第四十七頁 ー 本棚の隙間
ピッ…ピッ…
「合計300円になります!」店員が目の前の客の方へ視線を向けた
……
ひそ…ひそ…
レジに向かう長い列が続いている
本でいっぱいの買い物かごが次々と前へ進む
店員たちの手がカウンターの後ろで休むことなく動く
…
コツ…コツ…
人々がが、一歩ずつ本屋から離れていく
あちこちの角が、急に広々としてきた
周囲に軽い話し声が響く
…
「もうすぐセール始まるよね?」
「早く行かないと!」
「中は外より涼しいと思ってたのに!」
「もう少し我慢すればいいよ」
………
本棚の間で人影が次第にまばらになっていく
音も少しずつ少なくなる
それでもまだ、そこに残っている二つの影
本を抱えながら、互いに互いを見つめていた
…
「どういう意味だよ?」私は少し後ずさり、手を前方へ伸ばした
「僕、ちゃんと最新版を取ったはずだけど」
…
「違うの」副委員長は小さく首を振り、二冊の本を私の目の前に差し出した
「確かに最新版は取ってるわ」
…
すっ…
「でも…」副委員長は二冊の本を私の目の前に掲げた
「それが数ヶ月前なら、の話よ」
「最近更新されたばかりなの」
…
「へっ!!!!!」私は二冊の本に向かって身を乗り出した
「どうしてそんなことになるんだよ!」
「僕、ちゃんと確認したはずなのに!」
「スマホで確認までしたのに!」
…
ふふっ…
「責められないわね」副委員長は小さく微笑み、首を傾げて私を見た
「この出版社のシリーズは、更新の時に告知がほとんど出ないの」
「みんなよく文句言ってるわ」
…
すっ…
「でも…」私は二冊の本を手に取り、しばらく見回した
「よくわからないんだけど」
「見た感じ、二冊に違いなんてないよね?」
「ページ数も全く同じなのに?」
…
ぺらっ…
「実はあるの」副委員長は二冊の同じページを軽くめくった
「この二ページ、見てみて」
…
「……」私は顔を近づけて二枚の紙を見つめた
…
…
「うわっ?」私は後ろに引いて、目を丸くした
「新版の方、専門用語の部分が一つ欠けてる…」
「古い版の方は逆に多すぎる…?」
…
とさっ
「わかった?」副委員長は二冊の本を軽く閉じた
「古い版を使っても大きな問題はないけど」
「でも知識量が授業の内容とずれる可能性があるの」
「試験の時に結構面倒なことになるわ」
…
「確かにそうだ!」私は軽く頭を下げ、両手をだらりと垂らした
「僕も一度そうだった」
「全然気持ちよくないよな」
…
くすっ…
「……」副委員長は小さく笑い、目を丸くして私を見た
……
すっ…すっ…
「そうだ」副委員長は本棚の方を向き、指を本に沿って滑らせた
「あの本は内容自体は全部入ってるけど…」
…
「……」私は副委員長の指の方向に顔を上げた
…
するっ…
「でも本気で自分の力を上げたいなら…」副委員長は数冊の本を棚から引き抜いた
「これらも一緒に取ることをおすすめするわ」
「内容自体はそんなに新しくないけど」
「問題集としてはかなり役に立つはずよ!」
…
「これらって、普通あんまり役に立たないんじゃ…?」私はその本たちを指差した
「つまり…」
「全部の本が全部読む価値があるわけじゃないよね」
「買ってもほとんど意味ない本も多いし」
…
さらっ…
「それは同意するわ」副委員長は小さく頷き、本を開いた
「でも見て」
「あの本たちと違って、これらは演習・応用に特化してるの」
「うちの学校には結構合ってるはずよ!」
…
「……」私は本の中に視線を落とし、文字をなぞりながら唇を小さく動かした
「もしトーマス・エジソンが電灯の発明で世界的に有名なら、なぜニコラ・テスラが電気にまつわる話で最初に思い浮かぶのか?」
「なぜ現代のアメリカは英語が主流で、先住民の言語や他の言語ではないのか?」
「世界には常に人間の基本的な限界を超える偉業が存在する。自分の知識を使って、人間が短期間で厳しい装備を整え、極めて長い距離を行軍できるという仮説を証明してみよ。また具体的な証拠を挙げよ。」
「注意:シルクロードを例に使うことは禁止。」
…
「ええっ…」私の顔が強張り、頭がくらくらした
「何…これ…?」
…
「結構難しいでしょ?」副委員長は微笑み、目を丸くして私を見た
…
「……」私は小さく頷き、本をじっと見つめた
「こんな準備…ちょっとやりすぎじゃない…?」
…
「全然」副委員長は小さく首を振り、本をカゴに入れた
「うちの学校が今度の試験で想定してるレベルに比べたら、まだ序の口よ」
「準備しすぎるくらいがちょうどいいわ」
…
「へっ?試験?」私は立ち上がり、目を丸くして副委員長を見た
…
「知らなかったの?」副委員長は首を傾げ、目を丸くして私を見た
「あと二週間で中間テストよ」
「範囲は歴史と地理の二科目だけだけど」
「うちの先生たちが簡単な問題出すわけないでしょ」
「前回のテストみたいに」
…
がーん…
「あと二週間しかないのにどうやって間に合うんだよ!」私は体を反らし、天井を見上げ、両手で頭を抱えた
「放課後の課題も山ほどあるし!」
「蓮やみんなの手伝いもしなきゃ!」
「他の科目の成績も落とせない!」
「それに復習の時間も…!」
…
ふふっ…
「戸上さんにもこんな面があるんだね!」副委員長は手を口元に当て、目を細めて笑った
…
「どういう意味…?」私は動きを止め、体を固くし、副委員長の方を見た
…
「だって普段クラスでは、いつもみんなの勉強を見てあげてるじゃない」副委員長は両手を組み合わせ、私を見つめた
「変わったけど効果的な解き方とか」
「ほとんど宿題もサボらないし」
「戸上さんがこんな顔するなんて想像できなかった」
…
ぽりぽり…ぽりぽり…
「褒めすぎだよ」私は頭を軽く掻き、目を細めた
「僕も普通に勉強してるだけだって」
…
「僕もびっくりしたよ」私は副委員長に視線を向けた
「普段クラスではあんまり喋らないのに…」
「さっきまで全然話してくれなかったのに…」
「僕が余計なこと言いすぎたのかと思ってた!」
…
はっ…
「……」副委員長は突然動きを止め、ゆっくりカゴの方へ視線を落とした
「あなたも…ね…」
…
「待って!」私は慌てて両手を振り、顔を周囲に向けた
「そういう意味じゃなくて…」
「僕は…さっきから…」
「白川さんと話すより、君と話す方が難しいと思ってただけで…」
……
浅霧黒見の頭の中で、様々な思考が渦巻いていた
「さっきからずっとこいつと話してて、自分でも気づかなかった」
「何か変なこと言ってないか、変なことしてないか?」
「あいつに悪い印象与えてないか?」
「あいつに…」
…
ぎゅっ…
「聞いてみようかな…?」黒見は手を強く握りしめた
「あいつは聞いてくれるかな?」
「それともまた夏目の影に隠れてるって思うだけかな?」
「もう最初からそう思ってるのかも…?」
……
「あの…私…聞きたいことがあるの…」副委員長は私の方へちらりと視線を寄せた
「私…ただ考えてて…」
「クラス副委員長なのに…」
「全然何もできてなくて…」
「夏目みたいに…あなたみたいに…」
…
「教えてくれない?」副委員長は頭を下げ、私の方へ体を向けた
「どうやって…どうやって…」
「どうやったら…」
「私…この役職にふさわしくなれる…?」
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ざわざわ…がやがや…
上の階から、二つの影がずっと下を見下ろしていた
下の階は、相変わらず人で溢れかえり
売り場は四方から囲まれ
どの棚も棚はほぼ空になっていた
…
そして二つの空いた棚の間で
二人の人間が互いに見つめ合っていた
短い赤い髪の少女が、正面へ向かって指を突きつけた
長い黒髪に濃い赤のメッシュが入った少女が
スマホを手に持ち、呆然と見返していた
…
「見つけたわよ、泥棒猫!」恒子は真正面に向かって指を突きつけた
「春くんをどこに連れてったの?」
「さっさと返しなさいよ!」
…
「はっ!?」水野はスマホを持ったまま、口を少し開け、固まって見返した




