第14話
パルキストスが去ったあと、ギムセックは興奮気味に喜びながら、リテと室内に戻った。
シュルクタットへ行けば病気が治せることを、なぜ今まで教えてくれなかったのか。その時期ではなかったというパルキストスの言葉を、疑問に思ってはいないようだ。
この辺は、エルフらしい素直さなんだろう。そもそも、悪意ある他人に出会うことがない世界だから。俺に初めて会った時もそうだったが、基本的に他人を疑うという発想がない。だから単純に娘が治ることを喜んでいる。
リテも多少は引っ掛かりつつも、喜ぶギムセックと共に安堵の表情だった。
確かにリテの病気が治るなら、喜ばしいことだろう。
俺は、そんな喜びに満ちた一家を横目に見ながら、一人で部屋に戻る。
パルキストスの言葉を落ち着いて考えてみたい自分がいたからだ。
……………………
パルキストスは、俺を召喚したのは自分ではないと言っていた。
召喚魔法を研究していたが、人間を召喚するなんて全く無理だと。
じゃあどうやってこの世界に俺が召喚されたのか? パルキストス自身でさえも分からないだって? いや、絶対に何か知ってるだろ、という口ぶりではあったが、分からないらしい。
さらに、そもそも魔法の実験をやるのに理由はない、とも言い切っていた。
何なんだそれは?
異世界転移といえば、何らかの使命があってその世界に召喚されるものだろう?
理由は無いって、そんなことあるのか?
俺の中では、「人間」になってしまったリテを助けるためにこの世界に来たのだと思い込んでいた。
パルキストスとリテが既知の仲だということも、その証左の一つじゃないのか。
なのに、召喚魔法を発動したのはパルキストスではないらしい。
じゃあ俺は、一体なぜここにいるんだ?
リテを助けることこそが、俺がここにいる理由じゃないのか?
俺は、何もかも騙されたような気持でベッドに倒れこむ。
「ネストリヒ」
明るすぎる光魔法のランプを消す。
薄暗い室内で寝転がり、ぼぉっと天井を眺める。
これまでのことを思い返して、改めて虚無感に襲われる。
リテは俺とそれなりに仲良くなり、感謝もしていたが、俺の助けが必要だと言ったことはない。
彼女は、見た目通りの大人の女性だし、シュルクタットへ行くという決断も、一人で決めた。
この世界は極めて平和だから、俺が彼女を守る必要もない。
彼女は自力でシュルクタットへ行き、自分の病気を治すことが出来る。
俺は異世界転移なのだから、勝手に何かしら役目があるはずだと思い込んでいた。
しかし、考えてみればそれは、ファンタジーの定番に慣れすぎた発想だ。現実に異世界転移したのなら、そこに理由が必要だろうか。俺の召喚が、何かの事故のようなものなら、そこに何の理由も無いだろう。
リテやギムセックも、この世界に来た俺になんらかの役目があるとは思っていない。異世界に召喚されたのだから、使命がある? そんなことは全く知らない話なのだ。
リテにとっては、自分が「人間」という種族だと知れたことだけで十分だ。そこから先は、彼女が自分で決める。俺を頼る必要なんてない。
俺がこの世界にきたことに、理由なんてなかった。
俺は、虚しさに耐え切れずに目を閉じたが、眠ることも出来ず、ただただ空虚な時間だけが流れて行った。
………………………
悶々とした夜を過ごした翌朝。
相変わらずのゆったりとした朝食の時間だが、ギムセックとミルステーナは心なしかウキウキしている。
長年の懸案だった娘の病気に解決方法が見つかった喜びが、今朝もあふれている。
一方のリテは、普段とあまり変わらない様子で静かに食事を終えて、俺にこう提案して来た。
「トーキ。今日は学校も休みだし、買い物に行かない? 旅に必要な物をいろいろ買い揃えないと。パン屋の方の仕事はある?」
「いや、必要な資金も貯まったし、パン屋の仕事は当分休むって伝えてあるから。買い物ね、行くよ」
「うん。じゃあ決まり!」
身支度(というほどのものは俺にはあまりないが)を終えて、俺はリテと家を出た。
道中、彼女は歩きながら旅に必要な物をリストアップしてくる。
「取りあえずはリュックかな。旅用に大きなのじゃないといけないから。あとテント。どうしても野宿になることもあるし。もちろん、一人用のを二つね。寝るのには家にある毛布でいいかな。これから気温が上がっていく時期だから、寒くはないと思う。あとは食料。途中の村でも買えるけど、ある程度は必要だよね。腐りにくいものでないとだから、ハムとチーズ、ピクルスとかでいいかな。パンも日持ちのするのでないといけないし。あ、そういえばトーキ、パン焼けるんだよね。だったら材料を持って行けばいいから、助かるな」
二人になるとすごい喋る。冷静さを保っているつもりだろうけど、旅に向けてテンションが上がっているのが伝わってくる。
俺の方はと言えば、それほど乗り気にはなれないでいた。
リテの言葉に頷きつつ、ほとんど喋らずに歩く。
結局、俺の利点ってパンが焼けることくらいか。
まあ、確かに。他に何ができるかというと、何もない。
元の世界でも、俺は人と違う特別な技術とか、誰にも負けない特技みたいなものはなかった。
それなりに頑張って勉強して大学に入って、そこそこの成績で卒業したが、そういう人間はいくらでもいるってレベルだ。
高校生ぐらいの頃からアニメが好きで、かといって絵が描けるわけでもなく、それでも何かアニメに関わりたくて大学卒業後はアニメ制作会社に就職した。絵が描けない俺は必然的に制作進行というあらゆる雑用をこなす仕事をしたが、これが俺には全く向いていなかった。
アニメは、何人ものアニメーター、監督、脚本、演出、音楽等々、たくさんの人たちが関わって作られる。そんな各分野のスタッフたちの間を調整していくことが俺に求められた仕事だった。俺自身は、出来る限り一生懸命にこの仕事に取り組んでいた。
だが、ダメだった。
俺には、たくさんの人間と関わっていくチームプレイが全然できなかった。
30代も半ばの今となっては、「会社」の中で当たり障りのなり立ち回りをして無難に過ごすことも出来るようになってきたが、大学を出てすぐのころはそういうコミュニケーション能力がなかった。そのくせ、アニメ制作で爪痕を残したいという無駄な情熱と、一流ではないがそこそこの大学を卒業した、くだらないプライドだけはあった。
結局、未熟さ丸出しの空気の読めない言動で何人ものアニメーターの人を怒らせて、何人かの監督から冷たい視線で見られて、同僚からも敬遠されていった。しかも、当時の俺にはその自覚がなかった。気づかないままに空回りして、さらに状況は悪くなって、その上、業務は増え続けた。
そんな日々で、重石のような塊が、気づかないうちに俺の心の中に堆積していった。
俺の存在自体が、社会という波の中で徐々に軋んでいく。その歪みはやがて限界を向かえる。
若者は三年でとか言われるが、俺は二年と少ししかもたなかった。
ある朝、目が覚めて会社に行かなければ、と思ったが全く起きられず、そのままベッドから出られないまま、会社を辞めた。
うつ病だった。
東京のワンルームの部屋で一人、湿ったベッドに生えたカビのように寝続ける俺を、兄貴が実家まで連れ帰ってくれた。そのまま実家でひきこもり、なんとか外出できるようになるまで半年。
どうにか仕事を探し始めたが、東京へ行ってうつ病で逃げ帰った自分に対し、田舎の人間が向けてくる視線が恐ろしくて、まともに喋れなかった。これも、今思えば被害妄想だったが。
そんな俺に父親は、収集日に捨て損ねた可燃ごみを見るような視線を投げつけた。母は何とか間を取り持ってくれてはいたが、それがかえって痛々しくさえ感じた。
俺が東京の大学に進学したのも、田舎独特の固定された人間関係と、そこに閉じ込められて息継ぎも出来ない閉塞感から逃げるためだ。
戻ってきても同じこと。
俺は実家暮らしも耐えられず、仕事を探し始めてから半年ほどで東京に戻った。
そこからは、非正規でぎりぎりの給料でも、とにかく負担の少なそうな仕事を選んで、何とか生活している。
ホワイトそうな職場だと思っていても、数年もすると人間関係に嫌気がさして続けていけなくなり転職、ということの繰り返しではある。何の進展もない毎日。人間関係に波風を立てないことだけは、マシになったと思うが、それ以外に何も積み上げてはいない。
しかし俺が、俺という人間に何の期待も持たなければ、それも悪くないと決め込んで生きてきた。誰の役にも立ってないが、誰にも迷惑をかけてないなら、いいだろ。そう思う日々だった。
別に楽しみがないわけじゃない。仕事の残業は少ないから、帰って一人、安酒を飲みながら好きなアニメを見ることもできる。それで十分じゃないか。両親の面倒は兄貴が見てくれるし、俺には期待もされてない。
彼女が欲しいとか、思わない事もないが、そもそも独身の女性との出会いも無かったし、あったとしても今さら恋愛をする情熱もなかった。
俺はこのまま、誰にも必要とされず、何の役目も、使命も運命も無く、淡々と暮らすんだと納得していたはずだった。
それが、気がついたら、異世界にいた。
でも、俺自身が何か変わったわけじゃない。
中身は、元の世界の俺と変わりはない。
だから、いいじゃないか。異世界転移に理由なんてなくても。
俺に何の役目も無くても。
リテが俺を必要としてなくても、それでいいんじゃないのか。
………………………….
「ちょっと、聞いてる? トーキ」
「ああ、ごめん。考え事してた」
「もう。最初はリュックね。大きいリュックをつくれる人がいるから、まずはそこ」
リテは「買い物」と言っていたが、俺が想像する「買い物」とはちょっと違っていた。
この小さな村には、常時商売をしている商店はあまりない。
カルスティのパン屋と、魔石売りのドネルコの泊まっていた宿屋、その他には食料品や日用雑貨を売る店が数件だけだ。商店街と呼べるほども商店はない。
だから、商店で売ってないものに関しては、それを持っている、または作ることのできる人の家を訪ねて直接買う、ということになる。
リテに連れられて、村の広場近くの一軒家を訪ねる。がっしりした体格で、気のよさそうな男のエルフが出てきて、どのくらいの旅なのかを話すと、それに合う大きさのリュックサックを二つ出してくれた。クリーム色の分厚い布地で、小柄な人間なら入れそうなほどの大きなリュックサックだ。
そして、二人で空のリュックを背負い、数件離れた家の門をノックする。
そこでは、テント用の布地を購入した。一人用のテントが欲しいというと、それ用の大きさに布地を切ってくれた。さらに、テントの骨組み部分は別の家を訪ねて、金具の付いた木の骨組みを作ってもらった。
「あとは、食料ね」
そう言ってリテは、食料品の商店に向かう。
2か月分の食料となると、店頭に並んでいる商品では足らないので、店主のエルフに言って在庫を出してもらった。
大きなリュックに食料が詰まるとかなりの重さになったが、そこは物を軽くする魔法「キャルロルディ」が役に立つ。ハムやチーズには、熱を操る魔法「コルネント」をかけて、冷たい温度を維持して日持ちを良くする。
この世界の魔法の良いところは、いくら使っても疲れないことだよな。
魔石の中の魔力もほぼ無限だし、発動してしまえば、常時使い続けても、何の苦もない。
本当に便利、魔法。
「うん、買い物はこんなものかな。お腹空いたからトーキ、カルスティのパン屋でパン買って食べようよ。私、まだ『あんパン』食べたことないんだよね」
リテの提案でパン屋に行き、あんパンとフルーツサンドを買う。
「あそこで食べない?」
紙に包まれたパンを持って、リテが広場の隅のベンチを指さす。
タイミング良く、あんパンは焼きたてで、まだ熱い包みから香ばしい匂いが立ちのぼる。
俺たちは大荷物を横に置いて、並んでベンチに座ってパンを頬張った。
………………………
透き通るような水色の空に、白い絵の具をひと塗りしたような雲が流れる。
乾いた風が、買い物を終えた頬を心地よく冷やしてくれるのを感じる。
「うん、これ初めての味だけど、美味しいね」
「それは良かったよ」
「なんか、今日は元気ないね」
「そんなことはないよ」
「嘘。昨日、パルキストス様に言われたことでしょう?」
「……うん。そうだね。やっと、どうして俺がこの世界に来たのか、わかるのかと思ったし……」
「うーん、トーキがこの世界に来た理由か~。それってそんなに重要かな? 私は、トーキが来てくれて良かったけど」
「リテは、『人間』っていう種族を知ることができて良かっただろうけど。それも、もう病気が治せるってわかったから、あまり理由にならないよね。この世界にやってきて、俺にしかできないような役割が、きっとあると思ってたんだけど」
「そうなんだ。私は、自分の役割なんて考えたことないな」
「俺は、元の世界では、人の役に立つようなことも大してなかったし、誰かに必要ともされてなかったから……。でも異世界に召喚されたなら、神様みたいな存在から与えられた使命とか、あって欲しかったんだよ」
俺は、思わず本音を吐露してしまうが、リテはこちらを向いて、素直な顔で意外な言葉を返してきた。
「神様って?」
「いや、神様は神様だよ。まあ、俺はそんな信仰心とかないから、信じてはいなかったけど、でも、異世界転移があるなら、神様もいるんじゃないかな」
「え? ごめん、トーキ。神様っていうのは、トーキの世界の何かなの?」
「……!? 神様ってこの世界にはいない……?っていうか、信仰されてないの? ええと、この世界の宗教ってなに?」
「信仰? 宗教? ちょっとわからないんだけど……」
リテは、本当に純粋に知らない、という目で俺を見つめている。
衝撃。
この世界に来て、いろいろな文化の違いがあったけど、これは最大級の驚きだ。
確かに、この西洋風の村には一番ありそうなのに、「教会」がない。
またこれまでに、神様に祈っている人にも出会わなかった。
宗教的なモニュメントもないし、僧侶的な職業の人もいない。
この世界、宗教がないんだ。
俺自身が無宗教だし、宗教的なこだわりみたいなものがないから、今まで気づかなかった。
いや、だとしても、この科学の代わりに魔法の発達した異世界で、宗教が無いってあり得るか?
「ごめんリテ。俺のいた世界には、神様って人間を超えた特殊な存在って言うか、見えない霊的な存在を信じていたりして、それを宗教って呼んでるんだけど、この世界にはそういう考え方は無いんだね?」
「ああ! 神様ってそういうのね。パルキストス様の家にあったおとぎ話の本で見た。ずっと大昔の伝説みたいなお話だと思ってたけど、トーキの世界だと、それを信じてる人がいるの?」
「そうだね。俺自身は、そんなに信じてる方じゃなかったけど……。この世界に宗教がないんだとしたら、霊魂とか、死後の世界とか、そういうのも信じられてないの?」
「霊魂? 死後? それも、おとぎ話には出てきたけど、そういうお話自体、読む人も少ないし、誰も信じてないと思う。人は死んだら土に還るだけ」
「そう……、なんだ」
リテは、当たり前のことのように言った。
神も、霊魂も、死後の世界も無い。人は死んだら土に還るだけ、か。
「それって、不安じゃないの? 何か、すがるものが欲しくなったりしない?」
「うーん。もちろん、死ぬのは怖いし、嫌だけど、不安に思っても仕方がないもの。ただ生まれて、生きて、死ぬ。ずっとずっと昔から、たくさんのエルフたちがそうして生きてきたんだし。神様とか、そんな不確かな物にすがろうとは思わないかな」
「でも、自分が生きてる意味みたいなものが分からなくて、悩んだりしない?」
「どういうこと? 生きてることに意味なんてないよ。私は、自分の寿命が短いって気づいた時は悲しかったけど、でも、その短い時間、自分のやりたいことを目一杯やろうって決めたから。それだけだよ」
リテの言葉は平静そのもので、彼女にとってそれが揺るぎようもない本心なのだと伝わってくる。
俺が、呆気にとられたように彼女を見ていると、彼女は柔らかく笑って、フルーツサンドに手を伸ばす。
ためらいなく大きく口を開けて、一口で3分の1ほどを食べて、もぐもぐしながら「これも美味しい」とつぶやいた。
リテのその無邪気な食べっぷりに、俺の方も可笑しくなって、笑いがこぼれた。
そうすると、自分の中でずっと澱のように絡まっていた不安感が、さらさら崩れ、流れ去っていった。
生きてることに意味なんてない。ただ、自分のやりたことをやるだけ。
リテが何気なく言ったその言葉、そのすべてに彼女の意志が込められている。
何者でもなく、理由もなく、意味も無くても、ただ自分の意志で歩き出そうとしているこの人に、俺は唐突に敬意を感じる。
なんだ。俺が彼女を助けるなんて思っていたけれど、助けられたのは俺だったんだ。
俺は、彼女の持つ気高い意志に、心の中で深く、深く感謝した。
神様なんかに、役割を、意味を、使命を定めてもらうことなんてないんだ。
俺が俺のために、自分で自分に、自分だけの使命を誓おう。
ただ一つの、俺がこの世界に来た理由として。
何者でもない俺が、どうしてこの世界やってきたのか、それは俺の意志で決める。
俺の意志で決めるからこそ、他の誰にも果たせない、大切な使命なんだ。
リテ。
俺は君に会うためにこの世界にやって来た。
俺は、君と一緒に、その隣を歩きたい。
……………………
あんパンとフルーツサンドを食べ終えて、ベンチに二人、一息をつく。
風の音と、鳥の声がかすかに聞こえる。
雲が太陽に差し掛かって、合間から漏れる光がきらきらとあふれている。
誰もいない広場、片隅のベンチの上は、時間の流れも止まってしまうのではないかと感じられるほどに、穏やかな空気だ。
「リテ。ありがとう。君に会えてよかった。俺、君のことが好きだよ。改めて、君と一緒に旅がしたい。君の隣を歩きたいんだ」
リテは、少し驚いたような顔で俺を見る。
「トーキ。それって、もしかして告白? だとしたら、嬉しい。そんなこと言われたことなかったから。うん。私もトーキのこと好きかな」
俺は彼女と見つめ合い、こみ上げてくる喜びで、彼女を抱きしめようと、ほんの少し近づいた。
「でも、この私の『好き』は、お父さんとお母さんがお互いに言ってる『好き』とは、ちょっと違うな。トーキは友達だし、この世界で二人だけの『人間』だし、シュルクタットへ向かう仲間だから、うーん、『同志』って感じ」
ん? んん? それってつまり、お友達として好きってこと? LoveじゃなくてLikeみたいな。そっかー……。
「だから、私もトーキと一緒に旅がしたい。一緒に歩いて行こう!」
リテは、真っ直ぐにこちらを向いて、右手を差し出した。
俺は、その手を握り返す。
彼女は力強く俺の手を握り、満面の笑みで俺に笑いかける。
「トーキ! これからもよろしく!」
「こちらこそよろしく、リテ」
俺は若干複雑な気持ちになりながらも、彼女につられて苦笑する。
彼女が、彼女の意志で旅に出るように、俺は俺の意志で共に歩む。
………………………
それから数日間は、学校パン屋などの、お世話になっている人々への挨拶と、旅の荷造りにいそしんだ。
パルキストスの家にも行ってみたが、召喚魔法で爆散した家の再建に忙しいと、相手にしてはくれなかった。
そしていよいよ旅立ちの日。
俺とリテは、それぞれに自分の身体よりも大きなリュックを魔法で軽々と背負い、ギムセックとミルステーナに見送られながら村を出た。
雲一つない薄水色の空の下、光が波打つ新緑の草原が広がる。
その中を、どこまでも続くように見える、乾いた土の一本道。
正面から吹く風は少し強くて、手織りの服の裾をパタパタとはためかせる。
草の匂いと、土の匂い、そしてどこかに咲いているのか、ほんのわずかな花の香り。
「最初は、お隣のタリル村ね。ドワーフ族の村なんだって。半日も歩けば着くはずだから」
ドネルコから貰った地図を確認して、リテが歩き出す。
俺は、彼女と歩調を合わせて隣を歩く。
目指すは魔法都市「シュルクタット」
この世界の旅が、いよいよ始まる。
第1章はここで終わりです。
次回から第2章が始まります。
(毎週月曜日、朝6:00更新です)




