第五十六頁ー紙の四隅
「リーン♪」
……
ザワザワ…ガヤガヤ…
長い廊下に、陽の光が差し込む
影が床一面に長く伸びている
あちこちで人だかりができている
……
コツ……コツ…..
廊下を静かに横切り
人の流れとは逆の方向へ歩いていく
背中を少し丸め、手で髪を撫でる
……
ハァ…
「……」目を閉じ、ゆっくりと視線を床へ落とす
「結局……」
「どうするべきなんだろう……」
……
「この機会を掴むか?」男の言葉がふと脳裏に浮かぶ
……
「本当に……」目をゆっくり開け、顔を少し上げる
「あの特権の数々……」
「学費の件も……」
「それに広がる未来も……」
……
ギュッ
「こんな機会を前にして……」自分の手を見つめながら、指をそっと握り締める
「こんなの、断る生徒なんていないだろ……」
……
……
スッ…
「でも……」私は指をゆっくり広げる
「本当に、その価値はあるのか……?」
…….
「Fクラスのみんなとは――」緑髪の少女の言葉が脳裏によみがえる
「もう二度と会えなくなるのよ!」
……
「あいつらを置いて行くなんて……」私は目を細める
「そんなこと……」
「本当に大丈夫なのか……?」
……
スッ…
「それとも……」私はもう片方の手を上げ、視線を移す
「あいつら……案外気にしてないのかもな……」
……
「もしかしたら……」私は両手を見つめながら
「俺がいなくなったら……」
「全部……元に戻るだけかもしれない……」
……
ブンブン…ブンブン…
「ここでいつまでも考えててもしょうがないだろ!」目を閉じ、ぶんぶんと首を振る
「とりあえず教室に戻ろう。」
………………………………………………………………………….
ザワザワ…ザワザワ…
1-Fの札の下
扉がぴたりと閉まった教室から
窓のカーテンも全て閉められている
ぼんやりした声が漏れ聞こえる
……
「これからどうしようか?」
「あいつ、絶対あの提案を受け入れたよな。」
「あいつにとってはいいことじゃないか?」
……
「そんなに急ぐなよ……」
「まだ返事してないかもしれないぞ……」
「あいつの性格なら……」
「もしかしたら……」
……
でも、もしも……」
……
「もし本当にあいつが受け入れたら……」
……
「これから……俺たちどうなるんだ……」
………
見慣れた扉の前で立ち止まる
視線を窓の方へ移し
首を少し傾け、ドアノブに手を掛ける
ぽつりと呟く
「今日は……」
「なんで急にカーテン全部閉めてるんだ……?」
……
ガラッ…
私はゆっくり教室の扉を開ける
目を見開いて中を見回す
両手の指が思わずぎゅっと握られる
足が一歩も踏み出せない
……
沈黙。
……
教室中の視線が一斉に逸れる
何人かは顔を手で隠し
何人かが背中をこちらに向ける
それでも何人かはちらりとこちらを見る
……
……
ポンッ!
「なんで外で突っ立ってるんだよ!」突然、背中をぽんっと叩かれる
……
「……」私はゆっくり振り返り、指先がぴくりと動く
「蓮? それに白川?」
「二人は……ここで何してるんだ?」
……
「決まってるだろ……」蓮は人差し指を私に向ける
「お前を探しに来たに決まってるだろ!」
……
「ったく。」蓮は唇に笑みを浮かべ、目を細める
「せっかく女の子に選ばれたと思ったら……」
「朝からずっとどっか行ってるし。」
……
ニヤッ…
「まさか……」蓮はにやりと笑い、顔を少し傾ける
「二人で……そのままやっちゃったのか?」
……
ブンッ!
「そんなわけないだろ!」私は拳を強く振り下ろし、顔をしかめる
「ただのちょっとした誤解だよ!」
……
ジリ…
「へ~」蓮は目を細めて私に顔を近づける
「誤解だって~」
「その誤解のせいで……」
「……午前中ずっと二人きりだったってことか~」
……
「普通の誤解だって言ってるだろ!」私は顔をしかめ、目を固く閉じる
……
ポン
「もう。」白川は軽く蓮の肩に手を置く
「その辺にしておきなよ。」
「葉山先生が自分で連れて行ったんだから。」
……
「はいはい。」蓮は背筋を伸ばし、目を閉じる
……
「戸上さん。」白川は私の方を向く
「今日は結構いろいろあったんだよ。」
……
「えっ?」私は首を傾げ、目を丸くする
……
「これからの行事の連絡とか……」白川は軽く腕を組む
「それに中間テストの話……」
「今学期の集金のこととかも……」
……
スッ…
「ああ、そうだ。」白川はスマホの画面を私に向ける
「うちのクラスもさっきグループ作ったところだ。」
「連絡事項は後で黒美が全部上げるから。」
「入って自分で確認してみて。」
……
「ありがとう。」私は自分のスマホを取り出し、白川の画面へ向ける
……
……
「そういえば……」白川はスマホへ視線を落としながら
「さっき二人はどこ行ってたんだ?」
「午前中ずっと姿が見えなくて……」
「みんな結構心配してたぞ!」
……
「大したことじゃないよ。」私はスマホから目を離さない
「突然校長室に連れてかれて……」
「なんかテストみたいなのやって……」
「それからなんかいろいろ話して……」
「それに……」
……
「戸上さん。」白川は腕をゆっくり引き、背筋を伸ばして私を見る
「ちょっと気になったんだけど……」
「そのテスト……」
「何点だったんだ?」
……
んー…
「実は……」私は顎に手を当て、体を横に向け、天井を見上げる
「俺もよくわからなくて……」
「先生も点数についてはあんまり言わなくて……」
「ただ……」
「先生が言うには、最高点を取った人より高かったらしい……」
……
ガタン…
教室の中から音が響く
……
「先生もただ冗談言ってるだけかもな。」私は白川の方を向き、唇に笑みを浮かべ、目を固く閉じる
「そんなことあるわけないだろ!」
……
ハハ…
「そ……そうだよな……」白川は引きつった笑みを浮かべる
「まさか……」
「そんなこと……あるはずないよな……」
……
ガバッ!
「いつまでここで立ち話してるんだよ!」蓮が勢いよく駆け寄ってきて私の首に腕を回す
「腹減って死にそうなんだよ!」
「早く学食行ってなんか食おうぜ!」
……
グルル…グルル…
「蓮……いきなり……」私は蓮の腕を掴み、顔をしかめる
「きつい……」
「少し緩めてくれ……」
「苦しいんだけど……」
……
「そうだな。」白川は軽く肩を落とし、目を細める
「今考えたところで答えなんて出ないだろ。」
……
ズルズル…
「決まりだな!」蓮は廊下の方へ体を向け、私を引っ張っていく
「とりあえず腹を満たそうぜ!」
……
グラッ…グラッ…
「離してくれ……」私は足元をふらつかせながら、蓮の腕を掴む
「俺一人で歩けるって……」
……
「じたばたするなよ!」蓮は前を見て、腕をさらに強く締める
「後で山崎さんのところにも行かないといけないんだぞ!」
「飯食わなきゃ練習できないだろ!」
……
「だからーっ!」私は首を精一杯伸ばす
「自分で歩けるんだって!」




