第四十三頁 ― 菓子の皮の内側
ガヤガヤ…ガヤガヤ…
白い照明の下、レジカウンターの奥で
空間のどこもかしこも隙間がない
人々の影が必死に棚に向かって突進していく
両手が周囲の商品を必死に奪い合っている
…
ドス…ドス…
レジカウンターの外側では、人々の影が徐々にまばらになっていく
足音が空間全体に響き渡る
一人、また一人と、白くて大きな袋を手に持って
顔をしかめ、視線を中に向けながら
……
ドサッ!
「やっと…終わった…」
レンは長いベンチに腰を下ろし、袋を両側に置いた
「結局…ハル…あいつ…何を買ったんだよ…」
…
ハァ…ハァ…
「……」
レンは腕を額に当て、頭を後ろに倒して天井を見つめた
…
…
「でも…」
レンは中の方にいる人混みをチラッと見た
「なんで今日みんなあんな感じなんだ?」
「ただの安売りだぞ…」
…
ジーッ…
「……」
レンは顔を戻し、袋をじっと見つめた
…
…
ペチン!
「ダメだ俺!」
レンは自分の頰を叩き、顔を無理やり逸らした
「ハルが信用してこの荷物を俺に預けてくれたんだ」
「あいつを失望させるわけにはいかない」
「余計なことしてはいけない。いずれあいつも教えてくれるはずだ」
「そうだ、そうだ…もうすぐだ…!」
…
「……」
レンは手を軽く開き、袋に視線を這わせた
……...
ガサ…ガサ…
「まあ、商品が壊れてないか確かめるだけなら…」
レンは顔を逸らしたまま、手を袋の中に突っ込んだ
「ちょっと確認するくらい…大丈夫だろ…」
……
ピタッ
レンの目が大きく見開かれ、体が凍りついた
指一本動かせず、まぶたも瞬きしない
手に持った小さなワンピースから目が離せない
…
「何も見てないことにしよう」
レンはそっとワンピースを袋に戻した
……
ゴソッ…
「これは…」
レンの顔が少し歪み、まぶたがピクッと動いた
「カレー…? なんで…?」
「でもここまで買う必要あるのか…?」
…….
ゴソッ…
レンの唇が少し震え、手が固まった
視線が袋の口から離れない
…
中にはスポンジで丁寧に包まれたものがあって
白いガラス瓶がずらっと並んでる
…
スッ…
「よかった、壊れてない…」
レンは小さく唇を湿らせ、素早く袋の口を閉じた
…
「ハル…」
レンは人混みの方に視線を向けた
「結局…お前は何を買ってきたんだよこれ…」
……
「もう一個だけだ」
レンは軽く背中を丸め、一番大きな袋から目を離さない
「次は何が出てくるんだ…?」
…
ゴソッ…
レンがそっと袋の口を開けた
中からフルーツの香りがふわっと広がる
周囲の照明に光る砂糖の層
…
ハッ—!
レンの視線が動かない
両手が無意識に袋の口を広げていく
…
「砂糖まみれじゃん!」
レンは勢いよく手を袋の中に突っ込んだ
「なるほど、さっきの人たちがあんなに奪い合ってた理由がわかった」
…
「でも…」
レンは顎に手を当て、首を少し傾げた
「ハルはどうしてこんなにたくさんお菓子を買う必要があるんだ?」
…
…
キョロ…キョロ…
「……」
レンはそっとお菓子の袋に手を入れ、たい焼きを一つ取り出した
「まあ…」
「一個くらいなくなっても…」
「あいつも気にしないよな…?」
……………………………
モグモグ…モグモグ…
長いベンチにたった一人の影
白い袋がベンチ全体を覆い尽くし
たい焼きを抱えて笑っている少年
…
トン
突然、肩に手が触れた
膝に手をついて前屈みになった少年
顔中に汗がびっしょり
両側に白い袋をたくさん提げている
「す…すみません…」
「もし…よかったら…」
…
「……一緒に座っても…いいですか」
少年が顔を上げ、目を丸くした
…
ギクッ
「……」
少年の動きが止まり、口がパクパク動き、指が震え始めた
「この制服…このバッジ…」
「まさか…」
「君…君は…」
…
「大丈夫だよ」
レンは微笑んで袋をずらした
「気軽に座って!」
「どうせ俺だけの席じゃないし」
……….
モジモジ…モジモジ…
ベンチの上で少年は両手を握りしめ
顔をうつむかせ、周りを見られないでいる
…
「ねえ」
大きな声が響いた
…
「はいっ!」
少年の肩がビクッと跳ね、目が震えた
…
「人が話しかけたらこっち向かないと!」
声がさらに大きくなった
…
「はいっ!!!」
少年は慌てて振り向き、何度も頭を下げた
「ごめんなさい!」
「許してください!」
…
スッ…
「何言ってるの?」
レンはたい焼きを口にくわえたまま、もう一つを少年の方へ差し出した
「急に頭下げてどうしたの?」
「ただ聞きたかっただけだよ…」
「食べる?」
…
「君、俺を怪しいサークルに連れ込む気じゃないよね?」
少年はベンチの端に寄り、自分を抱きしめた
「それとも大量の課題をやらせる気?」
「それか人混みでアンケート取らせる気?」
「このたい焼きにお金取る気?」
「何を企んでるの?」
…
「いいから」
レンは目を細めて微笑んだ
「ただのたい焼きだよ」
「そんなに大したことじゃないって!」
「食べたかったら遠慮なく取って」
…
「ほ…本当…?」
少年がゆっくり手を下ろし、たい焼きを見つめた
…
「もちろん」
レンはたい焼きをもう少し近づけた
「どうせ俺がもらったやつだし」
「こんなにたくさん一人で食べきれるわけないよ!」
…
スッ…
「じゃあ…」
少年はおずおずと手を伸ばした
「いただきます…」
…
パクッ...
「……」
少年はたい焼きを口に運びながら、周りをキョロキョロ見回した
…
…
「あのう…」
少年はたい焼きをじっと見つめ、指で軽く押した
「一つ確認したいんだけど…」
「君…品川高校の生徒…だよね?」
…
「うん」
レンは頷き、口の周りにまだたい焼きの粉がついたまま
「どうしてわかったの?」
…
「君の制服…あの独特の紋章…あの学校だけだよ…」
少年はたい焼きを少し下げてレンを見た
「あの人たちの…と同じ…」
…
「あの人たち?」
レンは首を傾げ、たい焼きをゆっくり口に運びながら
「どういうこと?」
…
「なんでもないよ」
少年は微笑んで軽く首を振った
「ただ君の学校からうちに来て指導してくれた先輩たちのこと」
「ただ…そのやり方がちょっと…」
…
「それは言わなくていい!」
レンは笑って残りのたい焼きを一口で食べた
「うちの学校は普段から普通じゃないし」
「ああいう先輩たちがああなるのも当然だよ」
…
「でも…」
レンは少年から目を離さず、新しいたい焼きに手を伸ばした
「その先輩たち、君の学校で何してたの?」
…
ガサッ
「知らないの?」
少年はたい焼きの袋を破りながら
「あれって君の学校の伝統じゃないの?」
…
「さあ」
レンは顎に手を当て、体をくねらせた
「俺まだ入学して一学期も経ってないし」
「全部知ってるわけないよ」
…
パクッ
「じゃあいずれ…」
少年はたい焼きを口に運びながら
「君も同じ経験するよ」
「でも彼らみたいに鬼みたいな課題は出さないでね!」
…
「もちろん!」
レンは胸に手を当て、微笑んだ
「俺には勉強の仕方を教えてくれた友達がいるから」
「困ったときはその人に聞けば大丈夫!」
...
「それならよかったね」
少年はたい焼きを少し下げ、小さく微笑んだ
「俺たちにも同じような人がいたよ」
「ただ…」
…
「ちょっとしたことが起きて…」
少年は顔を少し伏せた
「変なやつらが邪魔してきてさ…」
「言い過ぎるやつもいて…」
「あの人はそれを理解してくれなくて…」
「だから今は…」
…
「……」
レンの手がそっと伸び、目が細くなった
…
「でも大丈夫!」
少年は顔を上げてレンに微笑んだ
「俺たちはきっとあの人を見つけ出す」
「全部ちゃんと話して」
「それで…」
「全部元通りになるよ」
少年の笑顔が顔いっぱいに広がり、髪が目を隠した
「今までずっとそうだったように」
…
「……」
レンの体が固まり、顔が次第に青ざめていった
…
クシャ…クシャ…
「ちょっと話しすぎちゃったね」
少年は包み紙を丸めた
「気まずくさせてごめん」
「どうせ今どこにいるかもわからないのに」
…
「い…いや…大丈夫…」
レンの喉がうまく言葉を紡げなくなった
「あの件…頑張って…」
…
スッ
「ありがとう」
少年は袋を持ち上げ、周りを見回した
「君もその人…頑張ってね」
…
「う…う…うん…」
レンは小さく頷いたまま、手が動かない
…
…
コツ…コツ…
「そうだ」
少年は足を止め、振り返ってレンを見た
「もし偶然、トガミ ハルって名前の人に出会ったら…」
「俺たちから伝えてくれないかな…」
「ナギちゃんがさ…まだ待ってるって、伝えてくれないか」
…
「へっ?」
レンの喉が無意識に声を漏らし、体が後ろに引いていった




