第四十二頁 ― 平行ではいられない直線たち
ざわざわ…ざわざわ…
ショッピングモール全体に、人が群がり集まっていた
人影が競うように各売り場へ突進していく
何本もの手が中へ割り込もうと必死に伸ばされ
絶え間ない足音が響き渡る
……
その喧騒の外側、遠くから
一団の人間が数人の若者の周りを囲んでいた
顔にははっきりとした皺が刻まれている
…
ぐいっ…ぐいっ…
「離せ!」一人の男子が腕を引き戻そうとする
「てめえ、何してんだよ?」
「俺が誰だかわかってんのか?」
…
ぐっと…
「あなたが誰かなんて、ここでは関係ないでしょう?」
白川は目を細め、手を強く握り締めた
「いきなりうちの友達を引き寄せて…」
「それから嫌な言葉を吐き始めた…」
「少し考えてみたらどうですか」
「私たちがどう思うか」
…
「ただのガキどもが生意気な口ききやがって」遠くにいた一人が口の端を歪めて笑う
「子供の分際で何がわかるってんだ!」
「さっさと帰ってオモチャでも遊んでろよ!」
…
ゲラゲラ…
周囲の人間たちが一斉に顔を上げ、空に向かって大声で笑い、目を細めた
…
ぎゅっ…
「……」天宮は白川の背中にぴったりと寄り添い、目を閉じた
…
…
ちょん
「兄貴」青ざめた顔の男が、腕を掴まれている男の肩を軽く叩く
「奴らの制服…」
「あれ…あれ…」
…
「あれがどうしたんだよ!?」男は顔をしかめ、白川の方へ顔を下げた
「その制服が…」
「……妙に…ヤバい…ぞ…」
…
はっ…はっ!!!
「冗談じゃねえぞ」一人が後ずさり始めた
「なんで…あの学校の連中に当たっちまったんだ…」
「これマジで終わったな」一人が顔を背け、頭を抱えた
…
チッ
「何をビビってんだよ!?」腕を掴まれている男は顔を歪め、首を伸ばした
「所詮ただの学生じゃねえか」
「結局…」
…
ゴツン!
突然、後ろから一つの影が近づいてきた
片手に大きな袋を持ち、もう片方の手を高く振り上げ
そのまま次々と奴らの頭に振り下ろす
「俺はお前らを呼んだのは荷物運びを手伝えって言ったんだぞ…」
「ここで暴れて遊べって言った覚えはねえ!」
「中にはまだ買う物が山ほどあるって知ってんのか?」
…
「でも母さん…」腕を掴まれていた男が振り返り、手を頭に当てた
「俺たち何もしてねえよ」
「ただあいつらが…」
…
ぐいぐい…ぐいぐい…
白川の手が無意識に緩んだ
女性が手を伸ばし、その男の手を掴む
彼を遠くの群衆の方へ引きずっていく
他の主婦たちも残りの男たちを引き連れて遠ざかっていく
「もう何も言うんじゃないわよ」
「さっさと来て荷物持ちなさい!」
「でないと今晩ご飯抜きよ」
………
「一体何が起きたんだ?」蓮は前の方へ顔を上げ、手を額に当てた
…
はっ
「そうだ!」白川が肩を軽く跳ねさせ、後ろを振り返った
「天宮さん」
「大丈夫ですか?」
…
「私は…大丈夫です…」天宮は両手を組み合わせ、周囲に視線を走らせた
「ありがとう…みんな…」
…
「でも」蓮は体を斜めに傾け、手を腰に当てた
「どうして急にここに来たんだ?」
「普通なら…」
…
バタバタ…バタバタ…
「あの…えっと…」天宮は両手を忙しく動かし、顔を左右に振った
「実は…その…」
「私は…私たちは…」
…
あっ
蓮の目が大きく見開かれ、体が一瞬硬直した
見慣れた影が人混みの中を軽やかにすり抜けていく
両手にパンパンに膨らんだ袋を提げて
「春見つけた!」
「あいつ、また美味そうなもん見つけたな」
…
タタタッ…
「春!」蓮は人混みに向かって駆け出し、顔を輝かせ、足跡の後ろに煙を引いた
「待てよ!」
「一人で食うなんてずるいぞ!」
…………
煙が薄れていくと、周囲に人の気配はなくなっていた
残ったのは隅の薄暗い場所に、二つの影だけ
…
「委員長さん…実は…」天宮は体をびくりとさせ、後ろへ下がりながら手を口元に寄せた
…
すっ
「わかってるよ」白川は小さく微笑み、手を前方へ伸ばした
「あいつの後を追ってきたんだろ!」
「俺も厄介な奴を一人追ってるところだ」
「一緒に探さないか?」
…
「うん…」天宮は白川の袖口をそっと掴み、小さく頷いた
……………………………………………………………………………………………………………………………
ゴホッ…ゴホッ…
人混みに囲まれた場所の真ん中で
煙と埃があたり一面を覆い
人々が押し合いへし合いしている
ただ一人の影が、両手にパンパンの袋を抱えて
視線を忙しなく動かし、顔を少ししかめていた
…
「水野さん」私は目を細め、体をくるりと回した
「どこだよ?」
「返事しろって!」
…
「このままじゃ埒が明かないな」私は唇を軽く動かし、人混みの隙間へ視線を向けた
…
…
ズイッ
「やっと…抜け出した」私は膝に手を突き、袋を下ろした
…
「今日は…マジで最高だった…」私は顎を撫で、袋たちを見回した
「こんなにたくさん買えたのに…ほとんど金かかってない…」
「でも…」
「今どうしよう」
「水野さんも全然見当たらないし…」
「この袋たち…」
「このまま持ち歩くわけにもいかない」
………
ビューン!
人混みの中から、見慣れた影が突然目の前に現れた
口元に満面の笑みを浮かべて
両の拳を握りしめ、体を近づけてくる
…
「やっと見つけたぞ!」蓮は手を下ろし、腰を曲げて周りを見回した
「今日も何かやらかしたのかと思ってた…」
「まさか一人で飯買い占めしてたなんて」
「それは不公平だろ!」
…
「蓮…」私は額を撫で、顔を無理やり上げた
「どうやって…お前がここにいるって…」
…
ポリポリ…ポリポリ…
「そういう細かいことは…」蓮は頰を掻き、顔を逸らした
「たまたまだよ…」
「そうだ!」
「ただの偶然だ!」
「俺もたまたま今日ここに来てただけだから!」
…
「助かった…お前がいてくれて…」私は体をまっすぐに伸ばした
「ちょっと…頼みたいことがあるんだけど…」
…
「おお?」蓮は顎に手を当て、目を細め、笑みを大きく広げた
「珍しいな!」
「春が俺に頼み事なんてするなんて」
…
「実は…」私は袋の山へ手を向けた
「まだ買いたいものが少しあるんだ」
「でも…この量じゃ…」
「今はちょっと厳しくて…」
…
「つまりこの荷物預かってほしいってことか?」蓮は袋の山を目で確かめた
「まあいいけど」
「ただ…」
「結構量あるぞ、これ…」
「周りもまだ人多いし…」
…
「後でちゃんと分けるから」私は眉を寄せ、体を低くした
…
ガバッ…ガバッ…
「そんなことしなくていいって、春くん!」蓮は全ての袋を一気に掴み上げ、顔を輝かせた
「ただの友達同士の助け合いだろ」
「そんな大げさに報酬とかいらないよ!」
…
「本当に取るのか?」私は体を伸ばし、袋の方へ手を伸ばした
…
タタタッ…タタタッ…
「じゃあ後で外でな!」蓮は全ての袋を抱え、出口に向かって駆け出した
……………………………………………
ふぅ…
「これで一つ片付いたな」私は肩を落とし、人混みの方を向いた
「あと少し買いたいものがある」
「それに水野さんも」
「あいつ…」
…
…
にゅっ
私の体が一瞬固まった、瞬きすらできなくなった
人混みから伸びてきた腕から目が離せない
見覚えのある袖の色、青と紫が交差するライン
…
ぐっと…ぐっと…
私はその腕を強く掴んだ
体を後ろへ反らし、顔を少し歪めた
目を固く閉じ、唇を噛みしめる
「頑張れ、水野さん」
「今すぐ連れ出すから!」
…
…
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私の体が後ろへ倒れた
一つの影が私の体に向かって飛び込んできた
黒く艶やかな髪が周囲の光を覆い隠す
…
ドンッ!
私の体は床に長く横たわっていた
両手が無意識に前を抱きしめている
一人の少女の体が胸の間にすっぽり収まっていた
…
ぐっ…
「大丈夫か…」私は顔を上げようとし、顔を歪めた
「水野…さん…」
「……」
…
少女が顔を上げ、私の方を見た
頰を真っ赤に染め、黒縁眼鏡の奥で目を丸くしている
両手を私の胸に置いたまま
「へっ?」
「戸上…さん…」
…
「副委員長?」私は唇を小さく動かした。




