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やり過ぎた!  作者: 涙目
第三章 サーフィン地方編

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第四話 最初に考えた者が一番上手にできるとは限らない

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 翌朝。


 目が覚めた私は、しばらく天井を眺めていた。


「……」


 何かあった気がする。


 今日、何かすることがあったような。


 仕事。


 ない。


 視察。


 終わった。


 報告。


 王都へ戻ってからでいい。


「…………」


 私はゆっくりと起き上がった。


「何もない」


 素晴らしい。


 今日の予定が何もない。


「サリナ!」


「はい」


 隣室にいたサリナが入ってくる。


「今日の予定は?」


「ございません」


「本当に?」


「はい」


「視察は?」


「昨日終わりました」


「誰かとの面会は?」


「ございません」


「お父様から何か届いてない?」


「届いておりません」


「……本当に休み?」


「本当にお休みです」


「やった!」


 両手を上げる。


 ようやく。


 ようやくだ。


「サリナ、海に行くわよ!」


「朝食は?」


「食べてから!」


「着替えは?」


「する!」


「では、まずご準備ください」


「分かったわ!」


 今度こそ。


 本当のバカンスだ。


     ◇


「海!」


「昨日もご覧になりましたよね?」


「見るのと遊ぶのは違うの!」


 白い砂浜。


 青い海。


 雲一つない空。


 完璧だ。


 波打ち際まで走り、靴を脱ぐ。


「冷たっ!」


 一歩入った瞬間、足元を波がさらっていく。


「ふふっ」


 もう一度。


 今度は少し深いところまで。


「リリアーナ様、あまり沖へは行かれませんように」


「分かってるわよ」


 泳ぎに自信があるわけではない。


 無茶をするつもりもない。


 それでも、寄せては返す波を見ているだけで楽しかった。


「……波」


「はい?」


「そういえば」


 何か引っ掛かった。


 海。


 波。


 サーフィン地方。


「サーフィン」


「はい。こちらはサーフィン地方ですが」


「違うの」


 前世にも同じ名前のものがあった。


 板の上に立って、波に乗る遊び。


「……あれ、楽しそうだったのよね」


「何がですか?」


「サーフィン」


「地方名ではなく?」


「遊び」


 私は海を見る。


 程よく波がある。


 前世では、映像で見たことしかない。


 実際にやったことは一度もない。


 でも。


「板があればできるんじゃない?」


「何をなさるおつもりですか?」


「ちょっと待ってて」


「リリアーナ様?」


 思いついてしまった。


     ◇


「こういう板が欲しいの」


「板、でございますか?」


「ええ」


 浜辺の近くで仕事をしていた職人に頼み、地面へ簡単な形を描く。


「人が一人乗れるくらいで、水に浮くもの」


「船ではなく?」


「船じゃないわ」


「では、何に使うので?」


「波に乗るの」


「……波に?」


「そう」


 職人が海を見る。


 私を見る。


 もう一度海を見る。


「板で?」


「板で」


「……」


 ものすごく不安そうな顔をされた。


「大丈夫よ。沖まで行くつもりはないから」


「はあ……」


「作れそう?」


「浮かせるだけでしたら」


「お願い!」


 正確な形なんて覚えていない。


 長細かった。


 先端が少し丸かった。


 たぶんそんな感じ。


 細かいことは分からない。


 そもそも私はサーフィンをしたことがない。


 なら、とりあえず試してみればいい。


 そしてしばらくして。


「できました」


「早い!」


「板ですから」


 確かに。


 見た目はかなり単純だ。


「では」


「お待ちください」


 海へ向かおうとした私をサリナが止めた。


「何?」


「まさか、お一人で試されるおつもりではございませんよね?」


「浅いところでやるわよ」


「護衛を付けます」


「……はい」


 こういうところは厳しい。


 でも、遊ばせてもらえるだけいいか。


 板を抱えて海へ入る。


 まずは浅い場所。


「確か……」


 板の上に腹這いになる。


 波が来る。


「今!」


 手で水を掻く。


 板が進む。


「おお!」


 波に押された。


 いける。


 これなら。


「立つ!」


 体を起こす。


「きゃっ!」


 ひっくり返った。


「…………」


「リリアーナ様!」


「大丈夫!」


 浅い。


 足もつく。


「もう一回!」


 板を戻す。


 波を待つ。


 乗る。


 立つ。


「わっ!」


 落ちる。


「もう一回!」


 乗る。


「今度こそ!」


 落ちる。


「もう一回!」


「リリアーナ様」


「まだ!」


     ◇


「……難しい」


 砂浜に座り込み、私は板を睨んでいた。


 何回やっただろう。


 一度もまともに立てていない。


「簡単そうに見えたのに」


「初めてなさったのでしょう?」


「そうだけど」


「でしたら当然では?」


「でも悔しい」


 前世で見た人たちは、もっと簡単そうにやっていた。


 板の上に立って、波の上を滑っていた。


「もう一回」


「少しお休みください」


「あと一回」


「先ほどもそうおっしゃいました」


「今度こそいける気がするの」


「先ほどもそうおっしゃいました」


「……」


 サリナが強い。


 仕方なく休んでいると。


「あの」


「ん?」


 声を掛けてきたのは、島の若い男性だった。


 日に焼けている。


 漁師だろうか。


「それ、俺もやってみていいですか?」


「これ?」


「はい」


 板を指している。


「いいけど」


「ありがとうございます!」


 彼は嬉しそうに板を持って海へ入った。


 私がやっていたのを見ていたらしい。


 腹這いになり。


 波に乗り。


 立とうとして。


「うわっ!」


 落ちた。


「ふふっ」


 ちょっと安心した。


「やっぱり難しいでしょう?」


「難しいですね」


「そうでしょう?」


 なぜか勝ち誇る。


 だが。


「もう一回いいですか?」


「どうぞ」


 二回目。


 落ちた。


 三回目。


 少し立った。


「……」


 四回目。


「おおっ!」


 立った。


 そのまま数瞬。


 波に押されて進んだ。


「…………」


 私は無言で立ち上がった。


「サリナ」


「はい」


「私、もう一回やる」


「休憩中です」


「今の見たでしょう!?」


「見ました」


「四回よ!?」


「お上手でしたね」


「私、何回やったと思ってるの!?」


「数えておりません」


「私も数えてないわよ!」


 板に乗っていた男性が戻ってくる。


「これ、面白いですね!」


「でしょう!?」


「もう一回やっても?」


「いいわよ!」


「リリアーナ様?」


「私もやる!」


「板は一枚しかございませんよ」


「……」


 そうだった。


 私は職人を見る。


 職人もこちらを見ていた。


「……もう何枚か作れる?」


「作れますが」


「お願い」


「何枚ほど?」


 私は周囲を見る。


 いつの間にか人が集まっていた。


 さっきの男性が波に乗ったのを見て、興味を持ったらしい。


「私もやってみたい」


「面白そうだな」


「どうやって乗るんだ?」


 声が聞こえてくる。


「……とりあえず五枚?」


「承知いたしました」


「リリアーナ様」


「何?」


「増えましたね」


「何が?」


「遊ぶ方が」


「いいじゃない。みんなでやった方が楽しいでしょう?」


「そうですね」


 その日の午後。


 板は五枚では足りなくなった。


     ◇


「なんで?」


 私は砂浜に座っていた。


 目の前では何人もの島民が板を使って波に乗っている。


「おおっ!」


「今のすごいぞ!」


「次、俺!」


「待て! 俺が先だ!」


 楽しそうだ。


 とても楽しそうだ。


「なんでみんな私より上手いの?」


「普段から海に慣れておられるからでは?」


「私が考えたのに」


「考えた方が一番上手とは限りませんから」


「それはそうだけど……なんか悔しい」


 一番最初に始めた私より、後から始めた人たちの方が上手い。


 納得がいかない。


「もう一回やりますか?」


「……やる」


 立ち上がろうとして。


 腕が重い。


 足も疲れている。


「…………」


「お休みになられては?」


「……そうする」


 今日は負けを認めよう。


 休養に来て筋肉痛になったら意味がない。


 砂浜へ寝転がる。


「あー……」


 気持ちいい。


 波の音。


 潮風。


 遠くから聞こえる楽しそうな声。


「サリナ」


「はい」


「休みって素晴らしいわね」


「そうですね」


「明日は何しようかしら」


 サリナが少し考える。


「何もしない、という選択肢もございますよ」


「それもいいわね」


 私は目を閉じる。


 何も決まっていない。


 明日も休み。


 明後日も休み。


 好きなことをしていい。


 これこそ私が求めていた生活だ。


 このときの私は。


 ピーク島での休養が、このまま穏やかに続くものだと信じていた。

お読み頂き、ありがとうございます。

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