第五十九頁—再び始まる勉強会
チュンチュン…
朝の陽射しが窓の隙間から差し込んでくる…
枝の上では、小鳥たちのさえずりが響いていて…
通りを行き交う人々の足音…
…
夜の帳はゆっくりと引いていき…
朝霧も次第に消えていき…
…
それでも僕のまぶたは、まだ開く気になれなくて…
体も、ベッドから起き上がろうとしてくれない…
……
ピピッ…ピピッ…
スマホの画面が、不意に明るく灯る…
その音が、部屋中に響き渡る…
…
ジリ…ジリ…
「何なんだよ……」僕はベッドの上でごろごろとのたうつ。
「僕……アラームなんて、セットした覚えないのに……」
…
…
ジリリリリ!ジリリリリ!
スマホの画面が、再び明るく灯る…
その音が、部屋中に響き渡る…
…
んー…んー…
「またかよ……」僕は顔をしかめながら、布団を頭まで引っ張り上げる。
「僕、こんなのセットした覚えないんだけど……」
…
トン
遠くの方で、小さな物音がした。
アラームの音は、やがて静けさの中に溶けていった。
…
…
もぞ…
もぞ…
周りの布団が、じわじわと沈み込んでいく
何か柔らかいものが、ゆっくりと僕の上にのしかかってくる
くすぐるような吐息が、そっと耳元にかかる
「ほら、起きてよ、ハッチ。」
「もう朝だよ…」
「早くしないと、遅刻しちゃうよ……」
…
「あと五分~」僕は布団の中へ、さらに深く潜り込む。
「今日は……もう行かなくていいだろ……」
…
ふぅ……
「起きないなら……」その途端、僕の体はさっきよりもずっと動きづらくなった。
「「恨みっこなしだよ?」
…
…
あむっ…あむっ…
柔らかな感触が、耳のあたりにじわりと広がっていく。
かすかな熱が、何度も耳元をくすぐっていく。
…
「何だよ、これ……」僕はどうにか身をよじり、目を見開いた。
...
すくっ!
「ハッチ!」ミズノさんが、僕の上から勢いよく身を起こした。
「おはよう!」
「よく眠れた?」
…
わたわた…わたわた…
「……」僕は目を見開いたまま、唇をぱくぱくさせながら、ゆっくりと耳へ手を伸ばした。
…
「起きるの遅すぎだよ、ハッチ!」ミズノさんは軽く手を振り、目を細めてにこっと笑った。
「もうみんな教室に着いてるよ!」
…
「でもね……」ミズノさんはそっと指を唇に当て、閉じていた目をゆっくり開いた。
「ごちそうさま!」
…
うわああっ!?
…………………………………
人気のない静かな道。
ゆっくりと舞い落ちる木の葉の中、
二つの影がそっと前へと歩いていく。
手には、鞄をぎゅっと握りしめたまま。
…
とこ…とこ…
「ハッチ。」ミズノさんは僕の顔を覗き込むように、体を左右に揺らした。
「ハッチ。」
「ハッチ!」
「聞こえてるのー!?」
…
コツ…コツ…
「……」僕はただ前だけを見たまま、まっすぐ歩き続けた。
...
ぴたっ
「今日のハッチ、なんだか変だね?」ミズノさんはふいに立ち止まり、体をゆらゆらと揺らしながら、そっと指を唇に当てた。
「今朝は慌ててて、朝ごはん食べ忘れちゃったの?」
「それとも……私のせいかな?」
…
「「……」僕はそっとミズノさんの方へ目を向けた。
…
ぽんっ!
「朝はあんなに恥ずかしがってたくせに!」ミズノさんは目を丸くして僕を見つめ、ぽんっと片手をもう片方の手に打ちつけた。
「絶対もっと噛んでほしかったでしょ!」
...
「そんなわけないだろ!」僕は肩をびくっと震わせ、目をぎゅっと閉じたままミズノさんの方を振り向いた。
…
「あ。」ミズノさんは目を丸くして僕を見た
「やっと戻ってきた。」
……….
とこ…とこ…
「ねえ、ハッチ!」ミズノさんは僕の周りをくるくると歩き回った。
「私だって、好きであんなことしたわけじゃないよ!」
「ハッチが全然起きないからでしょ!」
…
ふいっ…
「それでも……」僕は顔を背け、髪で目元を隠した。
「普通に起こしてくれればいいのに…」
「わざわざあんなことしなくたってよかったのに……」
...
すっ
「ちゃんと起こしたもん!」ミズノさんはそっと携帯を指差した。
「何回も起こしたのに!」
…
「俺…俺…ごめん…」僕は目を細め、少しうつむいたままミズノさんの方へ視線を向けた
「俺のせいだ…」
「もう次はしないから…」
…
うんうん…
「寝坊はよくないよ!」ミズノさんは軽く腕を組み、何度も頷いた
「絶対に気を抜いちゃダメだからね。」
…
ぽりぽり…
「でもさ……」僕は後ろ頭に手をやり、視線を周りへ巡らせた。
「今日からもう、学校に来る必要ないんだろ。」
「どうせ今週は自主勉強期間なんだし。」
「別に、どっか他の場所で勉強したっていいじゃん。」
「どうしてわざわざ…」
…
ちっ…ちっ…ち…
「甘いよ、ハッチ!」ミズノさんは僕の目の前で指を振った
「勉強するっていうならね…」
…
ぐっ!
「絶対に学校で勉強しなきゃダメなの!」ミズノさんはきっと僕を見つめ、ぎゅっと拳を握った。
「他の場所で勉強したって、時間を無駄にするだけだよ!」
…
「まあ…それもそうか…」僕はゆっくり腕を下ろした
…
うんうん…
「…」ミズノさんは何度も頷いた
…
「それなら…」僕は軽く頬を掻いた。
「そろそろ急いだほうがいいかもな、ミズノさん。」
「みんなもう勉強始めてるかも。」
…
ぐいっ!
「ミズノ…さん!?」ミズノさんが顔をぐっと近づけてきた
...
「な、何だよ……」僕は体を強張らせ、じりじりと後ずさった。
…
「聞き間違いかな?」ミズノさんは僕の方へ耳を寄せ、そこにそっと手を添えた。
「今日のハッチ、まだぼーっとしてるから…」
「さっきコハリちゃんって言ったよね?」
「コハリちゃんだよね?」
…
「な、何なんだよ……ミズノさん……」僕は慌てて顔を背けた。
「朝っぱらから…」
…
ぷくーっ!
「…」ミズノさんの手が僕の服にそっと触れ、頬がむっとふくらんでいった。
...
「しょうがないだろ!」僕はそっと手で顔の片側を隠した。
「こんな道のど真ん中で……急にそんな呼び方されたら……」
「周りの人に見られたら……絶対変に思われるって……」
…
くいっ…くいっ…
「ねえ、ハッチ。」ミズノさんは僕の服をくいくいと引っ張った
「この辺、誰もいないよ?」
…
「え?」僕は動きを止め、手をゆっくり下ろした。
…
「あれ、変だね?」ミズノさんはきょろきょろと辺りを見回した。
「いつもならこの時間、何人かいてもおかしくないのに。」
「今日はなんでこんなに人が少ないんだろう?」
…
「言われてみれば…」僕も辺りを見回した。
「確かに、少し人が少ないな。」
…
…
すっ
「ハッチ!」ミズノさんは僕の前にすっと手を差し出した。
…
「今度は……何なんだよ……」僕は体を強張らせたまま、ミズノさんの手から目を離せなかった。
…
「ハッチがちゃんと名前で呼んでくれなかったから…」ミズノさんは差し出した手を少しずつ持ち上げた。
「だから今すぐ埋め合わせしてもらわないと!」
「じゃないと、私ここから動かないからね!」
…
にこっ
「どうなるんだろうね…」ミズノさんは唇の端をそっと持ち上げた。
「もしこのまま学校に行かなかったら…」
「テストでひどい点を取っちゃったら…」
「その時どうなっても……知らないからね?」
…
バタバタ…
「わかった、わかったって!」僕は慌てて両手をぶんぶん振った。
「やればいいんだろ! やるよ!」
...
...
「…」僕の目が急に見開かれ、体が固まった
…
「ほら、何してるの!」ミズノさんは差し出した手をひらひらと揺らした
「私、もう疲れちゃったよ~!」
「早くしてよ~」
...
がしっ!
大きな人影が、ふいに背後へ現れた
そのまま伸びてきた手が、ミズノさんの肩をがしっと掴んだ。
「そこまで言うなら、このまま教室まで運んでやろうか?」
「ミズノさん?」
…
ぎゅっ
「悪いけど…」ミズノさんは背後をちらりと振り返り、自分の肩にかかった指をぎゅっと握りしめた。
「この体に触れていいのは、王子様だけなんです。」
「メス猿なんかに触らせるつもりはありません。」
...
「ご安心を。」ツメコさんはぴくりと眉を動かし、目を細めた。
「ちゃんと優しくしてあげますよ。」
「お嬢様。」
…
バチバチ…バチバチ…
二人は真っ向から睨み合い――
その口元には、薄い笑みさえ浮かんでいた。
…
「ツメコさん…」僕は二人へそっと手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと待って…」
「その…」
…
とたとた…とたとた…
ぽすっ!
小さな影が僕の胸に飛び込んできた
見慣れた金色の髪を揺らしながら
そして、か細い声が耳元に落ちた
「ハックン。」
…
「アマミヤさん!」僕は目を丸くし、軽く頭を下げた
「どうしてまだここにいるんだ?」
…
ぎゅっ…
「もうだめだよ…ハックン…」アマミヤさんは僕の服をぎゅっと掴んだ
「みんな…もう持たないよ…」
…
「落ち着いて、アマミヤさん!」僕はアマミヤさんの肩に軽く触れた
「落ち着いて!」
「ゆっくり話して!」
…
ぶんぶん…ぶんぶん…
「みんな、もう持たないよ…」アマミヤさんは何度も首を振った
「ハックン…早く…」
…
「でないと…」アマミヤさんは顔を近づけ、目を見開いた
「イシカワさんがみんなを殺しちゃう!」




