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やり過ぎた!  作者: 涙目
第三章 サーフィン地方編

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第三話 視察は視察、それ以上でも以下でもない

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 港を離れ、次に案内されたのは物資を保管している倉庫だった。


「大きいわね」


「本土から運ばれてきた物資の多くを、こちらで一度保管しております」


 中へ入る。


 積まれているのは穀物の入った袋や木箱、樽など。


 港で下ろされていた荷物の行き先がここらしい。


「全部、本土から?」


「いえ。島内で作られたものもございます。ただ、穀物などはこちらへ頼る割合が高いですね」


「どのくらい置いてあるの?」


「時期によって変わります」


「今は?」


 担当者が答える。


 数字だけ聞いても分かりにくい。


「それって、船が来なかったら何日くらい持つの?」


「島民だけでしたら、しばらくは問題ございません」


「島民だけ?」


「観光客の数によって変わりますので」


「ああ、そういうこと」


 住んでいる人間だけを基準にはできない。


 ピーク島には観光客もいる。


 当然、私たちのような滞在者も食料を消費する。


「一番人が多い時期でも大丈夫?」


「数日船が出ない程度でしたら」


「なら、ちゃんと考えてあるのね」


「島でございますから」


「それもそうね」


 天候次第で船が出ないことくらい、昔からあるはずだ。


 そこに何の備えもない方がおかしい。


「保存できる食料はここだけ?」


「他にもございます」


「分散してるの?」


「はい。一か所にまとめてしまいますと、火災などが起きた際にすべて失う恐れがございますので」


「なるほど」


 ちゃんとしている。


 私は倉庫の中を一通り見回した。


「ここは特に問題なさそうね」


「ありがとうございます」


「私にお礼を言われても困るけど」


 別に私が評価するために来たわけでもない。


 見てこいと言われたから見ているだけだ。


「次は?」


「島内の集落をご案内いたします」


「お願い」


 倉庫を出る。


 外へ出た途端、また海の香りがした。


「……」


「リリアーナ様?」


「何でもないわ」


 遊ぶのは後。


 先に終わらせる。


     ◇


 集落を歩いてみても、特に変わったところはなかった。


 家が並び。


 店があり。


 島民たちが普通に生活している。


 観光客向けの宿もいくつかある。


「最近、宿が増えたの?」


「はい。島を訪れる方が増えておりますので」


「繁盛してる?」


「時期にもよりますが、おかげさまで」


「そう」


 いいことだ。


 人が来る。


 宿を使う。


 食事をする。


 物を買う。


 島にお金が落ちる。


 それで住民の生活が良くなっているなら、何も問題はない。


「困ってることは?」


 案内してくれている責任者へ聞く。


「困っていること、でございますか?」


「せっかく来たんだから、何かあるなら聞いておこうと思って」


「そうですね……」


 少し考える。


「やはり、先ほどお話しした船でしょうか」


「船?」


「今すぐ困っているわけではございません。ただ、観光客が増え、島へ運ぶ物資も増えておりますので」


「やっぱり余裕はないのね」


「はい」


 港で聞いた話と同じだ。


 今は回っている。


 けれど、このまま人が増え続ければ、そのうち問題になるかもしれない。


「他には?」


「大きなものは特には」


「そう」


 ならいい。


 問題を探し出す必要なんてない。


 何もないなら、それが一番だ。


 その後も島内を一通り見て回った。


 漁師たちが使う場所。


 井戸。


 観光客の多い一帯。


 特に変わったものはない。


 そして。


「本日ご案内する場所は以上となります」


「終わり?」


「島内につきましては」


「島内につきましては?」


 嫌な付け加え方だ。


「陛下からは、サーフィン地方全体の様子もご覧いただければと伺っておりますので、本土側も少しご覧いただければ十分かと」


「……」


 そうだった。


 ここはピーク島。


 サーフィン地方の一部だ。


「どのくらい?」


「港と周辺の主要な街道をご覧いただく程度でよろしいかと思います」


「明日で終わる?」


「十分かと」


「なら明日行きましょう」


 あと一日。


 それで終わり。


「サリナ」


「はい」


「明日で終わるって」


「よかったですね」


「ええ」


 明日。


 明日さえ終われば。


 その後は本当に休養だ。


     ◇


 翌朝、本土へ渡った。


 昨日気になった船についても、実際に乗ってみれば特に問題はない。


 揺れる。


 それは船だから仕方がない。


「気持ちいいわね」


「そうですね」


「これが終わったら、もう一回くらい船に乗ってもいいかも」


「随分お気に召したようですね」


「景色がいいもの」


 そんなことを話しているうちに本土へ到着する。


 こちらの港はピーク島よりずっと大きかった。


 船の数も多い。


 荷物も多い。


「ピーク島へ運ぶ荷物もここから?」


「主にこちらからとなります」


「なるほど」


 昨日、島で見た物資の出発地点ということだ。


 港を確認する。


 特に大きな問題はなさそうだった。


 ピーク島への船が不足気味なのは気になるが、それもすでに聞いている。


「次は街道?」


「はい」


 港を出て、主要な街道を進む。


 馬車の往来は多い。


 ピーク島だけではなく、この周辺一帯の物流に使われているのだろう。


 そして、しばらく進んだところで。


「……古いわね」


 大きな石造りの橋が見えてきた。


「こちらの橋でございますか?」


「ええ」


 人だけでなく、荷物を積んだ馬車も次々と渡っている。


 近づけば、補修した跡も目についた。


「いつ頃造られたの?」


 答えを聞く。


「かなり前ね」


「はい。ただ、定期的に点検と補修は行っております」


「最近は?」


「少し前にも一部を補修しております」


「そう」


 橋を渡りながら周囲を見る。


「雨が酷いときは?」


「水量が増えますので、状況によっては通行を止めております」


「実際に止めたことはある?」


「何度かございます」


「なら、危なくなったらちゃんと止めてるのね」


「はい」


 それなら、今すぐどうこうという話ではない。


 ただ。


 古いのは事実だ。


「これもお父様に言っておくわ」


「橋のことでございますか?」


「ええ。ちゃんと点検してるみたいだから、今すぐ何かする必要はなさそうだけど」


 私は橋をもう一度見る。


「いつまでも補修だけで使い続けられるものでもないでしょう?」


「そうですね」


「そのうち架け替えるのか、もっと大きく補修するのか。一度考えておいた方がいいんじゃない、くらいで」


「承知いたしました」


 それでいい。


 船も同じ。


 橋も同じ。


 今すぐ困っているわけではない。


 でも、これから先を考えるなら、一度検討してもいい。


 それを伝える。


 私がやるのはそこまでだ。


「他は?」


「主要な場所につきましては、以上となります」


「……以上?」


「はい」


「本当に?」


「はい」


 私はサリナを見る。


「終わった?」


「終わったようですね」


「…………」


 やった。


「では、ピーク島へ戻りましょう」


「もう少し本土をご覧になられますか?」


「見ません」


 即答した。


 必要なところは見た。


 これ以上は視察ではなく観光になる。


 観光ならピーク島で十分だ。


「気になったのは船と橋くらいね」


「はい」


「お父様への報告はそれでいいでしょう」


 今すぐ対処が必要な問題はなかった。


 それが分かっただけでも十分だ。


「帰りましょう、サリナ」


「はい」


「これで終わりよ」


「はい」


「明日からは?」


「お休みです」


「……ふふっ」


 笑いが込み上げる。


「リリアーナ様?」


「何でもないわ」


 ようやくだ。


 お父様から頼まれた仕事を終わらせ。


 ついでに頼まれた視察も終わらせた。


 もう何も残っていない。


 ピーク島へ戻ったら。


 今度こそ。


 本当のバカンスの始まりだ。

お読み頂き、ありがとうございます。

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