第七十頁―それぞれの体育祭
ドッ!ドッ!ドッ!
道場の周囲では、白い道着を着た人々が至る所で稽古に励んでいる
一団また一団、それぞれが小さな一角に分かれて立っている
拳や蹴りが、互いに向かって次々と繰り出されていく
額には、無数の汗の粒がびっしりと浮かんでいる。
…
…
ドカッ! バシッ! ドンッ!
次々と繰り出される打撃が、まっすぐ俺へと飛んでくる。
一切の迷いもなく、息つく暇さえない
その攻撃の奥には、獲物を狙う獣のような目が隠れていた
短い赤髪の下には、絶えず笑みを浮かべる唇があった
…
ズルッ…ズルッ…
「ちょっと待って…少し…」腕を高く掲げながら、一歩ずつ後ろへ下がっていく
「ツメコさん…」
「これは…ちょっと…」
…
バシッ!バシッ!
「…」ツメコさんの拳が、止まることなく俺へと飛んでくる
…
へへへ……
「もっと!もっと!」ツメコさんのツメコさんは止まらない笑みを浮かべながら、何度も拳を繰り出してくる
「やっと来た…来た…」
「この機会がついに来たんだから……だから……」
…
ドゴォッ!!
「早く降参しないの!?」ツメコさんが拳に力を込め、俺へ向かってまっすぐ叩き込む
…
ドサッ!
「…」俺はそのまま床に倒れ込み、顔をわずかにしかめる
…
へへへっ!
「早く降参しなさい!」ツメコさんが両手を腰に当て、顔を天井へ向ける
「この勝利は最初から決まっていたのよ!」
「大人しく私の引き立て役になって、あの子の前で私を輝かせてちょうだい!」
…
むくっ……
「わかった…俺が負けた…」ゆっくりと起き上がり、顔が徐々に穏やかになる
「今日もいつものようにお前の勝ちだ!」
…
ビクッ!
「…」ツメコさんの体が突然固まり、目が凍りつく
…
すっ……
「さっきからずっと不思議だったんだ」少しずつ体をまっすぐ立てる
「なんで今日はいつもより急に本気なんだろうって」
「まさか誰かの前で、いいところを見せたかったのか?」
…
キラッ…キラッ…
「そういう気持ち、俺にはよくわかるよ!」軽く微笑み、丸い目でツメコさんを見る
「だから俺が手伝ってやる!」
「引き立て役でも何でも手伝うから!」
「だから…頑張ってね!」
…
タラタラ…タラタラ…
「…」ツメコの顔が徐々に別の方向へ向く
…
すっ……
「でも少し気になるな…」手を軽く顎に当てる
「結局…お前が前で見せびらかしたい相手って誰なんだ?」
…
(゜Д゜;≡;゜Д゜)
「それは…実は…」ツメコさんが顔を何度も左右に向けながら、手をあたふたと振り回す
「違うの…話は…」
「とにかく…」
…
「大丈夫だよ」頭を軽く傾け、唇を微笑ませる
「今は言いたくないなら、無理に言わなくてもいいよ」
「ただ後で忘れずに教えてくれれば…」
…
「お父さんが体育祭を見に来るの!!!」ツメコさんが目を固く閉じ、両腕を床へまっすぐ振り下ろす
…
「お父さん…が?」目を丸くし、体が一拍止まる
…
もじもじ……もじもじ……
「そうなの」ツメコが体を縮め、顔をうなだれ、二本の指先をもじもじと触れ合わせる
「実は…うちは小さな道場をやってるの」
「それに父は師範なの」
「それでなぜか…私が武道の大会に出場登録したことを知って…」
「だから…私…」
…
ぽんっ!
「わかった!」ツメコさんの肩を軽く叩き、唇を微笑ませる
「あの日までにちゃんと準備するのを手伝ってやるよ!」
「実際俺はお前の練習台になる以外ほとんど何もしてないけど」
…
「ハルくん…」ツメコさんの目が少し潤み、まっすぐこちらを向く
…
…
ぐいぐいっ!
「もう、そんなに張り切らないでよ!」ツメコさんが背中を強く押し、ドアの方へ追いやる
「早くご飯食べに行きなさい!」
「ミヤキちゃんがもうずっと待ってるんだから!」
…
「でも…まだ…」俺は振り返り、足を必死に床へ踏ん張る
…
ぐいっ!
「練習しすぎて私も疲れたの!」ツメコさんが顔を低く伏せ、手が背中を何度も押す
「今日はここで終わり!」
「他の話はまた後で!」
…
…
バタンッ!
部屋のドアが今や閉じられた
周囲の視線が、わずかに同じ方向へと向けられる
部屋のドアの方へ、その先にいる、赤髪の少女へ
…
ふぅ……
「なんで気づかないのよ…」ツメコの目がわずかに揺れ、床をまっすぐ見つめる
「バカ」
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そよそよ…そよそよ…
見慣れた階段の日陰で
風が髪をそっと撫でていく
階段の下では、生徒たちが楽しそうに笑い合っている
…
階段の上には、俺たち二人の影
小さな弁当箱二つと、見慣れたスケッチブック
いつものように寄り添う、二人だけの日常の一瞬
…
パチン.
「ごちそうさまでした」弁当箱を軽く閉じ、周りを徐々に片付けていく
…
さらさら……さらさら……
「…」アマミヤさんがスケッチブックに顔を伏せ、鉛筆を握る手が、止まることなく動き続けている
…
「今日はまた何を描いてるの?」スケッチブックの方へ身を乗り出す
「見せてもらっていいか?」
…
ばっ!
「…」アマミヤさんが慌てて背を向け、スケッチブックを胸に強く抱きしめる
…
「…」徐々に体を引き、目を校庭の方へ向ける
「俺は…」
…
ええっ!?
「そういうんじゃないの!」アマミヤさんが目を固く閉じ、体をまっすぐこちらへ向ける
「ハックンのことが嫌いとかじゃないの!」
「見せられないものを描いてるわけでもないの!」
…
「ただ…この絵は…まだ完成してなくて…」アマミヤさんがスケッチブックを軽く引き寄せて顔を隠す
「だから…私は…」
「完成したら……絶対に見せるから……」
…
はは……
「大丈夫だよ」軽く微笑み、目をわずかに閉じる
「急に見せろって言った俺が悪いんだ」
「そのまま描き続けてくれ!」
「もう覗かないから」
…
…
ざわざわ……ざわざわ……
下の校庭で、生徒の影が至る所を駆け回っている
一団また一団が広い校庭の周りに集まっている
残りのいくつかのグループは木陰の下に横たわっている
そして数人の影が、まだ廊下の周りを漂っている
…
さらさら……
「ねえ…ハックン…」アマミヤさんの手が突然止まる
「ちょっと聞きたいことがあって…」
「いい?」
…
「うん」軽く頷き、目をまっすぐ校庭へ向ける
…
「今度の体育祭…」アマミヤさんの目が、周囲をそっと見回す
「ハックン…あなたは…」
「参加するつもり……? それとも、やめておく?」
…
ぽりぽり……ぽりぽり……
「それは…」頭を軽く何度も掻く
「正直…俺もよくわからないんだ…」
「体力の話なら、他の奴らみたいに自信はないし」
「バドミントンだって、できると言っても一応遊べる程度だ」
「速く走る系の種目だと、ビリになるかもしれない」
…
ぎゅっ……
「じゃあ…なんで…」アマミヤさんの手が軽く握りしめられる
…
「でも…どう言えばいいかな…」腕を下ろし、目を丸く開けて下の校庭を見る
「クラスのみんなは体育祭をすごく楽しみにしてるみたいだ」
「俺が苦手だからって、参加しないことを選んだら…」
「まるでクラスみんなの楽しみを壊してしまうみたいだ」
…
「だから…大した貢献はできないとわかってるけど…」目が徐々にアマミヤさんの方へ戻る
「でも…みんなと一緒に参加するよ」
…
にこっ!
「…」アマミヤさんの唇が軽く微笑み、スケッチブックをさらに胸へ抱き寄せる
…
(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄)
「ねえ…ハックン…」アマミヤさんの潤んだ瞳でこちらを見る
「今度…私も参加するから…」
「だから…一緒に頑張ろうね~」
…
「へ?」アマミヤさんに近づき、目を見開く
「本当に?」
「どの種目に出るつもり?」
「絶対そこに行って全力で応援するから!」
…
ドキッ!
「ハックンは……来なくてもいいの……」アマミヤさんが顔を別の方向へ向け、両頬が徐々に赤くなる
「あの日は…ただ…」
「あまり…見ないで…ね…」
…
「そんなことできるわけないだろ!?」さらに体を寄せる
「それはお前の晴れ舞台だろ!」
「その時に目を離せるわけないだろ!」
…
「そんな…ことしないで…」アマミヤさんが顔をうなだれ、体が徐々に縮む
「恥ずかしい…」
………
もう~!
「あなたがそうするから…」アマミヤさんがスケッチブックを強く抱き、両頬が赤く膨らむ
「あの日…どうして着られるの…」
「あの恥ずかしい衣装を…?」
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コツ…コツ…
その頃、見慣れたF組の教室の中
カーテンは微動だにしない
教室には、もうほとんど人が残っていない
…
コツ…コツ…
残されたここには、教壇の上を行き来する一人の少女
そしてその下に跪いて顔を伏せる男子の列
…
そっ……
「協力してくれてありがとう」ミズノが教師用の椅子に軽く腰を下ろす
「おかげで、ここまでのところ……」
「すべて計画通りに進んでいるわ」
…
トントン……
「ただ…」ミズノが男子の列の方へ体を伸ばし、指で机を何度も叩く
「今朝はまだ何人か口を滑らせた人もいたけど…」
「幸い、何も変わらなかったわ」
「でも次はもっと注意してほしいわ」
…
ぽすっ…
「そして忘れないで…」ミズノが机に軽く手をつき、顎を手の上に乗せる
「時には…私だって……」
「うっかり口を滑らせることがあるのよ」
…
ガタッ!
「こんなのおかしいだろ!」シラカワが勢いよく立ち上がる
「こんな些細なことで…」
「トガミさんを裏切れって、俺たちに言ってるのか?」
「俺は絶対に…」
…
フフフ……
「何をするの? あいつに話す?」ミズノが軽く唇を歪める
「あいつが体育祭に参加することについて?」
「それとも、うちのクラスがバドミントンの人数不足に困っていることについて?」
…
「それとも…」ミズノの唇がわずかに動く
「あなたが少し口を滑らせて…」
「私も少し口を滑らせて…」
「クロミちゃんが聞きたがるかもしれないことについて」
…
「…」シラカワが徐々に体を低くし、跪いて体を完全に縮める
…
コツ…コツ…
「勘違いしてるみたいね!」ミズノが教壇の中央へ徐々に進む
「私たちはハッチを売り渡してるわけじゃない」
「あいつを裏切ってるわけでもない」
「ただ、ごく普通のことをしているだけよ」
…
ばっ!
「私たちはただ、大切な友達に頼んでるだけ…」ミズノが両腕を大きく広げる
「誰もやりたがらない種目に参加してもらうだけ」
「賞を取ろうが取らなかろうが誰もあいつを責めないわ」
「むしろ私たちはあいつに深く感謝してるのよ!」
「それで何が悪いの?」
…
「…」すべての目がミズノに集まる
…
( ̄ー ̄)
「私たち全員の利益のために」ミズノが顔を上へ向ける
「今、最優先すべきことは……」
「ハッチが宝探し競争に参加するよう仕向けること」
「みんな、異論はないわよね?」
…
「イエス・マム!!!」男子全員が立ち上がり、声が部屋中に大きく響く
…
( ̄▽ ̄)
「よろしい!」ミズノが軽く頷く




