午後のフリー時間
俺は食事を終え、お弁当を片付けると、担任に行き先を告げて映画村をでた。
電車に乗って京都に戻り、そこからバスに乗るつもりだった。
電車を待つ間と、電車で京都に向かう間、俺は『にせ札』事件について調べた。
なぜなら『にせ札』の事件について、俺は知らなかったからだ。
世間のニュースに疎くても『にせ札』が出回ったなら、それなりにニュースで取り上げられるだろう。
だが、いくら調べても『にせ札』の事件は俺が生まれる前の事件しか出てこない。
にせ札を自販機に通して本物の『硬貨』をお釣りとして受け取る。
当時はそんな事件が数多くあったようだ。
だが所詮『過去の』にせ札事件だ。
今まさに起こっているとした場合、警察が、報道が、にせ札事件のことを隠しているのだろうか。
にせ札が印刷されてそこにあっても事件にならない。何かに使われたから『にせ札』だと認識され、事件になるのだ。警察や報道が、事件を隠しているとしても、にせ札を摑まされた人間からすれば、なんらかのリアクションをとるはずだ。
そんなリアクションすらネットに出ていない、と言うことは……
そこまで考えた時、俺は京都の駅に着いた。
バスに乗り換えて、七星がいるであろう地域へ向かう。
目的のバス停で降りると、俺は背中を叩かれた。
「!」
振り返ると濃い黒のサングラスと黒いマスクをした怪しげな女性が立っていた。
服装は地味なライン入りの赤いジャージの上下。上のジャージは、胸のしたまでジッパーを下ろしていて白いTシャツが見えている。
地元のヤンキーでもしないような格好だった。
「えっと……」
女性はサングラスをずらし、目を見せた。そしてすぐにサングラスを戻した。
俺はその目を見て誰だか分かった。
それは影武者ではない『高橋ひかり』本人だった。
通りで俺の体が反応しないわけだ。
「ど、どうして?」
「彼女、私の代わりに仕事してくれてるわ」
本当に声も姿も高橋と瓜二つだ。
いや、こっちがオリジナルなのだから、当たり前なのだが。
「それは答えになって……」
俺の言葉を遮るように言葉をかぶせてくる。
「住山の方が、彼女といたくないって聞いてる」
「そんなこと一言も」
「事情は大体把握してるわ。修学旅行中、女の子とイチャコラしてるんでしょ。結局、それは間接的に『一緒にいたくない』って言っているようなものよ」
俺は反論の言葉が頭に浮かんできたが、何から話していいか分からない。
「そんなことより、早くターゲットを見つけないと」
「それなら俺だけでも」
「けど、住山、走れないんでしょ」
ジャージ姿で胸を張り、左手を腰に、右手を胸に置いた。
「ほら、私は鍛えてるから」
「……」
いや、そう言う点においても高橋の方が適任だ。
忍者である彼女より、ここにいる女優の方が走れるとは思えない。
「この事件はターゲットの保護が一番優先されるわ。誰より先に見つけないと」
「仕掛けは済んでます。後は網にかかるかですが」
「あの子のアイディアを出した体温測定用の顔認証タブレットね。それって、仕掛けた機械の位置はわかるの?」
俺は頷いた。
道の端に寄り、ノートPCを開く。
「GPSが動いた端末はGPSの位置情報を、GPSなしのモデルは、つながるWiーFiやその機器から捉えられるWiーFiのSSID情報から位置を推定しています」
高橋が俺の横に回ってきた。
「これがその情報を地図に落としたものね。今いる場所は……」
「ここ」
俺はカーソルで地図をポイントした。
高橋は頷いた。
「もしターゲットが顔認証したら?」
「メールがくる。俺のPCでメールを開けば、地図上のどこかもわかる」
高橋は地図を拡大、縮小させ、大まかに中央付近を指差した。
「このあたりにいればどこで見つかっても対応できそうね」
「じゃあ、行きますか」
俺はノートPCをしまう。
「立って待ってるのもなんだから、時間も潰せるところにしましょう」
スマフォを取り出して、俺は地図を開く。
時間を潰すにはいい場所があった。
「ネカフェとかは?」
「くつろぐつもりなの? 直ぐ出れる、喫茶店とかないの?」
高橋の方にスマフォを見せる。
「ここでいいじゃない」
俺たちは十分ほど歩いて、目的の喫茶店に着いた。
出入り口に近い席に座り、外を眺める。
「今回の仕事はね」
高橋は外を見ながら、話を続けた。
「ターゲットの保護が最優先なのよ」
「その、彼女は何をしたんですか?」
「何をしたかって?」
俺はここまでで考えていたことを確認しようと思った。
「そうです。もし、彼女が犯罪を犯したのだとしたら『保護』と言う表現は何か違う気がします」
「事務所に与えられた情報からは、分からない。だけど、私は巨悪を捕まえるために『保護』するのだと思うわ」
俺は首を捻った。
高橋の顔を見つめる。
「聞いていい?」
「外から注意を逸らしちゃだめよ。通り過ぎるかもしれなんだから」
俺は顔を窓の外に向けて、話しを続ける。
「ターゲットは『にせ札』印刷に関わったらしい」
「あまり大きな声で言える内容じゃないわね」
「しかも、俺が作ったスクリプトを使って、です」
二人は通りを過ぎる人の顔を見ている。
バスが通ったりすると、車道の反対側まで見るのが辛くなる。
「だから警察に追われているんじゃないかと」
「待って。ターゲットを警察に突き出そうとは思わないでね。何がなんでも『保護』が優先よ」
「俺も一緒に警察に行かないと」
高橋は肘をテーブルにつき、手に顎を乗せた。
「その時、事務所は一切の関係を否定するわよ。見捨てる」
「ああ、それは一日警察署長の時にも言われ……」
その時スマフォが振動した。
画面を見るとメールが届いている。
例の体温を測る中華タブレットが彼女の顔検出したのだ。




