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17 プレーリー・ビー ~草原の妖精~

 黄土色の風が襲い来る膨大な攻撃魔法を完璧に防いでいる。


「さて。お嬢様達は無事だろうか」

「本当にボルゴラックさんは心配性ですね。奥様や師匠を倒す人がタニスンのクソ田舎に居る訳ないじゃないですか」


 甲板で砂の結界を展開・維持するのは黒い肌の巨漢、魔竜族の血を引く、聖騎士【土の祈り ボルゴラック・アークバレット】。

 その隣に座るのは緑の髪と瞳を持つ草原に住む小柄な亜人の一種、プレーリー・ビーの少女である【バセフィ】。

 

「むう」


 黄土色の風、その正体は膨大な砂の嵐である。

 その向こう側ではタニスン兵士の攻撃による猛烈な爆発が連発していた。

 

「別にブーリアの魔術結界を使っても良くないですか?」

「万が一にも中央炉の魔力切れが起きたら撤退が不可能になる。念には念をだ」

「二週間無補給でぶっ続けで使えばそうなりますけど……。大柄で厳つい顔の割に心配性過ぎるんだから」


 やれやれとバセフィは肩を竦めた。

 

「バセフィはルーさんよりジルさんの影響の方が大きいわよね」


 忍び装束のエルフの女性が、肩口で揃えた金色の髪を抑えながら、可愛らしくクスクスと微笑んだ。


「な!? コウセツさん失礼な。ボルゴラックさん何か言ってください。コウセツさんの旦那でしょ!?」

「俺は忙しい」

(ひど)っ」


 バセフィは甲板から飛び降りる。

 ピーと口笛を吹くと風が集まり(ひょう)の姿を(かたど)る。

 

「もういいです。私がさっさと片付けますから」


 風の豹に跨り腰から抜いた魔導短剣、【奏刻(そうこく)】にある魔導機構の三つの風錬玉が緑色に輝く。

 

「青騎士ルルヴァ・リーシェルトが一番弟子。バセフィ、参るっ」


 * * *


 バセフィが砂の結界から飛び出した時、タニスンの兵士達は即座に魔導弓を近接武器に切り替えた。

 魔導剣を持った二人が跳躍し、バセフィの正面から二人が槍を構えて突撃する。

 そして後方からはバセフィ目掛けて攻撃魔法が放たれた。

 

 バセフィのあらゆる逃げ道を塞ぐ、卓越した連携の技。

 例え彼らを凌げたとしても、後衛達が魔導弓につがえた矢の(やじり)がバセフィを捉えている。

 

「普通は詰む状態だよね、これ」


 時間が延びた感覚の中で、バセフィは冷静に迫り来る敵を観察する。

 彼ら個人の技量がずば抜けているのが解る。

 熟練の戦士でも、普通はこれを切り抜けられない。

 

「でも私は普通じゃないのよね」


 バセフィは短剣を振るう。

 それは刃の間合を遥かにずれ、タニスンの兵士達にはパニックを起こした末の空振りだと思った。

 しかし。

 

「「!?」」


 血飛沫が舞う。

 それもバセフィへ襲い掛かった四人のタニスンの兵士達から。

 上半身と下半身が泣き別れ、バラバラになった手と足が宙を舞う。

 

 風の豹の疾走は止まらない。

 慌てた後衛が魔導弓の矢を放つが、バセフィが振るった短剣が、間合いの遥か外でそれらを斬り飛ばした。

 

「奴の武器は……風の剣だああああ!!」


 正体を看破した部隊の隊長の絶叫が上がる。

 魔導短剣の剣身から遠い場所に、赤い血に濡れた透明な剣の切先を見たのだ。

 

「気付くのが遅い。その程度の頭だからボルヌギスなんて馬鹿の話に熱狂する」


 間断なく放たれる矢は、その纏う魔法ごと風の剣に叩き斬られる。

 

「ハアッ」


 バセフィが奏刻に一際強く魔力を込めた一撃を振るう。

 横一文字に不可視の風の刃が疾った。

 

 タニスン兵達の上半身が下半身からずり落ちる。

 

「バカな……」


 その隊長の呟きが、飛行艦ブーリアを襲ったタニスン兵達の最後の言葉となった。




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