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やり過ぎた!  作者: 涙目
第四章 理念対立編

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第十四話 歪んだ主義主張と責任の在り方

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 ダニエルの妻と娘が無事に救出されたことで、今回の暗殺未遂事件は大きく進展した。


 暗殺者たちは捕らえられ、その仲介者も捕らえられた。さらに、仲介者へ指示を出していた貴族まで身柄を確保している。


 ……にもかかわらず。


「まだ認めないんですか?」


「うん。相変わらず、自分は何も知らないと言い張っているよ」


 レオナルドお兄様の報告を聞き、私は思わずため息を吐いた。


 どうやら、捕らえられた貴族は随分と頑固な人物らしい。


 もっとも、罪を認めれば重い罰を受ける可能性があるのだから、簡単には認めたくない気持ちも分からなくはない。


 けれど、既に仲介者は証言しているし、屋敷からは暗殺者への報酬に関する書類まで見つかっている。


 これ以上否定を続けたところで、何が変わるというのだろう。


「お兄様。証拠は十分に揃っているんですよね?」


「少なくとも、暗殺の手配に関与していたことを示す証拠は揃っているよ。ただ、誰の指示で動いていたのかについては、まだ分かっていないんだ」


「……なるほど」


 私は腕を組んだ。


 今回捕らえた貴族が、すべてを計画した人物なのか。


 それとも、さらに上の人間から命じられて動いていたのか。


 そこが分からなければ、安心して暮らすこともできない。


 ……本当に迷惑な話である。


「ちなみに、書類はどのようなものなんですか?」


「暗殺者への報酬の支出記録や、仲介者との金銭のやり取りを記した帳簿だね。それから、ダニエルの家族を拘束していた建物の維持費も、同じ帳簿から支払われていた」


「……随分と丁寧に記録されているんですね」


「そうだね。本人は知らないと言い張っているけれど、屋敷の金庫から見つかったものだからね」


「……」


 私は少し考えた。


 証拠はある。


 証言もある。


 けれど、本人は認めない。


 そして、そのせいで取り調べが長引いている。


 ……ああ、もう。


 どうして皆さん、こうも私の仕事を増やすのだろう。


「お兄様」


「何かな?」


「私、その方とお話ししてもよろしいでしょうか?」


 レオナルドお兄様が、少し意外そうな顔をした。


「リリアーナが?」


「はい。少し聞いてみたいことがありますので」


「……何を聞くつもりだい?」


「それは、会ってからのお楽しみです」


 私が微笑むと、お兄様はしばらくこちらを見つめていた。


 そして、なぜか楽しそうに笑った。


「……分かった。僕も同席するよ」


「ありがとうございます」


 こうして私は、捕らえられた貴族と直接話をすることになった。


     ◇


 王城の取り調べ室。


 部屋の中央には机が置かれ、その向こう側に一人の貴族が座っていた。


 私が入室すると、男は驚いたように顔を上げる。


「……第五位殿下?」


「ごきげんよう」


 私は笑顔で挨拶した。


「本日は、少しお話を伺いたくて参りました」


「……何のお話でしょうか」


「もちろん、今回の暗殺未遂事件についてです」


 男の表情が僅かに強張った。


「私は何も知りません。何度もそう申し上げております」


「ええ、伺っております」


 私は頷き、椅子へ腰を下ろした。


 隣にはレオナルドお兄様が座り、少し離れた場所にはサリナと記録係、そして騎士たちが控えている。


「ですが、知らないと仰るのであれば、少し不思議なことがあるんです」


「……不思議なこと?」


「はい。こちらをご覧ください」


 私は持参した書類を机の上へ置いた。


 屋敷から押収された帳簿の写しである。


「こちらは、貴方の屋敷から見つかったものです」


「……」


「暗殺者への報酬と思われる支出記録、それから仲介者への支払い。さらに、ダニエルの奥様と娘さんを拘束していた建物の維持費まで記載されています」


 男は書類を見つめたまま、何も答えない。


「随分と丁寧に管理されているんですね。私、少し感心してしまいました」


「……それは、私の知らないところで使用人が勝手に……」


「なるほど。使用人の方が勝手に支払ったと?」


「そ、そうだ!」


「では、その使用人の方のお名前を教えていただけますか?」


「……」


「こちらに記載されている支出について、誰が承認したのかも確認したいんです」


 男は口を閉ざした。


 私は別の書類を取り出した。


「それから、こちらは仲介者の証言です。貴方から暗殺の手配を命じられ、報酬の前金を受け取ったと話しています」


「嘘だ! そいつが勝手に私の名前を使ったのだ!」


「そうですか」


 私は頷いた。


「では、こちらも偶然でしょうか?」


 今度は、屋敷の金庫から見つかった支払いの控えを机へ並べた。


「仲介者が保管していた受領記録と、日付も金額も一致しているそうです」


「……っ!」


「それに、ダニエルのご家族を拘束していた建物についても、貴方の屋敷から見つかった書類を手掛かりに発見できました」


 私は一枚ずつ書類を指し示した。


「これだけの記録が残っているのに、すべて知らなかったというのは、少々無理があるのではありませんか?」


「……私は……」


 男は額に汗を浮かべていた。


 けれど、まだ認めるつもりはないらしい。


 ……仕方ない。


 では、少しだけ考え方を変えていただこう。


「ところで、貴方は今回の件がどれほど重大な事件なのか、ご理解されていますか?」


「……当然だ」


「本当ですか?」


 私は首を傾げた。


「では、少し整理してみましょう」


 机の上に置かれた書類を揃え、私は指を一本立てた。


「まず、騎士の家族を人質に取り、脅迫していた疑いがあります」


 続けて、二本目の指を立てる。


「さらに、暗殺者への報酬の支払い。そして、王族に対する暗殺未遂への関与」


 男の顔から、徐々に血の気が引いていく。


「もちろん、正式な判断は裁判で行われます。ですが、これだけでも十分に重罪となり得るのではありませんか?」


「……」


「しかも、今回は私を狙った事件です」


 私はにっこりと微笑んだ。


「ですので、私が罰を決めることにします」


「……は?」


 男が間の抜けた声を出した。


 部屋の空気が、一瞬で変わる。


 サリナが僅かに顔を上げ、記録係の手が止まった。


 騎士たちも、思わずこちらへ視線を向けている。


 ……もちろん、嘘である。


 王族だからといって、私一人の判断で刑罰を決められるわけではない。


 そんなことができるなら、裁判なんて必要ないではないか。


 けれど、目の前の男は既に相当動揺している。


 ならば、少しくらい話を聞いてくれるかもしれない。


「そうですね……まず、お家は取り潰しでしょうか」


「……っ!」


「財産もすべて徴収していただきましょう。これほどの事件を起こしたのですから、仕方ありませんよね」


 男の顔が青ざめていく。


 私は少し考えるふりをした。


「それから、ご家族についてですが……三親等以内の方は、全員貴方と同じ刑に処することにしましょうか」


「なっ……!」


 男が椅子から立ち上がりかけた。


 すぐに騎士が制止する。


「お、お待ちください! 家族は関係ありません!」


「そうでしょうか? 貴方はダニエルの奥様と娘さんを人質に取っていたのでしょう?」


「そ、それは……!」


「ご家族を巻き込むことに、随分と抵抗がおありなんですね」


 私は首を傾げた。


「では、刑罰はどうしましょうか……」


 少し考え込む。


 そして、思いついたように手を打った。


「鞭打ち千回を一週間行った後、民衆の前でギロチンが妥当ですかね?」


「…………っ!」


 男の顔から、完全に血の気が失せた。


 それどころか、周囲に控えていた騎士たちまで青ざめている。


 記録係は羽根ペンを持ったまま固まり、サリナは珍しく目を見開いていた。


 ……あら?


 少々、やり過ぎただろうか。


 まあ、実際にそんなことをするつもりはないのだから、問題ないだろう。


 ……たぶん。


 隣を見ると、レオナルドお兄様が片手で口元を覆っていた。


 肩が僅かに震えている。


 ……お兄様?


 何を笑っているんですか?


「まっ、待ってください!」


 男が震える声を上げた。


「何ですか?」


「わ、私は……!」


「やっていないなんて、言わないでくださいね? 無意味ですので」


 私は机の上の書類を軽く叩いた。


「証拠は既に揃っています。貴方が認めなくても、取り調べと裁判は進むでしょう」


「……っ!」


「ですが」


 私は一拍置いた。


 そして、男の目を真っ直ぐに見つめた。


「大人しく自供するのであれば、貴方のご家族は助かるように嘆願しましょう」


「……っ!」


 男が息を呑んだ。


 私は静かに言葉を続けた。


「もちろん、私が必ず助けられるとお約束することはできません。ですが、事件に関与していない方々まで罰する必要はないと、私から申し上げることはできます」


「……」


「貴方が今ここでお話しくだされば、少なくとも、ご家族が事件に関わっていたのかどうかは確認できます」


 男は俯いた。


 握り締めた拳が、小刻みに震えている。


 しばらく、誰も口を開かなかった。


 やがて、男が掠れた声を漏らした。


「……本当に……家族は……」


「ええ。私から嘆願いたします」


「……」


「ですから、知っていることをすべてお話しください」


 男は長い沈黙の後、力なく椅子へ沈み込んだ。


「……分かりました」


 その声は、先ほどまでの威勢が嘘のように小さかった。


「……すべて、お話しします」


 私は静かに頷いた。


「ありがとうございます」


     ◇


 男の自供は、予想以上に詳しいものだった。


 暗殺者の手配。


 仲介者への報酬。


 ダニエルの家族を人質に取るよう命じた経緯。


 そして、今回の事件に関わった人物たちについて。


 記録係が次々と内容を書き留めていく。


 その中で、何度か貴族派という言葉が出てきた。


「……一つ、伺ってもよろしいでしょうか?」


「……何でしょう」


「あなた方貴族派は、何をお考えなのでしょうか?」


 男は顔を上げた。


 先ほどまで怯えていたというのに、その表情に僅かな自信が戻ってくる。


「……我々は、この国のあるべき姿を取り戻そうとしているのです」


「あるべき姿、ですか?」


「そうです! そもそも、国を動かしているのは我々貴族なのです! 領地を治め、税を集め、民を管理し、王国の経済を支えている!」


「……」


「それなのに、王族というだけで我々の上に立ち、何も知らぬ者が命令を下す! これほど不合理なことがありましょうか!」


 男は次第に熱を帯び、身振りまで交えて語り始めた。


「我々は、それぞれの領地を治めるだけの知識と経験を持っております。王族などに指図されずとも、国を動かすことはできるのです!」


「……なるほど」


「ですから、政治の実権は我々貴族が握るべきなのです! 王族は王族として、国の象徴であればよい!」


「……」


「そして、何か問題が起きた際には、国の頂点に立つ王族が責任を取る! それこそが、正しい国の在り方ではありませんか!」


 私は何も答えなかった。


 男は、それを自分の主張が認められたと受け取ったらしい。


「王族には王族の役割があり、貴族には貴族の役割があるのです! 我々が政治を担い、王族がその責任を負う。そうすることで、王国はより効率的に運営される!」


 ……。


「そもそも、我々貴族がいなければ、王国など成り立たないのです! 王族はそれを理解し、我々の判断を尊重すべきなのです!」


 ……。


「我々が求めているのは、決して私利私欲ではありません! 王国の未来を見据えた、正しい統治の形なのです!」


 男は満足そうに胸を張った。


 私は、その言葉が終わるまで黙って聞いていた。


 隣に座るレオナルドお兄様も、何も言わない。


 サリナも、騎士たちも、ただ男の話を聞いている。


 やがて、男が口を閉じた。


 私は静かに息を吐いた。


「……つまり」


 男がこちらを見る。


「それは、王国は自分たちで牛耳るが、責任は取らず、何かあれば王族に押しつける、ということでよろしいでしょうか?」


「……そうだ! 王族なんて、ただ我々が納めた税金で贅を尽くすだけなのだ! だから、責任ぐらい取って当然だろう!」


 ――バンッ!


 私は机を叩きつけた。


「……ふざけないでもらえますか?」


「な、なんだ! 小娘如きが我々の崇高な――」


「うるさい!」


 部屋が静まり返った。


 男は口を開けたまま固まり、記録係の手も止まっている。


 私は男を睨みつけた。


「あなた方がおっしゃっていることを要約すると、『権利はよこせ、責任はお前らが取れ』ですよね?」


「そ、それは……!」


「それに、我々の税金とおっしゃいましたが、税金を納めているのは民です!」


 私は机の上に置かれた書類を指さした。


「あなた方が集めている税金は、あなた方のお金ではありません! 民が働き、生活の中から納めてくださっているものです!」


「……っ!」


「税金で生活をさせていただいているのは、私たち王族だけではありません。私たち王侯貴族です!」


 男は何も言わない。


 私は構わず続けた。


「だからこそ、責任を持って民の生活を支え、守るのです! 民が安心して暮らせるように、問題が起きれば対処し、必要なものを整え、国を維持していく! それが私たちの仕事でしょう!」


 胸の奥から、次々と言葉が溢れてくる。


「領地を治めているから偉い? 税を集めているから偉い? 当たり前でしょう! それがあなた方に与えられた仕事なんですから!」


「……!」


「それなのに、権限だけは欲しい、責任は取りたくない、失敗したら王族のせいにする?」


 私は男を真っ直ぐに見据えた。


「そんな都合のいい話が、どこにあるんですか!」


 男は完全に黙り込んでいた。


「私は仕事が嫌いです!」


 その場にいた全員が、一瞬だけ目を見開いた。


「面倒なことなんてしたくありませんし、できることなら毎日寝て暮らしたいと思っています!」


 ……それでも。


「だからこそ、仕事を減らすために考えるんです! どうすれば無駄をなくせるのか、どうすれば問題が起きなくなるのか、どうすれば皆が楽になるのか!」


 私は拳を握り締めた。


「仕事を任された以上、その責任まで誰かに押しつけるつもりはありません!」


 男が何か言おうとした。


 けれど、私はそれを許さなかった。


「あなた方は、権力を持つことばかり考えて、その権力で何を守るべきなのかを忘れているんです!」


 そして、最後に。


「さっきから聞いていれば、偉そうにペラペラと……」


 私は、吐き捨てるように言った。


「仕事舐めんな!」


 誰も何も言わなかった。


 取り調べ室は、水を打ったように静まり返っていた。


 男は青ざめたまま俯き、騎士たちも直立したまま動かない。


 サリナは目を見開き、記録係は羽根ペンを握り締めている。


 私は荒くなった息を整えた。


 ……ああ、もう。


 腹が立つ。


 仕事なんて、私だってしたくない。


 できることなら、全部誰かに任せてしまいたい。


 けれど、任せるということと、責任を押しつけるということは違う。


 その違いすら分からない人間が、国を動かすなどと偉そうに語っている。


 ……冗談ではない。


「……失礼しました」


 私は椅子へ座り直した。


「少々、取り乱してしまいました」


 誰も答えなかった。


 隣を見ると、レオナルドお兄様が静かにこちらを見つめている。


 先ほどまで笑いを堪えていたお兄様は、もう笑っていなかった。


「……リリアーナ」


「はい?」


「君の言うとおりだと思うよ」


 お兄様は穏やかに微笑んだ。


「権限を持つということは、それに伴う責任を引き受けるということだからね」


「……はい」


「それを忘れてしまえば、どれほど立派な理念を掲げても意味がない」


 私は小さく頷いた。


 レオナルドお兄様は、そこで男へ視線を向けた。


「さて。君の考えはよく分かった」


「……」


「では、取り調べを続けようか。今度は理念ではなく、事実を聞かせてほしい」


 男は俯いたまま、力なく頷いた。


     ◇


 取り調べを終えた後、私はレオナルドお兄様とともに別室へ移動した。


 サリナがお茶を用意してくれる。


 ようやく一息つけると思ったところで、お兄様が口を開いた。


「……それにしても、驚いたよ」


「何がですか?」


「君の取り調べだよ」


「……ああ」


 私は頷いた。


「少し大げさに言ってみました」


「少し?」


「……かなり?」


 レオナルドお兄様が吹き出した。


「はははっ! いや、あれは本当に驚いたよ!」


「……そんなに?」


「鞭打ち千回を一週間だなんて、よく思いついたね。しかも、最後はギロチンだろう?」


「……」


 改めて言われると、確かに酷い。


 我ながら、少々やり過ぎた気がする。


「もちろん、本当にそんな刑罰を与えるつもりはありませんよ?」


「分かっているよ。そもそも、君に刑罰を決める権限はないからね」


「ですよね」


「ただ、あの場にいた人たちは、君が本気で言っていると思っただろうね」


「……」


 私はサリナへ視線を向けた。


「サリナも?」


「……はい」


 即答された。


「殿下が突然そのようなことを仰ったので、私も驚いてしまいました」


「……そう」


「特に、ご家族まで同じ刑に処すると仰った時には、何をお考えなのかと……」


「……ごめんなさい」


 私は素直に謝った。


 どうやら、少し脅かしすぎたらしい。


 けれど、あの貴族が家族を巻き込むことに強く反応したのは事実だ。


 自分の家族が危険に晒されることには、あれほど怯えていた。


 それなのに、ダニエルの家族を人質に取ることには、何の躊躇いもなかったのだろうか。


「……でも」


「うん?」


「私は、あの方のご家族を罰するつもりなんてありません」


 私はカップを置いた。


「事件に関与していないのであれば、罰を受ける理由はありませんから」


「そうだね」


「ただ、あの方には少し考えていただきたかったんです」


「何を?」


「自分の家族が同じ目に遭ったら、どう思うのかを」


 レオナルドお兄様は、しばらく私を見つめていた。


 やがて、穏やかに微笑んだ。


「……なるほどね」


「もちろん、脅したことが正しいとは思っていませんよ?」


「うん。そこは僕からも注意しておくよ。取り調べでの発言は、後から問題になることもあるからね」


「……はい」


 私は素直に頷いた。


 確かに、嘘の刑罰を持ち出して自白させたとなれば、その証言自体が問題になる可能性もある。


 せっかく話してもらったのに、使えなくなっては意味がない。


「では、あの方の証言は……」


「もちろん、そのまま事実として扱うつもりはないよ。押収した書類や他の証言と照らし合わせて、裏付けを取ることになる」


「……よかった」


 私は胸を撫で下ろした。


 これで、ひとまず私の役目は終わりだろう。


 そう思った。


 けれど、どうしても頭から離れない言葉があった。


 政治の実権は貴族が握るべき。


 問題が起きた際には、王族が責任を取る。


 それが正しい国の在り方。


 ……冗談ではない。


 あの男一人がそう考えているだけなら、まだいい。


 けれど、それが貴族派と呼ばれる人々の理念なのだとしたら。


 たとえ今回の暗殺事件が解決したとしても、同じような問題が繰り返されるかもしれない。


 そのたびに、誰かが責任を押しつけられる。


 そのたびに、余計な仕事が増える。


 ……ああ、もう。


 本当に腹が立つ。


「……リリアーナ?」


 レオナルドお兄様の声で、私は顔を上げた。


「どうしたんだい? 随分と難しい顔をしているけれど」


「……お兄様」


「うん?」


「今回はやり過ぎた自覚はあります。ですので」


 私は静かにカップを置いた。


「もう一手、仕掛けます」


 レオナルドお兄様が目を瞬かせた。


「……何をするつもりだい?」


 私はお兄様を真っ直ぐに見つめた。


「貴族派とかいう腐った人達の理念を叩き潰します」

お読み頂き、ありがとうございます。

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