第六十五頁ーそれぞれの視点
ザワザワ…ザワザワ…
朝の陽光が教室中に差し込む中
教壇は鞄で埋め尽くされ
周りの机はすっかり空っぽ
教室の後ろの方では、全員が一つの輪になって集まっている
…
…
スッ…
「ハヤマ先生。」中村先生が封筒を差し出す
「この答案用紙の束を職員室まで運んでいただけますか。」
「後ほど私もそちらへ行き、承認しますので。」
...
「それは困りますよ、中村先生。」ハヤマ先生が眉を寄せる
「試験の時間中です。勝手に席を離れるわけにはいきません!」
「それに、この先答案が増えないとも限りませんからね。」
...
コツ…コツ…
「心配しすぎる必要はないですよ!」中村先生が両手を後ろに回し、教室の後ろの方へ歩み寄る
「今日はもうこれ以上答案は出ません。」
…
スッ…
「了解しました。」ハヤマ先生が目を細め、手を伸ばして封筒を受け取る
…
…
ザワザワ…ザワザワ…
小さな机の周りで、あちこちから声が飛び交う中
教科書があちこちに散らばり
皆が難しい顔で紙の上の文字を見つめている
…
パンッ
「もういい加減にみんな!」シラカワさんが強く手を叩く
「このままじゃいつまで経ってもまとまらないわ。」
「まずは誰か答えを思いついた人から先に言ってみて。」
「そのあとでみんなでどの答えにするか決めましょう。」
...
バッ!
「思いついた!」レンが勢いよく手を挙げる
「ブラジルはどうだ?」
「あの国はサッカーで有名で、独自のスタイルがあるだろ。」
…
コツン!
「それじゃあ簡単すぎるわ!」イシカワさんがレンの額を叩く
…
ぐぬぬ…
「どういう意味だよ?」レンが顔をしかめ、イシカワさんの方を向く
「問題文は『簡単』って言ってるだろ?」
…
「あなたはまだまだ勉強不足ね!」イシカワさんが腕を組む
「いい、聞きなさい…」
「確かにブラジルはサッカーで有名よ。」
「でもそれは歴史の一時期であって、国全体の歴史じゃない。」
「その一点に固執したら、他の部分の歴史全部を無視することになるわ。」
…
スッ…
「代わりに私はこう思うの。」イシカワさんが手を前に出す
「南アフリカを選んではどうかしら。」
「奴隷制度からの解放の闘い…」
「それとも人種差別撤廃の闘い…」
「そっちの方が全体を網羅しやすいんじゃない?」
…
うーん…
「その意見は確かに理にかなってるわね…」シラカワさんが顎に手を当てる
「でもその方向でいくと。」
「結果が地域全体の話になってしまって、一つの国じゃなくなるわ。」
…
んー…
「じゃあみんな、アメリカはどう思う?」シラカワさんが目を丸くして周りを見回す
「世界の超大国で、多様な文化を持ってる。」
「自由の国って言われてるし。」
…
ぎゅっ…
「私は反対。」ミズノさんが後ろから俺の肩を強く掴む
「アメリカは複雑な問題が多すぎるわ。」
「論争も山ほどある。」
「一つのイメージにはまとめられない。」
…
ブンッ!
「ちょっとあんた!」ツメコさんが顔をしかめ、俺たちの方を指差す
「みんなが真面目に議論してる時に何やってんのよ、そのはしたない真似!」
「早くハルくん離しなさい!」
…
ニヤッ…
「何言ってるの、ヤマザキさん?」ミズノさんが首を傾げ、唇を歪めて笑う
「今はみんな一箇所に集まってるんだから。」
「体が触れ合うのは当然でしょ。」
…
「それに…」ミズノさんが俺の髪に手を伸ばす
「ただ肩に触れただけよ。」
「何か怪しいことでもしたの?」
...
ぐぬぬ…
「この図々しい…」ツメコさんが握った拳を高く上げ、目を固く閉じる
…
サッ…
「二人とも少し落ち着いて!」アサギリさんが突然腕を横に伸ばして止める
「何かあったら試験が終わってからにしましょう。」
「今はまず試験に集中して。」
…
「こっちは大丈夫よ!」ミズノさんが微笑む
「みんな普通に続けて。」
…
「ヤマザキさんはどうなの?」アサギリさんが目を丸くして見る
…
「終わらせればいいんでしょ?」ツメコさんが唇を動かす
「だったらさっさとやりましょ!」
…
トンッ!
「じゃあ中国にしよう!」ツメコさんが強く机を叩く
「文化、文字、服装…」
「そして何より、武術の伝統がある!」
…
スッ…
「ちょっと待って。」ピンク髪の少女が腕を横に伸ばして周りを制する
「なんでみんな他の国ばっかりなの?」
「なんで私たちの日本にしないの?」
「人、服装、食事、そしてアニメ文化まで。」
「これ以上特徴的じゃない?」
...
クイッ...
「食事の話ならインドだな。」眼鏡の少年が眼鏡を押し上げる
「スパイスで有名だし、料理の種類も多いだろ。」
…
ボソッ…ボソッ…
「エジプト…ピラミッド…ミイラ…」小さな少女がぼそぼそ呟く
「古代の謎…宝物…禁断の魔法…」
…
…
ガヤガヤ…ガヤガヤ…
周囲は次第に騒がしくなっていく
声が飛び交い
視線があちこちを忙しく動く
…
クイッ…クイッ…
「ねえ、ハックン。」アマミヤさんが俺の袖を引っ張る
…
「どうした?」俺が目を丸くして首を傾ける
…
「イタリアとかフランスとかはどう思う…?」
「あそこらへん…芸術で有名でしょ。」
…
「悪くないアイデアだと思うよ!」俺が微笑み、周りを見回す
「ただ…今ここで言うにはちょっと…」
…
…
コホン!
…
全員の動きが止まる
音が突然止まる
すべての視線が、後ろに立つ人物に集中する
…
スッ…スッ…
「みんな、覚えておきなさい。」中村先生が白い髭を撫でる
「議論するのは良いことだ。」
「しかし際限のない議論は、ただ戦争へと導くだけだ。」
…
「さて今は。」中村先生の視線が真正面から俺に向けられる
「全員が自分の意見を述べ終わった。」
「君はどうだね、若い君は?」




