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召喚者達はその異世界で  作者: 八日園 啓地
電子の子ども達
90/143

89 その結果、生まれるモノ

***

 「イヒヒヒヒ! さあ、準備はいいかな? キミたち」

 太陽が地平線に沈む逢魔時。

 半刻を待たずして暗闇が訪れる時間帯だ。

 そんな中、先取りするように四つの影がダストリー内を歩いていた。全身黒いローブで覆われていて、これから来る闇夜を先取りしているかのようだ。

 一人の暗闇が他の闇に問いかける。

 しかし、闇たちからの返事はなく、三者静寂を保っている。

 「イヒッ! 無愛想な連中だねぇ」

 その反応さえ楽しいといった様子で暗闇がーーイワノフが独特の笑い声をあげる。

 「ていうか、ワタクシの()()たちはともかくキミは普通に喋れるんだから返事くらいしなよぉ」

 イワノフが後方にいる闇の一人を指差す。彼が指名したのは四人の中で唯一黒ローブの他にも仮面を被っている人物だ。仮面と言っても、黒一色で模様など一切入っていない。のっぺらぼうの仮面である。

 「クガ君」

 「別に」

 空閑(くが)(あつし)は平坦な声で端的に告げる。

 「相変わらず言葉が少ないねぇ。キミはアレかい? 口に文字制限でもかけられているのかい?」

 「……チッ。必要なら喋るが、今は違うだろ」

 クガは不愉快そうに先程の十倍近くの言葉を口にする。

 「ほぉ、キミ戦闘の時以外でもそんなに喋れるんだねぇ」

 イワノフは可笑しそうに笑い声をあげる。

 「……ダルマが。いつか殺す」

 アツシが呪詛のように呟き、またイワノフから笑いが起きる。

 その笑い声に嫌気がさしたようにアツシは足を止める。

 「ここでいいだろう?」

 「少し遠いが、まぁ、いいよ。見張りよろしく」

 ダストリーの大通りにアツシを残してイワノフと残りの二人が先に進む。

 彼らか歩く道の先には長く使われていないような建物が建っている。何もない一本道なので数分でたどり着くことができた。

 「イヒヒヒヒ! 良い時間を(ハブアナイスタイム)……ってね」

 イワノフは協力者の口癖を真似て、建物の扉を開けた。




***

 アキヒロが二人の女神の加護者を送り出して数時間が経過した。

 それまでの時間彼は二人がインフェクトを連れて帰還するのをただ待っているだけではなかった。

 「ふう……これでいいだろう」

 地下のクリスタル・コアの前で付きっきりで作業していたアキヒロは凝り固まった体を伸ばす。

 クリスタル・コアの最終調整が終わり、彼は部屋を出る。

 両端の明かり先を見通す頼りになる廊下を歩き、地上に続く梯子を登る。

 (彼はアレを使っただろうか……)

 女神の加護者の少年と彼に渡した武器が頭を巡る。

 あの武器を渡された時のカケルの顔は明らかに戸惑っていた。

 それも当然だ。

 銃刀法がある世界で十数年生活していたのだ。アキヒロ自身は武器自体を造る機会のある職に就いてしまったので慣れるのは早かったが、それでも慣れていない時期はあった。

 だからあの時の彼の決意を決めかねている顔は分かる。

 その時の彼の気持ちは理解できるつもりだ。

 だからこそアキヒロには少し後悔にも似た感情があった。

 カケルに武器を渡したことが正しかったのかずっと考えている。

 そもそも、あの武器はライトソードとバーチャルバレットができる一つ前の発明品だ。一つで剣と銃の役割をこなすそれは実に画期的だった。しかし、種族間の争いもない現代でその力は強大ではないかという意見で実用化はされなかった。

 自衛できるくらいのものでいい。

 そう願われて造られたのが今のライトソードとバーチャルバレットだ。

 大きな争いがないと言い切れる世界だからこそ、実現したものだ。

 しかし、最後まで抵抗した者がいた。いや、今もどこかで抗っているのだろう。

 兵器の開発・発達は必要だと憚ることなく主張する者がいた。

 アキヒロは地上に出て、床の扉を閉める。

 そのタイミングで錆びた蝶番の軋む音が建物内に響き渡る。

 「イヒヒヒヒ! 久しぶりだねぇ、アキヒロ君!」

 外の夕焼けに照らされて現れた三つの影が建物に入り込む。

 先頭にいる影の声は聞き覚えがあった。

 「……ええ、お久しぶりです。イワノフ先生」

 アブドゥル・イワノフ。

 兵器の進化に異常な執着心を持ち、またそれを実現する力もあった男。

 アキヒロは予想外の来訪者に一瞬の動揺を見せたが、すぐさま平常心を装う。そして、相手を観察する。

 相手は三人。

 かつての上司アブドゥル・イワノフ。そして正体の分からない二人。

 イワノフは非戦闘員なのでその二人のどちらかは戦闘員として来ているはずだ。もしかすると両方かもしれない。否、その可能性が一番高いのだ。

 しかし、どの道アキヒロが不利なことには変わりない。彼も自身が非戦闘員だと自覚している。仮に、一生分の幸運が訪れてイワノフ以外の二人も非戦闘員だったとしても数で押されるのは目に見えている。

 非戦闘員でも洗練された戦闘技術やそれに見合う体力がないだけで、戦うこと自体はできるのだ。

 「相変わらず活躍しているようだねぇ。元上司して誇らしいよ」

 「……それで、一体何をしにこの国に戻られたのですか?」

 アキヒロは元上司なりの褒め言葉を無視して核心をつく。

 白衣の内側に付いているポケットからずっしりとした重みを感じる。彼の懐にあるのはカケルに渡した武器と同じ物だ。

 アキヒロも相手がクリスタル・コアがあるこの建物に攻め込んで来るかもしれないという予想はしていたのだ。しかし、調達できる武器は限られている。

 そして戦闘になったら勝利できるほどの戦力はアキヒロにない。

 なので今は絶海翔とカケルの帰りを待つことが一番生存率が高い。アキヒロはイワノフたちが現れた瞬間に、すぐさまその結論に至った。

 それまで会話で時間を稼がなければならない。

 もし自分の懐にある武器が使われることがあったら、それはこちらの死を意味する。

 「イヒヒヒヒ! ワタクシに褒められたら仏頂面をするのは相変わらずだねぇ。何しに来たかって? 調査だよ、調査。クリスタル・コアは魔力を研究する上で素晴らしい素材を造り出したからねぇ」

 「……電子魔力ですね」

 「その通り! 一言で言えば電気を帯びた魔力。魔力とは似て非になるもの。おかげで随分と研究が進んだ。……来なさい」

 イワノフの後ろにいた二人の内の一人が彼に従い、前に出る。そして黒ローブを着た発明家はまるで渾身の発明品に掛かっている布を取って初お披露目でもするかのように、前に出た人物のフードを取った。

 見た目は子供の男の子だった。恐らくはインフェクトと歳は変わらない。

 「名前をワンセルフという。その力を見せてやれ」

 イワノフの命令を受けて、ワンセルフは行動する。

 ローブの内にあった左腕を天に掲げて、その姿を晒す。

 瞬間、小枝のような子供の腕は立派な鎧に包まれた。

 アキヒロは言葉も出ずに目を見開いて、己が錯覚ではないかと注視する。

 しかし、その疑いを否定するように鎧の周りで小さな電流が走る。

 イワノフは元部下の反応に怪しげな笑みを浮かべる。その笑みはまだこんなもので終わりではないとアキヒロに分からせるには十分だった。

 「クリスタル・コアに続く道を探してこじ開けろ、ワンセルフ」

 「……っ!?」

 相手が強行突破をとったため、アキヒロはやむなく例の武器を取り出そうと白衣の内側に手を入れる。

 その瞬間、一瞬で三人目の人物が目の前に現れた。

 「なっ……!?」

 いきなり目の前に現れた人物に対して距離を取ろうと反射的行動で後退(あとずさ)りをする。

 しかし、それよりも早く銀色の一閃がアキヒロの懐に入れた右手を捉えた。

 「ぐあぁぁぁぁぁあああ!?」

 右腕は前腕の肘に近い方から約半分を彼に残して、斬り落とされた。

 傷口が熱を持つように熱くなる。大火傷のような激痛に彼は膝をついてうずくまる。

 「君の大声なんて初めて聞いたかもねぇ。いつも冷静だったから新鮮だよ。……さて、見つかったか?」

 「うん」

 ワンセルフは端的に報告して弾かれたように跳躍する。

 目標の講壇まで一息に跳んでーーーー破壊した。

 元々年季の入った講壇はあっさりと木屑と化す。

 ワンセルフは衝撃によって発生した煙が収まるのを待ってから、その下の床もポッカリと穴が空いているのを確認する。その穴は深い底まで続いていた。

 クリスタル・コアがある部屋に続く地下通路だ。

 「ワンセルフ、クリスタル・コアを()()()()

 イワノフの言葉にアキヒロは一層表情が険しくなると同時に困惑の色も見せる。この数秒間の内にいくつもの情報がアキヒロに押し寄せているからだ。

 ワンセルフと呼ばれる男の子の存在。

 右腕の痛みが()()()継続していること。

 イワノフのクリスタル・コアを取り込めという言葉。

 そして。

 「……はぁ……あぁ……ぐっ…………!」

 頭上にいるそいつの顔を睨みつける。

 ワンセルフとイワノフと共に襲撃しに来た人物で、先刻アキヒロの前腕から先の右腕を奪った男だ。フードを被っていて先程まで顔を確認できなかったが、下から覗くような形でアキヒロはその正体を知ることができた。

 口を開けばまた苦痛の呻きを漏らしそうになるのを堪えながら、アキヒロはその人物に話しかけた。

 「……随分と、様変わり……したねっ……ペイバー君」

 「…………お久しぶりです。アキヒロさん」

 シモン・ペイバー。

 かつて騎士の身でありながら事件を起こして行方を眩ませた男がアキヒロを見下ろす。見下ろすその両目の左側は既に人のそれではない。

 左目周辺の肌は体温がないと思わせるような銀色になっている。それを中心とする左目は瞳孔が存在しない赤い光に変わっていた。

 変化は左目だけではない。先程アキヒロの右手を奪った時に使った武器はシモンの腕と()()()になっている。武器を持っているのではなく、彼の腕そのものが武器となっていた。

 ワンセルフが自身の腕を剣に変えていたのとは少し違う。ワンセルフの場合は纏っていた鎧の形状を変化させただけだ。しかし、シモンの場合は腕自体が武器になっている。

 一言で表すなら半分機械で半分人間の姿をとっていた。

 「動かないでください。動けば斬ります」

 シモンは長い筒のような武器を倒れているアキヒロに向ける。アキヒロの右腕を斬り落とした武器だ。その威力を体感した彼は顔を硬らせる。

 右腕の痛みは続く。

 ()()()()()()()()()彼の右手は一向に戻らない。

 復元に近い治癒能力が発揮されない。

 「イヒヒヒヒ! ちゃんと効いているようで安心したねぇ。さあ、ワンセルフ! クリスタル・コアを取り込みに行け!」

 困惑するアキヒロを見て愉快そうに笑うイワノフは再度ワンセルフに命令を下す。

 ワンセルフは何も言わずに深い穴に身を投じた。

 イワノフはその様子を満足げに見送る。

 「これでワタクシの研究はまた一歩進むねぇ。いや、うまくいけばゴールの一歩手前まで行けるかもだよ。イヒヒヒヒ」

 幸せそうに笑うイワノフと対照的にアキヒロは苦々しく目を瞑る。それは万事休すとなった現状に対する絶望の証だった。せめてもの悪あがきで、一向に治らない右手をプレアで完治することしかできない。

 「プレアを使って回復か……。君が召喚されて随分経つのにまだプレアが残っているとはアキヒロ君は倹約家だねぇ」

 しかし、それもすぐに相手に伝わってしまう。プレアを使用する時に使用者の身体は淡い輝きに包まれる。この状況下で相手が気付かないはずもない。

 当然、シモンがアキヒロにすぐさま攻撃を加えようと武器を振るう。

 「待て。ちょうど良い。どうせなら女神の加護者が使うプレアのデータでもとっておこう。それが最後の一回というわけではないのだろう」

 しかし、イワノフの言葉で武器はアキヒロの顔のすぐ目の前で止まった。

 武器だけではなく、シモンも彫像のように動かなくなっている。イワノフの待てという命令はアキヒロに攻撃するなの意味であり、言葉通りの今の体勢から動くなということではない。

 それでもシモンはイワノフの言葉に忠実に従って、待てと言われた約〇・四秒間の間で自分が取っていた姿勢を保ち続けている。

 コマンド入力をされた機械のように忠実に命令(プログラム)に従っていた。

 アキヒロは鎮痛な面持ちで変わってしまった知人からゆっくりと距離を取る。

 少年は動かない。それどころか動くアキヒロさえ目で追っていない。機械の左目もヒトの右目も真っ直ぐとアキヒロが今まで倒れていた場所を見ている。まだ彼がそこにいるかのように狙いを定めていた。

 アキヒロはプレアを使って再生した右手で今度こそ懐にある武器を取り出す。形状は銃になっている。

 そのまま元上司に銃口を向ける。

 「ほお……。懐かしいものを持っているねぇ」

 イワノフは向けられた銃口に恐怖も示さない。むしろ懐かしむように眺める。

 「それを開発した当時から君はワタクシの考えに否定的だったねぇ。失敗と犠牲を恐れていては開発者として三流だというのに……」

 イワノフは呆れたように肩をすくめる。その考えを理解しないでよくこの職を続けられるなと揶揄していた。

 「いいえ」

 イワノフの言葉をアキヒロは否定する。

 自分はそんなことを恐れて彼を否定しているのではないと。

 銃口の先にいる元上司を真っ直ぐに見据える。

 「確かに成功は失敗と犠牲の積み重ねです。昔からそれを否定したことはありませんよ。だが、成功後に犠牲があっていいはずがない。貴方の場合成功した後も犠牲がついてくる」

 イワノフの能力(スキル)の研究と新たな武具の開発。

 それら結果は過程で生まれた犠牲だけでは満足しない。その先も続いていく。

 争いを求めて世界中を渡る。

 彼の研究が順調に進んでも、幸せよりも悲劇を生んでしまう。

 「武器(それ)は一番金になるからねぇ。売れるんだよ。売れるいうことはワタクシの発明が認められているということ。発明が認められたということは、ワタクシは偉大な功績者として世に名を残す人物になるということだねぇ」

 夢見心地の彼の顔は恍惚の笑みを浮かばせていた。

 しばらく妄想で悦に浸った後、アキヒロに向き直る。

 「そもそも」

 イワノフは自身を糾弾する元部下に嘲笑を向ける。

 「君も色々と造っているみたいじゃないか、アキヒロ君。自分のことは棚に上げるのかねぇ?」

 ライトソードにバーチャルバレットはアキヒロが開発した物だ。どんなに殺傷能力が低くても武器は武器である。

 しかし、アキヒロはイワノフと違って武器だけを造っているわけではない。むしろ生活用品の魔道具を主に開発している。

 それでもイワノフとアキヒロに為した行いで共通項は存在する。

 考えは違っても、アキヒロも武器と呼べるものを造っている。

 「自覚していますよ。今の私に貴方を責める資格はありません。だから一度だけ言います。この場を……そしてクリスタル・コアから手を引いてください。断れば、国に仕える者として貴方を撃ちます」

 イワノフの答えを待つ。

 静寂が建物を包む。

 「…………ぅ」

 イワノフの口がゆっくりと動く。

 アキヒロは拳銃を構え直す。返答次第では引き金を引かなければならない。自分にはない権利を行使しなければならない。

 それほどクリスタル・コアは国の要だ。失ってはならないのである。

 たとえその行為が自分にとって間違いだと分かっていてもーーーー

 「プロト、殺せ」

 それはアキヒロにとって予想外の返答だった。困惑から引き金を引くべき指が止まる。

 (ぷろと……?)

 覚えのない名前はアキヒロの頭から冷静を奪う。

 「了解」

 彫像のように微動だにしなかった少年の声がアキヒロの耳に届く。

 イワノフの命令はシモンにしたものだった。

 機械仕掛けの体は停止から稼働に移る。アキヒロが作った距離を一息で無き物にする。

 「ペイバー君……っ!」

 アキヒロは後方に飛び退いて新たな距離を作ろうとする。それよりもシモンの右手がアキヒロの身体に突き刺さるのが早かった。

 「ぐっ……!」

 再び襲ってくる痛みはやはり瞬間に消えたりはしなかった。

 シモンが右手の剣を抜いた後も腹に空いた穴は癒えることはない。

 またもや地面に伏して痛みに耐える。

 「甘いねぇ。そのまま道理も資格も無視して撃っていれば君の思い通りだったろうに……。いつまで経っても変わらないねぇ」

 昔を懐かしむような口調でイワノフは黒ローブの内から何かを取り出した。

 それは一つの竹簡(ちくかん)だった。

 彼は竹でできた札をアキヒロに(かざ)しながら近づく。

 「さあ、プレアを使って回復してみようか」

 イワノフは催促するようにアキヒロの額を蹴る。

 アキヒロにさらに傷を与える。

 「かっ……!」

 アキヒロはボールのように二、三回転がり、近くの長椅子にぶつかる。

 イワノフは再度動けないアキヒロに近づく。(サンプル)を増やそうと、プレアの発動まで達磨のような開発者はその行為を繰り返す心積りだった。

 その時、ドアが鳴る。

 建物内で地上にいる三人の視線が一か所に集まる。

 錆びた蝶番のせいで重く感じる扉を体で押すようにして開けている女の子を捉えた。

 インフェクトは息を切らしながら建物にたどり着いた。

 しかし、彼女ただ一人という状況にアキヒロは疑問を持たずにはいられなかった。

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