第八話 人の本性は困難に直面したときにこそ、色濃く現れる
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
リリアーナが倒れてから、五日目の朝を迎えた。
王宮の寝室では、エレオノーラが妹の傍らに座っていた。
トランプ地方から駆けつけた医師オルフェンによって投薬が行われてから、二日近くが経過している。
危険な状態からは脱したものの、リリアーナの意識は依然として戻っていなかった。
医師たちは回復の兆候が見られると説明していたが、いつ目を覚ますのかについては、誰にもわからないままだった。
「……おはようございます、リリアーナ」
エレオノーラは妹の手を握りながら、静かに語りかけた。
「今日はよいお天気ですわ。あなたでしたら、こんな日は庭園でお茶でも飲みたいと仰るのでしょうね」
返事はなかった。
それでも、エレオノーラは微笑みながら言葉を続けた。
「そういえば、先日お話しされていた菓子店のこと、覚えていらっしゃいますか? 王都の東側にあるお店ですわ。あなたが随分とお気に召したようでしたから、今度は私もご一緒させていただこうかと思っておりますの」
普段なら、妹はきっと嬉しそうに店の場所や菓子の種類について説明してくれるだろう。
それから、どうせならほかのお店も回りましょうと誘ってくるに違いない。
そんな姿を想像すると、自然と頬が緩んだ。
「……ですから、早く目を覚ましてくださいませ」
エレオノーラは妹の手をそっと撫でた。
そのときだった。
握っていた手に、かすかな感触が伝わった。
「……え?」
エレオノーラは手元へ視線を落とした。
今、妹の指が動いたような気がした。
「……リリアーナ?」
呼びかけながら、もう一度手を握る。
すると、今度は確かに、妹の指がわずかに動いた。
「……っ!」
エレオノーラは思わず立ち上がった。
「先生! 先生、こちらへ!」
部屋の隅で記録を確認していた医師が、すぐに駆け寄ってきた。
「いかがなさいましたか!?」
「リリアーナの指が動きましたの! 今、確かに!」
医師はすぐに寝台へ近づき、リリアーナの様子を確認した。
脈を取り、呼吸を確かめ、瞳の反応を調べる。
エレオノーラは、その様子を息を詰めて見守っていた。
やがて、リリアーナの眉がわずかに動いた。
「……ん……」
小さな声が聞こえた。
「リリアーナ!?」
妹の瞼が、ゆっくりと開いていく。
何度か瞬きを繰り返した後、リリアーナはぼんやりと天井を見つめた。
「……あれ……?」
掠れた声だった。
それでも、間違いなく妹の声だった。
「リリアーナ……!」
エレオノーラの目から、涙が溢れた。
「よかった……! 本当に、よかった……!」
思わず抱き締めようとしたところで、医師から声がかかった。
「殿下、申し訳ございません。まずは診察をさせていただけますか」
「……あっ、はい!」
エレオノーラは慌てて身を引いた。
医師はリリアーナへいくつか質問を行い、意識が戻っていることを確認した。
しかし、リリアーナはまだ身体を動かすことも難しく、短い返事をするだけでも疲れてしまうようだった。
「リリアーナ殿下、今は無理をなさらず、ゆっくりお休みください」
「……はい……」
リリアーナは小さく頷いた。
エレオノーラも安堵し、妹の手を握り直した。
「本当に、心配いたしましたのよ」
「……お姉様……?」
「ええ、そうですわ。エレオノーラですわよ」
リリアーナはぼんやりと姉の顔を見つめていたが、やがて何かを思い出そうとするように眉を寄せた。
「……私……」
「どうなさいました?」
「……お菓子……」
その言葉を口にした瞬間、リリアーナの表情が変わった。
交流会。
果実の菓子。
口に広がった苦味。
そして、突然襲ってきた息苦しさ。
「……っ!」
リリアーナの呼吸が速くなった。
「リリアーナ!?」
「……いや……」
掠れた声が漏れた。
「……いや……っ!」
エレオノーラは慌てて妹の手を握った。
「大丈夫ですわ! もう大丈夫ですから!」
医師もすぐに声をかけた。
「殿下、落ち着いてください。今は安全な場所にいらっしゃいます」
けれど、リリアーナは怯えたように周囲を見回していた。
何が起きたのか、ようやく理解したのだ。
自分は毒を盛られた。
誰かが、自分を殺そうとした。
「……こわい……」
その言葉を聞いた瞬間、エレオノーラは胸が締めつけられた。
妹が、こんなにも怯えている。
これまで何度も困難に直面し、そのたびに何とか乗り越えてきた妹が、今はただ、恐怖に震えているのだ。
「……もう、嫌……」
リリアーナは涙を流しながら、かすれた声で呟いた。
「……こんなの……嫌……」
エレオノーラは何も言えず、ただ妹の手を握り続けた。
◇
リリアーナが目を覚ましたという知らせは、すぐに国王と兄姉たちへ届けられた。
しかし、医師から精神的にも大きな負担がかかっていると説明されたため、面会はしばらく控えることになった。
エレオノーラも、医師の勧めに従って一度部屋を離れた。
代わりに寝室へ入ったのは、サリナだった。
「……リリアーナ様」
サリナは寝台の傍らに座り、静かに声をかけた。
リリアーナは目を開けていたものの、天井を見つめたまま動こうとしなかった。
「……サリナ……」
「はい。おそばにおります」
その声を聞いた途端、リリアーナの目に涙が浮かんだ。
「……私……」
「はい」
「……殺されかけたのね……」
サリナは、すぐには答えなかった。
けれど、事実を隠すつもりもなかった。
「……はい」
リリアーナは目を閉じた。
「……どうして……」
声が震えていた。
「……私、何かした……?」
サリナは静かに首を振った。
「リリアーナ様が悪いことをなさったとは、思っておりません」
「……だったら……どうして……」
リリアーナは涙を流した。
「……私、ただ……のんびり暮らしたいだけなのに……」
それは、ずっと変わらない願いだった。
前世では、仕事に追われる毎日を送っていた。
だからこそ、今度こそは静かに暮らしたかった。
好きな本を読み、美味しいお菓子を食べ、気が向いたら散歩をする。
そんな毎日が欲しかっただけなのだ。
「……王位なんて、いらない……」
リリアーナは掠れた声で続けた。
「……継承権も……仕事も……全部、いらない……」
サリナは黙って聞いていた。
「……もう、何もしたくない……」
リリアーナは、ゆっくりと首を振った。
「……怖いの……」
その言葉を口にした途端、涙が止まらなくなった。
「……また、殺されるかもしれない……」
誰が自分を狙ったのかもわからない。
どうして狙われたのかもわからない。
交流会で、ただ菓子を食べただけだった。
それなのに、気がつけば何日も意識を失い、命を落としかけていた。
もし、もう一度同じことが起きたら。
もし、今度は助からなかったら。
そう考えるだけで、身体が震えた。
「……嫌……」
リリアーナは、布団を握り締めた。
「……もう、嫌……!」
サリナはしばらく黙っていたが、やがて静かに口を開いた。
「……怖かったですね」
リリアーナは涙を流しながら頷いた。
「……うん……」
「もう、何もしたくないと思われるのも、当然だと思います」
「……うん……」
「でしたら、今は何もなさらなくてよろしいのですよ」
リリアーナは、驚いたように目を開いた。
「……え?」
「お身体も弱っておりますし、先生からも安静にするように言われております。ですから、今はゆっくりお休みください」
「……でも……」
「何かございますか?」
リリアーナは、しばらく黙り込んだ。
何もしたくない。
それは本心だった。
けれど、何もしなければどうなるのだろう。
自分を殺そうとした人間は、まだどこかにいる。
実行犯が捕まったとしても、背後にいる人物が誰なのかはわからない。
そして、その人物が再び自分を狙わないという保証もなかった。
「……サリナ……」
「はい」
「……私、逃げたい……」
サリナは静かに頷いた。
「かしこまりました。では、そのようにいたしましょう」
「……え?」
「陛下に王位継承権の返上を願い出て、王宮を離れる準備をいたします」
「……いいの?」
「もちろんでございます。リリアーナ様の人生でございますから」
あまりにもあっさりと認められ、リリアーナは戸惑った。
てっきり、逃げてはいけないと説得されるものだと思っていたのだ。
「……怒らないの?」
「なぜ怒る必要があるのでしょうか。リリアーナ様は命を狙われたのです。怖いと思われるのは当然でございます」
「……サリナ……」
「ですが、一つだけ、お伝えしておかなければならないことがございます」
「……なに?」
サリナは、静かに主人を見つめた。
「リリアーナ様が王位継承権を返上された場合、今度はほかの王子殿下や王女殿下が狙われる可能性がございます」
「…………え?」
「今回、なぜリリアーナ様が狙われたのかは、まだ判明しておりません。ですが、王位継承権が理由であるならば、リリアーナ様が争いから退かれたところで、争いそのものが終わるとは限りません」
リリアーナは、言葉を失った。
「……お兄様や……お姉様が……?」
「可能性のお話でございます。ですが、否定もできません」
「…………」
「もちろん、だからといって、リリアーナ様に立ち向かえと申し上げるつもりはございません。ご自身の命を大切になさることは、決して間違いではありませんから」
サリナは、いつもと変わらない穏やかな声で続けた。
「ですので、どうかご自身でお決めくださいませ。私は、どちらを選ばれてもお供いたします」
リリアーナは俯いた。
怖い。
逃げたい。
もう二度と、あんな苦しい思いはしたくない。
その気持ちは変わらなかった。
けれど、もし自分が逃げた後に、エレオノーラが同じ目に遭ったら。
レオナルドが、ヴィクトリアが、ユリウスが。
あの苦しさを味わうことになったら。
「……そんなの……」
リリアーナは、震える手で布団を握り締めた。
「……嫌よ……」
サリナは何も言わず、主人の言葉を待った。
「……私が逃げたせいで……お兄様やお姉様が……」
リリアーナの目から、再び涙がこぼれた。
「……そんなの、もっと嫌……!」
怖さが消えたわけではない。
勇気が湧いてきたわけでもない。
それでも、何もしないまま大切な人が傷つくかもしれないという未来だけは、どうしても受け入れられなかった。
「……サリナ」
「はい」
「……やっぱり、逃げない」
「……よろしいのですか?」
「……怖いわよ。今だって、怖くて仕方ない……」
リリアーナは涙を拭い、サリナを見つめた。
「……でも、私だけ逃げて、お兄様やお姉様が殺されるかもしれないなんて……そんなの、絶対に嫌!」
そして、震える声で告げた。
「……やってやるわよ」
サリナは静かに頭を下げた。
「かしこまりました」
「……私を殺そうとした人間を、絶対に見つけてやる……!」
「はい。お供いたします」
リリアーナは、しばらくサリナを見つめていた。
そして、ゆっくりと息を吐いた。
「……でも……」
「はい?」
「……身体が……動かない……」
サリナは、思わず微笑んだ。
「当然でございます。まだ目を覚まされたばかりなのですから」
「……困ったわ……」
「何も困ることはございませんよ」
「……え?」
「リリアーナ様には、頼れる方々が大勢いらっしゃいますでしょう?」
リリアーナは目を瞬かせた。
そして、少しだけ考え込んだ後、小さく笑った。
「……そうね……」
サリナも微笑んだ。
「ですから、今はご自身で動こうとなさらず、皆様にお任せすればよろしいのです」
「……それなら……得意よ……」
「存じております」
二人は、顔を見合わせて小さく笑った。
◇
それからしばらくして、リリアーナはエレオノーラを呼んでもらった。
「リリアーナ、どうなさいました? お身体は大丈夫ですの?」
エレオノーラが心配そうに尋ねると、リリアーナは小さく頷いた。
「……お姉様……」
「はい?」
「……お兄様方にも……お会いしたいです……」
「……今から、ですか?」
「……はい……」
エレオノーラは少し困ったように眉を寄せた。
「リリアーナ、まだ目を覚ましたばかりですのよ。先生からも、安静にするようにと言われておりますでしょう?」
「……わかっています……」
「でしたら……」
「……でも……お願い……したいことが……あるんです……」
その言葉に、エレオノーラは妹の顔を見つめた。
先ほどまで怯えていた妹が、今は何かを決意したような表情を浮かべている。
もちろん、身体が弱っていることに変わりはない。
けれど、その目には確かな意思が感じられた。
「……わかりました」
エレオノーラは静かに頷いた。
「ただし、先生に確認してからですわよ」
「……はい……」
医師による診察の結果、短時間であれば会話は可能だが、無理をさせてはいけないとのことだった。
それを聞いたエレオノーラは、すぐに兄姉たちへ連絡を送った。
◇
しばらくして、レオナルド、ヴィクトリア、ユリウスが寝室へ集まった。
「リリアーナ、具合はどうかな?」
レオナルドが声をかけると、リリアーナは小さく微笑んだ。
「……あまり……よくは……」
「うん。そうだろうね」
レオナルドは苦笑した。
「だから、無理に話さなくてもいいんだよ?」
「……少しだけ……確認したいことが……」
ヴィクトリアは椅子を引き寄せ、妹の傍らに座った。
「何でしょうか?」
「……犯人の……ことです……」
三人の表情が引き締まった。
ユリウスが口を開く。
「実行犯については、昨日のうちに身柄を確保した。現在、関係者を取り調べている」
「……誰かに……命じられた……?」
「ああ。家族を人質に取られていた者もいる。背後に指示を出した人物がいることは、ほぼ間違いない」
リリアーナは、ゆっくりと頷いた。
「……貴族……ですか……?」
「その可能性はある。だが、まだ確証はない」
ユリウスの答えを聞き、リリアーナはしばらく考え込んだ。
やがて、掠れた声で呟いた。
「……なら……貴族裁判を……」
「……え?」
ヴィクトリアが思わず聞き返した。
「貴族裁判、ですか?」
「……はい……」
リリアーナは小さく頷いた。
「……実行犯を……裁くために……」
レオナルドは、少し考え込んだ。
「でも、リリアーナ。実行犯が貴族とは限らないよ?」
「……わかって……います……」
リリアーナは、ゆっくりと言葉を続けた。
「……だから……貴族裁判を……使うんです……」
ヴィクトリアは眉を寄せた。
「どういうことでしょうか?」
リリアーナは一度目を閉じ、呼吸を整えた。
「……実行犯を……裁くための……手続き……」
そこで言葉を切り、再び息を整える。
「……貴族が……関わっているなら……反応する……はずです……」
ユリウスが腕を組んだ。
「……なるほど。裁判の動きを見て、黒幕の反応を探るということか」
リリアーナは小さく頷いた。
「……はい……」
ヴィクトリアは、しばらく考え込んだ。
貴族裁判は、本来、貴族が関わる事件について、身分や権利、領地に関する問題などを扱うための制度である。
今回の事件では、実行犯の多くが平民である可能性が高い。
そのため、通常であれば一般の裁判手続きで処理されることになる。
しかし、王族への毒殺未遂という重大事件であり、背後に貴族が関わっている可能性もある。
その点を理由として、貴族裁判の場で事件を扱うことは、制度上の検討が必要ではあるものの、不可能とは言い切れなかった。
「……確かに、関係者の反応を見ることはできるかもしれませんね」
ヴィクトリアが呟いた。
「ですが、裁判を開くとなれば、相応の準備が必要です。証拠の整理も、関係者への通知も……」
「……お姉様……」
「はい?」
「……お願い……できますか……?」
ヴィクトリアは、思わず言葉を止めた。
リリアーナは、弱々しく微笑んでいた。
「……私……今は……何も……できませんから……」
その言葉を聞いた瞬間、ヴィクトリアの表情が和らいだ。
「……もちろんです」
ヴィクトリアは妹の手を握った。
「あなたは何も心配しなくてよろしいのです。必要な準備は、私が進めます」
「……ありがとう……ございます……」
リリアーナは小さく頷いた。
そして、レオナルドへ視線を向けた。
「……お兄様……」
「うん?」
「……貴族の方々の……動きを……」
「わかっているよ」
レオナルドは優しく微笑んだ。
「裁判の話が広まれば、何か動きがあるかもしれない。僕の方で、各家の様子を確認しておくね」
「……お願いします……」
最後に、リリアーナはユリウスへ視線を向けた。
「……ユリウスお兄様……」
「何だ?」
「……隣国の……動きを……調べて……ください……」
「隣国だと?」
「……はい……今回の事件で……何か……動きがあるかも……しれません……」
「……なるほど。国外の動向を警戒しろということか」
リリアーナは小さく頷いた。
「……お願いいたします……」
「承知した。隣国の動向はこちらで探る。お前は安心して休め」
リリアーナは安堵したように目を閉じた。
「……ありがとうございます……」
エレオノーラは、その様子を見つめながら静かに息を吐いた。
目を覚ましたばかりだというのに、妹はすでに兄姉たちへ仕事を振り分けている。
しかも、自分が動けないことを理解した上で、それぞれに適した役割を任せていた。
けれど、今はそれ以上話を続けさせるわけにはいかなかった。
「……リリアーナ、もう十分ですわ」
エレオノーラが声をかけると、リリアーナは小さく頷いた。
「……はい……」
「これ以上お話しされると、先生に叱られてしまいますわよ」
「……それは……困ります……」
その返事に、兄姉たちは思わず微笑んだ。
レオナルドが立ち上がり、妹の頭をそっと撫でた。
「じゃあ、あとは僕たちに任せて、ゆっくり休んでね」
「……はい……」
ヴィクトリアも頷いた。
「裁判については、私が責任を持って準備いたします」
「……お願いします……」
ユリウスは短く告げた。
「余計なことは考えるな。今のお前の仕事は、身体を治すことだ」
リリアーナは、かすかに笑った。
「……それなら……得意……です……」
その言葉に、四人は小さく笑った。
エレオノーラは妹の手を握りながら、優しく微笑んだ。
「では、しっかり休んでくださいませ。目を覚ましたら、またお話しいたしましょう」
「……はい……」
リリアーナはゆっくりと目を閉じた。
しばらくすると、穏やかな寝息が聞こえ始めた。
兄姉たちは、その姿を確認してから静かに部屋を出ていった。
◇
廊下へ出たところで、ヴィクトリアが口を開いた。
「……まったく、あの子は」
レオナルドが微笑む。
「目を覚ましたばかりなのに、もう仕事の話をしていたね」
「本当に困ったものです。あれほど仕事を嫌がっているくせに、どうしてこういうときだけ……」
ヴィクトリアは呆れたように息を吐いた。
しかし、その表情には安堵が浮かんでいた。
ユリウスは腕を組み、静かに口を開いた。
「だが、考え自体は悪くない。黒幕が貴族であれば、裁判の動きを無視できんだろう」
「ええ。ただし、制度上の問題もございますから、そこは慎重に進める必要があります」
ヴィクトリアが答えると、レオナルドも頷いた。
「僕も、各家の動きを確認してみるよ。裁判の話が出れば、何かしら反応があるかもしれないからね」
「俺は隣国の動向を探る。今回の事件を受けて、何らかの動きを見せる可能性があるからな」
三人は頷き合った。
そして、エレオノーラが静かに口を開いた。
「……皆様」
三人が振り向く。
「リリアーナのことは、私にお任せくださいませ」
エレオノーラは、穏やかに微笑んだ。
「皆様が事件の調査を進めてくださっている間、私があの子のそばにおります」
レオナルドは頷いた。
「うん。よろしく頼むよ、エレオノーラ」
「はい」
ヴィクトリアも微笑んだ。
「では、私たちはそれぞれの役割を果たしましょう」
ユリウスは力強く頷いた。
「ああ。今度こそ、妹を守る」
四人は、それぞれの役割へ向かって歩き出した。
王宮の寝室では、リリアーナが静かに眠っている。
彼女自身は、まだ何もできない。
けれど、彼女が示した方針を受け、兄姉たちは動き始めていた。
今度は、リリアーナが一人で何かを背負う必要はない。
彼女を支える者たちが、それぞれの力を発揮する番だった。
お読み頂き、ありがとうございます。




