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16 鼠

「話は済みましたかなブーレ伯爵」


 ペドンの従える兵士達の魔導杖に魔力の輝きが灯る。

 それを無視してリクスはドックルに語りかける。

 

「ブーレ伯爵、あなたは既に王国を抜けましたか」

「そうです。あと一週間リーシェルト様が早かったら間に合っていたでしょう」


 ドックルは冷や汗を流しながら、しかしハッキリ王国を裏切ったと答える。


「私はここに赴くにおいて国王陛下から全権を預かっています」

「そうですか。ならばもう」


 国王が全権を己の近衛騎士に、しかも公爵家の出であり、妾腹とはいえ息子の伴侶に与える意味は一つしかない。

 裏切りは、発覚していたという事だ。

 

 青騎士の力は見た。

 星の聖女を始め、その配下の実力も開拓者協会と繋がりがあったドックルは知っている。

 何よりA級開拓者の弟がいるのだ。

 S級を想像できない訳が無い。

 ドックルだけでは、勝つことなど万に一つもなかったのだ。

 


「しかし私はあなたが置かれた状況も酌量の余地のあるもの、と考えています。ですから剣を向ける場所を考え直してはもらえないでしょうか」

「……私は、」


 汗ばんだ手を握る。

 風前の灯、そう覚えた故ではない。

 手は打っていた。

 それはもう動き出したのだ。

 何よりも、


「私はパーナクを、王国を許す事はできない」


 父の代わりであり、尊敬する叔父はパーナクのせいで死んだ。

 怒りと憎しみは、もう止まらない。

 だからパーナクが継ぐ国など、もう知った事ではない。

 

「さてさて、お話は終わりましたかな」


 髭を弄っていたペドンが欠伸をしてリクス達の話を遮った。

 その目には罠に掛かった獲物へ向ける嘲笑の色を浮かべている。

 

「もうこのダルトン城塞はベルパスパ王国の物ではないのですぞ。栄えあるタニスン連邦が突き立てた牙、後進的旧来愚物の国を滅ぼすその橋頭保となったのですぞっ」

 

 リーシェルトの聖女派は護衛を含めて四人のみ。

 対するは二十人のタニスン連邦の最精鋭。

 

「さっそくだが捕虜になっていただきたい。後ろの獣共も抵抗は無駄ですぞ。聖女殿の飛行艦も向かわせた部下が制圧している頃ですからな」

 

 

 * * *


 ダルトン城塞飛行艦駐留場をタニスン連邦の兵達が疾走する。

 警備の兵達は彼らを止める事は無い。

 彼らは妨害される事無くブーリアに到達する。

 

 彼らの持つ魔導弓の錬玉核が魔力洸を発し、眩い光が朝の光を押しのける。

 

「やれ」


 百の矢が、爆炎の閃光と豪風の破城鎚となってブーリアの白い船体を襲った。

 

 * * *


「ぐわっ」

「どこから現れたっ」

「た、助けっ」


 ザンッ。

 黄土色に輝く魔導剣によって鎧ごと斬られた兵士が倒れ伏す。

 城塞内部を警戒していなかったベルパスパ王国の兵は、突如現れたタニスン連邦の兵達に成す術もない。

 響く断末魔。

 倒れ伏す死体。

 その全てがベルパスパ王国の人々であった。

 

「ぐわっ」

「どこから現れたっ」

「た、助けっ」


 そして指令室のある中央棟がタニスンによって制圧された。

 倒れ伏す事務員と散らばる書類。

 通信兵は背後に背負った無線通信機で通話を試みている。

 

「あっけなかったな」

「ダルトン城塞を落とした。俺達の名は祖国の歴史に刻まれるぜ」

「帰れば上級同志だ」


 楽しそうに話し合う兵達。

 しかし一人だけ、じっと床に倒れた死体を見ていた。

 

「どうした?」


 床の死体を凝視する兵の顔は、少し、青褪めていた。

 

「俺、こいつを殺している」

「そりゃ死体になってるんだから。お前は何言ってんだ?」

「違う。違う、違う違う違う違う違う違う違う」

「?」

「さっきも、その前も、その前も、またその前も。俺はこいつを殺しているんだ」


 問い掛けた兵もいぶかしげに横の死体を見る。

 その顔はどこかで見たような。

 それは、自分がずっと戦って殺して来た、この城塞の人間の顔。

 ぼやけていた輪郭が、ハッキリする。

 死体の顔は、全て同じ顔。

 

「!?」


「司令部と通信が繋がりません!」


 通信兵の声に全員が武器を構える。

 背筋が冷たく感じる。

 

「ふむ。数が多いから手を抜いたが、それを見抜けるものがいたか」


 声のする方を振り返るが、そこには誰もいない。

 

「闇か光の素養を持っているな。結構な才能だがタニスンの人間とは実に惜しい」

「上だ!!」


 全員がそこを見上げる。

  

 天井に逆さに立つ、忍び装束を纏ったエルフの女。

 銀の髪と紫眼を持ち、星の聖女に良く似た麗たる貌。

 

「炙り出された鼠共よ。これからは狩りの時間だ」

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