第六十一頁―授業を終えて
「リーン♪」
…
ガヤガヤ…ガヤガヤ…
一冊、また一冊と、本が閉じられていく。
一人、また一人と教室を出ていく。
あちこちから笑い声が聞こえる、幾つかの小さな声が響く
「やっと終わった!」
「今日は何の美味しいものがあるかな?」
「早く早く行こうよ!」
「ちょっと待って、荷物片付けるから!」
……
コトン…コトン…
俺の両手が、そっと本の山を机の上に置く
指先で、曲がった紙の端を丁寧に整える。
…
コツ…コツ…
「お疲れ様。」シラカワさんがゆっくり俺に近づいてくる
「今回もまた、迷惑かけちゃったね。」
...
「大丈夫だよ!」俺は二人に向かって首を傾げ、微笑む
「気にしないでよ!」
「俺も復習できたし。」
...
「そう?」シラカワさんが優しく微笑み、目を細める
「わかった。」
「でももし何か問題があったら…」
「それか何か必要なものがあれば…」
「遠慮なく俺たちに言ってね!」
…
「うん。」俺は軽く頷く
「わかった。」
…
…
ガシッ!
「てめえらまだここで何やってんだよ?」突然、誰かがシラカワさんの首元に腕を回す。
「もう昼飯の時間だっつーのに、まだ勉強かよ!?」
「さっさと飯食いに行こうぜ!」
...
「コバヤシさん!」シラカワさんが体を起こそうとする
「君…もう少し優しくできないの…?」
…
「これが普通じゃねえのか?」レンの目が丸く見開いてシラカワさんを見る
…
「違う違う違う…」シラカワさんが目をきつく閉じる
「こんなのが普通なわけないでしょ!」
「誰だって怪獣みたいな体力あるわけじゃないんだから!」
...
ん…
「?」レンが顔を上げて周りを見回す
「そうか?」
「ハルは普通に耐えられるじゃん?」
…
「あいつは特別なんだよ!」シラカワさんが目を細めてレンを見る
「誰でもあんな風になれるわけないでしょ?」
…
ハハッ…
「まあいいや!」レンが目を閉じ、明るい笑顔を浮かべる
「一緒に昼飯行こうぜ!」
「今日学食に天ぷら出るって聞いたぞ!」
…
「まず俺を離してくれ!」シラカワさんが腕を伸ばし、頭を少し下げながら
...
コトッ
「ちょっと待って!」俺は本の山を机に置き、二人に向かって振り向く
「ここ片付けたら…」
「すぐ…」
…
ガクッ…
「……」目の前のすべてが徐々に暗くなり、景色がぼやけていく
「……終わっ…」
「……終わった…」
…
ドサッ!
…………………………………………………………………………………………………………………………
ユサ…ユサ…
「おい、ハル。」レンがハルの肩を掴んで何度も揺らす
「ハル。」
「どうした?」
「大丈夫か?」
…
「もう揺らさないで、コバヤシさん!」シラカワさんが黒板の方に視線を向ける
「少し休ませてあげて!」
「朝からずっと長かったんだから。」
…
「なんでそうなるんだよ?」レンが目を丸くしてシラカワさんを見る
「何も食べてないのにどうやって元気になるんだ?」
「で、もし目が覚めた時にはもう昼休み終わってるじゃん、どうすんだ?」
「それか学食の飯がなくなったらどうすんだ?」
…
「確かに…」シラカワさんが指を顎に当て、顔を少し下げる
「自主学習の週とはいえ…」
「でも授業の評価にはちゃんと反映されるし。」
…
ポンッ!
「そうだな!」レンが拳をもう片方の手にポンと打ちつけ、目を輝かせる。
「先に飯買いに行って…」
「あいつここで寝かせとけ。」
「買ってきたら起こしに来りゃいいだろ!」
…
うーん…うーん…
「悪くないアイデアね!」シラカワさんがハルの方をチラッと見る
「でも…」
「あの子をここに残すなんて…」
「大丈夫かしら?」
…
スタ…スタ…
「大丈夫だよ。」一人の女の子がハルの近くに寄ってくる
「二人は買いに行って!」
「ハッチのことは私が面倒見るから!」
...
「ハッチ?」二人が同時に声を揃える
...
ピッ!
「あいつ以外に誰がいるの?」ミズノが目を丸くして二人を見ながら、ハルの方を指差す
…
…
スッ…
「あ!」レンの肩が少し跳ねる
「この前ハルと一緒にいた子だ!」
…
「ミズノです。」ミズノが微笑み、目を細めて両手を組み合わせる
「覚えていてくれて嬉しいわ!」
…
「じゃあハルはあんたに任せても大丈夫か?」レンが軽くハルの方に顔を向ける
…
「もちろんよ!」ミズノはハルにちらりと視線を向ける。
「二人は早く行って!」
「もう半分くらい売り切れてるらしいよ!」
...
ギュッ!
「それはダメだ!」レンがシラカワさんの手首を強く掴む
...
「え?」シラカワさんが体を硬直させる
...
タタタタ…タタタタ…
「天ぷら待ってろー!」レンが出口に向かって一直線に走り出す
…
うわっ!?
シラカワさんの両足が突然地面から浮く
…
ヒラヒラ…ヒラヒラ…
「いってらっしゃい~」ミズノの手が二人の背中に向かって振られる
…………………………
ニヤッ…
今やミズノの影がハルの体をすっかり覆う
指先がひらひらと踊る
唇に浮かぶ薄い笑みと共に
「さて今から…」
「ハッチ…」
「どうしてあんた、あの猿と一緒に私を置いて行ったの?」
「覚悟しなさい。」
…
ガッ!
「ほらほら!」誰かの手がミズノの肩を強く掴む
「ハルくんが休んでるんだよ。」
「邪魔しちゃダメでしょ!」
…
「あら。」ミズノが首を傾げて後ろを振り返る
「ヤマザキさんじゃない。」
「今って武道部が練習始まってる時間じゃないの?」
…
ギュウッ!
ミズノの服の皺が徐々に深くなる
ツメコの目がきつく閉じられ、それでも唇には笑みが浮かんでいる
「なんて偶然でしょう!」
「今日、私の部活は休みなんだ。」
「だから少しの間、私を助けてくれた人のことを見に来たの…」
「ダメ?」
…
ニィッ…
「もちろん問題ないわ!」ミズノが目を細め、唇を歪めて笑う
「でも誰かの面倒を見るなら…」
「まずは自分のことを心配しなさいよね!」
「先に昼ご飯食べに行ったら?」
「私がここで食べながら見てるから。」
…
「偶然ね?」ツメコの目が軽く開く
「私もそうするつもりだったの!」
…
…
机の上では、二人の少女の影の後ろで
紙に囲まれるように横たわる。
目を閉じ、顔を出口の方に向け
…
そっ…
机の反対側、顔の正面から
金色の髪が出口を塞ぐ
頬を机にそっと乗せる
その瞳はハルの方を真っ直ぐ見つめる。
…
「……ハックン…」




