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沈黙の招待状  作者: のむ


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第四章 崩壊

ノートパソコンが三度目の起動をした。


最終フェイズです。

三階の「怜の部屋」へ向かってください。

すべての答えが、そこにあります。


 三階への階段は、記憶の中よりずっと長く感じた。


 古い木の階段が軋む。五人分の足音が、館全体に反響する。


 怜の部屋。十年前、僕たちが何度も集まった部屋。怜がお茶を淹れてくれて、くだらない話をして、映画を観て、夜通し語り合った部屋。


 扉の前に立つと、足が動かなくなった。


 この扉の向こうに、答えがある。十年間求め続けた真実が。でも同時に、この扉を開けたら、もう後戻りはできないという予感があった。


 僕たちは十年間、「知らないこと」に守られてきた部分もあった。真実を知らないから、自分に都合のいい物語を作れた。怜は幸せにどこかで暮らしている。怜は自分の意志で消えたのだから、僕たちのせいじゃない。そうやって、薄い膜のような嘘で自分を包んでいた。


 その膜が、今、破れようとしている。


 透が僕の肩を叩いた。「行こう」


 咲良が僕のもう片方の肩に手を置いた。陽太がうなずいた。美月が、小さく「一緒に」と言った。


 扉を開けた。


 部屋は暗かった。カーテンが閉められ、月明かりも差し込まない。ただ、部屋の中央にキャンドルが一本灯っていて、その光の中に——


 一通の手紙が置かれていた。


 テーブルの上。キャンドルの隣。古びた便箋に、見慣れた筆跡で。


 怜の字だった。


 僕が手紙を取り上げた。手が震えて、何度も取り落としそうになった。


 五人で顔を寄せ合って、読んだ。


みんなへ

この手紙を読んでいるということは、わたしのゲームを最後まで遊んでくれたんだね。ありがとう。

十年前のあの夜のこと、話させてください。

わたしはあの夜、この館から逃げ出しました。みんなの前では笑っていたけど、本当は限界だった。お父さんの借金のこと、家のこと、将来のこと。全部がわたしの肩にのしかかっていて、息ができなくなっていた。

蓮が気持ちを伝えてくれたとき、本当はすごく嬉しかった。でも、あの状態のわたしが誰かの好意を受け取ったら、その人まで巻き込んでしまうと思った。だから「資格がない」と言った。今でも、あれが正しかったのかわからない。

透に「もう関わらないで」と言ったのは、透が正しいことを言ったからだよ。わたしが抱えている問題が大きすぎて、みんなを巻き込みたくなかった。透の「離れろ」という言葉が正論だったから、悔しくて、怒りをぶつけてしまった。ごめんね。

咲良にだけ打ち明けた秘密。咲良が何もしなかったことを、わたしは責めたことは一度もない。だって、わたしの方が「何もしないで」というオーラを出していたから。咲良は察してくれていた。わたしが自分で何とかしたいと思っていることを。ただ、それを見守ってくれていたこと、本当は気づいていたよ。

陽太がわたしを見ていたこと、知ってた。裏口を出るとき、窓の向こうに陽太の顔が見えたの。目が合った気がした。でも陽太が追ってこなかったとき、わたしはほっとした。あのとき、追いかけられていたら、わたしは泣き崩れていたと思う。それが怖かった。弱いところを見せるのが、怖かった。

美月に送ったメール。最初は「助けて」と書きました。三回書き直して、「心配しないで」にした。わたしの悪い癖。最後まで、誰かに助けを求めることができなかった。


 ここまで読んで、僕は手紙を持つ手の震えが止まらなくなった。咲良が声を殺して泣いている。陽太が天井を見上げて、唇を噛んでいる。美月は手紙を読むことができずに、顔を覆っていた。


 透だけが、手紙の続きを示した。「まだ、続きがある」


でも、わたしは死んでいません。

ごめんなさい、こんな書き方をして。驚かせたいわけじゃない。でも、これが事実です。

あの夜、わたしは館を出て、山を下りて、始発の電車に乗って、東京を出ました。何も考えられなかった。ただ、ここではないどこかに行きたかった。逃げたかった。すべてから。

それからの十年は、長い話になるので、今は省略します。いつか、直接話せる日が来たら。

一つだけ言えるのは、わたしは今、生きています。

そして、ずっとみんなのことを想っていました。

わたしが突然いなくなったことで、みんながどれだけ苦しんだか。それを知ったのは、五年前のことでした。偶然、咲良のSNSを見つけて。咲良が毎年十月三十一日に、同じ言葉を投稿しているのを見ました。

「今日も、待っています」

その一行を見て、わたしは泣きました。

それから、一人ずつ、みんなの今を調べました。透が弁護士になっていたこと。蓮が会社員として働いていること。陽太が体調を崩していたこと。美月があの夜から人との距離をうまく取れなくなっていたこと。

全部、わたしのせいだと思いました。

でも、ある人に言われたんです。「あなたのせいだと思うなら、あなたにはそれを終わらせる責任がある」と。

だから、このゲームを作りました。

みんなに直接会う勇気は、まだありません。こんなことをして、許してもらえるとも思っていません。でも、みんなが抱えている秘密を——罪悪感を——下ろしてほしかった。

あの夜、わたしが消えたのは、誰のせいでもない。

蓮のせいじゃない。告白してくれたこと、本当に嬉しかった。あの言葉が、わたしの中の最後の温かい記憶です。

透のせいじゃない。あなたは友達思いの、優しい人。口論になったのは、二人とも本気でわたしたちのことを考えていたから。

咲良のせいじゃない。あなたがそばにいてくれたから、わたしは最後まで笑っていられた。

陽太のせいじゃない。あなたが追いかけてこなかったから、わたしは泣かずに済んだ。あの夜のわたしには、それが必要だった。

美月のせいじゃない。「助けて」を「心配しないで」に変えたのは、わたしの選択。あなたは何も悪くない。

誰のせいでもない。

わたしが弱かっただけ。そして、わたしたち全員が、不器用だっただけ。

今夜、みんなの秘密が全部出揃ったら、このゲームは終わりです。館の扉は開きます。

そして——もし、みんなが許してくれるなら。

わたしは、一階のホールで待っています。

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