第十一話 次の一手
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
ダニエルから事情を聞き終えた私は、拘束されている暗殺者たちへ視線を向けた。
どうやら、彼らが私を殺害しようとしていたことは間違いないらしい。
もっとも、それで事件が解決したわけではない。
既に三度も命を狙われているのだ。今回の暗殺者たちを捕らえたところで、依頼主が健在なら、また別の人間を送り込んでくるかもしれない。
四度目、五度目と続けられては、安心して昼寝もできないではないか。
……冗談じゃない。
「お兄様。この方々を取り調べれば、依頼主まで辿り着けると思いますか?」
「どうだろうね。本人たちが依頼主を知っているならともかく、仲介者を通して雇われている可能性もあるからね」
「ですよね」
私は男たちの前へ移動した。
「皆さん、少しお話をよろしいでしょうか?」
当然ながら、返事はない。
殺そうとした相手から丁寧に話しかけられても、どう反応すればいいのか分からないのかもしれない。
「皆さんは、私を殺害するよう依頼されたんですよね?」
男たちが互いに顔を見合わせる。
その中の一人が、諦めたように口を開いた。
「……そうだ」
「では、依頼を達成した場合、報酬はどうやって受け取る予定だったんですか?」
「指定された場所へ行って、仕事が終わったことを報告する。そこで残りの金を受け取る手筈だった」
「なるほど。依頼主本人に会うんですか?」
「いや。俺たちが知っているのは仲介者だけだ」
「その仲介者には会ったことがあるんですね?」
「ああ」
「では、その方のところへ行けば、少なくとも次の手掛かりは得られそうですね」
私は頷いた。
暗殺者たちが依頼主を知らないのなら、無理に聞き出そうとしても仕方がない。
知らないことは答えられないのだから。
けれど、報酬を受け取る相手がいるなら話は別だ。
その人物を調べれば、さらに先へ進めるかもしれない。
「……お兄様」
「何かな?」
「いいことを思いつきました」
その瞬間、レオナルドお兄様の表情が僅かに変わった。
「……聞こうか」
「私が死んだという噂を流して、この方々に報酬を受け取りに行っていただきましょう」
「……」
レオナルドお兄様が黙った。
アルベルトも、セシリアも、ロイドも、何とも言えない顔をしている。
サリナに至っては、既にため息を吐いていた。
「……リリアーナ」
「はい?」
「それはさすがに大騒ぎになるよ?」
「そうでしょうか?」
「王位継承権第五位が暗殺されたという噂だよ? 王城だけでなく、王都中が大騒ぎになると思うけど」
「……なるほど」
確かに、それは困る。
王族が暗殺されたとなれば、警備が強化されるだけでは済まないだろう。貴族たちも動き始めるだろうし、下手をすれば王国全体に影響が出るかもしれない。
そこまで考えたところで、私はふと気づいた。
……あれ?
ちょっと待って。
私が死んだということになれば、王位継承権もなくなるのでは?
そうなれば、当然、王族としての仕事もなくなる。
地方の統括代官を任されることも、王位継承者として何かを命じられることもない。
身分を隠して、どこか静かな田舎で暮らせば、誰にも邪魔されずにのんびり過ごせるのではないだろうか。
朝は好きな時間に起きて、昼は美味しいものを食べ、午後は昼寝をして、夜はゆっくりお風呂に入る。
仕事の報告も、王命も、暗殺者もいない生活。
……あら?
これ、意外と悪くないのでは?
「……リリアーナ?」
「はい?」
「また、碌でもないことを考えてるね?」
「……本当に死んだことにして、そのままフェードアウトすれば……」
「行方不明ということにしよう」
「賛成です」
「異議ございません」
「それがよろしいかと」
レオナルドお兄様の提案に、サリナ、アルベルト、セシリアたちが次々と賛成した。
ロイドまで頷いている。
ちょっと待って。
まだ最後まで言っていないんだけど。
「お兄様、私の意見は……」
「却下だよ」
「まだ何も言っていません!」
「言わなくても分かるよ。リリアーナは、死んだことにして王族の仕事から逃げようとしたんだろう?」
「……」
なぜ分かった。
「殿下。お考えが顔に出ておりました」
サリナが淡々と告げる。
「……そんなに?」
「はい。大変幸せそうなお顔をなさっておりました」
「……」
私は思わず頬に手を当てた。
そんなに幸せそうだったのか。
「とにかく、死亡したという噂は駄目だ。行方不明ということにして、城内で捜索しているという情報を流そう」
「それなら、暗殺者たちが仕事を終えたと報告しても、不自然ではありませんね」
アルベルトの言葉に、レオナルドお兄様が頷く。
「うん。死亡が確認されていない以上、城も捜索を続けることになる。相手が王城の情報を得ていたとしても、説明はつくはずだよ」
「なるほど……」
確かに、作戦としてはそちらの方が安全だろう。
ただ、私としては、もう少し検討してもよかったのではないかと思う。
「……ちなみに、お兄様」
「駄目だよ」
「まだ何も言っていません!」
「死んだことにして逃げるのは駄目」
「……はい」
どうやら、私の平穏な第二の人生は始まる前に終わってしまったらしい。
……いや、第三の人生になるのかしら?
「リリアーナ殿下」
「何?」
「今度は何をお考えですか?」
「……何でもないわ」
私はそっと視線を逸らした。
サリナの目が、いつも以上に厳しかった。
さて、話を戻そう。
「では、私が行方不明になったという報告を城中に流して、この方々には暗殺が成功したと伝えていただきましょう」
「うん。ただ、相手がそれだけで信用するとは限らないよ?」
「はい。ですから、あえて証拠は持っていかないことにします」
「……証拠を持っていかない?」
レオナルドお兄様が不思議そうに首を傾げた。
「それでは、余計に信用されなくなるんじゃないかな?」
「ええ。それが狙いです」
私は頷いた。
「暗殺者の方々が報酬を受け取りに行っても、仲介者には本当に私を殺害したのか判断できませんよね?」
「そうだね。城で行方不明になっているという情報だけでは、死亡した証拠にはならない」
「では、仲介者はどうするでしょう?」
レオナルドお兄様は少し考えてから、私の意図に気づいたようだった。
「……なるほど。自分で判断できなければ、上の者に確認を取る可能性があるね」
「はい。そうすれば、その方の後をつけることで、さらに上位の人間を見つけられるかもしれません」
「つまり、仲介者を捕らえることが目的ではなく、仲介者に動いてもらうことが目的なんだね」
「そのとおりです」
私は笑顔で頷いた。
もちろん、相手が別の方法で確認する可能性もあるし、その場で報酬を支払って終わりにするかもしれない。
けれど、少なくとも暗殺者たちを捕らえたままにしておくよりは、先へ進める可能性がある。
「上手くいくかな?」
レオナルドお兄様が腕を組んだ。
私は少し考えてから、もう一つ思いついた。
「では、もう一手。ダニエルを向かわせましょう」
「ダニエル?」
「はい。彼には暗殺者の方々と一緒に、仲介者のところへ行っていただきます」
「……そうか!」
レオナルドお兄様が顔を上げた。
「彼が妻子を返せと言えば……」
「ええ。確認を取らざるを得なくなるのではないかと」
ダニエルは、実際に家族を人質に取られている。
そして、家族を助けるために私の情報を流していた。
暗殺が成功したと聞けば、約束どおり家族を返すよう要求するのは当然だろう。
「暗殺者への報酬だけなら、仲介者の判断で支払えるかもしれません。でも、人質の解放となれば、そう簡単には決められないのではありませんか?」
「確かに。人質をどこに拘束しているのか、仲介者自身が知らない可能性もあるね」
「はい。そうなれば、誰かに連絡を取る必要が出てきます」
「でも、確認なしで返してもらえるなら?」
「それはそれでよしと」
私は即答した。
「はい」
レオナルドお兄様が小さく笑った。
「なるほど。上の者を見つけることができれば捜査が進むし、ダニエルの家族が解放されれば、それだけでも成果になるわけだね」
「ええ。私としては、奥様と娘さんが無事に戻ってきてくださる方が嬉しいですけどね」
「そうだね」
「それに、確認を取るために誰かが動けば、密偵の方々に追跡していただけばいいだけです」
「分かった。そちらは僕が手配しよう」
「お願いします」
レオナルドお兄様は一度頷いた後、少し真剣な表情になった。
「ただし、ダニエル本人が協力するかどうかは確認しよう。彼にとっても危険な役目だからね」
「もちろんです。無理強いするつもりはありません」
私はダニエルへ視線を向けた。
「ダニエル。今のお話は聞いていましたね?」
「……はい」
「貴方に、もう一度あの方々と接触していただきたいんです。ただし、危険を伴いますので、断っていただいても構いません」
ダニエルは俯き、しばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと顔を上げる。
「……妻と娘を、助けられる可能性があるのですね?」
「はい。ただし、必ず助けられるとお約束することはできません」
「それでも、構いません」
ダニエルは拳を握り締めた。
「どうか、私にも協力させてください」
私は頷いた。
「分かりました。では、一緒に奥様と娘さんを取り戻しましょう」
これで、作戦の方針は決まった。
暗殺者たちには、成功したと報告していただく。
ダニエルには、家族の返還を要求していただく。
そして、仲介者が誰かに確認を取りに動いたなら、その先を追う。
……さて。
これで少しでも、私の平穏な生活に近づければいいのだけれど。
「では、暗殺者の皆さんにも協力していただきましょう」
私がそう告げると、男たちは互いに顔を見合わせた。
「……俺たちに、何をさせるつもりだ?」
「先ほどお話ししたとおり、報酬を受け取りに行っていただきます」
「俺たちを解放するのか?」
「いいえ。監視は付けますし、逃げようとすれば捕らえます」
「……」
「ただ、協力してくださったことは、きちんと記録に残します」
一人の男が眉を寄せた。
「協力すれば、罪が軽くなるのか?」
「それを決めるのは私ではありません」
私は首を横に振った。
「ですが、協力したという事実は隠しません。それ以上のお約束はできません」
男たちが黙り込む。
当然だろう。
彼らにとって、私の提案を受け入れることにどれだけの意味があるのか、簡単には判断できないはずだ。
けれど、今の彼らには選択肢がある。
協力するか、しないか。
私はその返答を待った。
しばらくして、最初に口を開いた男が深く息を吐いた。
「……分かった。案内する」
「ありがとうございます」
私は頭を下げた。
男は何とも言えない顔をしている。
まあ、殺そうとした相手に礼を言われるとは思っていなかったのだろう。
「お兄様。では、準備をお願いします」
「うん。父上にも事情を説明しておくよ」
「……お父様に?」
「当然だろう? 王族が行方不明になったという報告を流すんだから」
「……ですよね」
できれば、すべてが終わってから報告したかった。
いや、別に怒られるのが怖いわけではない。
ただ、説明が面倒なだけだ。
「リリアーナ」
「はい?」
「父上には僕から話しておくけど、後で君からも説明してもらうよ」
「……はい」
逃げ道はなかった。
◇
翌朝。
王城に、一つの報告が広まった。
王位継承権第五位、リリアーナ・プレイング王女殿下が行方不明。
昨夜から所在が確認できず、王城内では捜索が始まっているという。
当然、城中は騒然となった。
王族が行方不明になったのだ。
しかも、ここ最近は暗殺未遂が続いていた。
最悪の事態を想像する者がいても不思議ではない。
……まあ。
本人は自室で朝食を食べているのだけれど。
「サリナ、お茶をお願い」
「かしこまりました」
私は椅子に座り、焼きたてのパンを口へ運んだ。
久しぶりに、誰にも邪魔されずに朝食を楽しめている。
行方不明ということになっている以上、来客もない。
面会の申し込みもない。
当然、仕事の話を持ち込む人もいない。
そして、捜索している騎士も来ない。
何せ捜索の指揮はレオナルドお兄様なのだから。
「……これ、意外と快適ね」
「リリアーナ殿下」
「何?」
「行方不明になっていることを喜ばないでください」
「だって、静かなんだもの」
「今頃、城中の方々が心配なさっておりますよ」
「……」
それは少し申し訳ない。
でも、ここで私が姿を見せたら、せっかくの作戦が台無しになってしまう。
「仕方ないわよ。全部終わったら謝るから」
「その際には、陛下からもお叱りを受けるでしょうね」
「……」
考えないようにしていたことを言わないでほしい。
私はパンを置き、深くため息を吐いた。
「……早く終わらないかしら」
「まだ始まったばかりでございます」
「分かってるわよ」
分かっている。
分かっているけれど。
早く終わってほしい。
◇
その頃、王都の一角では、一台の荷馬車がゆっくりと進んでいた。
荷台には、昨夜捕らえられた暗殺者たちが乗っている。
そして、今回はもう一人。
ダニエル・フォードも同行していた。
彼の役割は、暗殺が成功したことを証言すること。
そして、妻と娘の返還を要求することだった。
周囲には、商人や通行人に紛れた騎士たちが配置されている。
暗殺者たちが逃走を図った場合や、仲介者が不審な動きを見せた場合には、すぐに対応できるよう準備されていた。
やがて荷馬車は、大通りを外れて細い道へ入った。
向かう先は、依頼を仲介した人物との連絡場所。
そこから先に何が待っているのかは、暗殺者たちにも分からない。
ただ一つ確かなのは、王城で第五位が行方不明になったという報告が広まっていることだった。
そして、荷馬車は目的の建物の前で止まった。
「……ここだ」
暗殺者の一人が呟く。
御者が手綱を引き、馬を止める。
建物の扉は閉ざされていた。
男は荷台から降りると、周囲を一度確認してから扉へ近づいた。
そして、決められた間隔で扉を叩いた。
しばらくして、中から声が聞こえた。
「……誰だ?」
「仕事を終えた」
「何の仕事だ?」
男は一瞬だけ躊躇った。
けれど、すぐに答えた。
「第五位だ」
扉の向こうが静かになった。
やがて、男たちが事前に聞かされていた返答が返ってきた。
間違いない。
ここが、報酬を受け取るための連絡場所だ。
しばらくして、鍵の外れる音がした。
「……入れ」
男はゆっくりと扉を開いた。
建物の中は薄暗く、奥に一人の人物が立っている。
「第五位を始末したのか?」
「ああ。王城でも行方不明になったと騒いでいるはずだ」
「……それは聞いている」
男は息を呑んだ。
王城の情報が、既にここまで届いている。
「遺体は?」
「運べなかった。王城の警備が厳しくなっていたからな」
「それで、何を根拠に仕事が終わったと判断しろと言うんだ?」
男の声が低くなる。
暗殺者が答えようとした、その時だった。
「……私が証言します」
背後から声がした。
男が視線を向けると、そこには一人の騎士が立っていた。
「……お前は」
「ダニエル・フォードです」
男の目が僅かに見開かれる。
「お前が、なぜここにいる?」
「約束を果たしていただくためです」
「……約束?」
ダニエルが一歩前へ出た。
「私は、言われたとおりにしました。殿下の行動予定も、警備の情報も、すべて渡しました」
「……」
「その結果、殿下は襲撃され、今も行方が分かっていません。王城では捜索が始まっています」
男は黙ったまま、ダニエルを見つめている。
「だから、もういいでしょう?」
「何がだ?」
その言葉を聞いた瞬間、ダニエルの表情が歪んだ。
「妻と娘を返してくれ!」
建物の中に、悲痛な叫びが響いた。
「私は言われたとおりにした! 殿下の情報も渡した! あんたたちの言うことを全部聞いたじゃないか!」
「……声を落とせ」
「もう十分だろう! これ以上、何をしろと言うんだ!」
ダニエルは拳を握り締め、男を睨みつけた。
「妻と娘はどこにいる! 無事なんだろうな!」
男はしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりと息を吐く。
「……落ち着け。お前の家族については、こちらで確認する」
「確認だと?」
「仕事が終わったことを確認できれば、約束どおりにする」
「その言葉を、何度聞いたと思っている!」
ダニエルがさらに詰め寄ろうとすると、暗殺者の一人が慌てて腕を掴んだ。
「おい、やめろ!」
「離せ!」
「ここで騒いだって仕方ないだろう!」
男はその様子をじっと見つめていた。
そして、やがて口を開いた。
「……分かった。上に確認を取る」
ダニエルの動きが止まった。
「上……?」
「ああ。俺の一存では決められない」
男はそう答えると、奥の扉へ向かって歩き始めた。
ダニエルはその背中を見つめながら、荒い息を整えようとしていた。
妻と娘を取り戻したい。
その思いに、嘘はない。
そして、その必死の訴えが、男に次の行動を取らせた。
◇
建物の裏口から、一人の男が出てきた。
周囲を見回した男は、何事もなかったかのように通りを歩き始める。
その姿を、少し離れた場所から見ている者がいた。
レオナルドが手配した密偵である。
密偵は男の後を追いながらも、一定の距離を保っていた。
相手がどこへ向かうのか。
誰と接触するのか。
それを確認することが、今回の役目だった。
やがて男は王都の貴族街へ入り、一軒の屋敷の前で足を止めた。
門番に何かを告げると、すぐに中へ通される。
密偵は屋敷の位置を確認し、別の場所で待機していた仲間へ合図を送った。
しばらくして、屋敷の所有者についての情報が集まってきた。
そこは、貴族派に属する貴族の屋敷だった。
もっとも、貴族派に属しているというだけで、暗殺事件に関与していると決めつけることはできない。
問題は、仲介者が何をしに来たのかということだった。
密偵たちは屋敷を監視しながら、男が再び出てくるのを待った。
やがて、男が姿を現した。
今度は一人ではない。
屋敷の主人と思われる貴族が、門の内側まで付き添っていた。
「第五位の件は、確かなのだな?」
「はい。城内でも行方不明として捜索が始まっております」
「遺体は?」
「まだ確認できておりません。ただ、実行役は成功したと報告しております」
「……そうか」
貴族は少し考え込んだ後、低い声で続けた。
「ならば、報酬を支払っておけ。それから、例の騎士の家族については、まだ解放するな」
「よろしいのですか? 本人が返還を求めておりますが」
「馬鹿者。今解放すれば、余計なことを話すかもしれんだろう」
「承知いたしました」
貴族が屋敷へ戻ると、仲介者も門を離れた。
その会話を、近くで作業をしていた職人に扮した密偵が聞いていた。
会話は声量が極力抑えられており、屋敷内で会話をしないことからも、警戒心が見て取れる。聞いているのが腕利きの密偵でなければ、聞き取ることもできなかっただろう。
男が通りの角を曲がったところで、別の密偵が静かに行く手を塞いだ。
「少々、お話を伺いたい」
「……何者だ?」
男が後ずさる。
しかし、背後にも既に騎士が立っていた。
「王家の命により、身柄を確保する」
「なっ……!」
逃げようとした男は、すぐに取り押さえられた。
その頃、屋敷の門前にも王家の騎士たちが到着していた。
先頭に立つ騎士が、門番へ正式な命令書を示す。
「こちらの屋敷の主人に、第五位王女殿下に対する暗殺未遂事件についてお話を伺いたい」
「な、何を仰っているのですか!?」
「先ほど、暗殺の報酬支払いと人質の拘束継続について指示を出されたことを確認しております」
門番が青ざめる。
屋敷の中から、先ほどの貴族が慌てて姿を現した。
「何事だ! 王家の騎士が、私の屋敷に何の用だ!」
騎士は一歩も退かなかった。
「第五位王女殿下に対する暗殺未遂、および騎士の家族を人質とした脅迫への関与について、身柄を確保いたします」
「ば、馬鹿な! 何の証拠がある!」
「詳しいお話は、正式な取り調べの場で伺います」
貴族は何かを言い返そうとしたが、周囲を囲む騎士たちを見て口を閉ざした。
こうして、暗殺者たちから仲介者へ。
そして、仲介者から貴族派の一人へ。
事件は、ついに王都の貴族社会へと繋がった。
お読み頂き、ありがとうございます。




