↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やり過ぎた!  作者: 涙目
第七章 未来構想編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
110/130

第十話 暇つぶしの妄想は誰でも一度はやる

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 翌朝。


 私は、自室の机に向かっていた。


「……さて、どうしたものかな」


 目の前には、真っ白な紙が置かれている。


 昨日、ようやく人材登用の仕事が終わった。


 これでしばらくは、のんびり過ごせるはずだった。


 実際、今日は特に予定もない。


 お父様からの呼び出しもないし、急ぎの書類もない。


 素晴らしい。


 実に素晴らしい一日だ。


 ……なのに。


「……気になるんだよね」


 昨日、お父様から尋ねられたことが、どうにも頭から離れない。


 自分が得意とすることは何か。


 誰に何を任せれば、国はより良く動くのか。


 昨日は、得意な人に仕事を任せればいいと答えた。


 それ自体は、間違っていないと思う。


 けれど、考えてみれば、私たちは全員が王位継承権を持っている。


 誰が王になるかによって、国の方針も変わるはずだ。


 ……だったら。


「誰が王になった場合でも、上手く回るようにすればいいんじゃないかな」


 私は、紙の一番上に題名を書いた。


『王位継承者別・国家運営構想』


 ……うん。


 なかなか立派な題名になった。


 ただの暇つぶしなのに。


「……まあ、いいか」


 私は、ペンを手に取った。


 せっかく時間があるのだ。


 少し考えてみよう。


     ◇


 まずは、第一位のレオナルドお兄様。


 お兄様は、物事を計画的に進めることが得意だ。


 ピンポン地方での卓球大会も、私が思いつきを口にした後、実際に開催するための準備を進めてくださった。


 必要な設備、人員、費用、日程。


 そういったものを整理し、無理のない形で実行する能力がある。


「……安定した国になりそうだね」


 私は、紙に書き込んだ。


『第一位レオナルドが国王となった場合』


『基本方針:計画的な国家運営と安定した発展』


 急激な改革よりも、長期的な計画に基づいて国を発展させる。


 地方ごとの産業を把握し、必要な道路や施設を整備する。


 大きな事業を行う際には、費用と効果を十分に確認する。


 ……うん。


 お兄様らしい。


 ただし、慎重になりすぎると、決断が遅れることもあるかもしれない。


 そこで、他の兄姉弟の出番だ。


 ヴィクトリアお姉様には、計画に問題がないか確認してもらう。


 ユリウスお兄様には、軍事と治安を任せる。


 エレオノーラお姉様には、貴族や地方との交渉を担当してもらう。


 シャルロッテには、新しい企画や人材の発掘。


 テオドールには、各地の情報収集と住民の声を集めてもらう。


 そして、私は。


『行政業務の効率化』


「……よし」


 これなら、無理なく仕事を分担できそうだ。


 私は、満足して頷いた。


 次は、ヴィクトリアお姉様。


     ◇


 ヴィクトリアお姉様は、とにかく冷静だ。


 物事を感情だけで判断せず、必要な情報を集めてから結論を出す。


 危機管理局の人材登用でも、その考え方がよく表れていた。


 それに、人を見る目もある。


 相手が何を考えているのか、どこまで信用できるのか。


 そういったことを、私よりずっと上手に判断できる。


「……制度がしっかりした国になりそうだね」


 私は、次の紙に書き始めた。


『第二位ヴィクトリアが国王となった場合』


『基本方針:公平な制度と安定した統治』


 法律や行政制度を整え、誰が担当しても一定の水準で仕事が進む仕組みを作る。


 不正や権限の乱用を防ぐため、責任の所在を明確にする。


 重要な判断には、複数の立場からの確認を取り入れる。


 ……うん。


 かなり堅実な国になりそうだ。


 ただ、制度を整えることに集中しすぎると、現場の事情が置き去りになる可能性もある。


 そこで、テオドールには住民の声を集めてもらう。


 エレオノーラお姉様には、地方や貴族との調整。


 レオナルドお兄様には、長期的な事業計画。


 ユリウスお兄様には、軍事と治安。


 シャルロッテには、新しい制度や事業の提案。


 そして、私は。


『制度運用における無駄の削減』


「……うん」


 いい感じだ。


 次は、ユリウスお兄様。


 お兄様は、軍事に強い。


 判断が早く、必要なときには迷わず行動できる。


 それに、命令系統や責任の所在を重視している。


 国王になれば、治安と安全保障を重視した国になるだろう。


『第三位ユリウスが国王となった場合』


『基本方針:安全保障と迅速な国家運営』


 軍や治安組織の連携を強化し、災害や外敵への対応能力を高める。


 緊急時の指揮系統を明確にし、判断の遅れを防ぐ。


 地方ごとの危険を把握し、事前の備えを充実させる。


 ……ただし。


「……平時まで軍隊みたいになったら、ちょっと困るかな」


 私は、苦笑した。


 お兄様が悪いというわけではない。


 けれど、軍事組織と一般の行政では、求められるものが違う。


 だから、ヴィクトリアお姉様には法制度を。


 レオナルドお兄様には経済と事業計画を。


 エレオノーラお姉様には外交や交渉を。


 シャルロッテには民間事業の振興を。


 テオドールには住民の声を集めてもらう。


 そして、私は。


『平時の行政効率化』


「……よし」


 これなら、軍事に強い国でありながら、普段の生活もきちんと守れそうだ。


 私は、三枚の紙を並べた。


 ……なるほど。


 同じ国でも、誰が王になるかで随分と違う。


 けれど、他の六人がそれぞれの得意分野を担当すれば、どの形でも十分に成り立ちそうだ。


 ……面白いね。


     ◇


 次は、エレオノーラお姉様。


 お姉様は、交渉が得意だ。


 相手の話を丁寧に聞き、互いに納得できる落としどころを探す。


 貴族との付き合いも上手だし、人材を育てることにも向いている。


「……争いの少ない国になりそうだね」


 私は、紙に書き込んだ。


『第四位エレオノーラが国王となった場合』


『基本方針:対話と協調による国家運営』


 地方や貴族との対話を重視し、それぞれの事情を理解した上で政策を進める。


 人材育成に力を入れ、能力のある者が活躍できる環境を整える。


 問題が起きた際には、一方的な命令ではなく、原因と利害関係を確認して解決を目指す。


 ……うん。


 お姉様らしい。


 ただ、全員が納得するまで待っていたら、時間がかかることもあるだろう。


 だから、ユリウスお兄様には緊急時の判断を任せる。


 ヴィクトリアお姉様には制度の確認。


 レオナルドお兄様には計画の立案。


 シャルロッテには企画と人材発掘。


 テオドールには情報収集。


 そして、私は。


『行政の効率化』


「……あれ?」


 私は、ペンを止めた。


 ……何だか、私の仕事だけ、ずっと同じじゃない?


 いや。


 考えてみれば、当たり前か。


 誰が王になったとしても、仕事の無駄は減らした方がいい。


 わざわざ面倒な手続きを増やす必要なんてないのだから。


「……まあ、いいか」


 私は、次の紙を取り出した。


 今度は、シャルロッテ。


 シャルロッテは、人との交流が得意だ。


 お茶会などで多くの人と話し、さまざまな情報を集めている。


 それに、新しい企画を考えることにも興味があるようだ。


『第六位シャルロッテが国王となった場合』


『基本方針:交流と新規事業による国家発展』


 地方や貴族、商人などの交流を活発にし、新しい産業や事業を生み出す。


 各地の特色を生かした催しや交易を支援する。


 人と人とのつながりを通して、新しい人材や技術を発掘する。


 ……楽しそうな国だね。


 ただし、新しいことばかり始めると、費用が膨らむかもしれない。


 だから、レオナルドお兄様には計画と予算管理を。


 ヴィクトリアお姉様には制度と監督を。


 ユリウスお兄様には治安を。


 エレオノーラお姉様には交渉を。


 テオドールには情報収集を。


 そして、私は。


『新規事業に伴う行政負担の削減』


「……うん」


 やっぱり、同じだ。


 ……まあ、仕方ない。


 最後は、テオドール。


     ◇


 テオドールは、まだ若い。


 けれど、人の話をよく聞く。


 分からないことを分からないと言えるし、必要なことを確認するのも上手だ。


 それに、誰かの意見を頭から否定することも少ない。


 ……案外、王様に向いているかもしれないね。


『第七位テオドールが国王となった場合』


『基本方針:住民の声を生かした国家運営』


 地方や住民の意見を積極的に集め、政策へ反映する。


 身分や立場だけで判断せず、実際に困っていることや必要とされていることを確認する。


 教育や人材育成に力を入れ、将来の国家を支える人々を育てる。


 ……うん。


 優しい国になりそうだ。


 ただ、色々な人の意見を聞きすぎると、判断に迷うこともあるかもしれない。


 だから、ヴィクトリアお姉様には制度の確認。


 ユリウスお兄様には軍事と緊急時の対応。


 レオナルドお兄様には計画と予算。


 エレオノーラお姉様には交渉。


 シャルロッテには企画と交流。


 そして、私は。


『行政業務の効率化』


「……よし!」


 私は、ペンを置いた。


 これで、全員分が完成した。


 六通りの国家運営構想。


 それぞれの王が得意な分野を中心に据え、他の兄姉弟が不足する部分を補う。


 どの形にも長所があり、注意すべき点がある。


 けれど、誰か一人で全部を抱え込む必要はない。


 ……うん。


 なかなか良い考え方だと思う。


 私は、完成した書類を並べた。


「……それにしても」


 改めて見比べると、少し面白いことに気づいた。


 レオナルドお兄様が王でも。


 ヴィクトリアお姉様が王でも。


 ユリウスお兄様が王でも。


 エレオノーラお姉様が王でも。


 シャルロッテが王でも。


 テオドールが王でも。


 私の役割は、ほとんど変わらない。


「……まあ、当然だよね」


 私は、頷いた。


 王様が誰であろうと、仕事は減らしたい。


 それだけのことだ。


     ◇


「……あ」


 書類をまとめようとして、ふと思った。


 そういえば、一人分だけ書いていない。


 ……私だ。


「…………」


 いや。


 必要ないよね?


 私は王になるつもりなんて、これっぽっちもない。


 そもそも、王様なんて仕事が多そうだ。


 毎日大量の書類を確認して、貴族や地方からの報告を受けて、問題が起きれば判断を求められる。


 休みだって、ほとんどないだろう。


 ……絶対に嫌だ。


「……でも」


 私は、並べた書類を眺めた。


 せっかく六人分も考えたのだ。


 一人だけ書かないというのも、何となく気持ちが悪い。


「……まあ、絶対にならないんだけどね」


 私は、新しい紙を取り出した。


『第五位リリアーナが国王となった場合』


 ……うん。


 違和感がすごい。


 私は、苦笑しながら次の行を書いた。


『基本方針:誰もが無理なく暮らせる国家運営』


「……あれ?」


 思っていたより、まともな言葉になった。


 私は、少し考えた。


 もし、本当に私が王になったら。


 ……いや、ならないけど。


 もしも、だ。


 まず、王様が全部を判断する仕組みは嫌だ。


 何でもかんでも王様に持ってこられたら、休む時間がなくなる。


 だから、それぞれの分野に責任者を置く。


 責任者には、必要な権限を渡す。


 その代わり、自分の判断については、きちんと説明してもらう。


 もちろん、国全体に関わる重大な問題や、複数の分野にまたがる問題は、王が判断する必要がある。


 けれど、それ以外のことまで、いちいち王様に確認する必要はない。


「……うん」


 私は、書き進めた。


『各分野の責任者へ適切な権限を委譲し、判断と責任の所在を明確にする』


 次に、書類。


 同じ内容を何度も書かせるのは、無駄だ。


 必要な情報は、必要な人が確認できるようにすればいい。


 地方ごとに違う書式を使っているなら、可能な範囲で統一する。


 ただし、地方によって事情が違う場合は、無理に同じ方法を押しつけない。


『行政記録と報告手順を整理し、重複する業務を削減する』


 それから、人材。


 身分や経歴だけで仕事を任せるのは、もったいない。


 能力がある人には、能力を生かせる仕事を任せる。


 足りない部分があるなら、教育すればいい。


 もちろん、何でもできる人なんていない。


 だから、互いに補い合える組織にする。


『能力と適性に応じた人材登用と育成を進める』


 次は、地方。


 ボーリング地方で学んだことがある。


 地方には、それぞれ違う問題がある。


 同じ方法で全てを解決できるわけではない。


 だから、地方の人たちが自分たちで考え、動けるようにする。


 ただし、問題が起きたときには、国が支援できる仕組みも必要だ。


『地方の自主性を尊重しつつ、必要な支援と監督を行う』


 それから……。


「……あれ?」


 私は、ペンを止めた。


 ……何だか、結構書けてしまった。


 まあ、これまで色々な地方で仕事をしてきたからね。


 思いつくことも、それなりにある。


 私は、再び書き進めた。


 道路の整備。


 物流の改善。


 災害への備え。


 産業の育成。


 教育の充実。


 行政手続きの簡素化。


 そして、働く人たちが、無理をしなくても生活できる仕組み。


「……うん」


 私は、書き終えた紙を眺めた。


 なかなか立派な国家構想になった。


 ……ただ。


「……これ、実現するの大変そうだね」


 私は、苦笑した。


 こんなことを全部やろうとしたら、それこそ休む暇がなくなってしまう。


 ……やっぱり、王様にはなりたくない。


     ◇


 私は、最後に役割分担を書き始めた。


 レオナルドお兄様には、国家事業の計画と財政。


 ヴィクトリアお姉様には、法制度と行政監督。


 ユリウスお兄様には、軍事と危機管理。


 エレオノーラお姉様には、外交と交渉。


 シャルロッテには、産業振興と新規事業。


 テオドールには、地方の声を集める仕組みと教育。


 そして、私は。


「……あれ?」


 私は、ペンを止めた。


 ……王様だよね?


 もしも、私が王様になった場合の話だよね?


 だったら、私の仕事は……。


「……みんなから報告を受けて、必要なことだけ判断すればいいのかな」


 私は、首を傾げた。


 もちろん、国王として最終的な責任は負わなければならない。


 けれど、全ての仕事を自分でやる必要はない。


 むしろ、それぞれの分野に詳しい人がいるのだから、任せた方がいい。


 ……あれ?


 これなら、案外……。


「……いやいやいや」


 私は、慌てて首を振った。


 危ない。


 危ないところだった。


 今、少しだけ王様でもいいかなと思いかけた。


 そんなわけがない。


 王様になんて、絶対にならない。


 私は、最後の一行を書き加えた。


『国王は全体の方針を示し、各分野の責任者が適切に仕事を進められる環境を整える』


 ……よし。


 これで完成だ。


 私は、七通りの国家構想を机の上に並べた。


 誰が王になっても、他の兄姉弟が支える。


 得意な人が得意な仕事を担当する。


 そして、国全体が無理なく動くようにする。


 ……うん。


 どれも、悪くないと思う。


 ただ、一つだけ確かなことがある。


「……やっぱり、私は王様になりたくないな」


 私は、満足して頷いた。


 六人のうち、誰が王になっても構わない。


 その人を支える仕事なら、私にもできるだろう。


 ……もちろん、仕事はできるだけ減らしてもらうけど。


 私は、書類を重ね、机の端へ置いた。


 気がつけば、窓の外は夕暮れに染まり始めていた。


「……あ」


 私は、時計を見た。


 ……一日が終わってる。


 せっかくの休日だったのに。


 結局、朝から夕方まで、ずっと机に向かってしまった。


「…………」


 私は、しばらく書類を見つめた。


 そして、深く息を吐いた。


「……何で、休みの日まで仕事みたいなことしてるんだろう」


 誰に頼まれたわけでもない。


 締め切りがあるわけでもない。


 報告する必要だってない。


 完全に、自分の思いつきだ。


「……明日こそ、ちゃんと休もう」


 私は、そう決意した。


 もっとも。


 その決意が、翌日まで続くかどうかは分からない。


 ……とりあえず、今日はもう何もしない。


 私は、椅子から立ち上がった。


 そして、夕食の時間まで、のんびり過ごすことにした。



お読み頂き、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。