第十七話 それぞれの想い
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
……終わった。
私は、露台から控室へ戻ると、心の底から安堵の息を吐いた。
五人の王位継承者による公開演説。
そして、予定になかったお父様の演説。
色々と想定外のことはあったけれど、どうにか無事に終えることができた。
……ああ、疲れた。
できることなら、今すぐ自室へ戻って寝たい。
「サリナ、お茶をお願い」
「かしこまりました」
私は椅子に腰を下ろし、ようやく肩の力を抜いた。
……それにしても。
お父様は、本当にずるいと思う。
私たちが一生懸命に考えた演説を、最後に全部まとめてしまったのだから。
しかも、あの内容である。
王とは、すべてを知る者でも、すべてを成し遂げる者でもない。
民の暮らしを預かり、その責任を負う者。
……うん。
あれを聞いた後では、貴族派も簡単には反論できないだろう。
何しろ、国王陛下ご本人が、権限には責任が伴うと明言されたのだ。
貴族が権限を握り、王族に責任だけを押しつける。
そんな都合のいい理屈を、王家として否定したことになる。
……これで、少しは静かになるといいのだけれど。
「殿下、お茶でございます」
「ありがとう」
私はサリナからカップを受け取り、ゆっくりと口をつけた。
……ああ。
美味しい。
ようやく、平和な時間が戻ってきた。
「リリアーナ」
……。
……戻ってこなかった。
声のした方へ顔を向けると、ユリウスお兄様がこちらへ歩いてきていた。
「少しいいか?」
「……はい。何でしょうか?」
お兄様は私の前まで来ると、少し困ったように頭を掻いた。
「いや、その……何だ」
……?
珍しい。
ユリウスお兄様が、言葉に詰まっている。
「今回の件だが、お前には礼を言っておこうと思ってな」
「……お礼、ですか?」
「ああ」
お兄様は頷いた。
「俺は、ああいう演説をするつもりはなかった」
「……そうなのですか?」
「そもそも、王位継承者が揃って民の前で考えを語るなんて、考えたこともなかったからな」
……。
まあ、それはそうだろう。
今回の公開演説は、貴族派の理念に対抗するために急遽決まったものなのだから。
「だが、やってみて分かったことがある」
お兄様は、少しだけ表情を引き締めた。
「俺は今まで、軍を強くすることばかり考えていた」
……。
「もちろん、それが間違っていたとは思っていない。国を守るには、力が必要だからな」
「はい」
「だが、今日、民の顔を見ながら話していて思ったんだ」
お兄様は、窓の向こうへ視線を向けた。
「俺が守りたいのは、あいつらなんだとな」
……。
「兵士の訓練も、街道の警備も、軍の整備も、全部そのためにやっている。そんな当たり前のことを、改めて考えさせられた」
私は、静かに頷いた。
「……素晴らしいことだと思います」
「そうか?」
「はい。何のために仕事をしているのかを忘れてしまうと、仕事を増やすこと自体が目的になってしまいますから」
……。
……あれ?
何だか、少し話がずれた気がする。
お兄様は一瞬きょとんとした後、大きな声で笑った。
「はははっ! お前は本当に、どこまでいっても仕事の話なんだな!」
「……大切なことですので」
「そうだな!」
お兄様は、ひとしきり笑うと、真っ直ぐ私を見た。
「だが、一つだけ言っておく」
「……はい?」
「俺は、王位を諦めたわけじゃない」
……。
……え?
私は首を傾げた。
「……はい」
「お前の能力は認めている。今回の件でも助けられた。だが、それと王位は別の話だ」
「……はい」
「俺は俺のやり方で、王を目指す」
「……はい」
……。
……あの。
なぜ、そんなに真剣な顔をなさっているのでしょう。
私は、別にお兄様と王位を争っているつもりはないのだけれど。
「……ユリウスお兄様」
「何だ?」
「ぜひ、頑張ってください!」
私は心からの笑顔で答えた。
……本当に。
ぜひ、王になっていただきたい。
お兄様が王になれば、私は安心して隠居できるかもしれないのだから。
ところが。
「……ふっ」
お兄様は、なぜか満足そうに笑った。
「そうか。お前も本気というわけだな」
……。
……はい?
「いいだろう! 俺も負けんぞ!」
「……あの?」
「次は、俺の力を見せてやる!」
そう言い残すと、お兄様は意気揚々と去っていった。
……。
……。
私は、しばらくその背中を見送った。
「……サリナ」
「はい」
「私、何かおかしなことを言ったかしら?」
「殿下は、ユリウス殿下を応援なさっただけかと」
「……そうよね?」
「はい。ただ、ユリウス殿下には別の意味に聞こえたようでございます」
……。
……なぜ。
どうして、そうなるのだろう。
私は、深くため息を吐いた。
◇
「あら、リリアーナ。こちらにいらしたのね」
今度は、エレオノーラお姉様だった。
……。
……今日は、なかなか休めないらしい。
「お姉様。お疲れ様でした」
「ありがとう。あなたもお疲れ様でしたわね」
お姉様は優雅に微笑むと、私の向かいに腰を下ろした。
「先ほどの演説、とても素敵でしたわ」
「……ありがとうございます」
「特に、皆が無理なく暮らせる国にしたいというお話。私、とても共感いたしましたのよ」
……。
……おお。
さすがお姉様。
分かってくださるのですね。
「無理をしなくても暮らせるというのは、とても大切なことですものね」
「はい!」
私は思わず身を乗り出した。
「そうなんです! 無理をすることが当たり前になってしまうと、いつまで経っても仕事が減らないんです!」
「ふふっ。本当に、リリアーナらしいですわね」
お姉様は楽しそうに笑った。
「ですが、私は少し違う考えを持っていますの」
「……違う考え、ですか?」
「ええ」
お姉様は、静かに頷いた。
「私は、誰もが自分の可能性を広げられる国にしたいのですわ」
……。
「そのためには、学ぶ機会が必要です。けれど、学ぶことには努力も必要ですし、時には苦労することもありますわね」
「……はい」
「ですから、すべての苦労をなくすことが、必ずしも幸せにつながるとは限らないと思っていますの」
……。
……なるほど。
確かに、そのとおりだ。
何かを身につけるための努力と、無駄な仕事に追われる苦労は違う。
「……私も、必要な努力までなくしたいわけではありません」
「ええ。分かっていますわ」
お姉様は、柔らかく微笑んだ。
「だからこそ、あなたの考え方が素敵だと思いましたのよ」
……。
「努力する価値のあることに、きちんと時間を使えるようにする。そのために、無駄な負担を減らす」
……。
……ああ。
そういうことか。
私は、思わず頷いた。
「……お姉様のおっしゃるとおりです」
「ふふっ。でしたら、私たちの考えは、案外近いのかもしれませんわね」
……。
……うん。
確かに、そうかもしれない。
お姉様は、教育の機会を増やしたい。
私は、無駄な仕事を減らしたい。
目指すところは違っても、人々がよりよく暮らせるようにしたいという点では同じなのだ。
「それから、リリアーナ」
「はい?」
「今回の件では、あなたにお礼を申し上げたかったのですわ」
……。
「お礼、ですか?」
「ええ。あなたが声を上げなければ、私たちが揃って民の前で考えを語る機会はなかったでしょうから」
……。
「私自身、自分の考えを改めて整理することができましたの。とてもよい機会をいただきましたわ」
お姉様は、丁寧に頭を下げた。
……。
……ああ。
何ということでしょう。
お姉様が、私にお礼を。
「そ、そんな! お姉様、頭を上げてください!」
「ふふっ。お礼を申し上げる時は、きちんとお礼をするものですわ」
……。
……うん。
やっぱり、お姉様は素敵な方だ。
「……お姉様」
「何かしら?」
「私は、お姉様が王になられても、素晴らしい国になると思っています」
……。
これは、本心だ。
お姉様なら、きっと多くの人々に学ぶ機会を与え、才能を伸ばせる国を作ってくださるだろう。
そして私は、その国でのんびり暮らせる。
……最高ではないか。
ところが、お姉様は少しだけ目を丸くした後、嬉しそうに微笑んだ。
「まあ。ありがとうございます、リリアーナ」
「いえ!」
「ですが、私も簡単に譲るつもりはありませんのよ?」
……。
……はい?
「あなたがどれほど優秀でも、私には私の目指す未来がありますもの」
……。
「お互い、自分の信じる道を進みましょうね」
……。
……あれ?
私は、ただ応援しただけなのだけれど。
「……はい」
「ふふっ。楽しみにしていますわ」
お姉様は、そう言って優雅に立ち上がった。
……。
……。
私は、その背中を見送った。
「……サリナ」
「はい」
「私、また何かおかしなことを言ったかしら?」
「殿下は、エレオノーラ殿下を応援なさっただけかと」
「……そうよね?」
「はい」
……。
……なぜだろう。
応援するたびに、王位争いへの参加表明だと思われている気がする。
◇
「リリアーナ」
……。
……今度は、誰でしょう。
振り返ると、ヴィクトリアお姉様が立っていた。
……ああ。
今日は、本当に休めない。
「ヴィクトリアお姉様。お疲れ様でした」
「お疲れ様です。少し、お話ししてもよろしいですか?」
「……はい」
お姉様は私の向かいに腰を下ろした。
その表情は、いつもどおり落ち着いている。
「まず、今回の公開演説については、よい判断だったと思います」
「……ありがとうございます」
「貴族派の理念に対し、王家として明確な立場を示すことができました。陛下まで演説なさったことは予想外でしたが、結果としては大きな意味があったでしょう」
……。
……うん。
そこは私も同意見だ。
「ただし」
……。
……ただし?
嫌な予感がする。
「今回の件で、あなたに対する評価は、さらに高まったと思います」
……。
……え?
「……そうでしょうか?」
「そうでしょうね」
お姉様は淡々と答えた。
「地方統治、催し物の企画、非常時の対応。そして、今回の政争への対処です」
……。
「あなたは、異なる分野で結果を出し続けています」
……。
……いや。
結果を出したくて出しているわけではないのだけれど。
私は、ただ休みたいだけなのだ。
「それに、今回の演説は、他の者には真似できない内容でした」
「……そうですか?」
「ええ。王になりたくないと公言しながら、王となった場合の責任について語る。非常に珍しい演説です」
……。
……珍しい。
まあ、そうだろう。
普通の王位継承者は、あんなことを言わないと思う。
「ですが、珍しいだけではありません」
お姉様は、静かに続けた。
「あなたは、権限を持つ者が責任を負うべきだと明確に語りました。それは、今回の貴族派への反論として、非常に重要な言葉だったと思います」
……。
「そして、あなた自身が、これまでその考えに沿って行動してきたことも事実です」
……。
……ああ。
なるほど。
お姉様は、私の言葉と行動が一致していると言いたいのだろう。
……でも。
私の場合は、責任を負いたくないからこそ、問題を放置できないだけなのだけれど。
「……ありがとうございます」
私は、素直に頭を下げた。
お姉様は、小さく頷いた。
「ただ、私はあなたを警戒しています」
……。
……はい?
私は、思わず顔を上げた。
「……警戒、ですか?」
「はい」
お姉様は、表情を変えずに続けた。
「あなたが王位を望んでいないことは、理解しています」
……!
……おお!
ようやく!
ようやく、分かってくださる方が!
「ですが、王位を望んでいないことと、王にふさわしい能力を持っていないことは、別の話です」
……。
……あ。
……そちらですか。
「私は、王位を目指しています。そのために、必要な知識を学び、経験を積んできました」
……。
「あなたが王位を望んでいないからといって、私があなたを評価しなくてよい理由にはなりません」
……。
……なるほど。
それは、確かにそうだ。
「ですから、私はこれからも、あなたの行動を見ています」
……。
「そして、私自身も、結果を出し続けるつもりです」
……。
……ああ。
お姉様らしい。
感情ではなく、実績で判断する。
その姿勢は、最初から一貫している。
「……分かりました」
私は、静かに頷いた。
「私も、任された仕事については、きちんと責任を果たすつもりです」
……。
……もちろん。
できるだけ、任されたくはないのだけれど。
お姉様は、わずかに微笑んだ。
「それなら、十分です」
そう言って、立ち上がった。
「それでは、失礼します」
「はい。お疲れ様でした」
私は、お姉様の背中を見送った。
……。
……うん。
ヴィクトリアお姉様は、やっぱり少し怖い。
でも。
……ちゃんと、私の話を聞いてくださる方なのだと思う。
◇
ようやく、控室が静かになった。
私は、すっかり冷めてしまった紅茶を見つめた。
……。
……ああ。
結局、全然休めなかった。
「サリナ」
「はい」
「新しいお茶をお願い」
「かしこまりました」
……うん。
今度こそ、ゆっくりしよう。
そう思った、その時。
「リリアーナ」
……。
……。
私は、静かに目を閉じた。
……もう。
誰ですか。
今度は。
「ずいぶん疲れているみたいだね」
……。
……ああ。
レオナルドお兄様だ。
「……お兄様」
「お疲れ様」
「……ありがとうございます」
お兄様は、私の向かいに腰を下ろした。
「皆と話していたんだね」
「……はい」
「どうだった?」
……。
……どうだった、と言われても。
「皆様、それぞれに素晴らしいお考えをお持ちでした」
「そうだね」
お兄様は、嬉しそうに頷いた。
「僕も、今日の演説を聞いて、改めてそう思ったよ」
……。
「王位継承者が五人もいると、どうしても競争になる。けれど、それぞれが違う考えを持っていることは、決して悪いことじゃない」
……。
「むしろ、互いに学べることがあると思うんだ」
私は、静かに頷いた。
……確かに。
レオナルドお兄様は、行政の安定。
ヴィクトリアお姉様は、経済。
ユリウスお兄様は、軍と治安。
エレオノーラお姉様は、教育。
それぞれ、得意な分野も、目指す未来も違う。
……うん。
全員で協力すれば、ものすごくいい国になるのでは?
「……お兄様」
「何かな?」
「皆様で協力して国を治めることは、できないのでしょうか?」
……。
お兄様は、少し驚いたように目を瞬かせた。
「……どういうことだい?」
「いえ。皆様、それぞれに得意な分野をお持ちですよね?」
「そうだね」
「でしたら、王になられた方が、他の方々に得意な分野を任せればよいのではないかと思いまして」
……。
「もちろん、最終的な責任は王が負う必要があります。ですが、すべてを一人で考える必要はないと思うんです」
……。
……そう。
お父様もおっしゃっていたではないか。
王とは、すべてを知る者でも、すべてを成し遂げる者でもない、と。
それなら、得意な人に任せればいい。
……実に合理的だ。
「……なるほど」
お兄様は、少し考え込むように顎へ手を当てた。
「確かに、それは理想的だね」
「……ですよね?」
「ただし、簡単なことではないと思うよ」
……。
「王位を目指している者たちが、結果として一人の王を支える立場になる。その時、全員が納得できるとは限らないからね」
……。
……ああ。
そうか。
能力の問題ではなく、気持ちの問題もあるのだ。
「それに、王位を争っている間は、互いの考えを知る機会も限られてしまう」
お兄様は、少しだけ笑った。
「だからこそ、今日の演説には意味があったんだと思う」
……。
……なるほど。
「リリアーナ」
「はい?」
「君には、感謝しているよ」
……。
……え?
「君が今回の演説を提案してくれたおかげで、僕たちは互いの考えを知ることができた」
……。
「そして、民にも、自分たちが何を目指しているのかを伝えることができた」
お兄様は、真っ直ぐ私を見た。
「ありがとう」
……。
……ああ。
今日は、何だかお礼を言われてばかりだ。
私は、少し照れくさくなって視線を逸らした。
「……いえ。私も、皆様のお考えを知ることができて、よかったと思っています」
「そうか。それならよかった」
お兄様は、穏やかに微笑んだ。
「それと、もう一つ」
……。
……もう一つ?
「君の演説、とてもよかったよ」
「……ありがとうございます」
「特に、王になりたくないという言葉がね」
……。
……そこですか。
「普通なら、あの場でそんなことは言えないだろう」
「……そうでしょうか」
「そうだよ」
お兄様は、楽しそうに笑った。
「でも、君は本当に王になりたくないんだろう?」
「はい!」
私は、思わず即答した。
……ようやく。
ようやく、話が通じる!
「ふふっ。そうだろうね」
お兄様は、少しだけ笑った後、静かに続けた。
「だからこそ、君は面白いんだ」
……。
……はい?
「王位を望まないのに、王に必要なことを考えている。仕事を嫌がるのに、仕事の仕組みを改善しようとする」
……。
「そして、自分が楽をするために、周りの人々まで楽にしてしまう」
……。
……あの。
何だか、ものすごく褒められている気がするのだけれど。
「君のそういうところを、僕は高く評価しているよ」
……。
……お兄様。
それは、ありがたいのですが。
できれば、評価はほどほどにしていただけると。
「ただし」
……。
……また、ただし。
「僕も、王位を譲るつもりはないよ」
……。
……。
私は、ゆっくりと顔を上げた。
「……はい」
「君が王になりたくないことは、分かっている。それでも、僕は僕の目指す王国を作りたい」
……。
「だから、これからも努力を続けるつもりだ」
……。
……ああ。
なるほど。
レオナルドお兄様も、他のお兄様やお姉様方と同じなのだ。
皆、自分の目指す未来がある。
そのために、王位を目指している。
……。
……うん。
やっぱり。
私は、王にならなくていいのでは?
「……お兄様」
「何かな?」
「私は、心から応援しております!」
私は、満面の笑みで答えた。
……ぜひ。
ぜひ、頑張ってください。
そして、私を王位争いから解放してください。
お兄様は、一瞬だけ目を丸くした後、楽しそうに笑った。
「ありがとう、リリアーナ」
……。
「でも、君も自分の道を進むといい」
……。
……自分の道。
……うん。
私の道は、決まっている。
のんびり暮らすことだ。
「はい!」
私は力強く頷いた。
お兄様は、満足そうに微笑んだ。
◇
ようやく、全員との話が終わった。
私は、すっかり冷めてしまった二杯目の紅茶を見つめた。
……。
……ああ。
今日は、本当に疲れた。
「サリナ」
「はい」
「新しいお茶をお願い」
「かしこまりました」
……。
……それにしても。
皆さん、王になりたいのね。
レオナルドお兄様も、ヴィクトリアお姉様も、ユリウスお兄様も、エレオノーラお姉様も。
それぞれに、目指す未来がある。
……素晴らしいことだと思う。
私は、心からそう思った。
だって。
皆さんが王を目指してくださるのなら。
私は、王にならなくて済むかもしれないのだから。
……うん。
希望が見えてきた。
「殿下」
「何かしら?」
「本日は、皆様から大変高く評価されておりましたね」
……。
……ん?
「……そうかしら」
「はい。皆様、殿下の能力を認めておられるようでございました」
……。
……ああ。
そういえば。
皆さん、そんなことをおっしゃっていた気がする。
「……でも、皆さん王位を目指していらっしゃるのでしょう?」
「そのようでございますね」
「……なら、問題ないわ」
私は、満足して頷いた。
「皆さんが王を目指してくださるのなら、私は安心して休めるもの」
……。
……完璧だ。
誰かが王になり、私は王位継承権を返上する。
そして、静かな地方でのんびり暮らす。
……ああ。
想像しただけで幸せになれる。
「……殿下」
「何かしら?」
「一つ、よろしいでしょうか」
「ええ」
「皆様が王位を目指しておられることと、殿下が王位継承者として評価されることは、別の問題かと存じます」
……。
……。
私は、ゆっくりとサリナを見た。
「……どういうこと?」
「皆様が殿下を高く評価されれば、殿下を王に推す方々も増える可能性がございます」
……。
……。
私は、しばらく言葉を失った。
……。
……え?
「……でも、私、王になりたくないって言ったわよね?」
「はい。広場に集まった皆様の前で、はっきりとおっしゃいました」
「……それなのに?」
「王になりたくない方だからこそ、王になってほしいと考える方もいらっしゃるかと」
……。
……。
私は、ゆっくりと天井を見上げた。
……ああ。
……何ということでしょう。
王になりたくないと宣言したのに。
それが、王になってほしい理由になるかもしれない。
……。
……意味が分からない。
「……サリナ」
「はい」
「私、どうすればいいのかしら」
「まずは、お茶をお召し上がりになってはいかがでしょうか」
……。
……そうね。
今は、それしかない。
私は、新しく淹れられた紅茶を手に取った。
……ああ。
温かい。
美味しい。
……。
……でも。
どうして、こうなるのだろう。
私は、ただ休みたいだけなのに。
……本当に。
やり過ぎた!
お読み頂き、ありがとうございます。




