第七十八頁 — 忙しい朝
ズルズル...ズルズル...
何が何だか分からないまま、今、僕はさっき自分をヤシオさんと名乗った奇妙な少女に、廊下を連れて行かれている。
外ではみんなが体育祭の準備をしている。
周りには開いている教室なんて一つもない。
なのに、奇妙なことに――奥には明かりのついた扉が一つある。
「後輩くん、早くして!」
「あいつらもうすぐ着くわよ!」
「まだ準備することがたくさんあるの!」
...
フラフラ...
足元がまだ少しふらついていて、辺りをキョロキョロと見回す。
頭の中は空っぽだ。
どうしてこんなに急がなきゃいけないんだ?
「ちょっと待って……お姉さん、何を言ってるんですか……?」
「準備...それからあいつらって...」
...
...
ギィィ……
そして、明かりのついた部屋の扉が開いた瞬間、
最初に僕へ飛び込んできたのは、部屋の冷気と、ほのかな花の香りだった。
目の前には、人影は一人もいない。
そこに広がっていたのは、まるで戦場のような光景だった。
物は床に散乱し、
たくさんのボトルが机にぎっしり並び、キャップはあちこちに転がり、鞄は隅にまとめて放り込まれている。
ヤシオさんだけが、平然とその部屋に入っていき、まだ蓋のついたボトルを何本か掴む。
「やっぱり遅すぎたわね!」
「早くして後輩くん!」
「こっちに来て!」
...
「は、はい。」
そしてヤシオさんに従って、僕は部屋に入る。
...
...
シューッ...シューッ...
ヤシオさんは僕を椅子に座らせ、目の前に鏡を置いた。
ボトルを僕の体に直接吹きかけてくる。その香りは、部屋に入った時の香りと全く同じだ。
たぶん、これは香水だろう。
その直後、ヤシオさんが手で僕の髪を整えて、耳元で何かを囁く。
「後輩くん。」
「後でお姉さんと一緒に下に行く時...」
「何も言わないで。」
「黙って微笑んでるだけでいいの。お姉さんが渡すものを持って。」
「お姉さんが合図するまで、離れちゃダメよ。わかった?」
...
「あの...まだよくわからないんですけど...」
「さっきから...ヤシオさんはずっと急いでて...」
「結局...」
...
バシッ!
僕の質問に答える代わりに、なぜか背中を強く叩かれて、
ヤシオさんは顔を赤くして、体をくねくねと揺らす。
「旦那様ったら~」
「エッチすぎるわ~」
「そんなに急かして...」
「どうやって準備する時間があるっていうの...」
「ご・ほ・う・び、でしょ~?」
...
ゾクゾク...ゾクゾク...
この人の頭、どうかしてるのか?
それとも僕が出した質問が妙に変すぎたのか?
それともさっきの紙にハンコを押したせいなのか?
でも何であれ...
これは少しやりすぎだ!
...
ぎゅっ...
ヤシオさんが突然後ろから僕を抱きしめ、耳元でそっと囁く。
「安心しなさい、旦那様。」
「あ、いや……後輩くんだったわね?」
「全部終わったら、」
「お姉さんが全部説明するわ。」
「今は待っててくれる?」
...
この状況、どう反応すればいいかわからない。
ただ硬直したままそこに座って、
そして、僕は軽く頷いた。
「はい...待ちます...」
...
ぎゅっ!
「大好き~」
「やっとこの言葉を言ってくれる男の人が現れたわ!」
「体育祭が終わったらそのままデートしよっか!」
「旦那様~」
答えを間違えた。
どうして僕が言い終わった瞬間、
ヤシオさんは僕の首に回した腕をさらに強く締め、
頬をさらに近づけてくる。
これ...全然大丈夫じゃない...
.........................................................................
ゾロゾロ...ゾロゾロ...
あの気まずい状況からしばらく抜け出せず、どうにかすべてが落ち着いた。
今、早朝の日差しが夜明けの霧を突き抜け、
生徒たちが乱雑な列をなして校庭に入っていく。
彼らの横には、少し年上に見える人たちがいて、普段着を着ていて、生徒一人ひとりと親しい様子だ。
もしかして、家族なんだろうか?
...
そして今の僕は、なぜか...
ヤシオさんのすぐ隣に立っていて、
姿勢を正して、常に笑顔を浮かべて、動かないようにしなきゃいけない...
何なんだよこれ?
急にどうしてここに立ってなきゃいけないんだ?
...
...
ゴロッ.
でもしばらくして、入り口の道にもう誰もいなくなると、
今、校門の前で車が次々と止まってはまた去っていく。
...
ザッ、ザッ
その車から降りてくる人たちは、なぜか、
ほとんどが、まるで仕事帰りのビジネスマンみたいなスーツ姿で、中くらいのサイズのスーツケースを手にしている。
その横には、全身を奇妙な服で覆った人たちの列がいて、試合前のスポーツチームが着ているようなウェアにそっくりだ。
...
ちょっと待て。
待て待て待て待て。
もしかして本物なのか?
僕はスポーツにあまり興味がないからよくわからないけれど。
それに、そういう選手たちって、練習スケジュールがかなり詰まってるんじゃないのか?
どうやってここにいるんだよ!
そんな考えが頭の中をぐるぐる回って、
気づいた時には、
...
トンッ...トンッ...
「旦那様、」
「残りは頼むわね。」
ヤシオさんが僕を軽く促し、素早く去っていく。
...
そんな考えから我に返った時、足の前には、
8個のスーツケースが積み重なって置いてある。
どうやって...いつから...
僕は...これを全部持たなきゃいけないのか?
...
...
そっ……
汗がシャツを濡らし始めて、顔が熱くなってくる。
なぜ...これを全部持って...
上の階に上がってまた下に降り続けなきゃいけないんだ?
その上...
あのスーツ姿の連中にもぴったりついて回らなきゃいけないのか?
どうして彼らは方向を何度も変えてじっとしてくれないんだ?
さっきから校内を何周も走ってるぞ?
疲れないのか?
...
あの人たちがまだ下のプールで試合を夢中で見ている隙に、
僕はスーツケースを全部下ろして、膝に手をついて、少し体を休めようとする。
でも、大きな手が突然肩に触れる。
ポンッ.
「お疲れ様、青年。」
「早く更衣室に戻って少し休みなさい。」
「もうすぐ君の試合の時間だ。」
「残りは私がやる。」
...
冗談だろ?!
この人、どこから出てきたんだよ?!
体は周りにいる誰よりも高くて大きくて、筋肉が恐ろしいほど張り詰めていて、
顔は常にしかめっ面で、鋭い目でまっすぐ僕を睨みつけている。
怖い!
でも...どこかで会ったことがあるような気がするんだよな?
...
「は...ありがとうございます...」
とりあえず今は逃げるのが一番だ。
...
...
今から試合まであと15分くらい休める。
僕はそのまま、今朝ヤシオさんに連れてこられた部屋へ逃げ込んだ。
この部屋の冷気は、あの扉をくぐっただけで、まるで全く違う世界に入ったみたいだ~。
そしてなぜか、机の真ん中にオレンジジュースのカップが置いてあって、
小さな紙切れにこう書かれている。
「頑張ってね、後輩くん。」
...
まあ、飲み終わったら試合会場に行こう。
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初日の試合、予選の相手は決して楽な相手ではなかった。
力の配分もうまくて、高度な打ち方もしっかり身につけている。
でも、残念だったな...
...
ポンッ.
バドミントンの打ち方を教えてくれたのは、
トリックを仕掛けるのが大好きな父さんだったから。
...
「試合終了。」
「勝者」
「トガミ・ハル。」
...
でも勝ったのに、相手の方を見ると、
クラスメートたちに囲まれている。
一方で今の自分の周りには、クラスの誰もいない...
...
フルフル...
いやいやいや。
変なこと考えるな、トガミ・ハル。
今日はみんな自分の試合で忙しいし、
僕自身も何も言わずに朝から消えていたんだから、
来なくても仕方ない。
ただ...
...
...
ギュッ!
「旦那様!」
また後ろから、
朝からずっと聞こえていた声が、また僕の後ろから響いた。
...
「ヤシオ...さん...」
さっきの考えは吹き飛んだけれど、顔はどうしていいかわからなくなる。
今は人が多い場所だぞ!
振り返るべきか?
何を言えばいい?
...
ツンツン...ツンツン...
なぜかヤシオさんは頰を膨らませて、指で僕の頰を何度も突いてくる。
「もう~」
「旦那様ったら~」
「また変なこと考えてるでしょ?」
「せめて、周りくらい少しは見てよ!」
「いつも私を待たせないで。」
「甘い言葉を言う時はちゃんとまとまってるのに、」
「今はこんなに冷たいの。」
「また他の子に目移りしたの?」
...
「違います...ヤシオさん...」
「ただ...」
...
「ほらまた。」
「いつもはっきり言わない。」
「他の女の子にはいつも親しみを込めて呼ぶのに、」
「私はいつもヤシオさんとか先輩とか...」
「やっぱり私のこと嫌いになったのね?」
「あんなに親密になったのに!」
「この最低!」
ヤシオさんは僕の首に回した腕に力を込め、
顔を近づけて、輝く目で僕から離れない。
...
どうしてこうなっちゃったんだ?!
今どうすればいい?
何を言えば正しい?
周りの人たちも見てるし、
誰か何も言わないのか?
保護者や教師まで目を丸くしてこっちを見てるのはなぜだ?
誰かこの状況から助けてくれ!
...
「あらあら。」
その音が響いた瞬間、ヤシオさんが急に体を硬直させて、手がゆっくり首から離れ、体がまっすぐに伸びていく。
そして群衆は、なぜかみんな顔をそらす。
...
コツッ...コツッ...
その声の主がだんだん近づいてきて、
周りの空間には足音だけが残り、
濃い殺気が徐々に強まっていく。
「なるほど、さっきからここにいたのね、ヤシオ。」
「さっき後輩くんを昼食に連れて行くように言ったはずよ?」
「どうして急にここで騒ぎを起こしてるの?」
「それとも、前回ヒヨリちゃんがまだ十分に手本を見せなかったのかしら?」
...
ズ……
そして気づけば、その人はヤシオさんのすぐ隣に立っていた。
目は大きく見開かれて、顔に表情がなくて、髪が長く垂れている。
「ねえ...」
「前回ちゃんと注意したはずよ...」
「もうこういう騒ぎは起こさないようにって、言ったはずよね。」
「ヤ・シ・オ?」
...
((((;゜Д゜))))
「すみませんでした!」




