第五十八話―期待と現実
カチャ…カチャ…
窓の外では、夕暮れが少しずつビルの向こうへ沈んでいく
時計の針はちょうど5時を指していた
明るい照明が、一つひとつのテーブルを照らしている
…
コツ…コツ…
テーブルは人で埋まり、また空き
皿の山は積み上がり、また減り
メニューは開かれては閉じられ
ドアの向こうでは、人影が絶えず行き交う
…
…
コトリ
「大変お待たせいたしました。」店員が軽く頭を下げる
「もしご要望がございましたら…」
「どうぞお気軽にお申し付けください!」
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トン…
「つまり…」レンは目を細めて辺りを見回し、頬杖をついた
「二人で何か勝負みたいなことをしてるんだろ…」
「それが理由で…」
「さっき急にあんなこと言い出したのか?」
…
「図星だろ?」レンは向かいに座る相手をじっと見つめた
「えっと…」
…
「石川です。」ネネはうつむき、両腕を胸元に引き寄せた
「人の名前くらいちゃんと覚えてよ!」
…
「ああ、そうだった。」レンはゆっくり体を起こし
「でも、まだよくわからないんだけど。」
…
「何のことですか、コバヤシさん?」ネネは目を丸くして見上げた
「まだ聞きたいことあるの?」
…
うーん…
「ただちょっと腑に落ちないだけ。」レンは顎に手を当て、窓の外に視線を向けた
「なんで俺なんだ?」
「別に他にもたくさんいるだろ。」
…
ビクッ!
「…」ネネはそっと視線を逸らした
…
スッ…
「いや…」レンは指を天井に向けた
「ハルは別にいいとして。」
「あいつは前にもみんなの面倒見てたし…」
「だから誰と組んでも問題ない。」
「でも石川と俺が…」
「いきなりこうなるのはちょっと…」
…
バタバタ…バタバタ…
「それはわかってるよ…」ネネは慌てて両手をぶんぶん振り、目をぎゅっと閉じた
「本来なら最近転校してきた子たちと組むべきだったんだけど…」
「でも…」
「えっと…」
「言うと長くなるんだけど…」
「実は最初から…」
「あの…」
…
ペコッ!
「お願いします!」ネネはレンに向かって深く頭を下げた
…
…
ポリポリ…ポリポリ…
「わかったよ。」レンは後ろ頭をかきながら、背もたれに体を預けた
「もうそういうことなら…」
…
パアッ…ニコッ…
「…」ネネの表情がぱっと明るくなり、目を丸くしてレンを見つめた
…
ガシッ!
「私にちゃんとできるかわからないけど…」ネネは身を乗り出し、レンの手をぎゅっと握った
「絶対に…」
「精一杯頑張るから!」
...
サッ!
「わかったわかった…」レンは思わず顔をそらした
「わかったから!」
「ちょっと落ち着けって!」
…
ガサッ…
「じゃあ早速始めようか?」ネネは身を引き、紙の束を取り出した
「まずはこれ解いてみて!」
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カチ…カチ…
窓の外はもう夜の色に染まっていた
時計はもう6時を指している
行き交う人影も次第に増えていく
…
…
ゴンッ!
「…」ネネは答案の上に突っ伏した
…
ニヤッ…ニヤッ…
「どうだ?」レンは得意げに顔を上げ、腰に手を当てた
「出来が良すぎて言葉も出ないか?」
…
ギリッ…ギリッ…
「こんなのが…」ネネは紙の束を強く握りしめ、顔をしかめた
「これを見て…本気でそう言ってるの…?」
…
ダン!!
「なんで一番基本的な問題すら間違えるんだよ!?」ネネは勢いよく机を叩き、そのままレンに顔を近づけた
「たった数問の微分だけなのに…」
「グラフの読み取りだって…」
「作図だって基本的なものばかりなのに…」
「なんで…」
「どうして一問も正解できないの!?」
…
「…」レンは顔を背け、笑みを引きつらせた
…
ハァ…
「もうこうなったら…」ネネはゆっくり体を引いて、目を伏せた
「基礎の基礎からやるしかないね…」
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ガチャ…
ある部屋の中で、本棚に囲まれた一室で
机の上の時計は5時を過ぎていた
窓の外の陽射しも徐々に薄れていく
…
コトッ…
「どうぞ!」僕はグラスをテーブルにそっと置いた
…
「ありがとね、ハッチ!」ミズノさんは笑顔を向けた
…
…
ストン…
「今日の件だけど…」僕はミズノさんの向かいにゆっくり腰を下ろした
「まだ聞きたいことある?」
…
モジモジ…
「実は…」ミズノさんはグラスをそっと置き、両手で顔を隠しながらもじもじと体を揺らしながら
「まだ一つだけ…」
…
「もしかして…」ミズノさんの顔がみるみる赤くなっていった
「今から…」
「二人で…やっちゃう?」
…
「そういう話じゃないだろ!!」僕は目をきつく閉じ、肩をびくっとさせた
「全部誤解だから!」
「最初からそんなつもりで言ったわけじゃない!」
…
クスッ…
「…」ミズノさんの頰がぷくっと膨らみ、視線を逸らした
「なのに家にまで呼ぶんだもん。」
「人が勘違いしちゃうじゃん…」
…
「そもそも来たいって言ったの、お前だろ?」僕は呆れたように目を細めた
…
ガサッ…
「まあいいや…」僕は振り返りながら、紙の束を取り出した
「だいたいどんな感じかはわかってるけど…」
「とりあえずこの問題を少しやってみて。」
…
キラキラ…キラキラ…
「それで、そのあと二人で?」ミズノさんが目を輝かせて僕を見た
…
「だからそういうのじゃないって。」僕は眉を寄せた
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カチ…カチ…
窓の外はもう夜の色に染まっていた
時計はもう6時を指している
グラスの氷もすっかり溶けていた
…
ピクピク…
「ミズノ…さん…」僕の眉がぴくぴくと引きつった
「これ…」
…
ピュー〜♪
「…」ミズノさんはしれっと天井を見上げていた
…
「なんでこんな基本的な問題すら間違えるんだよ!」僕はミズノさんの方に身を乗り出した
「この前お前が持ってきた問題だって…」
「明らかにできたじゃん!」
…
「これはあれとは別だもん!」ミズノさんはぎゅっと目を閉じ、拳を胸の前に構えた
「習ったばっかりの時はできたよ!」
「もうだいぶ経ってるし!」
「覚えてられるわけないじゃん!」
…
はぁぁぁぁ……
「どうしてこう…」僕は鼻筋を押さえ、目を閉じた
「またこうなるんだ…?」
…
ビシッ!
「全部お前のせいじゃん!」ミズノさんは指を僕に向かって突きつけた
…
「俺が!?」僕は思わず固まった、ミズノさんをまっすぐ見た
…
「お前のせいに決まってるじゃん!」ミズノは腕を組んで何度も頷いた
「別の呼び方で呼んでって言ったのに…」
「なのに…」
…
ピッ!
「もう二日経ってるよ!」ミズノさんは僕の目の前で二本の指を立てた
「まだ返事くれないし!」
「気になって集中できないじゃん!」
...
ジリジリ…ジリジリ…
「だから…」ミズノさんはゆっくり僕に近づいてきた
「これからは…」
「コハリちゃんって呼んで!」
…
ビクッ
「それは…ちょっと…」僕は体をびくっとさせ、顔を背けた
…
キラキラ…キラキラ…
「…」ミズノさんはきらきらした目で僕を見つめた
…
…
はぁ…
「一緒に…」僕は顔をしかめ、目をぎゅっと閉じて肩を上げた
「一緒に頑張ろう…」
「コ… コ…」
「コハリ…ちゃん…」
…
ギュッ…
「うん!」コハリちゃんは僕の服をぎゅっと掴んだ
「教えてね、ハッチ先生!」
…
「その呼び方やめてくれって!」僕は体を強張らせ、顔を向けられなかった。




