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やり過ぎた!  作者: 涙目
第三章 サーフィン地方編

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第五話 疲労も重ねれば過労になる

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 翌朝。


「……ちょっと怠い」


 目を覚まし、体を起こす。


 腕が重い。


 肩も少し張っている。


 昨日、何度も板に乗っては海へ落ち、また板を抱えて戻るを繰り返したせいだろう。


「おはようございます、リリアーナ様」


「おはよう、サリナ」


「お疲れですか?」


「ちょっとだけね」


 腕を回してみる。


 痛いというほどではない。


 ただ、いつもより重い。


「昨日、あれだけ海で遊ばれましたから」


「楽しかったもの」


「本日はいかがなさいますか?」


「もちろん遊ぶわよ」


「お休みにならなくても?」


「これくらいなら大丈夫よ」


 せっかくのバカンスだ。


 少しくらい体が重いからといって、部屋に籠もるなんてもったいない。


「それに」


「それに?」


「遊んでれば元気になるわ!」


「そういうものでしょうか」


「そういうものよ」


 たぶん。


 とはいえ、今日も昨日と同じように板を抱えて海へ入るのは少し辛い。


「今日は別のことしましょう」


「別のことですか?」


「ええ。もう少し楽そうなやつ」


「何かございますか?」


「そうね……」


 窓の外を見る。


 今日も天気はいい。


 海辺で。


 昨日とは違って。


 もう少し楽に遊べるもの。


「……あ」


 思い出した。


「ボール」


「ボールですか?」


「ええ。あと、網」


「網?」


「ちょっと試したいことがあるの」


     ◇


「もう少し高く」


「このくらいでしょうか?」


「そうね。たぶん」


 浜辺。


 二本の柱の間に網が張られていく。


 私は少し離れた場所から、その高さを見る。


「……高すぎるかしら」


「先ほど、もう少し高くとおっしゃいませんでしたか?」


「言ったけど」


 前に見たものが、どれくらいの高さだったか。


 そこまでは覚えていない。


「もうちょっと低くして」


「承知しました」


 職人が網を調整する。


 その横では、革で作られたボールをサリナが持っていた。


「これで何をなさるのですか?」


「網の向こうへボールを落とすの」


「投げるのですか?」


「投げない」


「では?」


「こうやって」


 サリナからボールを受け取る。


 軽く上へ放り。


 両手を組んで。


「えいっ」


 腕に当てる。


 ボールが飛んだ。


 網へ。


 当たった。


 そのまま私の方へ落ちてくる。


「……」


「……」


「今のは失敗」


「なるほど」


「そんな顔しないで」


「何も申し上げておりません」


「顔が言ってるのよ」


 もう一度。


 今度は少し下がる。


「えいっ」


 飛んだ。


 網を越えた。


「よし!」


「越えましたね」


「こうやって、向こうとこっちに分かれて、ボールを落とさないように打ち合うの」


「手で?」


「ええ」


「何回でも?」


「確か……」


 何回だったか。


 私は少し考える。


「三回」


「三回?」


「こっち側で触っていいのは三回まで。それまでに向こうへ返す」


「なるほど」


「それで向こう側に落としたら点が入る」


「何点取れば勝ちですか?」


「……」


 何点だったっけ。


 十五?


 二十一?


 二十五?


「とりあえず十点」


「とりあえず」


「遊びなんだからいいのよ」


 正式な競技を作ろうとしているわけではない。


 私たちが楽しめれば十分だ。


「サリナ、向こう」


「私もですか?」


「二人いないとできないでしょう?」


「護衛の方にお願いされては?」


「サリナとやりたいの」


「……分かりました」


 渋々、サリナが網の反対側へ移動する。


「じゃあ、いくわよ」


「はい」


 ボールを上へ。


「えいっ!」


 今度は掌で打つ。


 網を越える。


 サリナが慌てて両腕を出した。


「きゃっ」


 変な方向へ飛んだ。


 砂浜へ落ちる。


「一点!」


「今のでも点なのですか?」


「落ちたから点」


「そういうものなのですね」


「そういうものよ」


 たぶん。


「もう一回!」


 ボールを拾う。


 今度はサリナへ渡す。


「そっちから」


「私が始めるのですか?」


「ええ」


「どうすれば?」


「打って」


「随分と大雑把ですね」


「やれば分かるわよ」


 サリナがボールを上げる。


 手で打つ。


 こちらへ飛んでくる。


「よっ」


 受ける。


 思ったより硬い。


「痛っ」


 しかも変な方向へ飛んだ。


「一点でよろしいですか?」


「……一点」


「ありがとうございます」


「なんか腹立つわね」


「なぜですか?」


 もう一度。


 今度こそ。


     ◇


「五対五!」


「次で勝った方が六点ですね」


「十点先取よ」


「まだ半分ですか?」


「……五点先取にする?」


「先ほど十点とおっしゃいました」


「冗談よ」


 楽な遊び。


 そのつもりだった。


 全然楽じゃない。


「いくわよ!」


 ボールを打つ。


 サリナが受ける。


 高く上がる。


「きゃっ!」


 サリナが追いかける。


 間に合わない。


「六点!」


「今のはずるくありませんか?」


「どこが?」


「随分端に打たれました」


「落としたら点なんだから、落とせるところに打つでしょう?」


「なるほど」


 サリナの目が変わった。


「……何?」


「いえ」


 次。


 サリナが打つ。


「えっ」


 思い切り端へ飛んできた。


「ちょっ!」


 走る。


 腕を伸ばす。


 届かない。


「六点ですね」


「…………」


「落とせるところに打つのでしょう?」


「覚えるの早くない?」


「リリアーナ様に教えていただきましたので」


 腹が立つ。


 楽しいけど。


 さっきまで感じていた体の怠さなんて、もう完全に忘れていた。


「もう一回!」


「はい」


 そこから、勝負はさらに白熱した。


 そして。


「何してるんですか?」


 声に振り返る。


 昨日、板で波に乗っていた島の若者が立っていた。


「遊んでるの」


「それは見れば分かります」


「やる?」


「いいんですか?」


「もちろん」


 私は周囲を見る。


 一人増えるなら。


「もう一人いない?」


「おーい!」


 すぐに呼んできた。


 四人。


「二人ずつにしましょう」


「どうやるんです?」


「こっちに二人。向こうに二人」


 簡単にルールを説明する。


 三回までに返す。


 地面に落ちたら相手の点。


 網を越えなかったら相手の点。


「分かりました」


「じゃあ始めましょう」


 四人になった。


 一人では取れなかったボールを、もう一人が拾える。


 自然と声が出る。


「そっち!」


「任せろ!」


「上がった!」


「返せ!」


 ボールが行ったり来たりする。


「これ楽しいな!」


「でしょう?」


 私が胸を張る。


 その声を聞いたのか。


「何してるの?」


「新しい遊びだって」


「俺もやりたい」


「次、入れてくれ!」


 また人が増えた。


「じゃあ三人ずつ?」


「いいですね!」


 人数が増える。


 また増える。


 気づけば、交代しながら遊ぶことになっていた。


「リリアーナ様」


「何?」


「また人が集まっておりますね」


「いいじゃない」


 私は砂を払いながら答える。


「海辺なんだから、みんなで遊んだ方が楽しいでしょう?」


「そうですね」


 少し離れた海では、昨日作った板を使っている人たちがいる。


 こちらではボールを追いかける人たち。


 浜辺が昨日より賑やかになっていた。


「……お腹空いた」


「かなり動かれましたから」


「何か食べたいわね」


「宿へお戻りになりますか?」


「うーん」


 海を見る。


 戻るのも面倒だ。


「ここで食べられたらいいのに」


 そう呟いたときだった。


「殿下」


「何?」


 近くで見ていた男が、おずおずと声を掛けてきた。


「食べ物でしたら、持ってまいりましょうか?」


「あるの?」


「店は少し離れておりますが」


「じゃあお願いしてもいい?」


「はい!」


 男が走っていく。


 しばらくすると、焼いた魚と飲み物を抱えて戻ってきた。


「ありがとう!」


「いえ!」


 受け取って、その場で食べる。


「美味しい!」


 遊んだ後だから余計に美味しい。


「サリナも食べる?」


「いただきます」


 周りで遊んでいた人たちも休憩を始める。


「俺も何か食いたいな」


「飲み物欲しい」


「買ってくるか」


 何人かが浜辺を離れていった。


 私は魚を食べながら、その様子を眺める。


「楽しいわね」


「はい」


 海がある。


 食べ物も美味しい。


 明日も休み。


「最高じゃない」


 私は満足して頷いた。


     ◇


 翌朝。


「…………」


 目は覚めている。


 でも、動きたくない。


「リリアーナ様。朝でございます」


「サリナ」


「はい」


「起きられない」


「眠いのですか?」


「違う」


 腕を動かす。


「痛い……」


 足を動かす。


「痛い……」


 体を起こそうとする。


「いったぁ……」


「昨日、あれだけ動かれましたから」


「おかしいわ」


「何がですか?」


「昨日の朝は、ちょっと怠いだけだったのよ?」


「その状態で一日中遊ばれましたから」


「遊べば元気になったのに」


「疲れがなくなったわけではなかったのでしょう」


「…………」


 騙された。


 誰にとは言わない。


 昨日の私にだ。


「本日はどうなさいますか?」


「……休む」


「はい」


「絶対に休む」


「それがよろしいかと」


「今日は一歩も外に出ない」


「承知いたしました」


「何もしない」


「はい」


「これぞ休養よ」


「ようやくですね」


「うるさいわよ」


 布団を被る。


 今日は休む。


 今度こそ本当に何もしない。


 遊ぶために休む。


 その事実には少し納得がいかなかったけれど。


 これもきっと。


 立派なバカンスなのだ。

お読み頂き、ありがとうございます。

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