店舗捜索
高橋が急いで検出した中華タブレットの店に向かった。
俺はコップ類をそのままで出ることに抵抗があって、片付けてから後を追った。
どのみち俺は走れない。
走って目的地に行くのは高橋に任せ、ゆっくり行ったほうがいいと思ったからでもある。
店は三階建のビルで、丸ごと本屋になっていた。
俺は本を探すふりをして、店舗内をゆっくり進んでいく。
スマフォを取り出して、高橋にメッセージを入れる。
既読はつくが、返信がない。
返信している暇がないとしたら、ターゲットを見つけた可能性もある。
俺は入り口付近で粘った。
『参考書』
と、高橋からメッセージが返ってきた。
細かく内容を入れてこない点からも、ターゲットを見つけたように思える。
俺は階段付近の店舗案内を見た。
三階が学習参考書を置いているフロアになっている。
参考書? 確かに七星は受験生だ。しかし、彼女は失踪していて学校には通っていない。
『エレベーター』
というメッセージが、高橋から来て、俺は慌てて本屋の出入り口へ戻る。
エレベータは店の中央付近だが、レジは出入り口付近だ。
基本的にはフロアごとに会計だが、エレベータから外に出られたら本を万引きされてしまう。おそらく店員のいるレジを出入り口付近に置いて、抑止にしようとしているのだろう。
俺はなんとなくエレベーターを意識しながら、待った。
そして、立っている位置が間違っていることに気づいた。
当たり前のことだが、七星は、俺の顔を知っているはずだ。
忘れている可能性もあるが、一度見た顔なら、ピンとする可能性が高い。
俺は慌てて通りに出て、店内から死角になりそうな位置を探した。
それに、変な格好で店内を覗き込んでいると、こっちが不審者に思われてしまう。
「!」
準備が整わないうちに、目の前を七星が通過していった。
短い髪を、何ヶ所かゴムでまとめているような髪型だった。
彼女は何か目的があるようで、目の前を通過していったが、気づいた様子はなかった。
俺はそのまま後を追った。
見失わないよう、スマフォに音声入力して、高橋にメッセージを飛ばす。
当然、追いかけている七星に聞かれてもダメだ。
小さい声で言う
『追ってる』
七星は、スーパーに入った。
『スーパーに入った』
俺は中まで追わずに、通りで待つ。
高橋が小走りでやってくる。
指でスーパーの方を示す。
「私は中を探るから、他に出口ないか、確かめて」
すれ違いざまにそう言われると、俺はすぐにスマフォで地図を確認する。
後ろ側は搬入口なっているだけで出入りはこちらの通りだけだ。
『大丈夫、出入り口は……』
そう打ち込もうとした時、ほぼ高橋といれ違ったぐらいのタイミングで七星が出てきた。
また音声入力に切り替え、七星を追いかけながらメッセージを送る。
『もう出てきた』
七星の歩き方がそれほど早くないのは幸いだった。
程なく、高橋が俺に追いついてきた。
「何してるのかしら」
七星の髪からテキトウな感じがするし、下はスウェット、上はTシャツといった服装から、近所を散歩しているような雰囲気だ。
「格好から考えると」
急に七星が路地へ入っていく。
「!」
「ねぇ、追わないと」
俺は通りの先から、こちらに向かってくる人物を認識した。
顎髭サングラスと、両腕タトゥーの男二人組。
それは昨日、俺を追っていた奴らだ。
奴らが七星を追っている人物だとしたら、俺を見つけて追いかけてくるだろう。そして俺の先に『七星』がいると分かったら、彼女が危ない。
「一人で行ってくれ」
高橋は無言で走り出した。
俺は囮になって、奴らを引きつけることにした。
奴らに気づかないふりをして、そのまま真っ直ぐ進み、すれ違う。
その先にある横断歩道で、反対側にわたろう。
奴らに気づかないフリをしつつ、顔がよく見えるように身振りを大きくした。
俺を認識らしく、奴らは近くの店の出入り口に隠れた。
そこを通り過ぎ、道を確かめるように首を大きく振りながら、奴らが追跡していくることを確認した。
横断歩道で待ち、反対側に渡る。
俺はスマフォを使って高橋にメッセージを送る。
『こっちは昨日の連中につけられてる』
さっきまでと違い、直ぐには既読がつかない。
俺はスマフォの画面を切り替えて地図に戻す。
早いところ俺が追跡を振り切らないと、このまま高橋一人に追跡を任せるのも限界があるだろう。
京都の道には不慣れだし、俺は身体が弱く体力で振り切れない。昨日やったタクシーアプリで振り切る方法しかない。
それには少し時間が必要だ。
俺は、立ち止まってタクシーアプリを使って配車を依頼した。
奴らは、かなり離れた場所で、俺の方を見ている。
大丈夫、落ち着け。
俺は自分に言い聞かせる。
タクシーアプリから通知が来て、三分ほどで到着すると表示された。
俺は車道側を意識しないように注意した。
「?」
たまたま奴らの方に視線を動かした時、顎髭サングラスがみえなくなっていた。
それとなく周囲を探すが、いない。
まあ、いい。俺はそう思いながら、タクシーアプリを開く。
来た。
俺は素早く車道へ移動し、廃車されたタクシーに乗り込む。
スマフォのカメラを通して、二度同じ手に引っかかった奴らの顔を見てやろうとした。
通りには両腕タトゥーの男が俺の乗ったタクシーを目で追っていたが、やはり顎髭サングラスがいない。
俺はスマフォのカメラをインカメラに切り替え、後ろを見た。
直ぐ後ろにタクシーがついてきていて、その車内に顎髭サングラスが座っていた。
やられた……
おそらくだが顎髭が車道で、一台タクシーを止め、乗車した状態で待機していたのだ。
俺が二人を認識していたことが、完全にバレていたようだ。
身体が弱い俺では、タクシーを降りたら追跡を振り切れない。
俺は必死に考えた。
そうだ。藤原に連絡しよう。
藤原とこの半グレ二人は、繋がっている。
だが確証はない。俺の行く先、行く先に二人が先回りしてくる事からの推測だった。
今、この状態で藤原に電話すればはっきりする。
電話がつながった。
「藤原先生? 住山です」
『藤原だ。どうした、見つかったか』
「ええ。彼女が持っている携帯を見つけて、それを捉えている基地局情報を追った結果ですね」
俺はタクシーの座席で開いたパソコンでとにかく遠い場所の住所を探した。
『どこだ』
「南京都です」
その後、俺は細かい住所を伝えた。
『よし分かった。ありがとう。情報は警察に伝える』
「待ってください。俺、今、タクシーに乗っているんですけど。後ろをつけられているんです」
『なんだって?』
俺は顔を横に向け、後ろを確認した。
『タクシーに言って近くの警察署で降りろ。何もなくても警察署で降りても大丈夫だから』
先生はそう告げるなり電話を切ってしまった。




