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城塞の指令室に設けられたスクリーンには魔導水晶から投影された映像が映し出されていた。
タニスン連邦の十万もの贖罪兵の侵攻に、城塞は非常事態が発令され、人員は忙しなく動き回っている。
この部屋に居るのもリクスとドックル、そして彼らの護衛だけである。
映像を見るドックルは落ち着いた声音で語る。
「なるほど。彼らならあのタニスンの魔獣の群れを駆逐することが可能、かもしれないですね」
青騎士と城斬り、そして無名の赤毛の騎士と彼を囲む【将狩り】を始めとした四人の英雄と呼ばれる者達。
いずれも開拓者のA級、及び武人評価の公的なものである【武剣評価基準】における【真達位】以上の実略者。
「さすが星の聖女たるリーシェルト様の部隊。あのメンバーならば、例え魔王の軍勢が押し寄せても対応できるでしょう」
「ふふふ。信頼する部下達ですので」
テーブルの上には湯気の立つ紅茶が置かれているが、リクスもドックルも手はつけない。
スクリーンに浮かぶ映像が切り替わり、峡谷内を駆ける無数の異形の集団を映し出す。
「人の魔物たる贖罪兵。外道の所業ですが、しかし用兵としては良き手ではあります」
「そうですね。内においては害なるものを外に用いて利なるものへ変える。戦においても政においても正しく合理的な思考です」
「意外です。忌避はされないので?」
リクスの答えに言葉は驚きながらも、しかし動揺の無い声音でドックルは問う。
「少なくとも神殿の鳥籠に飼われて世を知らずに生きてはいませんので」
「誰を揶揄されたのか。改めて恐ろしい方だ」
扉を開けて赤い鎧の男が入って来た。
その顔は朱色の竜を模した仮面によって覆われていた。
「デンレイ、オワッタ」
「ありがとう」
微笑むリクスの言葉にコクリと頷き、リクスの護衛へと加わる。
「リクスさん、ドランさんをこちらに来させて大丈夫でしょうか」
「彼ならこの程度は問題無いですよ」
背後のポパンの問いにリクスはそう告げた。
ポパンとアルネの二人に加わったドランは無言でリクスの隣に立つ。
さらに映像は斬り替わり、城塞正面を捉えたその光景には、土埃を従えた無数の異形が姿を現した。
「さあ、いよいよです」
ドックルの声音に興奮の熱が少し現れる。
(さて……青騎士さんは勝てるでしょうか、と)
* * *
スクリーンの中。
ペラテネス大峡谷は青い炎の波に包まれ、陽の光を浴びた細氷が無数に瞬いていた。
ドックルの口が顎を忘れたかのように開いた。
背後に佇む彼の護衛兵達も、その光景に呆然としている。
「あっけなかったわね」
「さすがルルヴァさんですね~」
「これが……青騎士。ルーさんの力……」
ふふふと微笑むリクスとあらあらと口に手を当てるポパン。
アルネはルルヴァの魔法の実力に称賛の瞳を向けていた。
「いや、いやいやいや……」
ボスンと音がした。
脱力したドックルが倒れ込むように椅子の背もたれへもたれかかったのだ。
「これが個人の力だというのか? このダルトン城塞が十全に機能したとしても、決して楽に勝てるものじゃないんだぞ」
六千の最新の魔導兵器を装備した熟練の兵士が突撃しても。
四千の巨大な特殊合金の戦闘ゴーレムが蹂躙し、二百の魔術砲が灼熱の閃光を放っても。
ドックルの顔が右手に覆われ、その表情が掌の中に隠れる。
そしてドックルから吐き出される言葉は、先程までの落ち着きが無くなっていた。
「ブーレ伯爵、どうしましたか?」
「リーシェルト、いや星の聖女様。あなたは此処へ何をしに来られたのですか」
あまりに美しい女はその顔に微笑みを浮かべたまま。
指からの覗くドックルの黒い瞳は怯える獣のよう。
「私がここに参りましたのは、疲弊したダルトン城塞の救援の為。そう申し上げたはずですが」
「……、……」
ドックルの息遣いが、徐々に、荒く荒くなっていく。
彼の護衛達は、その額から汗が流れ、しかし剣の柄を掴む事は無い。
杯に満たされた紅茶の湯気は無くなっていた。
「クク、ハッハッハ」
荒々しく開かれる指令室の扉。
付き出た腹を軍服に包んだ髭の男が現れる。
彼と共に部屋へと雪崩れ込んで来た兵士達が、その手に持つ軍用魔導杖をリクス達に向けた。
彼らが付ける紋章に描かれるのは、赤と白の大地に描かれた交差する杖と剣、瞬く星々。
聖典教会の異端たる聖ボルヌギス派の教えを口ずさみ、異世界の思想たる共産主義を抱き進む。
広大なバスルギン大高地を支配する人間至上主義の国。
タニスン連邦。
パンパンと手を叩き、髭の男が自分に注目を集める。
「さて 星の聖女 リクス・リーシェルト殿。私は栄えあるタニスン連邦の上級同志、連邦聖伐軍少佐のペドン・ザランドロスというものですがな」
おざなりな会釈がなされる。
「素直に投降される事をお勧めすます、がな」
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