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やり過ぎた!  作者: 涙目
第六章 家族の絆編

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第十話 噓は必ずどこかに矛盾を生ずる

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

「それでは、これより、王族毒殺未遂事件に関する審理を開始いたします」


 ヴィクトリアの声が、大広間に響き渡った。


 集められた貴族たちが、一斉に口を閉ざす。


 普段であれば華やかな催しが開かれるこの場所も、今日ばかりは重苦しい空気に包まれていた。


 王位継承権第五位、リリアーナ・プレイング王女。


 その命を狙った事件について、実行犯たちに裁きを下すための貴族裁判である。


 壇上にはヴィクトリアが座り、その傍らには複数の記録官が控えている。


 レオナルドは広間全体を見渡せる位置に席を設け、集まった貴族たちの様子を確認していた。


 エレオノーラも出席しているが、ユリウスの姿はない。


 彼はリリアーナから頼まれた隣国の調査を進めている。


 そして、事件の被害者であるリリアーナも、医師の指示によって療養を続けていた。


「まず、今回の事件について、これまでに確認された事実を申し上げます」


 ヴィクトリアは手元の書類を開いた。


「王宮で開催された交流会において、リリアーナ王女に提供された果実菓子へ毒物が混入されました。王女はその菓子を口にした後に倒れ、数日間にわたり意識不明の状態に陥りました」


 広間は静まり返っていた。


「幸いにも、専門の医師による治療が間に合い、一命は取り留めました。しかし、現在も毒による影響が残っており、療養を必要としております」


 ヴィクトリアは一度言葉を切った。


「本日の審理では、まず毒物を混入した実行犯と、その犯行に協力した者たちの責任について判断いたします」


 そして、衛兵へ合図を送った。


「被告人を」


 大広間の扉が開き、衛兵に付き添われた一人の男が入ってきた。


 交流会のために臨時で雇われた給仕、マルクである。


 彼は俯いたまま証言台へ進み、震える手を握り締めた。


「名前を述べなさい」


「……マルクと申します」


「あなたは、交流会で提供された果実菓子へ毒物を混入したことを認めていますね?」


「……はい」


 小さな声だった。


 しかし、その返答を聞いた貴族たちの間から、ざわめきが広がった。


「静粛に」


 ヴィクトリアが告げると、広間は再び静かになった。


「では、確認いたします。あなたは、王女殿下がその菓子を口にすることを知っていましたか?」


「……はい」


「混入した粉末が毒物であることも、理解していましたね?」


「……はい」


「そして、その毒物によって王女殿下が命を落とす可能性があることも?」


 マルクは唇を噛み締めた。


「……わかって、いました……」


 ヴィクトリアは、その返答を記録官に書き留めさせた。


「では、なぜ犯行に及んだのですか?」


 マルクの肩が震えた。


「……妻と、娘を……」


 彼は俯いたまま、言葉を続けた。


「……殺すと、脅されて……」


 広間に、再びざわめきが広がった。


 ヴィクトリアは落ち着いた声で告げた。


「あなたの妻と娘が、何者かによって監視され、危害を加えると脅されていたことは、すでに確認されています」


「……はい……」


「また、事件から四日目に、ご家族が保護されたことも記録されていますね」


「……はい」


「ご家族は現在、安全な場所で保護されています。その点については、安心してください」


 マルクの目から涙がこぼれた。


「……ありがとう、ございます……」


 ヴィクトリアは、しばらく彼を見つめていた。


「ですが、あなたが脅迫されていたことと、王女殿下へ毒を盛ったことは、分けて考えなければなりません」


「……はい」


「あなたの事情は、裁きを判断する際に考慮されます。しかし、それによって犯行の事実が消えるわけではありません」


「……承知、しております……」


 マルクは深く頭を下げた。


「……どのような罰でも、受けます……」


 ヴィクトリアは頷き、次の書類を取り上げた。


「では、犯行に使用された毒物について確認いたします」


     ◇


 記録官によって、事件当日に発見された証拠の一覧が読み上げられた。


 交流会で提供された果実菓子。


 調理場と配膳室に残されていた飲食物。


 当日の作業記録。


 そして、配膳室の備品棚の奥から発見された小さな容器。


 いずれも、事件直後に王宮が封鎖されたことで、処分されずに残されていたものである。


「マルク。この容器に見覚えはありますか?」


 ヴィクトリアが尋ねると、マルクは顔を上げた。


 証拠品そのものは厳重に保管されており、彼の前には容器の形状を記録した図面が示された。


「……はい」


「あなたが毒物を受け取った際に使われていた容器ですか?」


「……そうです」


「そして、毒物を菓子へ混入した後、この容器を配膳室の備品棚の奥へ隠した」


「……はい」


 ヴィクトリアは頷いた。


「この容器は、事件発生から四日目に発見されました。発見時の位置は記録され、複数の兵士によって確認されています」


 彼女は、次の書類を開いた。


「容器に残されていた粉末については、薬師と医師オルフェンによる調査が行われています。リリアーナ王女に使用されたと考えられる毒物と性質が近いことが確認されていますが、完全に同一のものと断定されたわけではありません」


 貴族たちが静かに耳を傾けていた。


「ただし、あなた自身がこの容器を使用したと供述していることに加え、当日の行動記録、ほかの給仕たちの証言とも一致する部分が確認されています」


 ヴィクトリアはマルクを見つめた。


「この点について、訂正したいことはありますか?」


「……ありません」


「わかりました」


 記録官が筆を走らせる。


 ヴィクトリアは、次の質問へ移った。


「では、毒物を渡した人物について確認いたします」


 マルクは小さく頷いた。


「あなたは、交流会の数日前、見知らぬ男から声をかけられたと供述していますね?」


「……はい」


「その男から、指定された菓子へ粉末を混入するよう命じられた」


「……はい」


「その際、ご家族に危害を加えると脅されたのですね?」


「……そうです」


「その男の名前は?」


「……知りません」


「所属している家や、雇い主について何か聞いていませんか?」


「……何も……」


 ヴィクトリアは頷いた。


「わかりました。では、あなたが覚えている男の特徴について、改めて確認いたします」


 マルクは、取り調べの際に話した内容を繰り返した。


 ヴィクトリアは、その証言を事前の記録と照らし合わせていく。


 新たに判明した事実があれば記録し、曖昧な部分については無理に答えを求めない。


 その様子を、レオナルドは静かに見つめていた。


     ◇


 マルクへの質問が一段落すると、ヴィクトリアは次の被告人たちを呼び出した。


 マルクの妻と娘を監視していた男を含む、事件への関与が確認されている者たちである。


 彼らもまた、すでに取り調べを受けていた。


 王宮側は、事件から裁判までの間、関係者の行動や金銭の流れについて調査を進めている。


 そのため、彼らの供述が事実と一致するかどうかを確認するための資料も、すでに用意されていた。


「あなたは、マルクの家族を監視していたことを認めていますね?」


「……はい」


「誰の命令でしたか?」


「……仕事を紹介してきた男です」


「その人物については、すでに取り調べが進んでいます。あなたが仕事を引き受けた時期について、もう一度確認いたします」


 男が答える。


 ヴィクトリアは記録官にその内容を書き留めさせ、事前の供述と照らし合わせた。


「最初の取り調べでは、事件の五日前と説明されていますね」


「……はい」


「しかし、別の関係者は六日前だったと証言しています。この違いについて、何か心当たりはありますか?」


「……正確な日付までは、覚えておりません」


「わかりました。では、どのような出来事の後だったか、覚えていますか?」


 男は考え込んだ。


「……王都で、大きな市が開かれた翌日だったと思います」


 ヴィクトリアは頷いた。


「ありがとうございます。その点は、改めて記録と照合いたします」


 レオナルドは、そのやり取りを聞きながら広間へ視線を向けた。


 証言台に立つ男だけでなく、出席している貴族たちの様子も確認する。


 何かを聞いて驚いた者。


 隣の人物と小声で話した者。


 退屈そうにしている者。


 表情を変えず、ただ審理を見つめている者。


 反応は様々だった。


 しかし、驚いたから怪しいというものではない。


 逆に、平然としているから無関係とも限らない。


 レオナルドは、気になった反応があれば人物の名前と、そのときの質問を記録していった。


 それが事件に関係するかどうかは、後で証拠と照らし合わせればよい。


 今は、見落とさないことが大切だった。


     ◇


 審理が進むにつれ、実行犯たちの行動が整理されていった。


 毒物を菓子へ混入したマルク。


 その家族を監視していた男。


 脅迫に関わった者たち。


 そして、彼らに仕事を持ちかけた仲介人。


 それぞれが何を知り、何をしたのか。


 ヴィクトリアは、一人ずつ確認していった。


「では、次の質問です」


 彼女は仲介人の供述記録を取り上げた。


「あなたは、仕事の依頼主について、名前を知らないと説明していますね?」


「……はい」


「直接会ったことは?」


「……ありません」


「では、どのように指示を受けていたのですか?」


「……手紙です」


「その手紙は、どこで受け取っていましたか?」


 仲介人は、しばらく黙っていた。


「……指定された場所です」


「具体的には?」


「……王都の中にある、いくつかの場所で……」


「場所が毎回異なっていたのですね?」


「……はい」


 ヴィクトリアは頷いた。


「その点については、事前の調査でも確認しています」


 そして、一枚の書類を取り出した。


「では、こちらの記録について質問いたします」


 仲介人が顔を上げた。


「あなたは、事件の前月から複数回にわたり、ある商会を訪れていますね?」


「……商会、ですか?」


「はい。出入りの記録が残されています」


「……仕事の相談で、何度か……」


「どのような仕事でしょう?」


「……荷物の運搬などです」


「なるほど」


 ヴィクトリアは記録官へ目を向けた。


「今の回答も記録してください」


 それから、仲介人へ向き直った。


「その商会と、今回の事件に関係はありますか?」


「……ありません」


「わかりました」


 ヴィクトリアは、それ以上追及しなかった。


 その商会へ出入りしていたという事実だけでは、犯行への関与を示すことはできない。


 仕事の相談をしていたという説明も、十分にあり得る話だった。


 だが、確認すべき事項が一つ増えたことは確かだった。


     ◇


 レオナルドは、先ほどから一人の貴族の様子を気にしていた。


 仲介人が商会について質問されたとき、その人物が隣の貴族へ視線を向けたのだ。


 ほんの一瞬だった。


 それだけで何かを判断するつもりはない。


 しかし、レオナルドはその人物の名前を記録した。


 そして、エレオノーラへ視線を向ける。


 彼女もまた、何かに気づいたように、手元の記録を確認していた。


 エレオノーラは裁判が始まるまでの間、複数のお茶会を開いていた。


 そこで集めたのは、貴族家同士の交流や、最近の行動に関する情報である。


 もちろん、噂だけで何かを決めつけることはしない。


 直接見聞きしたことなのか、誰かから聞いた話なのか。


 その違いも含めて記録している。


 そして、先ほど名前が挙がった商会について、少し気になる話を聞いていた。


 最近、貴族派に属する家との取引が増えているというものだった。


 ただし、それ自体は何も不自然ではない。


 商会が貴族と取引することなど、珍しくもないからだ。


 エレオノーラは記録に目を落とした。


 商会の名前。


 取引していると聞いた貴族家。


 そして、先ほどレオナルドが気にしていた人物。


 その中に、同じ家の名前があった。


 エレオノーラは小さく息を吐いた。


 まだ、何もわからない。


 けれど、確認しておく価値はありそうだった。


     ◇


 昼の休憩に入り、ヴィクトリアは控室へ戻った。


 そこへ、レオナルドとエレオノーラも合流する。


「お疲れ様、ヴィクトリア」


「ありがとうございます、お兄様」


 ヴィクトリアは椅子へ腰を下ろし、手元の書類を整理した。


「ここまでの証言について、大きな食い違いはありませんでした。ただ、いくつか確認すべき点が見つかっています」


「うん。僕も少し気になったことがあるんだ」


 レオナルドは、自分の記録を差し出した。


「仲介人が商会について質問されたとき、何人かの貴族が反応していたんだよ」


「……こちらの方々ですか」


「うん。もちろん、それだけで事件に関係しているとは思わないけれどね」


 ヴィクトリアは頷いた。


「ありがとうございます。事前の調査記録と照らし合わせてみます」


 すると、エレオノーラが口を開いた。


「その商会でしたら、私も少しお話を伺っておりますわ」


「そうなの?」


「ええ。最近、貴族派に属するいくつかの家と取引が増えているそうですの」


 ヴィクトリアは顔を上げた。


「それは、どなたからのお話でしょうか?」


「取引先の一つと交流のある夫人から伺いました。ただし、ご本人が帳簿などを確認したわけではございません」


「なるほど。では、現時点では参考情報ですね」


「ええ」


 エレオノーラは頷いた。


「ですが、その中に、レオナルドお兄様が気にされた方の家も含まれておりますわ」


 レオナルドが目を瞬かせた。


「……そうなんだ」


「はい」


 ヴィクトリアは、二人の記録を並べた。


 商会への出入りが確認された仲介人。


 商会と取引があるとされる貴族家。


 そして、仲介人への質問に反応した貴族。


 三つの情報に、同じ名前が現れていた。


「……なるほど」


 ヴィクトリアは静かに呟いた。


「ただし、商会と取引があるというだけでは、事件との関係は認められません」


「うん。わかっているよ」


 レオナルドは微笑んだ。


「だから、確認してみよう」


「ええ」


 ヴィクトリアは、事前の調査記録を取り出した。


「実は、その商会については、すでに調査が行われています」


「そうなの?」


「はい。仲介人の金銭の流れを調べる過程で、名前が挙がっていましたので」


 ヴィクトリアは書類を広げた。


「ただ、これまでは事件との直接的な関係が確認できていませんでした」


 エレオノーラが頷いた。


「では、今回のお話と照らし合わせれば、何かわかるかもしれませんわね」


「その可能性はあります」


 ヴィクトリアは、いくつかの記録を確認した。


「……こちらの取引について、少し気になる点がありますね」


 レオナルドが身を乗り出した。


「どんなこと?」


「事件の少し前、この商会を通じて、まとまった金額が支払われています」


「何の代金かな?」


「帳簿上は、物品の購入代金となっています」


「なるほど」


「ですが、その物品が実際に納品されたことを示す記録が、まだ確認できていません」


 レオナルドは、しばらく考え込んだ。


「……それなら、納品先に確認してみようか」


「ええ。すでに調査官が確認を進めていますので、結果を待ちましょう」


 エレオノーラは、二人のやり取りを聞きながら微笑んだ。


「私の方でも、その商会について何かご存じの方がいらっしゃらないか、確認してみますわ」


「ありがとうございます、お姉様」


 ヴィクトリアは書類を整理した。


「午後の審理では、商会との取引についても確認いたします」


 レオナルドは頷いた。


「うん。それがいいと思う」


     ◇


 午後の審理が始まった。


 ヴィクトリアは、実行犯たちへの質問を続けた後、事件に関係する可能性のある人物からの証言へ移った。


「続いて、事件前後の状況について、何名かの方に確認いたします」


 彼女は、広間の一角へ視線を向けた。


「まず、こちらへお進みください」


 名前を呼ばれたのは、貴族派に属する一人の伯爵だった。


 伯爵はゆっくりと立ち上がり、証言台へ向かった。


 落ち着いた足取りだった。


「お呼びでしょうか、ヴィクトリア殿下」


「はい。いくつか確認したいことがございます」


「私に答えられることであれば、何なりと」


 ヴィクトリアは頷いた。


「ありがとうございます。では、まず、こちらの商会についてお尋ねいたします」


 伯爵は、示された書類へ目を向けた。


「……その商会でしたら、存じております」


「お取引があるのですね?」


「ええ。領地で必要となる物資を、時折仕入れております」


「なるほど」


 ヴィクトリアは記録官へ目を向けた。


「では、事件の少し前に行われた、こちらの取引について確認させてください」


 伯爵は書類を受け取った。


「……これは?」


「商会に残されていた取引記録です。あなたの家から、まとまった金額が支払われています」


「……ええ。確かに、取引はございました」


「何を購入されたのでしょうか?」


「領地で使用する物資です」


「具体的には?」


 伯爵は、少し考え込んだ。


「……細かな品目までは覚えておりません。そうしたことは、家令に任せておりますので」


「そうですか」


 ヴィクトリアは頷いた。


「では、後ほど家令の方へ確認いたします」


「……ええ。構いません」


「ありがとうございます」


 ヴィクトリアは、次の書類を開いた。


「なお、この取引については、納品を確認できる記録がまだ見つかっておりません」


 伯爵は、わずかに眉を寄せた。


「……それが、何か?」


「現時点では、何も」


 ヴィクトリアは穏やかに答えた。


「ただ、支払いが行われている以上、何らかの物品が納められているはずですので、その確認をしたいのです」


「……なるほど」


「納品先について、ご存じでしょうか?」


「……それも、家令に確認していただければ」


「わかりました」


 ヴィクトリアは頷き、記録官へ目を向けた。


「今の回答も、すべて記録してください」


「承知いたしました」


 伯爵は一礼し、証言台を離れた。


 その様子を、レオナルドは静かに見つめていた。


 伯爵の説明に、明らかな矛盾があったわけではない。


 領地の物資購入を家令に任せることも、貴族としては珍しくない。


 しかし、一つ気になることがあった。


 伯爵が証言台へ向かったとき、広間の後方に座っていた別の貴族が、彼の姿を目で追っていたのだ。


 そして、商会の名前が出たときにも、同じ人物が反応していた。


 レオナルドは、その人物の名前を記録した。


 もちろん、それだけで何かがわかるわけではない。


 ただ、確認しておく価値はあるだろう。


     ◇


 その日の審理が終わる頃には、実行犯たちの行動と、それぞれの責任について、多くの事実が整理されていた。


 マルクが毒物を混入したこと。


 その犯行が、家族への脅迫によって強要されたこと。


 監視や脅迫に関わった者たちが存在すること。


 そして、彼らに指示を出した人物が、さらに背後にいること。


 ヴィクトリアは、最後の書類を閉じた。


「本日の審理は、ここまでといたします」


 貴族たちが静かに顔を上げる。


「実行犯たちの責任については、提出された証拠と本日の証言をもとに、引き続き審理いたします」


 彼女は広間を見渡した。


「また、事件に関する調査は継続しております。必要に応じて、追加の証言を求める場合がございますので、その際はご協力をお願いいたします」


 そして、一礼した。


「以上をもちまして、本日の審理を終了いたします」


 広間に、安堵とも緊張ともつかない空気が流れた。


 貴族たちが退席していく中、レオナルドは最後までその様子を観察していた。


 ヴィクトリアは記録官から書類を受け取り、内容を確認している。


 エレオノーラは、退席する貴婦人たちと短く言葉を交わしていた。


 三人が集めた情報は、まだ事件の全容を示すものではない。


 しかし、確実に一つの方向へと繋がり始めていた。


 実行犯を裁くために始まった貴族裁判。


 その審理によって、これまで見えていなかった関係が、少しずつ明らかになりつつあった。


 そして、今回の毒殺未遂事件を指示した人物もまた、すでに集められている証拠が自分へ向けられ始めていることに、まだ気づいていなかった。



お読み頂き、ありがとうございます。

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