いくらいの不便さなんて苦でもなんでもなくない? 私のメンタル的にも。


「え? わぁ、綺麗……」


 店の入り口にはガーデニング関係が並んでいて、花の苗が目に鮮やかで甘い香りが緊張を解してくれた。いいなぁ、家の周りに花を植えてみようか……肉を焼きながら花を愛でるなんて凄く贅沢じゃない?


 店内に入ると、いろんな商品が目に飛び込んできた。東京ではホームセンターに行くことって殆どなかった。この前も匠海さんが一緒だったからじっくり見ていられなかったんだよね。サンシェードとBBQの炭、着火剤などを買う予定だったけれど……


「キャンプ道具が、こんな店にも……」

「音羽、今日の目的はそれではないぞ」


 ポケットに入りそうなくらいに小さくなったきなこが私を止めた。ありがたい、止めてくれなかったらそのままレジに持って行ってしまったかもしれない。まだそんな余裕はないから今はBBQで我慢だから。それにしても小さい店なのにちゃんとテントやテーブル、チェアや寝袋まで売っていた。ええ? なに、ここの人たちってそんなにキャンプするの? 


 それ以外でもちょっとした家電もあるし、細々した日用品も揃っていて、しかも安い。サンシェードももちろんあった。買うしかない。というかそのために来たし。結局、サンシェードとBBQ用の炭と着火剤、トイレットぺーパーなどの日用品を買った。


「パラソルも欲しいなぁ……」


 BBQをする場所、ちょっとだけだけど陽が当たるんだよねぇ。これから日が長くなったらもっと日が当たりそう。テントは片付けが大変そうだし一人ならそれで十分だけど……


「う~ん、もうちょっと調べてからにしよう」



 どれくらいの値段が妥当かわからないから調べてからでいいかな。今は大きな麦わら帽子と日焼け止めで何とかなっているし。



 後ろ髪を引かれる思いでホームセンターを後にし、スーパーに向かった。スーパーまでは直ぐそこで迷うことはなかったし、お盆のせいか駐車場も空いていて駐車も無事クリアした。


「やっぱり肉かなぁ」


 でも、魚も捨てがたい。というか魚が豊富だ。サバやアジ、ふくらぎなんかが丸ごと一匹売っていて、安い。これ、刺身にしたら何人前だろう……焼くのも好きだけど刺身も捨てがたい。でも、捌く自信がない。う~ん……


 悩みに悩んだ末、アジとイカの刺身、サバとイワシ、カレイの一夜干しを買った。あときなこの好きなカツオのたたきは特売品だった。有り難い。


 肉物は牛や豚がいいかなぁと売り場に向かったのだけど……


「え? 鶏が2㎏売り? めちゃ安くない?」


 鶏のモモ肉と胸肉が白いトレイじゃなく袋で売られていた。これ、一枚ずつ冷凍したら当分持つよね。東京でも特売日には2枚買って1枚は冷凍してたし。頭に浮かんだのは、あの侵入者だった。何でも喜んでいたから安い胸肉でも文句は言われないはず。こっちのお財布事情もあるし、ヘルシーなのは胸肉だし。うん、これを買おう。


 後は……お米がなかったっけ。売り場に行ったら1㎏、5㎏、10㎏とあるけど……一人だから5㎏でいいかな、きなこはお米食べないし。直ぐ近くには海苔の佃煮や鮭フレなんかのご飯のお供が並んでいた。有り難い、PBでお値段も良心的だし。ああ、野菜も買わなきゃ。たくさん買って冷凍しておけばいいし。幸いにも冷蔵庫は大容量だけあってスカスカだ。ちなみに一番場を占領しているのはビールとペットボトルのお茶だ。


 野菜は玉ねぎやニンジン、ピーマンやきゅうりを買った。ジャガイモとトマトは続いたからちょっとお休みしよう。気が付けば持って行ったエコバックに入りきらない量になっていた。どうしようか、袋を買おうかと思ったら、レジの向こう側のカートに段ボール箱が無造作に積まれていた。「ご自由にお持ちください」と張り紙があるけど、使っていいの? 店員さんに尋ねたら「いいですよ~」と言ってくれたので段ボールに詰めて帰った。陽を避けられるし持ち運びも楽で助かる。


 車に戻って生物はクーラーバックに入れ替えて、その上にサンシェードを被せて帰路に就いた。思った以上にいい買い物が出来た。お刺身なんて久しぶりだからちょっとテンション上がる。


 車で待っていたきなこは無事だった。さすがにスーパーに連れて行くのは衛生面で気が引けるからね。帰ったら鶏肉の袋を開けて1枚ずつラップに包んで冷凍だ。カレイやイワシ、鯖、野菜も。帰ったら冷凍のコツなんかも調べてみよう。ネットありがたい、これがなかったら今の未来は選べなかったし選ばなかったけれど。


「今夜はお刺身だ~~」

「うむ、カツオが楽しみじゃ」

「きなこの好きな日本酒も買っておいたよ」

「お主にしては気が利くのう」


 戦利品を積んでの帰り道はきなこも機嫌がよかった。もちろん私も。車は少ないけれど下りが続いてアクセルを踏まなくても加速していく。しかもカーブも続く。これ、家の前の道より広いけど侮れないんですけど……


 家の前の道に入るとホッとした。この先は行き止まりで我が家しかないから車が通ることはない。それだけは有り難い。こんな道で対向車来られてもすれ違い出来ないし。


「音羽、車がいるぞ」

「へ?」


 最後のカーブを曲がった先できなこが声を上げた。車? こんなところに?


「うむ、あれは……匠海じゃな」

「匠海さん?」


 何だろう? 何か用事でもあったっけ?


「待て、誰かいる。あれは……音羽、あの男じゃ。あの男がいる」




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