第六十二頁ー夢と交錯する想い
ヒソヒソ…ヒソヒソ…
教室のもう片側から、人影がいくつかの塊に集まり始める
視線は講壇にいる人物たちから必死に逸らされ
片方の顔を手で覆い、囁きが続いていく
「二人を止めるべきかな?」
「昼休みですら落ち着けないなんて!」
「トガミさん可哀想…助けた方がいい?」
「バカなの? いきなり戦場に飛び込む気?」
「早く行こうよ!」
ガラッ…
………………………
バン!!
「もう昼ご飯に行く時間じゃないの、ミズノさん?」ツメコが机を強く叩く
「今日はもう十分勉強したわ。」
「きっと疲れたでしょ?」
「ハルくんはここに残しておいて!」
…
シーッ~
「それはこっちのセリフよ、ヤマザキさん。」ミズノが指をそっと唇に当てる
「この時間、いつも部活に飛んでいくじゃない。」
「そんなに忙しいのに、あの子のこと気にしてる暇なんてあるの?」
…
フッ
「残念ながら!」ツメコが腰に手を当て、唇を軽く歪めて笑う
「今日は生徒会長に用事があるから。」
「今日は部活、お休みなの!」
…
「本当に残念ね!」ツメコが顔をミズノに近づける
「ハルくんに新技を見せるつもりだったのに。」
「今日は我慢してあげる。」
…
ジリ…
「本当に残念ね?」ミズノが目を細め、ツメコさんを真正面から睨む
...
バチバチ... バチバチ...
二人の少女の視線が真正面からぶつかり合う
肩がぶつかりそうなほど距離を詰める。
…
…
ジーッ…
その間、紙と教科書に埋もれた机の上で
一人の少年が背筋を伸ばしたまま眠っていて、目を閉じたまま
金髪の少女が丸い目でじっと見つめている。
「あの子、すごく気持ちよさそうに寝てるわね。」アマミヤがハルの方に首を軽く傾ける
「子犬みたい!」
…
ツンツン…ツンツン…
「…」アマミヤが指でハルの頰を何度も突く
…
むに〜
「…」アマミヤの指がハルの頰を軽く引っ張る
…
ぷにっ…ぷにっ…
少しずつ、アマミヤがハルの口角を上下に動かし続ける
「笑顔!」
「泣き顔!」
「怒った顔!」
「考え込んだ顔!」
…
…
えへへ~♪
「ハックンったら…」アマミヤがにこにこ笑いながら、指でハルの頰を突き続ける
...
...
「楽しそうね、アマミヤさん?」ミズノが腕を組む
…
ビクッ!!
「…」ミズノの肩が小さく跳ね、体が凍りついたように固まる
…
ズズズ…ズズズ…
「私たち、友達でしょ? ミヤキちゃん。」ツメコがアマミヤに詰め寄る
「友達同士でそんなことするの?」
…
ギギギ…ギギギ…
「あの…実は…」アマミヤさんがゆっくり振り返り、顔を伏せて視線を泳がせる
「その…私、あの子が…」
…
ふむ…
「ハルくんはちょっと疲れてるだけよ!」ツメコさんが顔を近づけ、一度も瞬きせずに見つめる
「あの子が今一番必要なのは、静かに休むこと!」
...
ポン
「猿でもたまに正しいこと言うわね!」ミズノがツメコの肩を軽く叩き、アマミヤに顔を近づける
「今一番大事なのは…」
「ハッチがちゃんと休むこと。」
…
ゴゴゴゴゴ…ゴゴゴゴゴ…
「わかった?」二人の少女がアマミヤに近づいていく
…
ブルブル…ブルブル…
「わ、私…私…私…」アマミヤが肩をすくめ、両手を強く握り、体を縮こまらせる
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んん…んん…
奇妙な音が次々と耳に入ってくる
ぼんやりした映像が周囲に浮かび上がり
どこか懐かしくて不思議な感覚
…
さらさら…
小さな川が岩壁の間を曲がりながら流れる
緑の木々が空間を覆い尽くし
無数の虫が飛び回る
金色の子犬の背中が、俺の目の前に現れる
…
すっ…ぎゅっ…
「なんでお前がここにいるんだ?」俺は子犬を抱き寄せ、頭を優しく撫でる
「お前の飼い主はどこだ?」
「それともお前は一人なのか?」
なでなで…なでなで…
…………
ぽかーん…ぽかーん…
今、部屋の中は風一つなく
差し込んでいた陽射しも少しずつ薄れていき
そこに残されたのは、二人の少女が固まったまま
瞬きもせず、顔も動かさず
…
カァァァ…
アマミヤの頭から湯気がふわっと立ち上る。
アマミヤの両頰が真っ赤に染まり
その体が、ハルの胸の中にすっぽり収まっている
…
なでなで…なでなで…
ハルの両手が金色の髪を絶え間なく撫で続ける
目を固く閉じ、唇に小さな笑みを浮かべて
幾つかの囁きが辺りに響く
「いい子いい子!」
「俺がそばにいるよ!」
「もし誰も迎えに来なかったら…」
「……俺が迎えに行くから…」
…
ボッ♡
「…」アマミヤの目がぐるぐる回り、顔が真っ赤になる
...
...
ツンツン…ツンツン…
「ねえ!」ツメコがミズノの腕を何度も突く
「何かしなさいよ!」
…
「なんで急に私に振るの?」ミズノがツメコの方をチラリと見る
「あなたが自分でやりなさいよ!」
…
「どうすればいいかわからないわ!」ツメコが目を忙しく動かす
「邪魔するのが得意なのはあんたでしょ?」
「それともこのままずっと見てるのが好き?」
…
キョロ…キョロ…
「私だってこんな状況知らないわよ!」ミズノが周りを見回す
「あ。」
…
…
すっ…
「ハッチ。」ミズノが牛乳のパックをハルの顔の前に軽く差し出す
「私の声、聞こえてる?」
「これ、君にすごくいいのよ!」
............
シーン…
…
「ねえあんた!」白いワンピースの小さな女の子が突然俺の前に立つ
「早くハルカを返して!」
…
「ハルカ?」俺は周りを見回す
…
「君の胸の中にいる子犬よ!」女の子が俺を指差す
「早く返して!」
…
ぎゅうっ…
「どうしてあいつがお前のものだってわかるんだ?」俺は子犬を強く抱きしめる
「少なくとも証明してみせろ!」
…………
ぎゅうっ…
「…」ハルの腕がアマミヤを抱く力をさらに強める
…
「何やってるのよ!?」ツメコが口に手を当て、顔をしかめてミズノを見る
「どうしてさっきよりきつく抱きしめてるの?」
...
「知らないわよ!」ミズノが肩をぴんと立てる
「できるならあんたが自分でやりなさい!」
…
ガシッ!
「もう我慢の限界!」ツメコがミズノの手から牛乳パックを奪う
「それで面倒見る気だったの!?」
…
すっ
「ねえハルくん!」ツメコが牛乳パックをハルの顔に近づける
「これすごくおいしいのよ!」
「全部あげるから!」
…………
シーン…
…
ずいっ!
「これ!」小さな女の子が大きな棒キャンディを俺に向かって高く掲げる
「これあげるから!」
「だからハルカを返して!」
…
すっ
「俺がもらっていいのか?」俺がそっと手を伸ばす
「別に俺は…」
…
ぐいぐい…ぐいぐい…
「いいから…とにかく受け取りなさい!」女の子がキャンディを強く押しつける
「受け取ったらこのこと誰にも言わないで!」
「文句はなしだからね!」
…
「でも…」俺は少女の方に顔を向けようとする
…
「…」小さな女の子が急に視線を逸らす
…
あーん~♪
「じゃあ遠慮なく!」俺はゆっくりキャンディを口に近づける
…………
今、アマミヤが床に倒れ込んでいる
ミズノは微動だにせず固まっている
さっきの牛乳パックは机の上に放置されたまま
…
あーん~♪
「ちょ、ちょっと…待って!」ツメコが体を後ろに引きながら目を細める
「私が…間違えたの…」
「牛乳パックは机の下よ…」
…
あーん~♪
ハルの腕がツメコの手を強く握る
少しずつ、開いた口の方へ引き寄せていく
…
「やめて…止めて…」ツメコの手がハルの顔を押し返そうとする
…
あむっ
「…」ツメコの指が今、ハルの口の中にすっぽり収まる
もぐもぐ…もぐもぐ…
…
ぐいぐい…ぐいぐい…
「早く離して、ハルくん!」ツメコがハルの額を何度も押す
「私の手、まだ洗ってないのよ!」
「朝からついたインクの跡がまだ残ってるのに!」
…
…
「うまい…」ハルの唇が小さく動く
…
「へっ。」ツメコの体が突然固まる
…
「後で…」
「君が…これを売ってる人のところに…連れてってくれる…?」
「俺…この味…一生食べたい…」ハルの唇から小さな声が漏れる
…
「へっ~」ツメコの視線が天井に向かい、思考がぐるぐる回る
「自分=うまい。」
「売ってる人…売ってる人…」
「……一生食べたい…一生…」
…
プシュー…
「両親に紹介したい!!!」ツメコの顔が真っ赤に染まり、耳の両側から煙が上がる
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ガラッ…
教室の扉が突然開く
黒髪の少女が、書類の山を抱えて入り口に立っている
...
...
バサッ!
「何が…起きてるの?」アサギリが書類の山を床に落とす
...
プシュー…
教師の机のところで、一人の少女がまだ紙の山の中に縮こまっている
講壇の上に、金髪の少女が長く横たわっている
向かい側、赤髪の少女が机に背中を預け
片手で目を覆っている
…
あはは…
「ほら見て…」ミズノが体を軽く曲げ、目を細める
「全部…理由があるのよ…」




