第四十九頁 ― 僕たちを繋ぐもの
パタ… パタ…
周囲の音が次第に小さくなっていく
人影たちが列をなして出口へと向かっていく
本の棚は再び静けさと空虚さを取り戻していた
…
ただ遠い隅の小さな角にだけ、二つの影がまだ残っていた
床に座り、本の間に
目を丸くして互いを見つめ合っている
……
ギュ…
「……」副委員長はスカートを強く握りしめ、目を丸くして私を見た
…
「それは…」私は顔を無理やり逸らし、指で頰を軽く掻いた
「僕も…よくわからないよ…」
「だって…君と白川さんはちゃんと上手くやってるんじゃないか?」
…
「遠慮しないで」副委員長は顔を少し伏せ、目が次第に潤んできた
「ちゃんと見えてるから!」
…
「今年の初めから今まで…」副委員長の髪があちこちに乱れ、顔を隠していく
「クラスの中の大小いろんなこと…」
「夏目がやらなかったら…」
「結局、いつも動くのはあなたなのよ」
…
ギュ…
「いつもそう…」副委員長はスカートをさらに強く握った
「仕事が何であろうと…」
「どれだけ大変であろうと…」
…
「結局…本来やるべきだった人が…」副委員長はゆっくり手を目の前にかざした
「何もできないまま…」
…
「そんなことないよ!」私は何度も首を振り、手を慌ただしく振った
「今年の初めから君だってすごく頑張ってたじゃないか」
「例えばあの時…」
…
うっ…
「あの…」私は突然動きを止め、喉が言葉を詰まらせた
「その時…」
…
…
…ハハ…
「やっぱりそうよね!」副委員長は顔を上げ、私を見て無理やり微笑んだ、目を細めて
「私は本当に役立たずなのね?」
「この副委員長の役、そろそろやめて…」
「もっとふさわしい人に譲った方がいいかも…」
…
「たとえ…」副委員長のまつ毛に一粒の涙が浮かんだ
「私が…どうであろうと…」
…
「そんなことないって!」私は手を前方へ伸ばし、副委員長を真正面から見た
「クラスに君の代わりができる人なんて一人もいないよ!」
「例えば授業で難しい問題が出た時…」
「先生が誰も立たないことに苛立ってきた時…」
「あの時…」
…
「あなたが立ったじゃない」副委員長は指を私の方へ向けた
「一回や二回じゃなくて…」
「何回も、何科目でもいつもそう」
…
…
「……」私は突然動きを止め、視線をさまよわせた
…
ポン!
「そうだ!」私は軽く自分の手に拳を当てた
「じゃあクラスの成績がよくない子たちの面倒を見るのはどう?」
「うちのクラス、授業についてこれてない子が結構いるよね?」
「僕一人じゃ限界あるよ」
…
ぐす…
「でも…あなたはちゃんと面倒見て…」副委員長の目が震え、体が小さく跳ねた
「ただ面倒見るだけじゃなくて…もっと上手く…」
…
「君は僕を買いかぶりすぎだよ」私は顔をもう片方へ逸らした
「僕だって一人だし、限界はあるよ」
「全部一人で抱え込めるわけない…」
…
「……」副委員長は小さく首を振り、目を細めて私を見た
「理屈ではそうだけど…」
「でも…あなたはそうじゃない…」
…
…
「じゃあ先生の手伝いとかは?」私は顔を逸らし、ズボンを強く握った
「先生がサポートが必要な時ってあるよね…」
「クラスみんなが積極的なわけじゃないし…」
「しかも頼まれる仕事が結構大きい時も…」
「あの時は…」
…
ひく…
「戸上さんって本当に面白いわね…」副委員長は目元に手を当て、小さく微笑んだ
「そういう仕事は…夏目が名乗り出るか…」
「それか…あなたがやるのよ」
………
私は副委員長から視線を逸らそうとした
体は微動だにできず、指先が固まったように感じた
頭の中で質問がぐるぐる回る
「今、何て言えばいいんだ?」
「今、何をすればいい?」
「慰める?それとも話題を変える口実を探す?」
…
「考えろよ俺!」
「結局あいつがちゃんとできたことって何があったんだよ!」
………
ブブ…
突然、ズボンのポケットから
体に振動が走り、スマホの画面が光った
…
ス…
私はポケットに手を入れ、画面をちらりと見た
不在着信の通知と数件のメッセージが表示されている
…
「そうだ」私は小さく唇を動かした
…………
ぐす…ぐす…
「戸上さん…」副委員長は目元に何度も手を当て、顔を上げて私を見た
「やっぱりあなたは…」
…
「副委員長」私は副委員長の方を向き、手に光るスマホを持ったまま言った
「一つアイデアがあるんだけど」
「クラスグループ…作ってみない?」
…
「クラス…グループ…」副委員長の目が一瞬止まり、腕が固くなった
…
「うん」私は小さく微笑み、頷いた
「そうそう!」
…
「でも…そういうのって…」副委員長は腕の後ろから目を覗かせた
「いつも…誰かがやってくれるんじゃ…」
…
「普通はね」私の顔に笑みが広がり、目を丸くして副委員長を見た
「でもうちの学校はまだ各クラスに専用グループを作ってないんだ」
「学校側からも誰も提案してない」
…
「それに…」私は人差し指を軽く上げた
「うちのクラスは最近大量に生徒が減って…」
「新しく入ってきた子も多い」
「今が一番いいタイミングじゃない?」
…
「クラスグループを作って…その後は?」副委員長は手を膝に置き、顔を少し伏せた
「結局…何も変わらないかも…」
…
…
「……」私は腕を組み、周囲を見回した
突然、体全体が止まった
視線が買い物かごの中の歴史の教科書に釘付けになる
…
ビシッ!
「これだ!」私は歴史の教科書を指差した
…
「これ?」副委員長は首を傾げ、かごの方を見た
…
「そう!」私は本から目を離さなかった
「授業で大事な情報だけ伝えるんじゃなくて」
「毎日『今日の連絡』みたいなコーナーを作ってみたらどう?」
…
「毎日…連絡?」副委員長は目を丸くして私を見た
「それは…何?」
…
「そんなに難しくないよ」私は小さく微笑み、後頭部に手を当てた
「簡単に考えればいいんだ…」
「明日課題やテストがある日なら…」
「その前の夜とか、数日前とかに…」
「みんなに一斉に知らせればいいだけ!」
…
「うちのクラス、みんな覚えてられないよ」私は頭から手を下ろし、目を丸くして副委員長を見た
「先生たちもよく愚痴ってるし」
「僕だってたまに忘れる…」
「例えばこれからのテストの件…」
「君が言わなかったら、僕当日まで知らないかも」
…
…
「それ…本当に効果あると思う?」副委員長は目を泳がせ、両手を頰に当てた
「みんな自分の勉強は自分で管理してるのに…」
「私が急にそんなことしたら…ちょっと強引すぎ…じゃない?」
…
ス…
「僕にもわからない」私は自分のスマホの画面を軽く掲げた
「でも…」
「やってみないと結果はわからないよ」
「ここで悩んでるよりはいいと思う?」
…
「戸上さん…」副委員長は目を丸くして私を見つめた
…
…
「自分の連絡先を出す必要なんてないよ」副委員長は目を細めて私を見た
「グループ作ったらみんな自分で入ればいいんだから」
…
「あ、いや…これは…」私は慌ててスマホを引っ込め、顔をあちこちに向けた
…
ス…
「でも…」副委員長は小さく微笑み、ゆっくり立ち上がり、手を私の方へ伸ばした
「ありがとう」
「つまらない愚痴、聞いてくれて」
…
ガタ…
「気にしないで!」私は床に両手をつき、ゆっくり立ち上がった
…………………………………………………………………………………………………………………………………
チリン…
「ありがとうございました!」
本屋の奥から声が響いた
…
コツ… コツ…
私たちはゆっくり店を出た
両手に本でいっぱいの袋を持って
……
ガサ…
「今日はマジで大漁だったな!」私は袋を開け、中を覗き込んだ
「普通だったら半分も買えなかったのに!」
…
「だってここもうすぐ閉店するからよ」副委員長は首を傾げて私を見た
「普通はこんなことしないわよ!」
…
「そうなんだ?」私は目を丸くして副委員長を振り返った
「てっきり大セールかと思ってた」
…
ふふ…
「責められないわね!」副委員長は手を口元に当て、目を細めた
「そういう情報、普通は大声で叫ばないもの」
…
ピタ
「副委員長」私は足を止め、振り返って本屋を見た
「ここで少し待っててくれる?」
「急に思い出したことがあって」
…
「いいわよ」副委員長は小さく微笑み、手を私の方へ広げた
「長くならないでね」
…
ス…
「悪い」私は自分の袋を副委員長の方へ渡した
「すぐ戻るから」
………………………………………………..
タタタッ…タタタッ…
ハルの後ろ姿が本屋に向かって駆けていき
店の中へ消えていった
…
ふぅ…
「よかった」副委員長は袋をゆっくり下ろした
「思ったよりあっさり終わったわ」
「私は何をそんなに心配してたんだろう…?」
…
パタ… パタ…
「でも…クラスグループか…」副委員長はゆっくりガラスの方へ歩み寄った
「もしかして…私もやってみようかな」
…
…
バサッ!
本が次々と床に落ちた
体が凍りつき、顔が青ざめていく
副委員長の視線は向かいの光景から離れられなくなっていた
…
遠く、ぼんやりと二つの小さな影
見慣れた制服を着て
全く見知らぬ顔ではない二つの顔
手と手が近く、人と人が寄り添い
遠い階段の方へ駆けていく
…
ビクッ!
ぼんやりした映像が副委員長の脳裏に浮かんで重なる
人だらけのショッピングモール
小さな男の子が小さな女の子の手を握り
人混みを掻き分けて前へ前へと駆けていく
…
ギュ…
「どうして…あなた…」副委員長の唇が小さく動いた、両手でガラスを強く握りしめた
「……教えてくれなかったの…」
…………
タタタッ…
「お待たせ!」私は小さな袋を手に持ち、副委員長の方へ駆け戻った
…
ピタ…
「うわっ?」私は動きを止め、床に散らばった本を見回した
「どうしたの?」
…
「戸上さん」副委員長は真正面をじっと見つめたまま、私に背を向けた
「一つ…お願いがあるの」
「手伝って…くれる?」




