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やり過ぎた!  作者: 涙目
第七章 未来構想編

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第五話 次の仕事は人材雇用

この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。

 王宮の会議室には、七人の王位継承者が集められていた。


 第一王子レオナルド。


 第二王女ヴィクトリア。


 第三王子ユリウス。


 第四王女エレオノーラ。


 第五王女リリアーナ。


 第六王女シャルロッテ。


 そして、第七王子テオドール。


 それぞれが席に着き、国王の到着を待っている。


 リリアーナは、隣に座るエレオノーラへ小さく声をかけた。


「お姉様、今日の会議って、何か聞いていますか?」


「いいえ。私も詳しいことは聞かされておりませんの」


「そうですか……」


 リリアーナは、会議室の扉へ視線を向けた。


 父からの突然の呼び出し。


 しかも、王位継承者全員が対象となっている。


 嫌な予感しかしない。


(……また何か始まるんだろうなあ)


 これまでの経験から、父が何かを思いついたときには、たいてい仕事が増える。


 しかも、今回の呼び出しは、兄姉たちが同盟を結んだ直後である。


 偶然とは考えにくかった。


 やがて、扉が開かれた。


「国王陛下、ご入室でございます」


 全員が立ち上がる。


 国王エドワードは、宰相アルベルトを伴って入室した。


「皆、揃っておるな。座れ」


 王位継承者たちが着席すると、エドワードは一同を見渡した。


「まずは、お前たちがそれぞれ協力関係を結んだことについて、報告を受けておる」


 その言葉に、何人かが互いの顔を見合わせた。


「第一位と第六位。第二位と第三位。そして、第四位、第五位、第七位」


 エドワードは、一つずつ確認するように告げた。


「王位を争う立場にありながら、互いの能力を認め、協力する道を選んだ。その判断は評価しておる」


「ありがとうございます、父上」


 レオナルドが代表するように頭を下げた。


 エドワードは頷くと、続けた。


「だが、協力関係を結んだのであれば、それを国政にも生かしてもらいたい」


 リリアーナは、静かに目を閉じた。


(……やっぱり)


「そこで、お前たちには新たな仕事を任せることにした」


 予想どおりだった。


 リリアーナは、表情を変えずに続きを待った。


「今回、王宮に新たな部署を三つ設けることにした」


 会議室に、わずかなざわめきが生まれた。


「新しい部署、でございますか?」


 ヴィクトリアが尋ねる。


「うむ。そして、お前たちには、それぞれの部署に必要な人材を集めてもらう」


 エドワードは、宰相へ視線を向けた。


 アルベルトが一歩前へ出る。


「現在、王宮では業務の見直しを進めております。その一環として、新たな部署の設置が決定いたしました」


 アルベルトは、用意していた書類を配らせた。


「皆様にお願いするのは、各部署で働く人材の募集、選考、そして採用でございます」


 リリアーナは、配られた書類へ目を落とした。


 採用予算。


 募集条件。


 採用予定人数の上限。


 選考期間。


 そして、採用結果の報告方法。


(……採用活動か)


 前世の会社でも、何度か採用面接に関わったことがある。


 人を選ぶこと自体は、それほど珍しい仕事ではない。


 ただし、面接だけで相手の能力を完全に見抜けるわけではない。


 経歴が立派でも、実際の仕事が得意とは限らない。


 反対に、目立った経歴がなくても、優れた能力を持つ人間はいる。


(……面倒なやつだなあ)


 リリアーナは、書類を一枚めくった。


「今回設置する三つの部署につきましては、それぞれの組で担当する業務の方向性を定めていただきます」


 アルベルトは説明を続けた。


「ただし、皆様にお願いする仕事は、あくまで人材登用でございます。部署の設置に必要な事務手続きや、採用後の通常業務につきましては、王宮の担当官が引き継ぎます」


 リリアーナの手が止まった。


(……ん?)


 採用後の通常業務は、担当官が引き継ぐ。


 つまり、自分たちが新しい部署を運営し続ける必要はないということだ。


(……それなら、思っていたより楽かもしれない)


 リリアーナは、少しだけ表情を和らげた。


「なお、採用する人材の条件や選考方法については、各組の裁量にお任せいたします」


 ユリウスが手を挙げた。


「質問がある」


「どうぞ、ユリウス殿下」


「採用する人材に制限はあるのか?」


「王国民であること、そして一定の身元確認を通過することが条件となります。それ以外については、原則として制限いたしません」


「軍人や官吏も対象か?」


「現在の職務に支障が出ない範囲であれば、応募を認めます。ただし、所属先との調整は必要となります」


「承知した」


 続いて、ヴィクトリアが質問する。


「三つの部署は、それぞれ異なる業務を担当するのでしょうか?」


「はい。具体的な担当範囲や部署の名称につきましては、各組で協議していただきます。ただし、既存の部署と業務が重複しないよう、最終的には宰相府で確認いたします」


「成果の報告は、どのように行えばよろしいのでしょうか?」


「採用した人材の経歴、担当予定の業務、採用理由などをまとめて提出していただきます」


 ヴィクトリアは頷き、書類へ目を戻した。


 シャルロッテも質問を重ねる。


「採用した方々への報酬は、どのようになりますの?」


「各部署に同額の採用予算を支給いたします。報酬につきましては、王宮の規定を基本とし、必要に応じて調整を認めます」


「追加予算の申請は可能でしょうか?」


「申請自体は可能ですが、理由と必要性を確認したうえで判断いたします」


「承知いたしましたわ」


 レオナルドは、書類を確認しながら静かに考えていた。


 予算は同額。


 採用条件も共通。


 しかし、どのような人材を集め、どう評価するかは自由。


 単に人員を補充するだけであれば、既存の担当官に任せれば済む。


 それを、わざわざ王位継承者たちに担当させる。


 父には、何か考えがあるのだろう。


 もっとも、任された仕事をこなす必要があることに変わりはない。


 そのとき、リリアーナが手を挙げた。


「お父様、一つ確認してもよろしいですか?」


「うむ。何だ?」


「採用した人たちの教育や、採用後の業務管理についても、私たちが担当するのでしょうか?」


 エドワードは、少しだけ目を細めた。


「いや。今回お前たちに任せるのは、必要な人材を見つけ、採用するところまでだ」


「分かりました。ありがとうございます」


 リリアーナは、静かに頷いた。


(……よかった)


 これなら、採用を終えれば仕事も終わる。


 いつまでも部署の管理を任される心配はない。


(……あとは、できるだけ早く終わらせたいところね)


 リリアーナは、もう一度書類へ目を落とした。


 今回の仕事は、意外と悪くないかもしれない。


     ◇


 会議が終わると、王位継承者たちは、それぞれの同盟ごとに集まっていた。


 レオナルドとシャルロッテ。


 ヴィクトリアとユリウス。


 そして、エレオノーラ、リリアーナ、テオドール。


 リリアーナたちは、エレオノーラの提案で、彼女の私室へ移動することになった。


「さて、まずは方針を決めませんとね」


 エレオノーラは、紅茶を用意させながら微笑んだ。


「そうですね。採用を始める前に、どんな人材が必要なのか整理しておきたいです」


 リリアーナは、配られた書類を机に広げた。


「テオドールは、今回の仕事についてどう思いますか?」


「……正直に申し上げると、少し不安です」


「どのあたりが?」


「人を選ぶということが、私には難しく感じられます。相手の能力を見極める自信がありません」


 テオドールは、申し訳なさそうに俯いた。


 リリアーナは、少し考えてから答えた。


「最初から全部分かる必要はないと思いますよ」


「……そうでしょうか?」


「ええ。面接だけで相手の能力を完全に見抜くなんて、難しいですから」


 リリアーナは、書類を一枚取り出した。


「だから、採用前に何を確認するのか決めておくんです。必要な能力が分かっていれば、質問も考えやすいですし」


「……なるほど」


「それに、人を見極める方法は面接だけじゃありません。これまでの仕事について詳しく聞いたり、周囲の人に評判を確認したりする方法もあります」


 エレオノーラが頷いた。


「確かに、言葉だけでは分からないこともございますものね」


「そうなんです。話すのが苦手でも仕事が正確な人はいますし、逆に面接が上手でも実務が苦手な人だっていますから」


「……それでは、面接だけで決めない方がよろしいのでしょうか?」


 テオドールが尋ねる。


「そうですね。ただ、まずは実際に応募者と話してみないと、何が必要なのかも分からないと思います」


 リリアーナは、机の上に紙を置いた。


「それと、先に私たちが担当する部署の方向性を決めましょうか」


 彼女は、しばらく考え込んだ。


「……王宮の仕事を増やす部署にはしたくないですね」


「まあ。どうしてですの?」


「新しい仕事を増やすより、今ある仕事の中で、無駄になっている部分を見つける方がいいと思うんです」


 エレオノーラは、興味深そうに覗き込んだ。


「業務の見直し、ということですのね」


「はい。既存の部署の仕事を調べて、改善できるところを探す。そういう部署なら、今の王宮にも必要なんじゃないでしょうか」


 テオドールが、静かに頷いた。


「……確かに、仕事が増えすぎて困っている部署もあると聞きます」


「そうですね。だったら、そういうところを助けられる人材を探しましょう」


 リリアーナは、紙の上部に大きく三つの項目を書いた。


 記録調査。


 業務分析。


 部署間の調整。


「大きく分けると、この三つでしょうか」


 エレオノーラは、興味深そうに覗き込んだ。


「それぞれ、どのようなお仕事を想定していらっしゃるの?」


「記録調査は、帳簿や書類を確認して、今の仕事がどう進んでいるのかを調べる役割ですね。業務分析は、その内容を整理して、改善できそうな部分を探す仕事です」


 リリアーナは、三つ目の項目を指で示した。


「部署間の調整は、調査や改善のために、他の部署と連絡を取ったり、事情を聞いたりする役割です」


「……なるほど」


「もちろん、細かく分ければもっとありますけど、最初から複雑にしすぎると、どんな人材を募集すればいいのか分からなくなりますから」


 リリアーナは、三つの項目を指で示した。


「まずは、それぞれの仕事に向いている人を探したいですね」


 エレオノーラは、しばらく考え込んだ。


「……それでしたら、部署間の調整に必要な能力については、私もお力になれるかもしれませんわ」


「そうですね。お姉様には、ぜひお願いしたいです」


「まあ。即答ですのね」


「お姉様の得意分野ですから。どんな人が相手の話を上手く聞けるのか、私よりよく分かると思います」


 エレオノーラは、嬉しそうに微笑んだ。


「ふふっ。ありがとうございます」


 リリアーナは、次にテオドールへ視線を向けた。


「テオドールは、どの分野に興味がありますか?」


「……私、ですか?」


「ええ。せっかくの機会ですから、興味のある仕事について考えてみるのもいいと思います」


 テオドールは、少し考え込んだ。


「……正直に言うと、まだ分かりません」


「そうですか」


「ですが、人の話を聞くことは、嫌いではありません」


「……なるほど」


 リリアーナは、頷いた。


「それなら、面接を一緒にやってみませんか?」


「……私が、面接を?」


「ええ。もちろん、最初から一人で任せるつもりはありません。私とお姉様も同席しますから」


「……それでしたら」


「面接では、相手の話をよく聞くことも大事です。テオドールなら、相手が落ち着いて話せるようにできると思いますよ」


 テオドールは、少し驚いたように目を見開いた。


「……そうでしょうか?」


「ええ。少なくとも、私はそう思います」


 エレオノーラも微笑んだ。


「私も同感ですわ。テオドールは、人のお話を丁寧に聞いてくださいますもの」


「……ありがとうございます」


 テオドールは、照れたように微笑んだ。


 リリアーナは、机の上の書類をまとめた。


「それじゃあ、まずは募集内容を決めて、応募者を集めましょうか」


「ええ」


「はい」


 三人は頷き合った。


     ◇


 その日の夜。


 リリアーナは、自室で募集要項の草案を確認していた。


「……うーん」


 机の上には、何枚もの書類が並んでいる。


 採用人数。


 必要な能力。


 報酬。


 勤務条件。


 そして、選考方法。


 考えることは多かった。


「お嬢様、そろそろお休みになられては?」


 サリナが、温かいお茶を運んできた。


「んー、もう少しだけ」


「先ほどから、ずっと書類をご覧になっておりますが……」


「そうなんだけどね。ここをちゃんと決めておかないと、後で面倒になるのよ」


 リリアーナは、書類の一枚を持ち上げた。


「募集条件が曖昧だと、応募する人も困るでしょ。せっかく来てもらったのに、希望する仕事がなかったら申し訳ないし」


「……なるほど」


「だから、最初にできるだけ整理しておきたいの」


 サリナは、少しだけ微笑んだ。


「お嬢様は、やはりお仕事がお好きなのですね」


「……違うわよ」


 リリアーナは、即座に否定した。


「後で余計な仕事を増やしたくないだけ」


「ふふっ。そういうことにしておきます」


「……絶対、信じてないでしょ」


「いいえ、そのようなことはございません」


 サリナは、楽しそうに微笑んだ。


 リリアーナは、小さくため息をついた。


 そして、書類へ視線を戻す。


(……まあ、採用するところまでなら)


 必要な人材を集める。


 それぞれの能力を見極める。


 そして、適した仕事を任せられる人を選ぶ。


 そこまで終われば、後は担当官に引き継げる。


(……早く終わらせて、のんびりしたいなあ)


 リリアーナは、募集要項の最後の一行を書き終えた。


 そして、満足そうに頷く。


「……よし。今日はここまで」


「お疲れ様でございました」


「ありがとう、サリナ」


 リリアーナは椅子から立ち上がり、大きく伸びをした。


 明日からは、いよいよ人材募集が始まる。


 どのような人々が集まるのか。


 それは、まだ誰にも分からなかった。



お読み頂き、ありがとうございます。

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