第四十八頁 ― 私たちの間
ガヤガヤ…ガヤガヤ…
人影が群がり集まる空間の真ん中で
足音が無理やり押し合いへし合いを繰り返し
どの売り場も満杯になったかと思えばすぐに空になり
買い物かごが次々と入れ替わり、もう入る隙間もない
…
…トボ… トボ…
小さな一つの影が、人の隙間を必死にかいくぐっていく
空いた棚の間へとゆっくりと進んでいく
視線が何度も人混みの中を彷徨っていた
…
ピッ
手に持ったスマホの画面が何度も光る
メッセージが止まることなく送られ続ける
「ねえ、ハチ!」
「どこにいるの?」
「返事してよ!」
「こっそり帰っちゃったの?」
「それともまたどっかの女の子についてったの?」
…
…
しかし向こうからは……
…何の返事も……
……
はぁ…
「もう、本当に」水野は額を撫で、群衆の方へ視線を向けた
「人混みに入ったばかりなのに…」
「さっきまで一緒にいたのに、どこに行っちゃったのよ?」
…
パッ…
「メッセージも読んでくれないし…」水野はスマホに目を落とした
「一体…」
…
「まさか…」水野は唇を軽く噛み、眉を寄せた
「何か良くないことでも起きた…?」
…
…
ピタッ!
向かい側から一つの影が突然止まった
視線を忙しく動かし、額に汗がびっしょり浮かんでいる
…
「春くん…」恒子は額に手を当て、周囲をぐるぐる見回した
「一体どこに隠れてるのよ?」
…
「あ。」恒子の体がゆっくり固まり、視線が真正面の影に釘付けになった
…
ビシッ!
「見つけたわよ、泥棒猫!」恒子は真正面に向かって指を突きつけた
「春くんをどこに連れてったの?」
「さっさと返しなさいよ!」
…
「はっ!?」水野はスマホを持ったまま、口を少し開け、固まって見返した
「何言ってるんですか?」
…
「とぼけないで!」恒子は片手を腰に当て、水野を睨みつけた
「春くんがそんなことするわけないじゃない!」
「わざわざ春くんをここに誘ったのはあんたでしょ?」
…
「えっ?」水野は目を見開き、体を少し屈めた
「泥棒猫…ってどういう意味?」
「私はちゃんと誘っただけよ」
…
「言い訳しないで」恒子の顔が次第に歪んだ
「普段あんたたち二人が近くにいることなんてないでしょ!」
「クラスでも質問したことないし」
「自習の時間だって来たことないじゃない!」
「どうやってあんたが春くんと知り合ったっていうのよ!」
…
ピッ
「だったら何?」水野はスマホの画面を消し、眉を寄せて恒子を見た
「私たちがどう知り合ったかは私たちの勝手でしょ」
「クラスでどうだったかなんて関係ない」
「ずっとくっついてないと友達じゃないの?」
…
ギュッ…
「いきなり現れて…」恒子は拳を強く握り、ゆっくり手を下ろした
「気づいたら春くんの間に割って入って…」
「こんなことにどんどん引きずり込んで…」
「誰だって…」
…
コツ… コツ…
「それがどうしたの?」水野はスマホを顔の近くに持ち、恒子に近づいていった
「他の人がどう思おうと…」
「……関係ないわ」
…
スッ…
「ハッチがそうしたいって言うなら…」水野はチャットの画面を恒子の目の前に突き出した
「二人で出かけることに何の問題があるの?」
…
「……」恒子は目を見開き、画面の文字を唇でなぞった
…
ヨロ…
「嘘…」恒子の唇が小さく動いた、頭を少し下げた
「でっち上げ…」
…
バシッ!
「全部あんたが勝手に作った話でしょ!」恒子は水野の手を強く弾き飛ばした
「これが春くんの垢なわけない!」
「春くんがそんな返事するわけないじゃない!」
「ただの捨て垢で人を騙してるだけよ!」
…
「じゃああんたはハッチのアカウント知ってるの?」水野は軽く恒子の手首を掴んだ
「ずっと近くにいたんだから、当然知ってるわよね?」
…
ピクッ…
「それは…」恒子はゆっくり後ずさり、顔が凍りついた
…
コツ… コツ…
「やっぱりね」水野は恒子に背を向け、棚の奥へ進み始めた
「あんたも他の他の人たちと大して変わらない」
…
「何よそれ!」恒子は前へ踏み出し、拳を高く振り上げた
「他の連中って…どういう意味よ?」
…
「怠惰で、依存して、人に寄りかかって」水野は恒子の方へ体を傾けた
「必要な時だけ近くにいて…」
「用がなくなったら…」
「すぐに背を向ける」
…
ギュッ…
「あんたに何がわかるのよ!」恒子は唇を強く噛み、手を激しく振った
「私がどこであいつらと同じなのよ!?」
…
「おや…」水野はスマホを唇の近くに寄せ、目を細めて恒子を見た
「じゃああんたは本当にハッチのことわかってるの?」
…
「もちろんよ!」恒子は腰に手を当て、顎を上げた
「あいつは優しくて、頑張り屋で、勉強もできて、それに…」
…
「……それにいつも私の側で助けてくれる、でしょ?」水野は唇を少し歪めた
…
「それは…」恒子は突然動きを止め、目を見開いた
…
コツ… コツ…
「じゃあもしあいつがあんたを助けなくなったら、あんたは今みたいに見てるの?」水野は恒子に近づいた
…
「……」恒子の顔が凍りつき、まばたきすらできなくなった
…
「どうしてあんたの方が私より長く側にいるのに…」水野はスマホを軽く恒子に向けた
「……今まであいつのアカウントも知らなかったの?」
…
「……」恒子の喉は言葉を発せなくなった
…
コツ…
「結局…」水野は恒子の目の前まで近づいた
「あんたはハッチにとって何なの?」
…
…
…
棚の反対側から、人影が通路を埋め尽くしていた
手にいっぱいの買い物かごを抱え
白い制服がひときわ目立つ
そして一本の大きな三つ編みをした女の子が、二人の方へ視線を向けていた
「すみません」
「急に割り込んで失礼だとは思うんですけど…」
「今お二人が話していた生徒のこと…」
「もう少し詳しく教えてもらえませんか?」
…
「……」水野は目を見開き、体を振り向けられなくなった
…
…ズリ… ズリ…
「すみません」水野は軽く恒子の体を人の群れの方へ押しやった
「私たち今忙しいので」
「また今度にしてください」
…
カツ… カツ…
「わかりました」女の子は微笑み、二人の方へゆっくり近づいた
「でもせめて…」
「さっきお二人が言っていた名前のこと…少しだけ教えてくれませんか?」
…
グイッ!
「……」水野は恒子の肌を軽くつねり、唇を小さく動かした
「とにかくここから出るわよ」
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上の階から、二つの視線がずっと見下ろし続けていた
少年の顔が次第に歪み、周囲を必死に見回す
…
ザッ…
「もう見てられねえ!」白川は勢いよく立ち上がり、階段の方へ視線を向けた
…
「天宮さん」白川は天宮の方へ振り返った
「ここで少し待っててくれるか?」
「すぐ戻るから」
…
「……」天宮はゆっくり体を起こし、スカートを掴んだ
…
「……」天宮は小さく頷き、床に視線を落とした
…
…
スッ…
「わかった」白川は天宮の方へ腕を伸ばした
「しっかり掴まって!」
「また誰か探す羽目になりたくない」
…
クイ…
「ありがとう…」天宮は白川の袖をそっと掴んだ
…
「じゃあ行くぞ!」白川は微笑んだ
…
タタタッ!
二つの影が階段に向かって駆け出した
寄り添うように、手と手が近く
…
…
バサッ!
そして向かいの店から
一つの視線が、二人の姿から離れられなくなっていた
手に持っていた本が床に散らばっていく




