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やり過ぎた!  作者: 涙目
終章 国家問題編

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第三話 泣くのは今じゃない

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 扉が閉じられる。


 足音が遠ざかったことを確認すると、シャルロッテは椅子を引き寄せた。


 そして、腰を下ろすなり、大きく息を吐いた。


「……ったく、ひでえ顔してんな、あんた」


「…………え?」


 リリアーナは思わず顔を上げた。


 今、何と言った?


「……シャルロッテ?」


「あ? 何だよ」


「……どうしたの、その口調」


「ああ? 別にどうもしねえよ。こっちが素だ」


「…………」


 リリアーナは目を瞬かせた。


「……えええ?」


「うるせえな。何をそんなに驚いてんだよ」


「いや、だって! いつもあんなに上品に話してるじゃない!」


「猫被ってんだよ。いちいち説明させんな」


「……それが素なんだ」


「そうだよ。文句あんのか?」


「いや、ないけど……」


 リリアーナは改めて妹を見つめた。


 顔も、服装も、何も変わっていない。


 それなのに、まるで別人のようだった。


「……びっくりした」


「知るかよ」


 シャルロッテは腕を組んだ。


「で? いつまでそんな情けねえ顔してるつもりだ?」


「……え?」


「目は真っ赤、顔色は最悪、飯にも手を付けてねえ。あんた、何やってんだよ」


「……食欲がないのよ」


「だから何だよ。食わなきゃ余計に頭も回らなくなるだろうが」


「……分かってる」


「分かってねえから言ってんだよ」


 リリアーナは俯いた。


 シャルロッテは苛立たしげに舌打ちした。


「……父上のことは聞いた」


「……うん」


「まさか、こんなことになるとは思わなかったけどな」


「……そうなの」


 リリアーナは俯いたまま答えた。


「昨日、一緒に飲んだのよ」


「知ってる」


「お父様、楽しそうだった。私が作った計画を読んで、色々話して……」


 声が震えた。


「また飲もうって、約束したのに……」


 そこで言葉が途切れた。


 涙が溢れてくる。


「……なんで、こんなことになっちゃったのよ」


 シャルロッテはしばらく黙っていた。


 しかし、やがて大きく息を吐いた。


「……あのさあ」


「……何?」


「いつまで泣いてんだよ」


 リリアーナが顔を上げる。


「……シャルロッテ?」


「父上が死んで悲しいのは、あんただけじゃねえんだよ」


「……っ」


「あたしだって悲しいんだよ。けどな、あんたみたいに泣いてる暇なんかねえんだ」


 シャルロッテはリリアーナを睨んだ。


「しかも、あんたは父上を殺した犯人にされてんだぞ? 分かってんのか?」


「……分かってるわよ」


「本当に分かってんのか? このままじゃ処刑されるかもしれねえんだぞ?」


「……っ!」


「それなのに、飯も食わずに泣いてるだけかよ。随分と余裕があるんだな」


「……そんな言い方しなくても」


「あ? 優しく慰めてほしかったのか?」


 シャルロッテは鼻で笑った。


「悪いけど、あたしはあんたのことが嫌いなんだよ。わざわざ慰めに来たわけじゃねえ」


「…………」


 リリアーナは言葉を失った。


 シャルロッテは構わず続ける。


「あんた、いつもそうだよな。仕事したくねえ、休みたい、面倒くせえって騒いで、結局周りを巻き込んで大騒ぎにしやがる」


「……それは」


「で、今度は国王毒殺の容疑者かよ。どこまで周りに迷惑掛けりゃ気が済むんだ?」


「……私が殺したわけじゃない!」


 リリアーナは思わず声を上げた。


 シャルロッテは目を細めた。


「だったら証明しろよ」


「……え?」


「殺してねえなら、殺してねえって証明しろって言ってんだよ」


「……そんな簡単に言わないでよ」


「簡単じゃねえから、みんな動いてんだろうが!」


 シャルロッテが机を叩いた。


「レオナルド兄上も、ヴィクトリア姉上も、ユリウス兄上も、エレオノーラ姉上も、テオドールも! 全員、あんたのために動いてんだよ!」


「……みんなが?」


「そうだよ! あんたが犯人じゃねえって信じてるからだ!」


 リリアーナは俯いた。


「……でも、私に何ができるのよ」


「知るか!」


「……っ」


「自分で考えろよ! 普段はあれだけ人に仕事押し付けてんだろうが! こういう時こそ、その頭使えよ!」


 シャルロッテは苛立たしげに髪をかき上げた。


「あんたが嫌いだからって、あんたが殺されていいなんて思ってねえんだよ」


「……シャルロッテ」


「勘違いすんな。別にあんたを助けたいわけじゃねえ」


 シャルロッテは吐き捨てるように言った。


「父上を殺した奴がのうのうと生きてて、あんたが身代わりに処刑されるなんて、胸糞悪いだけだ」


「…………」


「だから、知ってること全部思い出せ。父上と何を飲んだのか、誰が酒を運んだのか、誰が部屋に入ったのか。何でもいい」


 リリアーナはゆっくりと顔を上げた。


「……そうね」


「あ?」


「私、昨日のことなら覚えてる。お父様と何を話したのかも、何を飲んだのかも」


「だったら、それを整理しろよ」


「……うん」


 リリアーナは小さく頷いた。


「私一人で全部調べる必要はないのよね」


「当たり前だろ。牢屋に入ってるあんたに何ができんだよ」


「……そうよね」


 リリアーナは少しだけ考えた。


「私が覚えていることを、みんなに伝えればいいんだ」


「やっと頭が回り始めたかよ」


 シャルロッテは立ち上がった。


「それと、飯は食え。倒れられたら余計に面倒なんだよ」


「……分かったわよ」


「返事だけじゃねえだろうな?」


「食べるってば」


 リリアーナは机の上のスープを手に取った。


 すっかり冷めてしまっていたが、それでも一口飲んだ。


 味は、よく分からなかった。


 けれど、何も食べないよりはましだろう。


「……それでいいんだよ」


 シャルロッテは小さく呟いた。


「それじゃ、あたしは戻る」


「……シャルロッテ」


「あ?」


「みんなに、伝えてくれる?」


「何をだよ」


 リリアーナは少しだけ考えた。


 そして、ゆっくりと口を開いた。


「私、お父様を殺してない」


「……知ってるよ」


「だから、ちゃんと調べてほしい。誰が、どうして、お父様を殺したのか」


 シャルロッテはしばらくリリアーナを見つめていた。


「……ったく、そんなこと言われなくてもやってんだよ」


 そして、扉へ向かう。


 鍵が開く音がした。


 シャルロッテは一瞬で表情を整え、優雅な微笑みを浮かべた。


「それでは、お姉様。どうか、お身体を大切になさってくださいませ」


「……ええ。ありがとう」


 騎士たちに見送られ、シャルロッテは部屋を後にした。


 再び扉が閉じられる。

お読み頂き、ありがとうございます。

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