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やり過ぎた!  作者: 涙目
第一章 ボーリング地方編

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第二十一話 仕事をしていると月日が流れるのは早い

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 それから。


 ガーター領の問題を片づけるまで、さらに十日ほどかかった。


 バルド・ケインの供述と帳簿を照合し、不正に関係した金額を確定。


 倉庫に保管されていた物資は全て領の管理下へ移した。


 グランド商会についても調査を行ったが、商会長が不正そのものに関与していた証拠は見つからなかった。


 ただし。


「三年間も部下に任せきりで、確認印だけ押してた責任はあります」


「……はい」


「今後、公共事業を一人に任せるのは禁止」


「はい」


「発注する人、確認する人、支払いを確認する人を分けて」


「承知いたしました」


「納品記録も必ず残す」


「はい」


「余った資材も全部記録」


「はい」


「分かりました?」


「はい……」


 ゴルド・グランドは、最初に会ったときより一回り小さくなったように見えた。


 もちろん実際に縮んだわけではない。


 たぶん。


 そして。


「オズワルド伯爵」


「はい」


「あなたもです」


「……はい」


「領のお金でしょう?」


「はい」


「ちゃんと確認してください」


「面目次第もございません」


「私、もうすぐここからいなくなるんですからね?」


「承知しております」


「次に来たとき、また同じことになってたら」


「……」


「怒りますよ?」


「肝に銘じます」


 よし。


 これで。


 ガーター領。


 終了。


 ようやく次へ行ける。


 このときの私は、そう思っていた。


 ◇


 次の領。


「……」


「リリアーナ様?」


「サリナ」


「はい」


「何これ」


「税の徴収記録でございます」


「それは分かる」


 分かるけど。


「去年より収穫量減ってるのに、税収増えてるんだけど」


「左様でございますね」


「なんで?」


「確認いたしますか?」


「…………」


 見つけてしまった。


「して」


「承知いたしました」


 結果。


 徴税を担当していた役人が、勝手に税率を上げていた。


「なんで!?」


「その……」


「領主が決めた税率があるでしょう!?」


「はい」


「なんで勝手に変えるのよ!」


「……」


「戻して!」


「はい!」


「取り過ぎた分も確認!」


「はい!」


「返せるところは返す!」


「はい!」


 予定。


 五日。


 滞在。


 十二日。


「……」


「次へ参りましょう」


「帰りたい」


「まだ一年は終わっておりません」


「知ってるわよ!」


 ◇


 次。


「橋?」


「はい」


「壊れた?」


「はい」


「いつ?」


「二年前に」


「なんで直してないの?」


「予算が」


「あるじゃない」


「……」


「ここ」


「……はい」


「橋梁修繕費」


「はい」


「毎年計上されてるわよね?」


「……」


「橋、壊れたままよね?」


「……」


「お金どこ?」


「……」


 また。


 調査。


 今度は不正ではなかった。


 予算は確保されていた。


 しかし。


 申請。


 承認。


 再申請。


 確認。


 差し戻し。


 再提出。


 そして。


 誰も。


 最後まで追っていなかった。


「二年!?」


「はい」


「二年間、書類が行ったり来たりしてただけ!?」


「……はい」


「直しなさいよ!」


 直した。


 ◇


 次。


「……サリナ」


「はい」


「問題ない」


「左様でございますね」


「本当に?」


「はい」


「帳簿も?」


「問題ございません」


「税も?」


「適正です」


「道は?」


「整備されております」


「農地は?」


「問題ございません」


「治安は?」


「良好です」


「…………」


 私は。


 領主を見る。


「素晴らしい!」


「は?」


「あなた素晴らしいわ!」


「あ、ありがとうございます?」


「何もしなくていい!」


「……はい?」


「そのまま!」


「は、はい」


「サリナ!」


「はい」


「休むわよ!」


「かしこまりました」


 三日。


 滞在予定。


 三日。


 全部。


 休んだ。


 温泉。


 食事。


 昼寝。


 読書。


「……幸せ」


「何よりでございます」


「こういうのでいいのよ」


 本当に。


 こういうので。


 いい。


 ◇


 次。


「問題です」


「嫌」


「まだ内容を申し上げておりません」


「問題って言ったでしょう?」


「はい」


「嫌」


「確認なさらないので?」


「…………する」


 ◇


 次。


「問題ございません」


「よし!」


 休んだ。


 ◇


 次。


「問題が」


「嫌!」


 働いた。


 ◇


 次。


「問題は」


「どっち!?」


「ございません」


「先に言って!」


 休んだ。


 ◇


 そんなことを。


 何度も。


 何度も。


 繰り返した。


 ストライク領。


 ガーター領。


 そのほかにも。


 ボーリング地方に存在する数多くの領を回った。


 問題のある領。


 問題のない領。


 問題はあるけれど、領主自身で解決できる領。


 問題があることにすら気づいていない領。


 優秀な領主もいた。


 真面目だけれど要領の悪い領主もいた。


 仕事を部下へ任せすぎている領主もいた。


 全部自分でやろうとして、逆に仕事を滞らせている領主もいた。


 私は。


 別に。


 改革したかったわけではない。


 問題を見つけたら。


 原因を調べて。


 必要なら直す。


 それだけ。


 同じ問題が起きそうなら。


 もう起きないようにする。


 それだけ。


 だって。


 同じ問題が起きたら。


 また仕事をしなければならないから。


 絶対に嫌だ。


 だから。


 発注方法を変えた。


 納品記録を統一した。


 税の徴収方法を整理した。


 領ごとに違っていた報告書の形式も、ある程度揃えた。


 誰が確認したのか分からない書類には、確認者の名前を残させた。


 領内だけで処理できない問題については、統括代官府へ報告する仕組みを作った。


 そして。


 問題のない領では。


 何もしなかった。


 本当に。


 何もしなかった。


「リリアーナ様」


「何?」


「本日は何を?」


「昼寝」


「明日は?」


「市場に行く」


「視察でございますか?」


「買い物」


「左様でございますか」


「問題ないんでしょう?」


「はい」


「じゃあ働かない」


「かしこまりました」


 これ。


 大事。


 働く必要がないなら。


 働かない。


 私は。


 そのために。


 働いているのだから。


 ◇


 季節が変わった。


 春。


 夏。


 秋。


 冬。


 そして。


 再び春が近づいた頃。


「リリアーナ様」


「何?」


「本日で」


 サリナが。


 少しだけ。


 笑った。


「一年でございます」


「…………」


 私は止まった。


「一年?」


「はい」


「本当に?」


「はい」


「今日?」


「本日です」


「…………」


 私は。


 ゆっくり。


 椅子から立ち上がった。


「終わった?」


「はい」


「私の?」


「はい」


「統括代官?」


「陛下より命じられた期間は、本日までとなります」


「…………」


 終わった。


「終わったああああああ!」


「リリアーナ様」


「終わった!」


「はい」


「一年!」


「はい」


「一年よ!」


「はい」


「帰れる!」


「おめでとうございます」


「帰る!」


「はい」


「今日帰る!」


「さすがに本日は」


「じゃあ明日!」


「帰還の準備がございますので」


「いつ!?」


「三日後には」


「長い!」


「一年に比べれば」


「短い!」


「では、よろしいのでは?」


「……そうね!」


 三日。


 待つ。


 一年。


 待った。


 それくらい。


 待てる。


「荷物!」


「すでに準備を始めております」


「さすがサリナ!」


「ありがとうございます」


「あと」


 私は。


 思い出す。


「報告書」


「はい」


 この一年。


 回った。


 領。


 全部。


「各領から出てる?」


「はい。最終報告書を提出するよう、事前に通達しております」


「全部持って帰る」


「承知いたしました」


「一枚も忘れないで」


「はい」


「特に」


 ガーター領。


「最初の頃のやつ」


「もちろんでございます」


「街道」


「はい」


「水路」


「はい」


「グランド商会」


「はい」


「全部」


「揃っております」


「よし」


 私は。


 笑った。


「何になさるので?」


「決まってるでしょう?」


「陛下へ提出を?」


「ええ」


 提出。


 する。


 ただし。


 普通には。


 渡さない。


「顔面に叩きつける」


「……」


「一年分」


「……リリアーナ様」


「何?」


「国王陛下でございます」


「知ってるわよ」


「顔面に報告書を叩きつけるのは、いかがなものかと」


「じゃあ机」


「それがよろしいかと」


「顔面の前の机」


「……」


「これくらいならいいでしょう?」


「できれば、普通にご提出ください」


「嫌」


「なぜでございますか?」


「あのクソジジイだからよ!」


「リリアーナ様」


「一年!」


 私は。


 指を一本立てた。


「丸一年よ!」


「はい」


「私がどれだけ働いたと思ってるの!?」


「存じております」


「絶対知ってた!」


「まだ確証は」


「帰ったら確認する!」


「はい」


「もし知ってたら」


「はい」


「絶対文句言ってやる!」


「承知いたしました」


 待ってなさい。


 お父様。


 いや。


 あのクソジジイ。


 ◇


 三日後。


 領主館の前には。


 王都へ戻るための馬車が並んでいた。


「全部?」


「はい」


「荷物は?」


「積み込み済みです」


「報告書は?」


「こちらの馬車に」


「……多くない?」


「一年分でございますので」


「そう」


 箱。


 いくつも。


 報告書。


 資料。


 各領から提出された。


 一年間の。


 成果。


「これ全部」


「はい」


「お父様に渡すのよね?」


「はい」


「…………」


 重い。


 物理的にも。


 内容的にも。


「ちょうどいいわ」


「何がでしょう?」


「一年の重みよ」


「左様でございますか」


「ええ」


 私は馬車へ乗り込む。


 一年前。


 王都から出たとき。


 私は。


 怖かった。


 廃嫡。


 幽閉。


 死。


 だから。


 一年だけ。


 本気で働く。


 そう決めた。


 そして。


 本当に。


 一年。


 働いた。


 問題を見つけて。


 片づけて。


 次へ行って。


 また問題を見つけて。


 また片づけて。


 時々。


 休んで。


 また働いた。


「……よく頑張ったわ、私」


「はい」


「そこは否定しないのね」


「否定する理由がございませんので」


「そう」


 少し。


 嬉しい。


「じゃあ」


 帰ろう。


 王都へ。


 そして。


 今度こそ。


 のんびり。


 暮らす。


 その前に。


「サリナ」


「はい」


「報告書」


「はい」


「絶対なくさないでね」


「もちろんでございます」


「一枚残らず」


「はい」


「あのクソジジイに読ませるから」


「……陛下に、ですね」


「そうとも言うわね」


「陛下とお呼びください」


 馬車が動き出す。


 王都までは。


 数日。


 待ってなさい。


 お父様。


 一年分。


 たっぷり。


 受け取ってもらいますからね。

お読み頂き、ありがとうございます。

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