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やり過ぎた!  作者: 涙目
第一章 ボーリング地方編

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19/130

第十九話 見つけてしまった時は最後まで

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 翌日。


「来た?」


「はい」


「二人とも?」


「グランド商会の商会長、ゴルド・グランド様」


「うん」


「公共事業部門を統括しております、バルド・ケイン様」


「うん」


「お二人とも、すでに別室でお待ちいただいております」


「会ってない?」


「領主館へ入る時間から別にしております」


「素晴らしい」


 私は満足して頷いた。


 話を合わせられたら。


 面倒。


 それだけ。


「質問は?」


「こちらに」


 サリナが紙を差し出す。


 昨日。


 私が決めたもの。


 一。


 公共事業の担当者。


 二。


 資材の発注方法。


 三。


 人員の手配方法。


 四。


 請求書の作成者。


 五。


 確認方法。


 六。


 最終承認。


「これだけ?」


「リリアーナ様がお決めになられたものは」


「そうだったわね」


 余計なことは聞かない。


 まず。


 同じ質問。


 同じ順番。


 答えを見る。


「どっちから?」


「商会長がお待ちです」


「じゃあ商会長」


「かしこまりました」


 ◇


「第八王女殿下におかれましては――」


「挨拶はいいわ」


「……はい?」


「ごめんなさい。時間がもったいないから」


「は、はい」


 目の前。


 ゴルド・グランド。


 五十代くらい。


 少し太っている。


 服。


 高そう。


 指輪。


 もっと高そう。


「座って」


「失礼いたします」


 ゴルドが座る。


 緊張。


 してる?


 まあ。


 王女に呼び出された。


 しかも。


 三年分の帳簿を強制提出させられた後。


 緊張するか。


「確認したいことがあるだけだから」


「はい」


「聞いたことに答えて」


「承知いたしました」


「まず」


 紙。


「グランド商会の公共事業は、誰が担当してる?」


「バルド・ケインにございます」


「全部?」


「はい。三年ほど前より、公共事業部門を任せております」


 三年。


 期間。


 一致。


「あなたは?」


「最終的な承認を」


「具体的には?」


「バルドから提出された報告書と請求内容を確認し、問題がなければ承認印を」


「資材の数まで確認する?」


「そこまでは」


「人件費は?」


「詳細までは確認しておりません」


「どうして?」


「バルドを信用しておりましたので」


「……」


 信用。


 便利。


 でも。


 怖い。


「資材はどうやって買うの?」


「公共事業についてでしょうか?」


「そう」


「必要な資材をバルドが算出し、各取引先へ発注しております」


「バルドが?」


「はい」


「他の人は確認しない?」


「部下が確認しているはずですが」


「はず?」


「実務はバルドに任せておりますので」


「分かった」


 書く。


 次。


「人員は?」


「バルドが手配しております」


「請求書を作るのは?」


「バルドの部署です」


「誰?」


「最終的にはバルドが確認を」


「領へ出す前の確認は?」


「私が」


「数字を?」


「……」


 少し。


 止まった。


「合計額を中心に」


「資材二百本って書いてあっても?」


「必要数までは把握しておりませんので」


「そのまま?」


「はい」


「人件費も?」


「はい」


「……」


 つまり。


 商会長の承認。


 ほぼ。


 印。


「ゴルド」


「はい」


「一つ聞いていい?」


「何なりと」


「あなた」


 私は紙を見る。


「何を確認してたの?」


「……」


 止まった。


「いや、責めてるわけじゃなくて」


 本当に。


 純粋に。


 分からない。


「バルドが出した数字を」


「はい」


「あなたが細かく確認せず」


「……はい」


「合計額だけ見て」


「……はい」


「印を押してた?」


「…………」


「違う?」


「いえ」


「じゃあ」


 やっぱり。


「何を確認してたの?」


「……」


 ゴルドの顔から。


 汗。


「リリアーナ様」


 サリナ。


「何?」


「その質問は、先ほどと同じかと」


「そう?」


「はい」


「じゃあいいわ」


「……」


 ゴルドが。


 少しだけ。


 助かった顔をした。


「次」


 最後。


「バルドの仕事を、定期的に別の人が確認することは?」


「ございません」


「三年間?」


「……はい」


「分かった」


 紙。


 終わり。


「ありがとう」


「……以上、でしょうか?」


「今はね」


「今は……」


「次の人にも同じこと聞くから」


「……!」


 ゴルドの表情が変わった。


「殿下」


「何?」


「バルドにも?」


「そうよ」


「なぜ――」


「同じ答えなら早く終わるでしょう?」


「……」


「違ったら確認しないといけないけど」


「…………」


「何?」


「いえ」


「じゃあ今日は別室で待ってて」


「……承知、いたしました」


 ゴルドが立つ。


「サリナ」


「はい」


「絶対会わせないで」


「承知いたしました」


 ゴルドの足が。


 一瞬。


 止まった。


「どうしたの?」


「……いえ」


 そのまま。


 出ていった。


「……」


 私は首を傾げる。


「サリナ」


「はい」


「なんか変じゃなかった?」


「緊張なさっているのでしょう」


「そういうもの?」


「王族から直接事情を聴取されておりますので」


「なるほど」


 大変ね。


 ◇


「失礼いたします」


 次。


 バルド・ケイン。


 四十代くらい。


 細身。


 眼鏡。


 書類仕事。


 できそう。


「座って」


「はい」


 座る。


「質問するわ」


「承知いたしました」


「公共事業は誰が担当してる?」


「私が責任者を務めております」


 一致。


「全部?」


「最終的な管理は私が」


「資材の発注は?」


「各事業の担当者が必要数を算出し、私の承認を受けて発注いたします」


「…………」


 私は。


 紙を見る。


 ゴルド。


『必要な資材をバルドが算出』


 バルド。


『各事業の担当者が算出』


「誰が算出するの?」


「各担当者です」


「あなたじゃなくて?」


「はい」


「分かった」


 印。


 一個。


「人員は?」


「各現場の責任者が手配いたします」


「あなたは?」


「報告を受けます」


 ゴルド。


『バルドが手配』


 印。


 二個。


「請求書を作るのは?」


「経理担当です」


「あなたは?」


「確認いたします」


「何を?」


「資材、人件費、その他経費が適切であるかを」


「全部?」


「はい」


「数字まで?」


「もちろんです」


「…………」


 印。


 三個。


「最終承認は?」


「私が確認した後、商会長に」


「商会長は何を確認するの?」


「私が提出した内容を精査しております」


「精査?」


「はい」


「資材の数も?」


「その認識です」


 印。


 四個。


「人件費も?」


「はい」


 五個。


「…………」


 私は紙を見る。


「殿下?」


「待って」


「はい」


 違う。


 思ったより。


 違う。


「最後」


「はい」


「あなたの仕事を、別の人が確認することは?」


「商会長が」


「それ以外」


「各担当者が相互に確認しております」


「……相互?」


「はい」


「定期的に?」


「はい」


「三年間ずっと?」


「……はい」


 六個。


「分かった」


「以上でしょうか?」


「うん」


 私は紙を置く。


「ありがとう」


「では、失礼いたします」


「待って」


「はい?」


「別室で待ってて」


「……なぜでしょう?」


「確認することが増えたから」


「……」


「すぐ終わると思う」


 多分。


「承知いたしました」


 バルド。


 出る。


 扉。


 閉まる。


「…………」


「リリアーナ様」


「サリナ」


「はい」


「違いすぎない?」


「左様でございますね」


 私は。


 二枚。


 並べる。


 資材。


 違う。


 人員。


 違う。


 請求書。


 違う。


 確認。


 違う。


 商会長の承認。


 違う。


 相互確認。


 違う。


「同じだったの」


「バルド様が責任者であることと、最終的に商会長が承認することくらいでしょうか」


「……」


 どうして。


「こんなに違うの?」


「どちらかが虚偽の説明をしている可能性がございます」


「どっち?」


「現時点では判断できません」


「そうよね」


 推測。


 駄目。


「じゃあ」


 確認。


「担当者呼べる?」


「商会の?」


「うん」


「可能かと」


「資材を担当してた人」


「はい」


「人員を担当してた人」


「はい」


「経理」


「はい」


「あと」


 相互確認。


「バルドの仕事を確認してた人」


「承知いたしました」


「今日中?」


「すでに商会には資料提出に伴って複数の職員が待機しておりますので、可能かと」


「お願い」


「はい」


 サリナ。


 出ていく。


「……」


 私は二枚を見る。


 嫌。


 すごく。


 嫌な予感。


 ◇


 一人目。


 資材担当。


「必要数を算出したのは?」


「バルド部長です」


「あなたじゃない?」


「はい」


「あなたは?」


「指示された数量を各商会へ発注しておりました」


「数量が多いとか少ないとか確認した?」


「……いたしませんでした」


「どうして?」


「バルド部長から、現場側ですでに確認済みだと」


「分かった」


 ◇


 二人目。


 人員担当。


「作業員を手配したのは?」


「現場責任者です」


「バルドじゃない?」


「最終的な人数は、バルド部長から指示がございました」


「どういうこと?」


「現場から百人必要だと申請があった場合」


「うん」


「バルド部長から八十人で足りると言われれば、八十人を」


「領への請求は?」


「存じません」


「分かった」


 ◇


 三人目。


 経理。


「請求書を作った?」


「はい」


「数字は?」


「各部署から提出されたものを」


「そのまま?」


「バルド部長の確認後に」


「あなたは元の記録と照合した?」


「……」


「した?」


「いいえ」


「どうして?」


「すでに確認済みの数字だと」


「誰が?」


「バルド部長が」


「分かった」


 ◇


 四人目。


「バルドの仕事を定期的に確認してた?」


「……私が、ですか?」


「うん」


「いいえ」


「他の人は?」


「存じません」


「相互確認って制度は?」


「何でしょうか、それは」


「……」


 ない。


「分かった」


 ◇


「…………」


 全員。


 帰した。


 いや。


 帰してはいない。


 別室。


 待機。


「サリナ」


「はい」


「ほぼ決まりじゃない?」


「かなり状況は明確になってまいりました」


「でも」


 まだ。


「決めつけない」


「はい」


 バルド。


 嘘。


 かなり。


 多い。


 でも。


「理由が分からない」


「理由、でございますか?」


「うん」


 金。


 だろう。


 多分。


 でも。


「抜いたお金はどこ?」


「現時点では確認できておりません」


「そうなのよ」


 帳簿。


 不一致。


 領への請求。


 多い。


 実際の仕入れ。


 少ない。


 実際の人件費。


 少ない。


「差額」


「はい」


「どこに行った?」


「……」


 そこ。


「商会の利益になってる?」


「確認いたします」


 帳簿。


 文官。


 呼ぶ。


「グランド商会の公共事業」


「はい」


「領から入ったお金」


「はい」


「そこから資材、人件費、下請け、その他を全部引いて」


「はい」


「残った金額は?」


「少々お待ちください」


 計算。


 しばらく。


「……おかしいですね」


「何?」


「帳簿上、残っておりません」


「…………」


「商会の利益として計上された金額は、契約時に設定された正規の利益分のみです」


「じゃあ」


 差額。


「どこ?」


「不明です」


「……」


 消えた。


 銀貨。


 五百枚以上。


 いや。


 十四件なら。


 もっと。


「もう一回計算して」


「はい」


 ◇


「銀貨七百四十一枚相当です」


「…………」


 増えた。


「正規の利益とは別?」


「はい」


「商会の金庫には?」


「計上されておりません」


「商会長が取った?」


「現時点で、その記録はございません」


「バルド?」


「同様に、記録は」


「そりゃ横領なら記録しないでしょうね」


「おっしゃる通りです」


「……」


 七百四十一。


「大金?」


「かなりの額でございます」


「そうよね」


 どこ。


「バルドの資産は?」


「確認いたしますか?」


「できる?」


「今回の件との関連性を示す必要はございますが、ここまで証拠が揃っていれば」


「じゃあお願い」


「承知いたしました」


「でも」


「はい」


「勝手に処分されないようにして」


「バルド様を拘束いたしますか?」


「…………」


 私は止まった。


 拘束。


 そこまで。


 来た?


「逃げられる可能性は?」


「ございます」


「証拠を消される可能性は?」


「ございます」


「じゃあ」


 仕方ない。


「拘束して」


「承知いたしました」


「商会長は?」


「現時点では?」


「少なくとも」


 知らなかった。


 そう言ってる。


 でも。


 三年間。


 印。


 押してた。


「帰すのは駄目よね」


「私も、その方がよろしいかと」


「別室で待機継続」


「はい」


「外部との連絡は禁止」


「承知いたしました」


「商会の関係書類も」


「すでに保全しております」


「……仕事早いわね」


「リリアーナ様のご指示ですので」


「そうだった」


 ◇


「リリアーナ様」


「何?」


「バルド・ケイン様の資産について、判明したものがございます」


「早くない?」


「領内の不動産については記録がございますので」


「ああ」


「屋敷一軒」


「うん」


「農地二か所」


「うん」


「郊外に倉庫一棟」


「倉庫?」


「はい」


「何の?」


「登録上は、個人所有の保管庫となっております」


「何を保管してるの?」


「記録にはございません」


「…………」


 嫌。


 また。


 嫌なやつ。


「見に行く?」


「捜索するのであれば、兵を伴った方がよろしいかと」


「……」


 私は窓を見る。


 夕方。


「明日じゃ駄目?」


「証拠が存在する可能性を考慮すれば」


「今日?」


「はい」


「…………」


 朝。


 同じ質問。


 聞くだけ。


 その予定だった。


 なのに。


 商会長。


 バルド。


 担当者。


 経理。


 帳簿。


 差額。


 拘束。


 そして。


 倉庫。


「サリナ」


「はい」


「私、今日何したかったんだっけ?」


「お二人へ同じ質問をなさると」


「それだけだったわよね?」


「はい」


「なんで倉庫を捜索する話になってるの?」


「同じ質問をした結果かと」


「…………」


 聞いただけ。


 本当に。


 同じことを。


 聞いただけなのに。


「……行くわ」


「かしこまりました」


 私は立ち上がる。


「兵を集めて」


「はい」


「あと」


「はい」


「倉庫に何もなかったら」


「なかったら?」


「今日はもう寝る」


「承知いたしました」


 何かあったら?


 考えない。


 考えたくない。


 私はただ。


 十一件も調べるのが面倒だっただけなのだ。


 それなのに。


 どうして。


 どんどん。


 話が大きくなっていくのだろう。

お読み頂き、ありがとうございます。

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