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やり過ぎた!  作者: 涙目
第四章 理念対立編

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第二話 千差万別

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

「まず、あなたは現在の王位継承権者をどのように見ていますの?」


「どのように、と言われましても……」


 エレオノーラお姉様に問われ、私は考える。


 王位継承権者。


 第一位から第五位まで。


 私を除けば、全員が王位を目指している。


「お父様の後を継いで王になるために、皆様が競っている……でしょうか?」


「大まかには間違っておりませんわ」


「では、それでいいのでは?」


「よくありません」


 即答された。


 どうやら、この話はすぐには終わらないらしい。


 私は諦めて紅茶へ手を伸ばした。


「リリアーナ。第一位を支持する貴族がいることは知っていますわね?」


「それくらいは」


「私を支持する者がいることも?」


「はい」


「第二位にも、第三位にも?」


「当然でしょう」


「では、あなたには?」


「いません」


「いますわ」


「いません」


「います」


「いません!」


「現実から目を逸らさない!」


「嫌です!」


「子供ですの!?」


 だって認めたくない。


 私を王にしたい人間がいる。


 そんな恐ろしい事実を、どうしてわざわざ認めなければならないのか。


「そもそも、私が第五位になってからまだそれほど経っていませんよ?」


「それが何ですの?」


「普通はもっと様子を見るものでは?」


「ボーリング地方を一年で立て直した王女」


「……」


「第一位と共にピンポン地方へ新たな産業を生み出した王女」


「卓球を教えただけです」


「そしてピーク島の非常事態を収めた王女」


「仕方なくです」


「その上、現在第五位」


「……」


「支持する者が現れない理由がありますの?」


 私は考えた。


「本人にやる気がない」


「支持する側にとっては些細な問題ですわ」


「些細じゃないでしょう!?」


 王になる本人の意思だ。


 一番大事ではないだろうか。


「王位争いとは、王位継承権者本人だけで行うものではありません」


 エレオノーラお姉様は私の抗議を無視して話を進めた。


「それぞれの候補者を支持する貴族がいる。官僚がいる。商人もいます。場合によっては民衆も」


「それは分かります」


「ですが、その支持理由も一つではありません」


「理念への共感、とかですか?」


「もちろん」


 エレオノーラお姉様が頷く。


「この方なら国を良くしてくださる。この方の考えに賛同する。そのような者もおりますわ」


「普通ですね」


「ええ。ですが、当然それだけではありません」


 嫌な予感がする。


「次の王に恩を売りたい」


「……」


「今のうちから側近としての地位を確保したい」


「……」


「自家の権力を拡大したい」


「……」


「王族との婚姻を狙っている」


「……」


「将来の利益を見込んで――」


「もう結構です」


 聞きたくなくなった。


「つまり、本人がどれだけ立派なことを言っていても、その後ろにいる人まで同じ考えとは限らない?」


「その通りですわ」


「面倒ですね」


「政治とはそういうものです」


「やっぱり王位なんていりません」


「その話は今しておりません」


 逃げられなかった。


「そして、どの王位候補にも属していない者もおります」


「中立ですか?」


「ええ」


 それなら分かる。


 誰が王になるかに関係なく、国に仕える。


 特定の候補者へ肩入れしない。


「中立派は、王位争いに必要以上に関与せず、誰が次代の王となっても国へ仕えることを第一としています」


「まともですね」


「言い方」


「失礼しました」


 でも、まともだと思う。


「ただし、中立を名乗る者すべてが本当に中立とは限りません」


「……まだあるんですか?」


「当然でしょう」


 もう嫌だ。


「表向きは中立を保ち、誰が優勢になるかを見極めてから支持を表明する者もおります」


「それは中立ではないのでは?」


「ですから、私はそういった者を中立派とは分けて考えています」


「何と?」


「特に決まった呼び名はありませんわね」


「では、傍観派で」


「……傍観派?」


「はい。遠くから見て、勝ちそうな人が分かってから近づいてくるのでしょう?」


「まあ、そうですわね」


「では傍観派です」


「随分と雑に決めますのね」


「分かればいいんです」


 私は頭の中で整理する。


 第一位から第五位までの各候補を支持する派閥。


 特定の候補を支持しない中立派。


 勝者が見えてから動こうとする傍観派。


「それで全部ですか?」


「いいえ」


「まだあるんですか……」


 思わず顔をしかめる。


 エレオノーラお姉様が紅茶を一口飲んだ。


 そして、少し間を置く。


「貴族派」


「……貴族派?」


「ええ」


 初めて聞く名前だった。


「それは、どなたかを王にしようとしている方々ですか?」


「いいえ」


「では中立派?」


「それも違います」


 なら何なのだろう。


「彼らにとって、誰が王になるかはそれほど重要ではありません」


「……?」


 王位争いの派閥なのに?


「正確に言えば、誰が王になるかよりも、その後の方が重要なのです」


「その後?」


「ええ」


 エレオノーラお姉様がカップを置いた。


「彼らの考えは単純ですわ」


 そして言う。


「王など、お飾りでいい」


「…………」


 今、何て?


「国家の運営は我々貴族が行えばいい。王は国の象徴として玉座へ座っていればいい」


「……」


「王一人が国のすべてを決める必要などない。有力な貴族たちが話し合い、それぞれの得意分野を担当し、国家を運営する方が効率的である」


「……」


「そう考えている者たちです」


 私は少し考えた。


 言っていることの一部だけを見れば、そこまでおかしくはない。


 そもそも王一人ですべてを決めるなんて無理だ。


 財政。


 軍事。


 外交。


 司法。


 農業。


 商業。


 地方行政。


 一人の人間が全部の専門家になる必要はない。


 それぞれに詳しい人へ任せればいい。


 むしろ、その方がいい。


「それだけなら、別に普通なのでは?」


「あら?」


 エレオノーラお姉様が少し意外そうな顔をする。


「王が全部やる必要なんてないでしょう?」


「……続けて」


「専門家がいるなら専門家に任せればいい。詳しくない人が口を出して余計なことをするより、その方が効率的です」


「ええ」


「お父様だって、国中の仕事を全部一人でやっているわけではありませんよね?」


「もちろんですわ」


「なら、貴族に任せること自体は何もおかしくないと思います」


「そうですわね」


 エレオノーラお姉様が微笑んだ。


「では、何が問題だと思います?」


「問題?」


「彼らがそれだけの思想なら、わざわざ私があなたへ警告する必要がありますの?」


「……」


 確かに。


 少し考える。


 王は象徴。


 実務は貴族。


 得意な人間へ任せる。


 そこまではいい。


 むしろ私も賛成だ。


 全部自分で抱える必要なんてない。


 でも。


「……その貴族たちは、誰が選ぶんです?」


 エレオノーラお姉様の口元が少し上がった。


「続けて」


「能力で選ばれるなら分かります。でも、有力貴族が国を運営するということは、家柄で決まるんですか?」


「少なくとも、彼らは自分たちこそがその役目を担うに相応しいと考えていますわ」


「自分たちで?」


「ええ」


「……」


 少し嫌になってきた。


「それで、失敗した場合は?」


「失敗?」


「例えば、その方々が決めた政策で国が大損したとか」


「当然、その政策を主導した者には責任が生じるでしょうね」


「どの程度?」


「場合によりますわ」


「では国全体としての最終責任は?」


「それは王でしょう」


「…………」


 止まった。


 エレオノーラお姉様を見る。


「王?」


「ええ」


「何も決めていないのに?」


「王は国家の最高権力者ですもの」


「でも、お飾りなんですよね?」


「彼らの理想では」


「実権は貴族が持つ」


「ええ」


「政策も貴族が決める」


「そうですわね」


「でも、国として何かあったときに最後に責任を取るのは王?」


「そうなりますわね」


「…………」


 何だ、それ。


 胸の奥に、何かが引っかかった。


 まだ怒るほどではない。


 そもそも私は貴族派のことを何も知らない。


 エレオノーラお姉様から聞いただけだ。


 実際にはもっと複雑な事情があるのかもしれない。


 だから、今の段階で決めつけるべきではない。


 でも。


「……随分と都合がよろしいんですね」


「あら」


「権限は欲しい。でも、最後の責任は王に取らせる」


「リリアーナ?」


「いえ」


 私は紅茶を口へ運んだ。


 少し冷めていた。


「まだ何も知りませんから」


 そう。


 今はそれでいい。


 知らないことを、分かったつもりで判断してはいけない。


 仕事でもそうだった。


 誰かから聞いた話だけで決めつければ、必ずどこかで間違える。


 だから。


「その貴族派については、もう少し知ってから考えます」


「……そう」


 エレオノーラお姉様が私を見つめている。


「何です?」


「いえ」


「気になります」


「あなた、本当に変なところで慎重ですわね」


「変なところとは何ですか」


「普通、今の話を聞けば怒るか、貴族派を敵視するか、どちらかでしょう?」


「エレオノーラお姉様から聞いただけでしょう?」


「ええ」


「でしたら、まだ事実かどうか分かりません」


「私が嘘を言っていると?」


「そうではありません」


 私は首を振った。


「エレオノーラお姉様から見た貴族派と、貴族派自身が考えていることが完全に同じとは限らない、というだけです」


「……」


「それに、同じ貴族派でも全員が同じ考えとは限らないでしょう?」


 エレオノーラお姉様が黙った。


「違います?」


「……いいえ」


 少しして答える。


「その通りですわ」


「なら、今は保留です」


「保留」


「はい」


 私はカップを置いた。


「私は関わりませんから」


「……」


「何です?」


「そこまで話を聞いて、結論がそれですの?」


「はい」


 だってそうだ。


 第一位を支持したい人はすればいい。


 第二位を支持したい人も。


 第三位も。


 エレオノーラお姉様も。


 貴族派だって、今のところは好きに議論すればいいと思う。


 私は関係ない。


 私は王になりたくない。


 だったら。


「触らぬ神に祟りなし、です」


「……何ですの、それは?」


「私の故郷の……」


 危ない。


「いえ。何でもありません」


 前世のことを話すわけにはいかない。


「とにかく、私は余計なことには首を突っ込みません」


「……そう」


「はい」


 今度こそ学んだのだ。


 仕事を増やさない方法を。


 見つけても触らない。


 気づいても首を突っ込まない。


 自分に関係のないことなら、そのまま通り過ぎる。


 それが一番。


 私は残っていた紅茶を飲み干した。


 エレオノーラお姉様から教えられた話は気になる。


 少しだけ引っかかりもする。


 でも、それだけだ。


 私は関わらない。


 王位争いにも。


 貴族派にも。


 絶対に。


 ――このときの私は。


 本気で、そう思っていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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