第三話 時に知識は全てが有益なものになるとは限らない
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
テオドールとお茶を楽しんだ翌日。
私は自室で、のんびりと読書をしていた。
窓から差し込む日差しは暖かく、開け放たれた窓からは心地よい風が入ってくる。
……ああ、平和ね。
昨日は思いがけず弟と親しくなることができたけれど、今日は何の予定もない。
少なくとも、今のところは。
「リリアーナ様」
「何?」
サリナに声をかけられ、私は本から顔を上げた。
「シャルロッテ殿下より、先触れが届いております」
「あら、シャルロッテから?」
「はい。本日、お時間をいただけるようでしたら、ご挨拶に伺いたいとのことでございます」
……早いわね。
昨日、テオドールから近いうちに挨拶に来たいと聞いたばかりなのだけれど。
「もちろん構わないわ。何時頃をご希望なの?」
「午後のお茶の時間を希望されておりますが、リリアーナ様のご都合に合わせるとのことでございます」
「それなら、ちょうどいいわね」
私は本を閉じた。
「お受けすると伝えてちょうだい。応接室の準備もお願いね」
「かしこまりました」
サリナは一礼すると、早速準備に取りかかった。
……さて。
昨日のテオドールは、王位継承権を授けられたことに戸惑っていた。
けれど、シャルロッテは随分と落ち着いていたように見えた。
少なくとも、王位継承権を授けられることに抵抗はなさそうだった。
……できれば、王様になりたいと思っていてほしいわね。
候補者が二人増えたのに、二人とも王になりたくないのでは、私の負担が減る気がしないもの。
私は再び本を開いた。
約束の時間までは、まだ余裕がある。
せっかくの休息なのだから、今のうちに楽しんでおこう。
◇
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
応接室へ入ると、シャルロッテが立ち上がり、優雅に一礼した。
「気にしないで。昨日、テオドールから話は聞いていたもの」
「まあ、そうでしたのね」
シャルロッテは嬉しそうに微笑んだ。
「それでは、改めまして。シャルロッテ・プレイングでございます。昨日、王位継承権第六位を賜りました」
「リリアーナ・プレイングよ。改めてよろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。リリアーナお姉様」
……お姉様。
そう呼ばれるのは、何だか新鮮ね。
今までは、兄や姉に囲まれることの方が多かったから。
「どうぞ、座って」
「ありがとうございます」
私たちは向かい合って腰を下ろした。
サリナがお茶を用意してくれる。
シャルロッテはカップを手に取り、香りを楽しんでから静かに一口飲んだ。
「……とても美味しい紅茶ですわね」
「ありがとう。サリナが選んでくれたのよ」
「まあ。素晴らしい侍女をお持ちですのね」
「ええ。自慢の侍女よ」
サリナが嬉しそうに微笑んだ。
「恐れ入ります」
私は焼き菓子を一つ手に取った。
……さて。
まずは何から話そうかしら。
昨日はテオドールの方から相談してくれたけれど、シャルロッテが何を話したいのかは、まだ分からない。
「昨日、テオドールから聞いたのだけれど、私と話してみたかったんですって?」
「はい。以前から、ぜひ一度お話ししてみたいと思っておりました」
「そうなのね。何か聞きたいことでもあるの?」
「ええ。実は、いくつかございます」
シャルロッテは微笑んだ。
「まずは、お姉様がどのようなお方なのか、知りたいと思っておりました」
「……私が?」
「はい」
私は少し首を傾げた。
「そんなに面白い人間じゃないと思うけれど」
「まあ」
シャルロッテは楽しそうに笑った。
「ご自身をそのようにお考えなのですか?」
「ええ。できれば、静かに暮らしていたいだけだもの」
「……静かに、ですか?」
「そうよ」
私は頷いた。
「美味しいものを食べて、好きな本を読んで、たまに散歩でもして。そういう生活が理想ね」
シャルロッテは一瞬、目を丸くした。
それから、口元に手を添えて笑った。
「ふふっ」
「……何かおかしい?」
「申し訳ございません。想像していたお姉様と、随分違っておりましたので」
「……どんな想像をしていたの?」
「そうですわね……」
シャルロッテは少し考えた。
「王国の未来を常に考え、各地の問題に自ら取り組み、誰よりも熱心に政務に励んでいらっしゃる方だと」
「…………」
……またそれ?
私は思わずため息をついた。
「それ、昨日テオドールにも似たようなことを言われたわ」
「まあ、テオドールも?」
「ええ。随分と誤解されているみたいね」
「誤解、でございますか?」
「そうよ。私はできれば働きたくないもの」
「…………」
シャルロッテが固まった。
……あら。
昨日も見た反応ね。
「……お姉様」
「何?」
「本気でおっしゃっているのですか?」
「もちろんよ」
シャルロッテは私を見つめた。
そして、ゆっくりとカップを置いた。
「……なるほど」
「納得してくれた?」
「いえ。むしろ、ますます興味が湧いてまいりました」
「…………」
……どうしてそうなるのかしら。
私は焼き菓子を口へ運んだ。
甘い。
美味しい。
できれば、これ以上面倒な方向へ話が進まないことを祈りたい。
「お姉様は、王位を目指していらっしゃらないのですね?」
「ええ」
「では、王位継承権を授けられたことも、ご自身の望みではなかったと?」
「そうね。お父様から突然授けられたもの」
「……そうでしたのね」
シャルロッテは静かに頷いた。
そして、少しだけ姿勢を正した。
「実は、私も王位について、お姉様のお考えを伺いたいと思っておりました」
私は顔を上げた。
……来たわね。
「シャルロッテは、王になりたいの?」
「はい」
即答だった。
私は思わず身を乗り出した。
「本当!?」
「……はい?」
「本当に、王になりたいと思っているの?」
「え、ええ。もちろんですわ」
……素晴らしい!
私は内心で歓声を上げた。
昨日のテオドールは王になりたくないと言っていたけれど、こちらは違うらしい。
よかった。
候補者が増えた意味があったわね。
「それはいいことね!」
「……お姉様?」
「ぜひ頑張ってちょうだい。応援しているわ!」
「…………」
シャルロッテが目を瞬かせた。
それから、困惑したように私を見つめる。
「……あの、お姉様」
「何?」
「私は、王位継承権第六位ですのよ?」
「ええ、そうね」
「お姉様は第五位でいらっしゃいます」
「そうよ」
「……私が王位を目指すということは、お姉様にとって競争相手が増えるということではございませんか?」
「そうなるわね」
「それなのに、応援してくださるのですか?」
「もちろんよ。私、王になりたくないもの」
「…………」
シャルロッテは口を閉じた。
どうやら、理解が追いついていないらしい。
……そんなに難しい話かしら。
王になりたい人がいる。
私は王になりたくない。
だったら、王になりたい人を応援する。
至って単純な話だと思うのだけれど。
「……お姉様は、本当に変わったお方ですのね」
「そう?」
「はい。少なくとも、私がこれまでお会いした方々の中には、いらっしゃいませんでした」
「……そうなのね」
私は紅茶を飲んだ。
まあ、王位継承権を持ちながら王になりたくないと言う人間は、珍しいのかもしれない。
昨日、同じような考えの弟に会ったばかりだから、あまり実感はないけれど。
「それで、シャルロッテ」
「はい」
「あなたは、どんな王様になりたいの?」
シャルロッテは少し驚いたように顔を上げた。
「……どのような王、ですか?」
「ええ。王になりたいということは、何かやりたいことがあるのでしょう?」
「それは……」
彼女は少し考え込んだ。
私は答えを待ちながら、紅茶を飲む。
やがて、シャルロッテは静かに口を開いた。
「私は、誰もが安心して暮らせる王国を築きたいと思っております」
「そう」
「身分や生まれによって、不当に扱われることのない国。努力した者が報われ、困っている者には救いの手が差し伸べられる国です」
私は頷いた。
立派な理想ね。
少なくとも、国民のことを考えているのは間違いなさそうだ。
「いいと思うわ」
「……ありがとうございます」
「それで、そのために何をするつもりなの?」
「…………」
シャルロッテが黙り込んだ。
……あら?
「……何を、ですか?」
「ええ。安心して暮らせる国を作るために、どんなことをしたいの?」
「それは……制度を整えたり、貧しい方々への支援を充実させたり……」
「なるほど」
私は頷いた。
「具体的には?」
「……具体的、ですか?」
「ええ。例えば、どんな制度を作るのか。誰に、どんな支援をするのか。そういうことね」
シャルロッテは少し考えた。
けれど、すぐには答えが出ないようだった。
「……申し訳ございません。そこまでは、まだ……」
「謝る必要はないわよ」
私は微笑んだ。
「これから考えればいいんだもの」
「……これから?」
「ええ。理想があるのは素晴らしいことだと思うわ。でも、実際に何をすればいいのかは、色々なことを知らないと分からないでしょう?」
「……はい」
「だったら、まずは知ることから始めればいいんじゃない?」
シャルロッテは顔を上げた。
「知ること、ですか?」
「そうよ。王都で暮らしている人たちと、地方で暮らしている人たちでは、抱えている問題が違うかもしれない。貴族と平民でも、商人と農民でも、事情は違うでしょう?」
「……確かに」
「それに、同じ問題でも、立場によって見え方が変わることもあるわ」
私は少し考えた。
「例えば、税金を減らせば、払う人は喜ぶかもしれない。でも、その税金で維持していたものがあれば、困る人も出てくるでしょう?」
「……はい」
「だから、何かを変えるときは、その影響を考える必要があると思うの」
シャルロッテは真剣に耳を傾けていた。
「……お姉様は、そうしたことを常に考えていらっしゃるのですね」
「いつもじゃないわよ。必要になったときに考えているだけ」
「ですが、それができるということ自体、素晴らしいことですわ」
「……そう?」
「はい」
シャルロッテは微笑んだ。
「やはり、お姉様とお話しできてよかったです」
「それならよかったわ」
私は焼き菓子を一つ手に取った。
……ふう。
何とか、いい方向に話が進んでいるみたいね。
シャルロッテには王になりたいという意思がある。
それなら、ぜひ頑張ってもらいたい。
私としても、応援できることがあれば協力したいくらいだ。
……もちろん、仕事が増えない範囲で。
「ところで、お姉様」
「何?」
「一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ」
シャルロッテは少し身を乗り出した。
「もし、私が王位を目指すために、お姉様のお力をお借りしたいと申し上げたら、協力していただけますか?」
「それは――」
「少し待ってくれないか!」
突然、扉の向こうから声が響いた。
次の瞬間、応接室の扉が開く。
「……レオナルドお兄様?」
そこに立っていたのは、王位継承権第一位、レオナルドお兄様だった。
いつもの穏やかな笑顔は浮かべている。
けれど、少し呼吸が乱れていた。
……あら?
珍しい。
レオナルドお兄様が、こんなに慌てているなんて。
「突然すまないね、二人とも」
お兄様は軽く息を整えた。
「先触れもなく、女性同士のお茶会へ割り込むなど、礼を欠いていることは承知しているよ」
「……レオナルドお兄様?」
シャルロッテも驚いている。
それはそうでしょうね。
普段のお兄様なら、こんなことは絶対にしないもの。
「どうしてこちらへ?」
私が尋ねると、お兄様は一瞬だけ言葉を選ぶように目を伏せた。
「シャルロッテが君を訪ねると聞いてね。少し気になることがあったんだ」
「……気になること?」
「うん」
お兄様は私たちを見た。
「シャルロッテ。今、リリアーナに協力を求めていたね?」
「……はい」
「どのような協力を考えているのかな?」
シャルロッテは少し戸惑いながらも答えた。
「お姉様がこれまで取り組まれてきた政策や、各地方でのご経験について、お教えいただければと考えておりました」
「……なるほど」
お兄様は静かに頷いた。
「それだけかな?」
「いえ。できれば、今後の政策についても、お知恵をお借りしたいと思っております」
「そうか」
お兄様は少しだけ表情を引き締めた。
……何だろう。
別に、変なことを頼まれているわけではないと思うのだけれど。
「お兄様?」
「リリアーナ」
「はい?」
「君は、まだ返事をしていないね?」
「ええ。ちょうど答えようとしていたところです」
「……間に合ったか」
「……?」
お兄様が小さく呟いた。
私は首を傾げる。
……間に合った?
何の話かしら。
「シャルロッテ」
お兄様は妹へ向き直った。
「君がリリアーナに学びたいと思う気持ちは、よく分かるよ。彼女の功績を考えれば、当然のことだ」
「……ありがとうございます」
「けれど、一つだけ理解しておいてほしいことがある」
シャルロッテは姿勢を正した。
「何でしょうか?」
「リリアーナの知識は、私たちがこれまで学んできたものとは、少し違う」
「……違う、ですか?」
「そうだね。彼女は、誰も思いつかなかったようなことを、何でもないことのように話すことがある」
……そんなことあるかしら。
私は思わず考え込んだ。
確かに、前世の知識を参考にしたことはあるけれど。
それほど大したことをしているつもりはないのよね。
「それは、素晴らしいことではございませんか?」
シャルロッテが尋ねた。
お兄様は静かに頷いた。
「もちろん、素晴らしいことだよ。実際に、王国は彼女の知識から多くの恩恵を受けている」
「でしたら……」
「ただし、すべての知識が、必ずしも幸福をもたらすとは限らない」
その言葉に、シャルロッテが口を閉じた。
お兄様は続ける。
「便利なものを作る知識があれば、それを悪用する方法も生まれる。国を豊かにする知識が、使い方次第で他国を脅かすものになるかもしれない」
「…………」
「そして、私たちは王族だ」
お兄様の声が、少しだけ低くなった。
「国にとって有用な知識を得たとき、それを使わないという判断は、簡単にはできないんだよ」
シャルロッテは真剣な表情で耳を傾けていた。
「……たとえ、危険な知識であっても、ですか?」
「そうだね」
お兄様は頷いた。
「国を守るために必要だと判断されれば、使わざるを得ないこともある。たとえ、それが望ましくない結果を招く可能性を持っていてもね」
「…………」
「だから私は、リリアーナの知識について、必要以上に深く尋ねないようにしている」
私は以前、お兄様と交わした会話を思い出した。
私の持つ知識には、使い方次第で危険なものもある。
そして、王族として知ってしまえば、国のために使わざるを得なくなるかもしれない。
だからこそ、お兄様は必要以上に私の知識を尋ねようとしない。
以前、そう話していた。
……なるほど。
シャルロッテが私に協力を求めると予想して、慌てて来てくださったのね。
「知らなければ、使わずに済むこともあるからね」
お兄様は静かに微笑んだ。
「けれど、一度知ってしまえば、知らなかったことにはできない」
シャルロッテは視線を落とした。
しばらく沈黙が続く。
私は紅茶を一口飲んだ。
……なるほど。
お兄様は、私が何か余計なことを教えてしまうのではないかと心配していたのね。
でも、そんな危険なことを教えるつもりはないのだけれど。
「お兄様」
「何だい、リリアーナ?」
「私だって、何でもかんでも教えるつもりはありませんよ?」
「……そうだろうね」
お兄様は微笑んだ。
けれど、何だか安心していないように見える。
「君が悪意を持って知識を広めようとしているとは、私も思っていないよ」
「でしたら……」
「問題は、君にとって当たり前のことが、私たちにとっては当たり前ではないことなんだ」
「…………」
私は以前の会話を思い返しながら、小さく頷いた。
お兄様が心配しているのは、私が危険な知識を意図的に教えることではない。
何気なく話したことが、思いもよらない使われ方をする可能性なのだ。
「例えば、君が何気なく話したことを、誰かが別の目的に利用する可能性もある。君自身が危険だと思っていなくてもね」
「……そうですね」
私は頷いた。
確かに、それはあり得る。
前世では普通に使われていたものでも、この世界では存在しないものがたくさんある。
その中には、扱い方を間違えれば危険なものだってあるだろう。
……改めて、気をつけないといけないわね。
「分かりました。今後は、もう少し慎重に話すようにします」
「そうしてくれると助かるよ」
お兄様はようやく、少しだけ安心したように笑った。
「シャルロッテも、理解してくれたかな?」
「……はい」
シャルロッテはゆっくりと頷いた。
「私が考えていたよりも、ずっと慎重に扱わなければならないことなのですね」
「そういうことだよ」
「……申し訳ございません。私の考えが浅かったようです」
「謝る必要はないよ。君は、まだリリアーナのことをよく知らないのだから」
お兄様は穏やかに微笑んだ。
「それに、彼女から学ぶこと自体が悪いわけではない。大切なのは、何を知ろうとしているのか、その知識をどう扱うのかを考えることだよ」
「……はい」
シャルロッテは真剣な表情で頷いた。
私は二人のやり取りを眺めながら、焼き菓子を一つ手に取った。
……何だか、随分と大げさな話になってしまったわね。
ただ、妹とお茶を飲んでいただけなのに。
「ところで、お兄様」
「何だい?」
「せっかくですから、お茶でもいかがですか?」
「…………」
お兄様が一瞬、固まった。
それから、苦笑した。
「……君は、本当に変わらないね」
「そうですか?」
「うん。今の話を聞いた後でも、そうやって自然にお茶を勧められるのだから」
「だって、せっかく来られたんですもの」
私は微笑んだ。
「それに、少し息が上がっていましたよ? 慌てていらっしゃったのでしょう?」
「……参ったな」
お兄様は額に手を当てた。
シャルロッテが小さく笑う。
「ふふっ。レオナルドお兄様が、そのように慌てていらっしゃるところを、初めて拝見いたしました」
「できれば、忘れてほしいものだね」
「それは難しいですわ」
「……そうか」
お兄様は苦笑した。
私はサリナへ視線を向けた。
「サリナ、お兄様にもお茶をお願い」
「かしこまりました」
サリナが一礼し、新しいカップを用意する。
お兄様は椅子へ腰を下ろした。
「それにしても、リリアーナ」
「はい?」
「君は本当に、王位を目指すつもりがないんだね?」
「もちろんです」
私は即答した。
お兄様は小さく笑った。
「……そうだろうと思っていたよ」
「でしたら、ぜひお兄様が頑張ってくださいね」
「ははは。随分と簡単に言ってくれるね」
「応援していますよ?」
「それは光栄だ」
お兄様は紅茶を一口飲んだ。
そして、シャルロッテへ視線を向ける。
「君も王位を目指すのなら、これから色々と学ばなければならないね」
「はい。精進いたします」
「期待しているよ」
シャルロッテは嬉しそうに微笑んだ。
私は二人を見ながら、そっと息を吐いた。
……よかった。
王位を目指す人が、ちゃんと二人いる。
しかも、どちらも真面目で、国のことを考えている。
これなら、私が王になる必要なんて、ますますないでしょう。
私は満足しながら、焼き菓子を口へ運んだ。
……ああ、美味しい。
シャルロッテも、お兄様の話を聞いて、知識を扱うことの難しさを理解してくれたようだ。
これなら、安心して話ができるでしょう。
……もちろん、何でも教えていいというわけではないけれど。
「ところで、お姉様」
「何?」
シャルロッテが、少し遠慮がちに口を開いた。
「先ほどのお願いについてなのですが……」
「……ああ、協力の話ね」
「はい。もちろん、レオナルドお兄様のお話を踏まえたうえで、ということになりますけれど」
私は少し考えた。
政策について意見を求められるくらいなら、構わない。
けれど、知らないうちに危険な知識を伝えてしまう可能性もある。
お兄様が心配するのも、もっともだ。
「そうね……」
私は紅茶を一口飲んだ。
「まずは、あなた自身が何をしたいのか、もう少し具体的に考えてみたらどうかしら?」
「……私自身が、ですか?」
「ええ。そのうえで、分からないことがあれば相談してちょうだい。私に答えられる範囲でなら、協力するわ」
シャルロッテは少し考え、それから嬉しそうに頷いた。
「ありがとうございます、お姉様!」
「どういたしまして」
私は微笑んだ。
……これなら、大丈夫でしょう。
全部を引き受けるわけではないし、何を教えるかも、その都度考えればいい。
お兄様も、特に異論はないようだった。
「それでは、まずは私自身で考えてみますわ」
「ええ。頑張ってね」
シャルロッテは満足そうに微笑んだ。
私は紅茶を飲みながら、窓の外へ視線を向けた。
穏やかな午後の日差しが、庭園を照らしている。
……今日は、随分と賑やかなお茶会になったわね。
昨日は、王になりたくない弟。
今日は、王になりたい妹。
そして、珍しく慌てて飛び込んできたお兄様。
王位継承権を持つ人間が増えたことで、これから色々なことが起こりそうだ。
……できれば、あまり仕事が増えないといいのだけれど。
私は小さく笑い、最後の焼き菓子を口へ運んだ。
少なくとも、今日のところは。
こうして穏やかにお茶を楽しめているのだから、それで十分だろう。
お読み頂き、ありがとうございます。




